第58回(R5)理学療法士国家試験 解説【午前問題41~45】

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41.腹圧性尿失禁で正しいのはどれか。

1.痩身に多い。
2.男性に多い。
3.膀胱の収縮を伴う。
4.持続的に失禁が生じる。
5.骨盤底筋体操は有効である。

解答

解説

腹圧性尿失禁とは?

腹圧性尿失禁とは、おなかに力が入ったときに漏れてしまうタイプの失禁のことをいう。40代以上の女性に多いのが特徴の一つである。特に出産を経験した女性では、分娩時の骨盤底筋へのダメージにより、腹圧性失禁を起こすようになる。骨盤底筋は、骨盤の底にある筋。内臓や子宮、膀胱などを本来のあるべき位置に収まるように、下から支える役割を担う。しかし、骨盤底筋が弱くなると、内臓や子宮、膀胱などの臓器が下がり、骨盤内の臓器で一番下側にくるのが膀胱であるため、常に内臓や子宮に押されている形になる。すると、少しの力がお腹にかかっただけで、膀胱を圧迫してしまい、尿漏れが起こすといったメカニズムである。

1.× 痩身に多いという報告はない。むしろ肥満と関係が深い。女性の下部尿路症状の診療ガイドラインでは、行動療法の「減量」は推奨グレードAである。
2.× 「男性」ではなく女性に多い。骨盤内臓器や尿道の特徴から女性に多いとされ、特に出産を経験した女性では、分娩時の骨盤底筋へのダメージにより、腹圧性失禁を起こすようになる。一方、男性の場合、前立腺肥大症の術後や、近年増加した前立腺がんに対する前立腺全摘出術後、尿道括約筋に障害の出た患者にみられ、これらの原因が最も多い。
3.× 膀胱の収縮は、「伴う」のではなく伴わない。腹圧性尿失禁は、尿道抵抗の低下により、腹圧時の膀胱内圧上昇が尿道抵抗を上回り、膀胱収縮を伴わずに尿が漏れるものである。一方、膀胱の収縮がみられるのは、切迫性尿失禁である。切迫性尿失禁とは、膀胱が自身の意思に反して収縮することで、急に排尿したくなりトイレに行くまでに我慢できずに漏れてしまう失禁である。原因として膀胱にうまく尿がためられなくなる過活動膀胱が多く、脳血管障害など排尿にかかわる神経の障害で起きることもある。過活動性膀胱に対して、電気刺激療法や磁気刺激療法が有効とされる。
4.× 持続的に失禁が生じるものではない。持続的に失禁が生じるものとして、溢流性尿失禁があげられる。溢流性尿失禁とは、尿道が狭くなったり、膀胱から尿を出す力が弱くなったりすることで、尿意はあるが自分では尿を出せず、膀胱に大量の尿が溜まったときに少しずつ溢れるように出てしまうことである。前立腺肥大症の男性に多い。神経因性膀胱や重症の前立腺肥大症で、尿の排出がうまくできず、残尿が貯留し溢れることにより起こる。尿道留置カテーテルを挿入し、その後は自己導尿などの残尿を減らす治療が有効である。
5.〇 正しい。骨盤底筋体操は有効である。骨盤底筋体操とは、尿失禁の予防・改善のために肛門挙筋および尿道周囲、膣周囲の括約筋群を鍛える方法である。骨盤底筋群などの筋力増強力は、一般的には腹圧性尿失禁や過活動膀胱、および骨盤臓器脱に有効とされている。

骨盤底筋体操とは?

骨盤底筋は子宮、膀胱、直腸を含む骨盤臓器を支える筋肉で、骨盤底筋を強化することで尿漏れ対策となる。仰臥位が基本的な姿勢であるが、伏臥位や座位など日常生活の中でどんな姿勢で行ってもよい。座位や膝立て背臥位などで、上体の力を抜いてお尻の穴を引き上げて「きゅっ」とすぼめ、5秒キープする動作を10~20回ほど繰り返す方法と、すぼめたりを繰り返す方法の2種類ある。

 

 

 

 

 

42.摂食嚥下障害の病態と手技の組合せで正しいのはどれか。

1.鼻咽腔の閉鎖不全:Shaker(シャキア)法
2.梨状窩の食物残留:うなずき嚥下
3.喉頭蓋谷の食物残留:横向き嚥下
4.食道入口部の開大不全手技:Mendelsohn手技
5.舌骨上筋群の筋力低下:輪状咽頭筋バルーン拡張法

解答

解説

(※図引用:「illustAC様」)

1.× 鼻咽腔の閉鎖不全は、「Shaker(シャキア)法」ではなく、吹く(ブローイング)訓練(口から息を出す練習)を行う。鼻咽腔とは、鼻腔の奥の空間で咽頭との境目である。鼻咽腔閉鎖不全は、中咽頭と上咽頭の間にある括約筋の不完全な閉鎖であり、しばしば口蓋の解剖学的異常により発生し、開鼻声の原因となる。ちなみに、Shaker法(頭部挙上訓練)とは、舌骨周囲の嚥下筋(特に舌骨上筋群)の強化を目的とする方法である。方法としては、仰向けに寝た状態から頭を持ち上げつま先を見る(30秒キープ)。これを3回繰り返す。次いで、1秒毎に頭を挙げたり下げたりを30回繰り返す。
2.× 梨状窩の食物残留は、「うなずき嚥下」ではなく顎出し嚥下である。顎出し嚥下とは、顎と額を同時に前に突き出すようにして、のどを開き嚥下するものをいう。ちなみに、うなずき嚥下の目的は、喉頭蓋谷の残留を減らすことである。うなずき嚥下とは、食塊を口に含んだのち一度上を向き咽頭に送り、素早く下を向いて嚥下する方法をいう。
3.× 喉頭蓋谷の食物残留は、「横向き嚥下」ではなくうなずき嚥下である。頸部回旋法(横向き嚥下)の目的は、咽頭機能の左右差(片麻痺患者)があり、咽頭通過が不良な場合や咽頭残留が多い場合に用いられる代償的方法である。頸部回旋法とは、横を向いて嚥下することで、横を向いた方と反対側の咽頭部が広くなり、食塊の通りをスムーズにする方法である。
4.〇 正しい。食道入口部の開大不全手技は、Mendelsohn手技(メンデルソン手技)を用いる。嚥下訓練法(喉頭挙上訓練)のひとつで、方法は対象者に唾液嚥下を行わせ、飲み込む際に喉仏が上がっているのを感じたら、何秒間かそのままの状態を維持する。球麻痺などで咽頭残留が多い場合に、喉頭挙上量と挙上時間を増大することで、輪状咽頭筋部の開大幅を増大させ、それにより開大時間を延長させることを目的としている。
5.× 舌骨上筋群の筋力低下は、「輪状咽頭筋バルーン拡張法」ではなくShaker(シャキア)法である。輪状咽頭筋バルーン拡張法は、輪状咽頭筋弛緩不全や食道狭窄に対する治療法である。バルーンカテーテルを用いて、主に食道入口部(輪状咽頭筋部)を機械的に反復して拡張する。

 

 

 

 

43.アキレス腱周囲炎で正しいのはどれか。

1.男性に多い。
2.手術療法が第一選択となる。
3.成人よりも小児で多くみられる。
4.Thompsonテストが陽性となる。
5.つま先部を高くした足底板が有効である。

解答

解説

アキレス腱周囲炎とは?

アキレス腱周囲炎とは、アキレス腱を覆うパラテノンと呼ばれる組織に炎症が生じた状態を指す。スポーツなどで走ったり、ジャンプしたりすることにより、アキレス腱周囲が過度に引っ張られることなどが原因で発症する。高校生から社会人までの幅広い年代で発生がみられるが、比較的若い世代に多い。

1.〇 正しい。男性に多い。なぜなら、男性の方がスポーツや運動に参加する頻度が高いため。
2.× 第一選択は、「手術療法」ではなく保存療法である。腱周囲炎では必ず急性の時期があるので、アイシングや患部の安静(RICE処置)を行い慢性化させないことが重要である。慢性化し難治性の場合には手術療法も選択されることがあり、硬く癒着したパラレノンの切除が行われる。
3.× 成人よりも小児で多くみられる。小児とは、思春期(14~16歳頃)までをいう。一方、成人は18歳以降のことを指す。高校生から社会人までの幅広い年代で発生がみられるが、比較的若い世代に多い。
4.× Thompsonテストは、「陽性」ではなく陰性のままとなる。なぜなら、Thompsonテストの陽性はアキレス腱断裂を見るテストであるため。方法として、患者さんに立て膝をついてもらい、膝を90度曲げ、ふくらはぎを握る。足首より下の部分が動かなければ、陽性となる。
5.× つま先部は、「高く」ではなく低くした足底板が有効である。なぜなら、つま先部が高いとアキレス腱が伸張されるストレスが加わりやすいため。アキレス腱周囲炎は、扁平足に起こりやすいとされ、足底板は、主に扁平足、足底筋膜炎、外反母趾、アキレス腱炎、シンスプリント、靭帯損傷、変形性膝関節症、前十字靭帯損傷、内側側副靭帯損傷、半月板損傷などに用いる。

 

 

 

 

 

44.呼吸性アシドーシスはどれか。

解答

解説

血液ガス分析の基準値

 血液ガス分析では血中のpH・酸素濃度・二酸化炭素濃度・重炭酸濃度などを調べることができる。これらは呼吸数や腎臓の排泄、再吸収などで厳密にコントロールされている。

【基準値】
pH : 7.40 ±0.05
PaO2 : 80~100Torr
PaCO2 : 40±5Torr
HCO3- : 24 ± 2mEq/l

1〜2.× pH:7.30〜40、PaCO2:25(mmHg)、HCO3-:15(mEq/l)は、呼吸性アルカローシスになる可能性がある。選択肢のpHは基準値内であるが、呼吸性アルカローシスは、過換気症候群などの呼吸数の増加で起こり、PaCO2は低下し、アルカリ性に傾いている状態である。ちなみに、アルカローシス(アルカリ性)とは、pHが上昇している状態である。一方、アシドーシス(酸性)とは、pHが低下している状態である。
3.〇 正しい。pH:7.25、PaCO2:55(mmHg)、HCO3-:30(mEq/l)は、呼吸性アシドーシスである。呼吸性アシドーシスは換気が低下することが原因で、CO2が体内に蓄積している状態である。
4〜5.× pH:7.35〜45、PaCO2:40〜45(mmHg)、HCO3-:30〜35(mEq/l)は、代謝性アルカローシスになる可能性がある。選択肢のpHは基準値内であるが、代謝性アルカローシスは、嘔吐により胃液(酸性)が失われることで、HCO3−が高値となり、アルカリ性に傾いている状態である。ちなみに、代謝性アシドーシスは、腎機能低下や下痢、糖尿病、飢餓などによる脂質分解の亢進でHCO₃⁻(重炭酸イオン)が低下している状態である。

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45.Guillain-Barré症候群の治療で正しいのはどれか。

1.ステロイド投与が第一選択である。
2.筋力低下の進行期には関節可動域練習より筋力増強運動を優先する。
3.人工呼吸管理の場合、早期から胸郭ストレッチを行う。
4.筋力低下の進行が停止すれば、早期から漸増抵抗運動を開始する。
5.約半数が発症6か月後の歩行障害に長下肢装具を必要とする。

解答

解説
1.× 第一選択は、「ステロイド投与」ではなく、安静(確定した治療法なし)である。なぜなら、時間の経過とともに自然に回復することが一般的であるため。しかし、治療はギラン・バレー症候群の症状を改善し、病期を短縮することはできる。支持療法は呼吸、心拍数、血圧の管理などです。患者の呼吸する力が低下する場合は、通常、人工呼吸器を装着し、不整脈、感染、血栓、高血圧や低血圧などの合併症に対する監視する。この疾患が自己免疫疾患の特性をもつこと考えて、通常、急性期には血液から抗体を除去する血漿交換免疫グロブリン点滴療法で治療する。症状の出現後7~14日で(治療を)開始したときには、ほとんどの患者で効果がある(※一部引用:「ギラン・バレー症候群について」厚生労働省HPより)。
2.× 逆である。筋力低下の進行期には、「筋力増強運動」より「関節可動域練習」を優先する。この時期のリハビリテーションは、①拘縮予防、②関節可動域の維持と増大、③良肢位保持を行う。一方、筋力運動は過用性の筋力低下が起こる可能性があるため注意する。
3.〇 正しい。人工呼吸管理の場合、早期から胸郭ストレッチを行う。なぜなら、呼吸筋が麻痺してしまい自発呼吸が不能もしくは減弱してしまうことによって換気障害が生じ、二次的に肺・胸郭のコンプライアンスが低下することでさらに換気障害が助長されるため。呼吸リハビリテーションの目的は、①人工呼吸器の早期離脱、②気道内分泌物の除去、③換気と酸素化の改善、④呼吸困難の軽減、⑤人工呼吸による合併症の予防と改善、⑥精神的サポートとなる。
4.× 筋力低下の進行が停止すれば、早期から漸増抵抗運動を開始する必要はない。なぜなら、高負荷の筋力増強訓練(漸増抵抗運動など)を行うと、逆に過用性の筋力低下を起こしてしまうため。したがって、低負荷・高頻度の筋持久力訓練を行う。急性期を脱した後に筋力低下が持続する場合には、患者は筋肉を強化し動きを回復するためのリハビリテーション療法を必要とすることもある。
5.× 約半数が発症6か月後の歩行障害に、長下肢装具は必要しない。なぜなら、時間の経過とともに自然に回復することが一般的であるため。15~20%が重症化し、致死率は2~3%である。

”Guillain-Barré症候群とは?”

Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。

(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

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