第57回(R4) 作業療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

11 57歳の男性。筋萎縮性側索硬化症。発症後5年が経過。四肢と体幹に重度の運動麻痺を生じてベッド上の生活となり、ADLは全介助。球麻痺症状を認め、安静時も呼吸困難を自覚している。
 この患者がコミュニケーション機器を使用する際の入力手段として適切なのはどれか。

1.舌
2.口唇
3.呼気
4.手指
5.外眼筋

解答

解説

本症例のポイント

・57歳の男性。
・筋萎縮性側索硬化症。
・発症後5年が経過。
・ADLは全介助(重度の運動麻痺、ベッド上の生活)。
・球麻痺症状を認め、安静時も呼吸困難。

球麻痺とは?

延髄にある神経核が障害された状態を指し、舌咽・迷走・舌下神経が障害される。

したがって、嚥下・構音障害、舌萎縮、線維束攣縮などがみられる。

1.× 舌での入力は困難である。なぜなら、本症例は球麻痺(舌の萎縮)が生じているため。自分での舌運動は負担が大きくかつ困難な可能性が高い。
2.4.× 口唇/手指での入力は困難である。本症例は発症から5年が経過しており、口唇/手指とも動かすことは困難と考えられる。上肢末端(母指球など)から筋萎縮が始まり緩徐に進行する。予後は極めて不良で、一般に発症から3~5年程度で呼吸筋麻痺や誤嚥性肺炎などで死亡する。
3.× 呼気での入力は困難である。なぜなら、本症例は設問から「安静時も呼吸困難を自覚している」状態である。したがって、呼気を使用するのは負担が大きいと考えられる。一般に発症から3~5年程度で呼吸筋麻痺や誤嚥性肺炎などで死亡する。場合によっては、本症例も人工呼吸器が必要な状態である。
5.〇 正しい。外眼筋は、この患者がコミュニケーション機器を使用する際の入力手段である。なぜなら、外眼筋をはじめ眼球運動を支配する筋は障害を受けにくいため。筋萎縮性側索硬化症の4大陰性徴候として眼球運動障害がある。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

12 26歳の男性。C6レベルの頸髄損傷完全麻痺。仕事中の事故により受傷し入院。翌日からリハビリテーションが開始され継続している。受傷後1か月での徒手筋力テストの結果を表に示す。
 受傷後2か月で到達可能と予測される動作はどれか。

1.更衣
2.自己導尿
3.プッシュアップ
4.万能カフを用いた食事
5.ベッドから車椅子への移乗

解答

解説

本症例のポイント

本症例は、C6レベルの頸髄損傷完全麻痺である。その中でも、現在のMMTの結果から、長短橈側手根伸筋・円回内筋が不十分であるため「C6A」である。つまりC7レベルは到達困難と考えられる。C7の主な動作筋は、上腕三頭筋、橈側手根屈筋である。車椅子駆動、移乗動作、自動車運転可能なレベルまで目指せる。自助具を用いての整容・更衣動作が可能である。

C6機能残存レベルは、【主な動作筋】大胸筋、橈側手根屈筋、【運動機能】肩関節内転、手関節背屈、【移動】車椅子駆動(実用レベル)、【自立度】中等度介助(寝返り、上肢装具などを使って書字可能、更衣は一部介助)である。したがって、C6機能残存レベルのプッシュアップは、肩関節外旋位・肘関節伸展位・手指屈曲位にて骨性ロックを使用し、不完全なレベルであることが多い。

1.3.5.× (自助具を用いた)更衣/プッシュアップ/ベッドから車椅子への移乗は、C7レベル以上が必要となる。C6機能残存レベルのプッシュアップは、肩関節外旋位・肘関節伸展位・手指屈曲位にて骨性ロックを使用し、不完全なレベルであることが多い。
2.× 自己導尿は、男性の場合C6レベル、 女性の場合C8レベルで可能である。本症例は男性であり、女性ほど自己導尿が難しくないため、ゆくゆくは獲得可能である。ただ、選択肢の中に自己導尿より難易度が低く、先に獲得できるものがある。ちなみに、女性の場合の事故導尿は、男性に比べ尿道口が見えにくく、陰部の確認を目で直接行うことが困難であるため、手指の動きや感覚が重要となり、男性よりも高い機能が求められる。
4.〇 正しい。万能カフを用いた食事は、受傷後2か月で到達可能と予測される動作である。なぜなら、C5レベル以上で行えるため。MMTの結果でも、現時点で行えている機能はあると推測でき、万能カフの操作方法など練習していくことで、受傷後2か月で到達可能と予測される動作である。

(Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

 

 

 

 

13 22歳の女性。幼少期に両親と死別したが、祖父母の支援などで問題なく学校生活を過ごした。学業成績は良かったが、感情が不安定で自傷行為を繰り返し、精神科クリニックに通院しながら高校を卒業した。卒業後は事務職として就職したが、感情が不安定でしばしばトラブルを起こした。最近、些細なことで友人と喧嘩になり、激怒して大量服薬して入院となった。入院後、早期に作業療法が開始された。
 この患者にみられる特徴はどれか。

1.完璧主義
2.作為体験
3.衝動行為
4.脱力発作
5.振戦せん妄

解答

解説

本症例のポイント

・22歳の女性。
・幼少期に両親と死別した。
・感情が不安定で自傷行為を繰り返す(トラブルあり)。
・最近、些細なことで友人と喧嘩になり、激怒。
・大量服薬して入院。

→自傷行為は、うつ病や摂食障害、パニック障害、解離性障害、外傷後ストレス障害、境界性パーソナリティ障害など、様々な心の問題や精神疾患で見られることが多い行為であるが、本症例は①感情の不安定さ、②自傷行為、③衝動行為がみられることから境界性パーソナリティ障害が疑われる。

1.× 心理学で用いられる「完璧主義」とは、万全を期すために努力し、過度に高い目標基準を設定し、自分に厳しい自己評価を課し、他人からの評価を気にする性格を特徴とする人のことをいう。強迫性障害にみられやすい症状の1つである。
2.× 作為体験(させられ体験)とは、自分が他者に操られ、他者の意のままに行動させられているという体験である。主に、統合失調症にみられる。
3.〇 正しい。衝動行為は、この患者にみられる特徴である。衝動行為とは、欲動(衝動)がそのまま意志の理性的抑制を全く受けない状態で、 突然に激しい行動に現れることである。境界性パーソナリティー障害の特徴として、①『二極思考・対人関係の障害』、②『衝動行為』、③『自傷行為』、④『見捨てられ不安』、⑤『抑うつ、不眠』などである。他者の愛情や優しさ、注目に対する飢餓感が強く、慢性的な見捨てられ不安に苦しんでいることが多い。
4.× 脱力発作(情動に誘発されて力が急に抜ける)は、ナルコレプシーの症状の一つである。他にもナルコレプシーの症状として、睡眠発作(日中突然眠くなる)、睡眠麻痺、入眠時幻覚がみられる。入眠時幻覚の特徴は、生々しい現実感、恐怖感を伴った夢を見る場合が多い。
5.× 振戦せん妄とは、アルコール断酒後に起こる離脱症状の一つである。断酒2~3日後には、振戦せん妄が生じる。離脱症状とは、飲酒中止後に生じ、精神的、肉体的な症状を呈する。最終飲酒から数時間後から出現し、20時間後にピークを迎える早期離脱症候群(振戦、自律神経症状、発汗、悪心・嘔吐、けいれん、一過性の幻覚)と最終飲酒後72時間頃から生じ数日間持続する後期離脱症候群(早期離脱症状に加え意識変容を呈したもの、振戦せん妄といわれる。小動物幻視や日頃やり慣れた動作、例えば運転動作を繰り返す、夜間に目立つ)に分けられる。

境界性パーソナリティー障害

境界性パーソナリティー障害の特徴として、①『二極思考・対人関係の障害』、②『衝動行為』、③『自傷行為』、④『見捨てられ不安』、⑤『抑うつ、不眠』などである。他者の愛情や優しさ、注目に対する飢餓感が強く、慢性的な見捨てられ不安に苦しんでいることが多い。

 

 

 

 

 

14 32歳男性。統合失調症。入院後、症状が不安定で緊張が強い状態が続いている。
 この患者に対する作業面接で、オープンスペースを用いた場面設定として最も適切な図はどれか。

解答

解説

面接を行う際の座り方

①対面法:机を間に挟んでカウンセラーとクライエントが向かい合い(対面かつ真正面)座る方法である。顔や目線から読み取ることのできる情報が非常に多くクライアントの感情と表情の連動などを洞察することが可能であるが、クライエントが緊張し対話しにくくなる特徴を持つ。

②直角法:カウンセラーとクライエントが机の角を間に挟んで、直角になるような状態で座る方法である。視線が直接合わない。したがって、クライエントが緊張せずに対話することが出来る。対面法と比べるとどうしても視線や目の動きなどの表情を洞察することが難しくなる。

③平行法:カウンセラーとクライエントが横に並んで座る方法である。視線が直接合わない。クライエントが緊張せずに対話することが出来る。お互い真横で距離が近くなり、親近感を持って対話できる。カウンセラーがクライエントの作成した作品を一緒に見るという描画療法などの場合に用いられる。

本症例のポイント

・32歳男性。
・統合失調症。
・入院後、症状が不安定で緊張が強い状態が続いている。

→直角法もしくは平行法を用い、少しでも症状が安定しやすい環境設定が必要。

1.× 平行法を用いること自体は間違いではないが、本症例は「入院後、症状が不安定で緊張が強い状態が続いている」。したがって、患者によっては四方に壁や療法士がいれば、閉塞感や負担と感じてしまう可能性もある。オープンスペースを用いた場面設定を想定しているため、「解放感」を利点とした環境設定が必要と考える。
2.× 対面法より選択肢の中で優先度が高いものが他にある。なぜなら、対面法は、クライエントが緊張し対話しにくくなる特徴を持つため。「入院後、症状が不安定で緊張が強い状態が続いている」本症例には適さない。ちなみに、対面法は、机を間に挟んで療法士とクライエントが向かい合い(対面かつ真正面)座る方法である。顔や目線から読み取ることのできる情報が非常に多くクライアントの感情と表情の連動などを洞察することが可能であるが、クライエントが緊張し対話しにくくなる特徴を持つ。
3.〇 正しい。直角法で患者の後方にはスペースが存在する環境設定が望ましい。カウンセラーとクライエントが机の角を間に挟んで、直角になるような状態で座る方法である。視線が直接合わないため、クライエントが緊張せずに対話することが出来る。さらに、患者の背後を壁ではなくオープンにすることで安全感が保たれ、作業に取り組むことができる。
4.× 直角法を用いること自体は間違いではないが、本症例は「入院後、症状が不安定で緊張が強い状態が続いている」。したがって、患者によっては「壁」が囲まれていると、閉塞感や負担と感じてしまう可能性もある。オープンスペースを用いた場面設定を想定しているため、「解放感」を利点とした環境設定が必要と考える。
5.× 療法士が後方に立つより選択肢の中で優先度が高いものが他にある。療法士が視界に入らないため、作業に取り組みやすいように見えるが、患者によっては背後に座られることや、療法士が視界にいないことに対して不安を抱く可能性がある。また、作業療法士は患者の後方にいるため、表情を把握することができない。

 

 

 

 

15 21歳の男性。大学生。1年前から様々な場面で不安感が出現し、急に動悸やめまいがして大量の汗をかくようになった。最近は特に理由もなく、いらいらして落ち着かず、窒息感や脱力感、抑うつ、吐き気がひどくなり、大学にも通えず日常生活にも支障が出るようになった。精神科クリニックを受診し、外来作業療法を受けることになった。
 この患者の作業療法場面でみられる特徴はどれか。2つ選べ。

1.演技的行動
2.呼吸促迫
3.集中困難
4.常同行為
5.連合弛緩

解答2・3

解説

本症例のポイント

・21歳の男性(大学生)。
・1年前から様々な場面で不安感が出現し、急に動悸やめまいがして大量の汗をかくようになった。
・最近は不登校、日常生活にも支障あり。(特に理由もなく、いらいらして落ち着かず、窒息感や脱力感、抑うつ、吐き気がひどい)
→本症例は、全般性不安障害と疑える。全般性不安障害は、日常生活において漠然とした不安を慢性的(ほぼ毎日6ヵ月以上)に感じてしまう病気である。特定の状況に苦手意識を感じる社交不安障害とは異なり、不安を感じる事象が非常に幅広い(漠然とした将来の不安など)ことが特徴である。導入時の作業療法は、軽い運動などで身体的な緊張の軽減を図ることである。治療法として認知行動療法(セルフコントロール)、薬物療法があげられる。
全般性不安障害の症状は、①身体症状と②精神症状である。
①身体症状は、頭痛、頭重、頭の圧迫感や緊張感、しびれ感、そわそわ感、もうろうとする感じ、めまい感、頭がゆれる感じ、自分の身体ではないような感じ、身体の悪寒や熱感、手足の冷えや熱感、全身に脈拍を感じる、便秘や頻尿などである。
②精神症状は、些細なことで不安になる、注意散漫な感じ、記憶力が悪くなる感じ、根気がなく疲れやすい、イライラして怒りっぽい、小さなことが気になる、悲観的になり、人に会うのが煩わしい、寝つきが悪く、途中で目が覚めやすいなどである。

1.× 演技的行動は、広い範囲の対人関係において、過度に注意を引こうとする行動である。演技性パーソナリティー障害の症状の一つである。
2.〇 正しい。呼吸促迫は、この患者の作業療法場面でみられる特徴である。呼吸促拍とは、呼吸が速くなり息苦しくなることである。全般性不安障害の症状の一つである。
3.〇 正しい。集中困難は、この患者の作業療法場面でみられる特徴である。集中困難とは、不安感にかられ作業に集中することができなくなることである。全般性不安障害の症状の一つである。
4.× 常同行為は、同じ行為・言語・姿勢などを長時間にわたって反復・持続する症状である。自閉症や知的障害などの発達障害前頭側頭型認知症に見られる症状の一つである。
5.× 連合弛緩は、思考のテーマが次々と脈絡なく飛躍し、連想に緩みが生じて話にまとまりがなくなる症状である。統合失調症の症状の一つである。これが高度になると支離滅裂な思考となる(滅裂思考)となる。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)