第57回(R4) 理学療法士国家試験 解説【午後問題41~45】

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41 腰椎椎間板ヘルニアの保存療法後の理学療法で誤っているのはどれか。

1.四つ這い位で一側下肢を挙上する。
2.腸腰筋の短縮がある場合は伸張する。
3.端座位で骨盤の前後傾運動をゆっくり行う。
4.就寝時は側臥位で腰椎伸展位をとるよう指導する。
5.パピーポジションで腰椎伸展位をとるよう指導する。

解答

解説

腰椎椎間板ヘルニアとは?

椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

1.〇 正しい。四つ這い位で一側下肢を挙上する。なぜなら、腰背部のインナーマッスル、体幹筋群の強化につながるため。
2.5.〇 正しい。腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)の短縮がある場合は伸張する/パピーポジションで腰椎伸展位をとるよう指導する。なぜなら、マッケンジー体操の中に、両肘をつけた姿勢から両肘を伸ばして背中を反らすものがあるため。ただし、過度な反りや重い物を持ち上げる等、腰部に負担をかけることは禁忌とされている。また、大腿神経も一緒に伸張する可能性があるため、実施には注意が必要である。
3.〇 正しい。端座位で骨盤の前後傾運動をゆっくり行う。なぜなら、腰背部のインナーマッスル強化や体幹筋群、腰背部筋群の柔軟性向上、緊張緩和になるため。
4.× 就寝時に、側臥位で腰椎伸展位をとるよう指導する必要はない。側臥位は、背臥位や腹臥位に比べ支持基底面が少なく不安定になりやすい。側臥位で腰椎伸展位しながら就寝することは容易ではなく、むしろ姿勢を保つために過度な緊張が入りやすくなる。つまり、一般的な悪い姿勢となる可能性が高い。腰椎椎間板ヘルニア自体、長時間悪い姿勢での動作や作業、喫煙などの生活習慣が起こりやすい要因といわれている。腰椎伸展位を取りたい場合は、マッケンジー体操のように腹臥位で行うのが望ましい。

 

 

 

 

 

42 脳卒中片麻痺の理学療法で正しいのはどれか。

1.装具は機能回復を阻害する。
2.CPMは下肢の分離運動を促通する。
3.立位練習は装具が完成してから開始する。
4.トレッドミル歩行練習で歩行速度が向上する。
5.歩行練習は座位保持が可能になってから開始する。

解答

解説

(※画像引用:SAKAImed様HPより)

1.× 装具は機能回復を「阻害」のではなく「促進」する。脳卒中片麻痺の場合、装具着用により積極的に運動が可能となる為、装具療法は機能改善に有効である。長下肢装具は、大腿から足先までの機能を補い、弛緩性麻痺患者に適応となる。麻痺側への荷重を促すことで、感覚入力や廃用予防、バランスの再獲得などにつながる。脳卒中ガイドラインで推奨されている。
2.× CPM(Continuous Passive Motion)は、下肢の分離運動に寄与しない。CPM (Continuous Passive Motion)とは機械を用いた持続的他動運動である。 ①関節可動域の拡大・維持、②血行の促進、③関節内代謝物の排泄促進などの効果があるとされている。人工膝関節置換術や膝靭帯再建術など、膝関節運動の等速性運動を可能とする。
3.× 立位練習は、「装具が完成してから」ではなく「装具完成前から」開始する。早期リハビリテーション開始基準(座位・立位・離床)として、①JCS1桁、②運動の禁忌となる心疾患や合併症がない、③神経症候の増悪がないことがあげられる。
4.〇 正しい。トレッドミル歩行練習で歩行速度が向上する。トレッドミル歩行の介入は、運動耐容能のみならず歩行機能の改善をもたらすと報告されている(脳卒中治療ガイドラインに運動療法としてグレードB)。また、麻痺患者の歩行障害でも行える(体重懸垂装置付き)トレッドミル機器がある。また、トレッドミル法練習では、体重懸垂装置を使用し、歩行速度を調整し、セラピストが麻痺側下肢を介助しながら行う。歩行速度を上げる目的で言えば、一般的な床での歩行よりもトレッドミル使用(勝手に床が動くわけであるため)の方が歩行速度は向上に寄与すると考えられる。
5.× 歩行練習は、座位保持が可能になってから開始するといった決まりはない脳卒中治療ガイドラインによると、急性期リハビリテーションは「廃用症候群を予防し、早期の日常生活動作向上と社会復帰を図るために、十分なリス ク管理の下に急性期から積極的なリハビリテーショ ンを行うことが強く勧められる(グレードA)。その内容には、早期座位・立位、装具を用いた早期歩行訓練、摂食嚥下訓練、セルフケア訓練などが含まれる」としている。また、慢性期や終末期において、リハビリテーションの意欲や目標、生きがいの一つとして、座位保持困難な患者も「歩きたい」という希望を叶えるために歩行練習を実施している。

 

 

 

 

43 温熱療法を避けるべき疾患はどれか。

1.多発性筋炎
2.Parkinson病
3.視神経脊髄炎
4.亜急性連合性脊髄変性症
5.Charcot-Marie-Tooth病

解答

解説

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

1.× 多発性筋炎(皮膚筋炎)とは、膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と40~60歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。
2.× Parkinson病は、①振戦、②筋固縮、③無動、④姿勢反射障害を四大徴候として出現する。自律神経異常として便秘を生じる。温熱療法により筋緊張の緩和や便秘改善も期待できるため、温熱療法を用いることができる。
3.〇 正しい。視神経脊髄炎は、温熱療法を避けるべき疾患である。なぜなら、体温が高くなると調子が悪くなるUhthoff(ウートフ)徴候が出ることがあるため。視神経脊髄炎とは、神経の中でも主に視神経と脊髄を繰り返し障害する病気のことである。以前は多発性硬化症の一部と考えられているほど症状の特徴が似ている。血液中のアクアポリン4抗体が病気の原因と考えられていて、主に女性に発症することが多い。しつこいしゃっくりや吐き気などが病気の始まりだとされており、症状は視神経や脊髄の炎症が何度も出現する。視神経脊髄炎は、視神経炎による急性の視野障害(両耳側半盲や水平性半盲)、急性横断性脊髄炎(対麻痺、分節性感覚脱失、膀胱直腸障害、自律神経障害など)が起こる。
4.× 亜急性連合性脊髄変性症は、ビタミンB12欠乏により脊髄が変性する進行性疾患である。両手足にチクチク感と痺れを生じ、振動覚や位置覚を障害される。場合によっては上下肢筋にこわばりを生じ、動作がぎこちなくなることもある。筋緊張緩和を目的に温熱療法を用いることができる。
5.× Charcot-Marie-Tooth病(シャルコー・マリー・トゥース病)とは、遺伝子異常により、一般的に四肢、特に下肢遠位部の筋力低下と感覚障害を示す疾患である。まれに、四肢近位部優位の筋力低下・筋萎縮を示す例もある。筋肉が緩徐進行性で萎縮し、同部位の感覚が少し鈍くなる。歩行は、下腿の筋萎縮により鶏歩(下垂足)となる。

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【PT/OT/共通】多発性筋炎(皮膚筋炎)についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

44 重症筋無力症で正しいのはどれか。

1.過用に注意して運動は漸増負荷とする。
2.日内変動として午前中に症状が悪化する。
3.低頻度連続刺激の筋電図でwaxing現象がみられる。
4.運動神経末端からのアセチルコリン放出が障害される。
5.クリーゼによる呼吸症状悪化は閉塞性換気障害で起こる。

解答

解説

 

重症筋無力症とは?

 重症筋無力症とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患のこと。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型と呼ぶ)。嚥下が上手く出来なくなる場合もある。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともある。日内変動が特徴で、午後に症状が悪化する。クリーゼとは、感染や過労、禁忌薬の投与、手術ストレスなどが誘因となって、急性増悪し急激な筋力低下、呼吸困難を呈する状態のことである。
【診断】テンシロンテスト、反復誘発検査、抗ACh受容体抗体測定などが有用である。
【治療】眼筋型と全身型にわかれ、眼筋型はコリンエステラーゼ阻害 薬で経過を見る場合もあるが、非有効例にはステロイド療法が選択される。胸腺腫の合併は確認し、胸腺腫合併例は、原則、拡大胸腺摘除術を施行する。難治例や急性増悪時には、血液浄化療法や免疫グロブリン大量療法、ステロイド・パルス療法が併用 される。

(※参考「11 重症筋無力症」厚生労働省HPより)

1.〇 正しい。過用に注意して運動は漸増負荷とする。易疲労性が強く、反復運動では症状が悪化するため注意が必要である。
2.× 日内変動として、症状が悪化するのは「午前中」ではなく「午後」が多い。
3.× 低頻度連続刺激の筋電図で、「waxing現象」ではなく「waning現象」がみられる。一方で、高頻度刺激ではwaxing現象がみられる。ちなみに、waxing現象とは、四肢筋力の易疲労性を生じ、筋の反復運動により筋力が増強するものである。
4.× 運動神経末端からのアセチルコリン放出は障害されない。アセチルコリンは、副交感神経や運動神経の末端から放出され、神経刺激を伝える神経伝達物質である。重症筋無力症では筋肉の表面にあるアセチルコリン受容体に対する抗体が免疫の異常により作られ、アセチルコリン受容体の結合をブロックしてしまう病気である。神経筋接合部での伝達が障害されると、脳の指令が運動神経から筋肉へうまく伝わらなくなり、筋肉が十分に収縮せず、筋力低下が起きる。
5.× クリーゼによる呼吸症状悪化は、「閉塞性換気障害」で起こるとは一概にいえない。他にも、感染、顔面や頸部の筋力低下、嚥下障害、構音障害による症状によりクリーゼに陥りやすい。ちなみに、クリーゼとは、感染などが契機に急性増悪し、急激な筋力低下や呼吸困難を呈し、生命の危機的状態になることである。したがって、クリーゼによる呼吸症状悪化は、どちらかというと「拘束性換気障害」で起こりやすい。

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【PT/OT/共通】重症筋無力症についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

45 ICFコアセットについて正しいのはどれか。

1.一般セットと包括セットの2種類がある。
2.一般セットは簡素な評価の際に対応する。
3.包括セットはICFの全コードを評価する。
4.国際疾病分類(ICD)と同様の目的で使用される。
5.現在開発されているコアセットの1つに脳卒中用がある。

解答

解説

ICFコアセットとは?

ICFコアセットとは、障害に関わる医療背景の特異性と、特異的健康状態(脊髄損傷、うつ病など)を考慮して生活機能と障害を評価するもので、医療従事者、学生、指導者を対象としている。

「ICFコアセット」・・・各細分化されているICFのコードは1,500項目ほどにもなるため、健康状態全般や主な傷病の患者を評価しやすいように実用性を重視して必要な項目を抜粋したもの。

「ICFコアセットの種類」
①一般ICFコアセット(Generic ICF core sets:7項目からなる)
②包括的ICFコアセット(Comprehensive ICF core sets)
 特定の健康問題や特定の患者が直面している代表的な問題を全体的に反映するように項目が選定され、脳卒中用など30種類以上のコアセットが開発されている。
③短縮ICFコアセット(Brief ICF core sets)
 短縮ICFコアセットは包括的ICFコアセットをもとにつくられており、簡素な評価で十分である場面で用いられる。

1.× 一般セットと包括セット、「短縮ICFコアセット」の3種類である。必要に応じて選択する。
2.× 簡素な評価の際に対応するのは、一般セットではなく「短縮ICFコアセット」である。短縮ICFコアセットは包括的ICFコアセットをもとにつくられており、簡素な評価で十分である場面で用いられる。
3.× 包括セットは、ICFの全コードを評価する必要はない。包括セットは、特定の健康問題または特定の医療分野の患者が直面している代表的な問題のみ評価するものである。特定の健康問題や特定の患者が直面している代表的な問題を全体的に反映するように項目が選定され、脳卒中用など30種類以上のコアセットが開発されている。
4.× 国際疾病分類(ICD)ではなく「国際生活機能分類(ICF)」と同様の目的で使用される。国際疾病分類(ICD)は、病因論的な枠組みから健康状態を分類している。一方、国際生活機能分類(ICF)は、目標指向的アプローチに用いられ、大きく「生活機能と障害」と「背景因子」の2つの要素からなっている。機能障害は、健康状態に関連した心身機能の問題そのものとして用いられている。
5.〇 正しい。現在開発されているコアセットの1つに脳卒中用がある。コアセットの1つに脳卒中用はあり、長期ケアに含まれている。

 

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