第56回(R3) 作業療法士国家試験 解説【午前問題31~35】

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31 うっ血性心不全の急性増悪時にみられるのはどれか。2つ選べ。

1. 浮腫
2. 四肢冷感
3. 体重減少
4. 頸静脈圧低下
5. 高ナトリウム血症

解答1・2

解説

心不全とは?

心不全は心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。

心拍出量の低下を起こす原因として、
・左心不全:肺循環系にうっ血が著明なもの(呼吸困難、起座呼吸、尿量減少など)
・右心不全:体循環系にうっ血が著明なもの(頸静脈怒張、胸水・腹水、下腿浮腫、肝腫大など)
右室拡張末期圧の上昇(体循環の静脈系のうっ血)により右心不全は引き起こされる。

1~2.〇 正しい。浮腫/四肢冷感は、うっ血性心不全の急性増悪時にみられる。心臓のポンプ機能が低下することにより、末梢循環不全となり四肢冷感が生じる。
3.× うっ血性心不全の急性増悪時は、「体重減少」ではなく増加する。なぜなら、体静脈系のうっ血により、体内水分量(体重)が増加するため。
4.× うっ血性心不全の急性増悪時は、「頸静脈圧低下」ではなく上昇する。なぜなら、右心不全により静脈血が心臓に戻りにくくなるため。
5.× うっ血性心不全の急性増悪時は、「高ナトリウム血症」ではなく低ナトリウム血症となる。なぜなら、体静脈系のうっ血により、体内水分量(体重)は増加しているため。相対的に水分量が多くなり、体内のナトリウムは希釈される。

 

 

 

 

 

 

 

32 記憶障害を認める患者への対応として正しいのはどれか。

1. 記憶する内容は、その意味を考え、声に出し印象づけて記憶させる。
2. バランストレーニングなどの運動は疲労を伴うため活用しない。
3. 記憶する内容は、絵などの視覚的イメージは用いず記憶させる。
4. 備忘録は、多くの情報を取り扱うため活用しない。
5. 何度も失敗を経験させながら、記憶の修正を促す。

解答1

解説
1.〇 正しい。記憶する内容は、その意味を考え、声に出し印象づけて記憶させる。記憶障害を認める患者でもすべてが覚えられないわけではない。覚えやすいよう印象づけることが大切である。
2.× バランストレーニングに限らず、運動全般を活用する。有酸素運動、ストレッチ、バランストレーニングなどが効果的とされている。また、運動より食事の方が大切であるという意見もある。
3.× 記憶する内容は、絵などの視覚的イメージは、「用いず」ではなく用いて記憶させる。なぜなら、記憶障害を認める患者の中には、絵などの視覚的イメージを併用することでより記憶に残りやすいため。
4.× 備忘録(びぼうろく:忘れた時にそなえて、要点を書きとめておくための手帳・メモ。)は、多くの情報を取り扱えるため活用する。記憶障害によって見当識のずれや物なくしなどの予防の補助として使用できる。
5.× 何度も失敗を経験させながら、記憶の修正を促す必要はない。誤りなし (エラーレス)学習とは、誤りを経験させないように初めから正解を提示して正反応を反復することにより学習を成立させる方法である。記憶障害の患者に対しては、失敗(間違い)を通しての学習よりも、正解を最初から示す誤りなし(エラーレス) 学習の方が、自己評価を高めることが可能である。

 

 

 

 

 

33 車椅子自走が移動手段である患者の外出について適切なのはどれか。

1. バスは利用しない。
2. 電車の乗降は自力で行う。
3. 歩道よりも車道を通行する。
4. ティルト式普通型車椅子を使用する。
5. 事前に多目的トイレの場所を確認する。

解答5

解説
1.× バスも利用できる。①路面バスではノンステップが増え、車いす用のスロープが常備されている。②大型の観光バスや高速バスではリフト付きもある。両車とも車椅子が固定でスペースがある。
2.× 必ずしも電車の乗降は、自力で行う必要はない。現在、バリアフリー化が進んでおり、自力で電車の乗降が行えるところが増えてきている。事前に介助が必要であることを駅員に伝えることで、介助をしてもらえる。また、すすんで介助の手を差し伸べてくれる乗客もいる。ただし、バリアフリー未完の駅も少なからずあるため、普段利用しない駅での乗降について事前の確認が望ましい。
3.× 逆である。車道よりも歩道を通行する。なぜなら、車椅子利用者は歩行者とみなされるため。これは電動車椅子も同様である。これは、道路交通法第2条第3項第1号に記載されている。
4.× 必ずしもティルト式普通型車椅子を使用する必要はない。自走用のティルト式普通型車椅子は重量があり、小回りが利きにくいため、外出の移動手段としては推奨されない。ちなみに、ティルト式普通型車椅子とは、椅子の部分の角度が変わらず椅子ごと傾斜する車椅子である。座位保持装置を使用している重度障害者などが用いる。
5.〇 正しい。事前に多目的トイレの場所を確認する。事前に車椅子使用者も使いやすい多目的トイレの有無や場所を確認しておくことは大切である。

道路交通法

【第2条第3項第1号】

この法律の規定の適用については、次に掲げる者は、歩行者とする。

①身体障害者用の車椅子又は歩行補助車等を通行させている者
「内閣府令で定める基準」には、電動機(バッテリー)で動き、走行速度が6キロメートル毎時を超えず、歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がなく、自動車又は原動機付自転車と明確に識別ができることなどがある。

 

 

 

 

 

 

 

34 痙縮治療について適切なのはどれか。

1. 内服治療は行わない。
2. 温熱療法は禁忌である。
3. 経皮的電気刺激を行う。
4. ボツリヌス毒素療法は上肢には有効ではない。
5. 下肢筋力増強訓練は痙縮を増悪させるので避ける。

解答3

解説

痙縮とは?

痙縮は、錐体路の上位運動ニューロン障害による損傷高位以下の脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)の活動性が亢進し、麻痺筋の筋紡錘からの求心性刺激が増強することによって生じる。その結果、意思とは関係なく筋肉の緊張が高まり、手や足が勝手につっぱったり曲がってしまったりしてしまう状態となる。このため、前角細胞以下の障害では痙縮は出現しない。脳卒中の後遺症として起こる痙縮の治療にはボツリヌス毒素が用いられる。ボツリヌス毒素が神経終末の受容体に結合することで、アセチルコリンの放出を阻害し、アセチルコリンを介した筋収縮および発汗が阻害される。

1.× 内服治療は、グレードA(行うように勧められる科学的根拠がある)である。主に片麻痺の痙縮に対して、 チザニジン、 バクロフェン、 ジアゼパム、ダントロレンナトリウム、トルペリゾンの(内服) 処方を行う。
2.× 温熱療法は、グレードC1(行うように勧められる科学的根拠はない)であるが、禁忌ではない。痙縮筋に対しては、冷却または温熱の使用を考慮してもよい。
3.〇 正しい。経皮的電気刺激(TENS)を行う。経皮的電気刺激(TENS)は、グレードB(行うように勧められる科学的根拠がある)である。
4.× ボツリヌス毒素療法は、上肢にも有効である。ボツリヌス毒素療法は、上下肢の痙縮に対しグレードA(行うように勧められる科学的根拠がある)である。
5.× 下肢筋力増強訓練は、痙縮を増悪させるので避ける必要はない。下肢筋力増強訓練・ストレッチ・関節可動域訓練は、グレードB(行うように勧められる科学的根拠がある)である。

(※参考文献:「脳卒中治療ガイドライン 2015」より)

 

 

 

 

 

 

 

35 頸髄損傷者の自律神経過反射への対応として正しいのはどれか。

1. 導尿
2. 下肢挙上
3. 腹帯装着
4. 大腿部叩打
5. 鎮痛剤内服

解答1

解説

自律神経過反射とは?

 自律神経過反射は、T5~6以上の脊髄損傷患者において、損傷部以下の臓器からの刺激によって起こる自律神経の異常反射である。内臓神経の抑制が解除されるため、主に骨盤内臓器が緊張する促通刺激が原因となり誘発される。原因は①膀胱刺激、②直腸刺激、③内臓刺激、④皮膚刺激などが挙げられる。生命の危険を伴い合併症を伴う。自律神経過反射の症状は、高血圧、ガンガンする頭痛、顔面紅潮、損傷レベルより上部での発汗、鼻詰まり、吐き気、脈拍60以下の徐脈、損傷レベルより下部の鳥肌である。

1.〇 正しい。導尿は、頸髄損傷者の自律神経過反射への対応である。なぜなら、頸髄損傷者の自律神経過反射の原因の一つとして、膀胱刺激(排尿障害により膀胱に刺激)が挙げられるため。導尿により残尿をなくし、膀胱への刺激を減らすことができる。
2.× 下肢挙上は、起立性低血圧への対処法である。自律神経過反射では、高血圧になるため座位をとる。
3.× 腹帯装着は、起立性低血圧への対処法である。自律神経過反射では、高血圧になるため着衣は緩める。ちなみに、腹帯とは、妊婦さんのお腹に巻く帯のことで、保温効果や胎児を転倒などの衝撃から守るなどといった効果がある。
4.× 大腿部叩打は推奨されない。なぜなら、頸髄損傷者の自律神経過反射の原因の一つとして、皮膚刺激が挙げられるため。その皮膚刺激がかえって自律神経過反射を助長する可能性がある。
5.× 鎮痛剤内服の優先度は低い。なぜなら、自律神経過反射の症状による頭痛は、発作性高血圧によって起こることが多い。脳出血・くも膜下出血につながる可能性が高く、重篤化する前に排尿や排便により刺激を取り除く必要がある。原因を取り除いても症状の改善がみられない場合、降圧剤や鎮痛剤が用いられることはある。

 

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