第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 75歳の男性。肺がん根治術後。
 退院時の全身持久性の評価として適切なのはどれか。

1.片脚立位時間
2.6分間歩行テスト
3.10m最大歩行速度
4.Five times sit to stand test
5.Timed Up and Go Test(TUG)

解答

解説

根治術とは?

根治術とは、病気を完全に治すことを期待して行う手術のことである。根治手術では、がんをすべて取り除くことを目標としており、がんそのものの切除に加えて、がんの再発や転移が起こらないように、がんが広がっている可能性がある臓器や組織なども含めて切除することがある。肺がんの手術療法として、切除範囲の広い順に①肺全摘術(片側の肺全体を切除)、②肺葉切除(腫瘍を1つの肺葉ごと切除)、③区域切除(腫瘍を肺区域ごと切除)、 ④楔状切除(部分切除:末梢の腫瘍を周囲の肺組織とともに切除)がある。いずれの手術も肺の容量が術前より小さくなるため、運動耐容能の評価を術前後で行う。

1.× 片脚立位時間は、平衡性を評価するバランス検査の一種である。
2.〇 正しい。6分間歩行テストは、運動耐容能(全身持久性)の検査である。
3.× 10m最大歩行速度は、屋内・屋外歩行が可能か歩行速度(歩行能力)を検査する。助走路(各3m)を含めた約16m(直線歩行路)を歩行し、定常歩行とみなせる10mの所要時間計測する。10秒未満が屋外歩行レベルとされる。短い時間がでればでるほど良い結果となる。
4.× Five times sit to stand test(FTSST)は、できるだけ早く5回立ち座りを行うことで立ち座りの能力を評価する評価法の一つである。下肢の筋力の総合的な評価バランス能力の評価としても用いられる、主に高齢者(ロコモティブシンドローム)や脳卒中患者、前庭機能障害、パーキンソン病患者などを対象に行われてきた。
5.× Timed up and go test(TUG)は、運動器不安定症の指標となっている。下肢の筋力、バランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが示唆されている。ちなみに、カットオフ値は14秒程度である。

6分間歩行テストとは?

 運動耐容能(全身持久性)の検査である。標準的には、30mの直線コースを往復する。歩行距離だけでなく「血圧・心拍数・SpO2・自覚的運動強度(Borgスケールなど)」も測定する。検査中、検査者は1分ごとに声かけを行う(声のかけ方には標準的なものが示されている)。被験者は疲労や息切れを感じたら、立ち止まることも可能である。大きくふらついたり、呼吸困難が増悪したり、胸痛を訴えるなどした場合は検査を中止する。

 

 

 

 

 

 

7 78歳の女性。自宅玄関で転倒してから起立歩行不能となり救急搬送された。来院時の単純エックス線画像を下図に示す。
 最も考えられるのはどれか。

1.股関節脱臼
2.大腿骨頭部骨折
3.大腿骨骨頭骨折
4.大腿骨転子下骨折
5.大腿骨転子部骨折

解答

解説

 ①大腿骨頸部骨折、②大腿骨転子部骨折、③大腿骨転子下骨折(写真参照)で骨折部位ごと名称が異なる。この画像は左股関節部の画像であり、注目するべき点は、大腿骨のどの部分に骨折線があるかである。本性例は、大転子から小転子にかけて骨折線がみられるため、大腿骨転子部骨折と判断できる。したがって、選択肢5.大腿骨転子部骨折である。

1.× 股関節脱臼は画像では見られない。骨頭が寛骨臼の中に入っている。高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷により、後方脱臼が最多である。
2~3.× 大腿骨頸部骨折/大腿骨骨頭骨折は、本症例のエックス線画像では見られない。ちなみに、大腿骨頸部骨折は、解説画像の①で起こる骨折であり。それより近位で起こる骨折のことを大腿骨骨頭骨折という。
4.× 大腿骨転子下骨折は、解説画像の③で起こる骨折で、大転子と小転子を結ぶ線よりも、より遠位の骨折線が見られる。本症例の場合、小転子の剥離も同時に生じているため、一見すると転子下骨折と見間違える可能性がある。

 

 

 

 

 

8 6歳の男児。潜在性二分脊椎。足部の変形を図に示す。
 MMTを行ったところ、大腿四頭筋の筋力は5、内側ハムストリングスは3、前脛骨筋は3、後脛骨筋は2であった。
 Sharrardの分類による障害レベルはどれか。

1.Ⅰ群
2.Ⅱ群
3.Ⅲ群
4.Ⅳ群
5.Ⅴ群

解答

解説

Sharrard(シェラード)の分類

第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない。
第Ⅱ群(L1〜2レベル):車椅子と杖歩行を併用している。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。
第Ⅲ群(L3〜4レベル):長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能。
第Ⅳ群(L5レベル):短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。股関節伸展、足関節底屈が可能。
第Ⅴ群(S1〜2レベル):ほとんど装具が不要で自立歩行可能。足関節の安定性が低い。
第Ⅵ群(S3レベル):ほとんど運動麻痺はなく、健常児とほぼ同様の歩行。

 本症例のMMTは、大腿四頭筋5(L2~L4)、内側ハムストリングス3(L4~S1)、前脛骨筋3(L4~S1)、後脛骨筋2(L5~S1)であり、図から尖足変形がみられる。したがって、L3〜L4レベルの麻痺が考えられる。選択肢3.Ⅲ群が正しい。

1.× Ⅰ群は胸髄レベルの麻痺であるため、 MMTで大腿四頭筋、ハムストリングス、前脛骨筋、後脛骨筋を測定することができない。
2.× Ⅱ群はL1〜2レベルの麻痺があり、大腿四頭筋のMMTは低下すると考えられるため当てはまらない。
4.× Ⅳ群はL5レベルの麻痺であり、前脛骨筋と後脛骨筋の筋力はある程度保たれていると考えられる。またL5レベルの麻痺であると、足関節の外反作用のある長指伸筋や第3腓骨筋の筋力もわずかながら残存していることが考えられる。Ⅳ群の足部は一般的に中等度の踵足となる。
5.× Ⅴ群はS1〜3レベルの麻痺であり、足関節は凹足外反、槌指もしくはかぎ爪趾となる。

 

 

 

 

 

 

9 75歳の女性。16年前に左上肢の安静時振戦が出現し、その後左下肢にも認められ動作緩慢となった。近医脳神経内科を受診しParkinson病と診断されL-dopaの内服治療が開始された。開始当初はL-dopaの効果を認めたが、パーキンソニズムの増悪に伴い徐々にL-dopaを増量された。最近L-dopa服用後30分程度で突然動けなくなり、1日の中で突然の無動を何度も繰り返すという。
 この現象はどれか。

1.wearing-off現象
2.Westphal現象
3.pusher現象
4.on-off現象
5.frozen現象

解答

解説
1.× wearing-off現象とは、薬物の有効時間が1~3時間に短縮され、症状が悪化することを言う。
2.× Westphal現象(ウエストファル現象)とは、筋を受動的に短縮させた時に、短縮させた筋に持続的な筋収縮が誘発される現象である。前脛骨筋に最も出やすい。固縮があるパーキンソン患者に多く見られる。
3.× pusher現象(プッシャー現象)とは、脳血管疾患後に生じる姿勢異常の一種である。座位や立位で姿勢を保持させたときに、非麻痺側上肢・下肢で麻痺側へ押し、身体が麻痺側に傾き、他者が修正しようとしても抵抗してしまう現象をいう。右半球損傷に多い。
4.〇 正しい。on-off現象とは、服用時間に関係なく症状が急変することを言う。パーキンソン患者に多く見られる。設問の「1日の中で突然の無動を何度も繰り返すという。」の部分(この現象はどれか?の直前の文章)が、on-off現象である。
5.× frozen現象(フローズン現象)とは、すくみ足などのすくみ現象のことを言う。パーキンソン病の3主徴である、姿勢反射障害のうちの「無動」が原因となって生じる。

Wearing-offの原因と仕組み

 wearing-offが出現する原因は、「ドパミン神経細胞の減少」である。病気の初期は、ドパミン神経が比較的残存しているため、L-dopaから作られたドパミンを貯蔵庫に保存して、必要に応じて使う事が可能である。しかし、病気が進行すると「ドパミン神経が減少」し、ドパミンを貯蔵庫に保存できなくなる。したがって、薬と薬の合間にドパミンを使い切ってしまい、欠乏状態が生じる。これがwearing-offの仕組みである。

 

 

 

 

 

 

10 52歳の女性。廃用による身体機能の全般的な低下によりバランス能力低下があり、バランス能力の改善を目的とした運動療法を行っている。開始当初、立位保持も困難であったが、現在は立位で物的な介助がなくても左右前後の重心移動が可能となってきている。歩行は平行棒内で両手を支持して軽介助である。
 次に行うバランス練習として最も適切なのはどれか。

1.杖歩行練習
2.上肢支持なしのタンデム歩行練習
3.上肢支持なしの立位で外乱を加える練習
4.片側上肢を支持した立位で下肢のステップ練習
5.両上肢でボールを保持しながら立位重心移動練習

解答

解説

バランス練習の流れ
  1. 支持基底面内に重心を保持する(静的)。
  2. 支持基底面内なら重心を移動できる(動的)。
  3. 支持基底面内から逸脱しても新たに支持基底面を形成できる(立ち直り)。

 本症例のバランス能力の特徴として、①立位は、物的な介助がなくても左右前後の重心移動が可能な状態、②歩行は平行棒内で両手を支持して軽介助である。したがって、①立位は支持基底面から逸脱しても新たに支持基底面を作れるレベルへ、②歩行は両手支持から片手支持(広い支持基底面から狭い支持基底面)もしくは、軽介助から見守りへが妥当と考えられる。

 

1.× 杖歩行練習は優先度が低い。なぜなら、現在の本症例の歩行状態は平行棒の両手支持(軽介助)であり、杖歩行練習は難易度が高いため。支持基底面の広い歩行器や平行棒の片手支持が可能になってから杖歩行練習を行う。
2.× 上肢支持なしのタンデム歩行練習は優先度が低い。なぜなら、現在の本症例の歩行状態は平行棒の両手支持(軽介助)であり、上肢支持なしのタンデム歩行練習は難易度が高いため。
3.× 上肢支持なしの立位で外乱を加える練習は優先度が低い。なぜなら、現在の本症例の立位状態は、左右前後の重心移動が可能な状態であるため。支持基底面内から逸脱しても新たに支持基底面を形成できるようになってから、外乱を加える練習を行うことが多い。
4.〇 正しい。片側上肢を支持した立位で下肢のステップ練習を実施する。本症例のバランス能力の特徴として、①立位は、物的な介助がなくても左右前後の重心移動が可能な状態、②歩行は平行棒内で両手を支持して軽介助である。したがって、①立位は支持基底面から逸脱しても新たに支持基底面を作れるレベルへ、②歩行は両手支持から片手支持(広い支持基底面から狭い支持基底面)もしくは、軽介助から「見守り」へが妥当と考えられる。
5.× 両上肢でボールを保持しながら立位重心移動練習は優先度が低い。なぜなら、現在の本症例の立位は、物的な介助がなくても左右前後の重心移動が可能な状態で難易度はそれほど上がっていないため。ボールを両手に把持することで、重心が上がりより不安定となりバランス練習に有効との考えも否定できないが、両手にボールを把持することで、重心が支持基底面から逸脱したとき(バランスを崩した際)、平行棒を把持することが困難(新たな支持基底面が作れない)となる。つまり、転倒の危険性が高まることに加え、新たな支持基底面を作る練習にもつながりにくい。

 

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