第56回(R3) 理学療法士国家試験 解説【午後問題36~40】

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36 僧帽弁閉鎖不全症による心不全で初期からみられるのはどれか。

1.肝脾腫
2.高血圧
3.下腿浮腫
4.呼吸困難
5.頚静脈怒張

解答

解説

僧帽弁閉鎖不全症とは?

定義:僧帽弁の閉鎖が不十分なため、収縮期に血液が左室から左房へ逆流する。
概要:原因はリウマチ熱、動脈硬化による。
症状:左心不全症状(呼吸困難、動悸、息切れ)、易疲労、進行すると発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸など。
検査所見:心電図検査(ECG)→心房細動多発

1.× 肝脾腫とは、何らかの疾患の症状として、肝臓や脾臓が肥大することである。肝硬変や感染症、貧血、悪性腫瘍などの病気が原因で起こる。
2.× 「高血圧(血圧の増加)」ではなく、血圧の低下が起こる。なぜなら、僧帽弁閉鎖不全症により収縮期に血液が左室から左房へ逆流するため。
3.5.× 下腿浮腫/頚静脈怒張は、右心系の心不全で生じる。
4.〇 正しい。呼吸困難は、僧帽弁閉鎖不全症による心不全で初期からみられる。心不全は心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。

心不全とは?

心不全は心臓のポンプ機能低下のため末梢組織の酸素需要に見合った血液量を供給できない状態である。肺循環系にうっ血が著明なものを左心不全、体循環系にうっ血が著明なものを右心不全という。体液の著明やうっ血を生じ、主な症状として呼吸困難、咳嗽、チアノーゼ、血性・泡沫状喀痰(ピンクの痰)などがある。

心拍出量の低下を起こす原因として、
・左心不全:肺循環系にうっ血が著明なもの(呼吸困難、起座呼吸、尿量減少など)
・右心不全:体循環系にうっ血が著明なもの(頸静脈怒張、胸水・腹水、下腿浮腫、肝腫大など)
右室拡張末期圧の上昇(体循環の静脈系のうっ血)により右心不全は引き起こされる。

 

 

 

 

 

 

37 関節可動域の改善を主な目的とするのはどれか。2つ選べ。

1.Böhler体操
2.Buerger-Allen体操
3.Codman体操
4.Frenkel体操
5.McKenzie体操

解答3・5

解説
1.× Böhler体操(ベーラー体操)は、脊椎圧迫骨折患者の背筋強化に使用する。脊椎伸展運動によって背筋の筋力強化を目的とした体操である。
2.× Buerger-Allen体操(バージャー・アレン体操)は、閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害に対する運動療法として考案された。下肢の挙上と下垂を繰り返して反射性充血を促し、側副血行路の形成を促進する体操である。
3.〇 正しい。Codman体操(コッドマン体操)は、肩関節周囲炎の炎症期に使用する運動であり、肩関節回旋筋腱板の強化や肩関節可動域拡大を目的に使用する。患側の手に1~1.5㎏の重錘を持ち、振り子運動を行う。
4.× Frenkel体操(フランクル体操)は、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法であり、脊髄性運動失調などに対して行われる。多発性硬化症(MS)による視覚障害は、球後視神経炎を初発症状として呈することが多い。
5.〇 正しい。McKenzie体操(マッケンジー法)は、腰痛症に対して使用する。ニュージーランドの理学療法士「ロビン・マッケンジー氏」により考案された、腰部の伸展を主に行う運動である。脊柱の生理的前弯の減少に対し、関節可動域を改善することで脊柱前弯を獲得させ、椎間板内の髄核を前方に移動させることを目的に行う。

 

 

 

 

 

 

38 対流熱を用いるのはどれか。

1.気泡浴
2.赤外線
3.超音波
4.極超短波
5.パラフィン

解答

解説

熱伝導形態

熱には3つの熱伝導形態があり、①熱伝導、②対流熱、③熱放射である。
①熱伝導は、物質を介して熱が伝わることをいう。(簡単にいうと、直接触れることによる熱の移動)
②対流熱は、液体や気体の流れに乗って熱が移動することをいう。
③熱放射は、温度差がある物体の間で、熱が移動することをいう。
④エネルギー変換熱は、電磁波や超音波など体内で吸収されて熱エネルギーに変換することをいう。

1.〇 正しい。気泡浴は、対流熱の熱伝導を利用した温熱療法である。気泡浴とは、浴槽の底部から気泡を発生させ、皮膚を刺激して血液循環をよくするものである。他にも、過流浴がある。
2.× 赤外線は、熱放射を利用した温熱療法である。
3~4.× 超音波/極超短波は、エネルギー変換熱を利用した温熱療法である。他にも超短波があり、これらは深部まで到達する。
5.× パラフィンは、熱伝導を利用した温熱療法である。

(図引用:「輻射熱(放射熱)とは?」サーモバリア様HPより)

 

 

 

 

 

39 栄養管理について正しいのはどれか。

1.成人では毎日体重1kgあたり0.1g以上のタンパク質を摂取するのがよい。
2.BMIが22.5未満の場合、栄養障害があると判定する。
3.低栄養になると血中総リンパ球数が増加する。
4.発熱時には、エネルギー必要量が増加する。
5.重度熱傷では、尿中窒素排泄量が減少する。

解答

解説
1.× 成人では毎日体重1kgあたり「0.1g以上」ではなく、0.8g以上のタンパク質を摂取するのがよい。
2.× BMIが「22.5未満」ではなく18.5未満の場合、「栄養障害」ではなく低体重(やせ)と判定する。BMI18.5未満の場合、低体重(やせ)と判定し、栄養障害・低栄養のリスクが高まる。ちなみに、BMI22.5は、普通体重(基準値18.5~25)である。高齢者の場合は、BMI20.0未満で、低体重(やせ)と判定することもある。
3.× 低栄養になると血中総リンパ球数は低下する。総リンパ球数:免疫能やTリンパやBリンパ球の総数で、栄養状態の指標として有用である。リンパ球数の正常値は、成人で血液1マイクロリットル当たり1500個以上、小児で3000個以上である。
4.〇 正しい。発熱時には、エネルギー必要量が増加する。体温上昇(感冒症状)で、代謝・体温を維持するためエネルギー消費量が大きくなる。
5.× 重度熱傷では、尿中窒素排泄量が増加する。なぜなら、重度熱傷により、エネルギーを確保しようとし、たんぱく質の分解が亢進するため。したがって、窒素平衡は負となり、尿中窒素排泄量が増加する。ちなみに、尿中窒素排泄量は、体内のたんぱく質燃焼量を反映する。

 

 

 

 

 

 

40 全身持久力トレーニングの効果で減少するのはどれか。

1.最大心拍出量
2.筋の毛細血管数
3.嫌気性代謝閾値
4.動静脈酸素含有量格差
5.同じ運動強度での換気量

解答

解説

全身持久力トレーニングの効果

1) 骨格筋に対する効果
ミトコンドリア量増加
ミオグロビン含有量増加
ATP含有量増加
グリコーゲン含有量増加
毛細血管密度増大
筋血流量増加

2) 心臓に対する効果
毛細血管密度増大
心臓容積増大
全血液量増加
循環血液量増加
一回拍出量増加
安静時末梢血管抵抗低下
心筋活動量の増加

3) 肺に対する効果
呼吸筋筋力増強による一回換気量の増加
肺血流量の増加による肺拡散容量増加
肺容量の増加
肺胞と肺毛細血管との接触面積増加

4) その他
体脂肪の減少
血中コレステロール量の減少

1.× 最大心拍出量は、増大する。なぜなら、心臓容積の増大や一回拍出量増加が見られるため。心拍出量は、「1分間の心拍出量(CO)=1回の拍出量(SV)×1分間の心拍数(HR)」と表す。
2.× 筋の毛細血管数は、増加する。筋血流量増加するのは、筋の毛細血管数が増加していることから起因する。
3.× 嫌気性代謝閾値(AT)は、増加する。嫌気性代謝閾値(AT)とは、運動時に有酸素運動から無酸素運動へと切り替わる運動強度の閾値のことである。つまり、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値である。骨格筋に対する効果(ATP含有量増加、グリコーゲン含有量増加)により、嫌気性代謝閾値(AT)は増加する。
4.× 動静脈酸素含有量格差(動脈血に含まれる酸素量と静脈血に含まれる酸素量の差のこと)は、全身持久力トレーニングの効果では変化なく一定である。運動中の動静脈酸素含有量格差が小さければ(すなわち末梢での酸素利用が少なければ)、仕事率の増加に対する酸素摂取量の少なくて済むが、動静脈酸素含有量格差が変化する相は、嫌気性代謝閾値(AT)を超えてからである。
5.〇 正しい。同じ運動強度での換気量は減少する。なぜなら、肺に対する効果(呼吸筋筋力増強による一回換気量の増加、肺血流量の増加による肺拡散容量増加、肺容量の増加、肺胞と肺毛細血管との接触面積増加)によるため。

 

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