第54回(H31) 理学療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6.26歳の男性。20歳ころから乗り物のつり革を握ると放しにくいことを自覚し始め、四肢遠位筋優位の筋力低下を自覚するようになった。母親にも同様の症状がある。前頭部に脱毛があり、側頭筋や咬筋が萎縮し、顔の幅が狭く頬がこけた顔貌している。
 認められる可能性が高いのはどれか。

1. アテトーゼ
2. Gowers徴候
3.ミオトニア
4. Lhermitte徴候
5. Romberg徴候

解答

解説

本症例の特徴

・20歳ころから乗り物のつり革を握ると放しにくい(把握ミオトニア)。
・四肢遠位筋優位の筋力低下。
・母親にも同様の症状(常染色体優性遺伝)。
・前頭部に脱毛がある(前頭部禿頭)禿頭:とくとう。
・側頭筋や咬筋が萎縮し、顔の幅が狭く頬がこけた顔貌である(斧様顔貌)。
→本症例は「筋強直性ジストロフィー」が疑われる。筋強直性ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィー内の一種である。進行性筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性及び壊死を主病変とし、進行性の筋力低下や萎縮をきたす遺伝性疾患である。収縮した骨格筋が弛緩しにくくなる現象(ミオトニア現象)と、全身の筋力低下、筋萎縮を主症状とし、その他にも多彩な症状を呈する疾患である。

1. ×:アテトーゼ(athetosis)は、自分の意志に反して運動を行う不随意運動の一つ。 ゆっくりとねじるような運動を行うのが特徴的。 脳性麻痺などが原因となる。 線条体、視床下核、黒質、赤核などの障害で錐体外路系の障害によって生じる。
2. ×:Gowers徴候(登はん性起立)は、床から起立する時、まず床に手をついて、お尻を高くあげ、次にひざに手をあてて、手の力を借りて立ち上がる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーでみられる症状である。
3. 〇:正しい。ミオトニアは、筋強直現象ともいい、筋力低下・筋萎縮である。筋強直とは、手を強く握るとスムーズに手を開けない(把握ミオトニア)などの現象である。筋強直は繰り返し同じ運動をすると軽くなるのが特徴(ウォームアップ効果)である。
4. ×:Lhermitte徴候(レルミット徴候)は、頚部屈曲時に感電したような痛みや刺すような痛みが背中から両脚、片方の腕、体の片側へ走ることをいう。多発性硬化症に特徴的な症状である。
5. ×:Romberg徴候(ロンベルグ徴候)は、被験者に足をそろえ、目を閉じて直立する検査である。陽性では、脊髄性障害(脊髄癆)では動揺が大きくなる。

筋強直性ジストロフィーの特徴

①常染色体優性遺伝
②中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)
③西洋斧様顔貌
④前頭部若禿
⑤白内障
⑥嚥下障害
⑦構音障害
⑧筋萎縮(顔面筋・側頭筋・咬筋・胸鎖乳突筋・遠位優位の筋萎縮)
⑨ミオトニア(舌の叩打・母指球・把握)
⑩心伝導障害(房室ブロックなど)
⑪糖尿病

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7. 人工呼吸器のモニターに示される気道内圧と肺気量位を図に示す。
 理学療法前後で図のような変化がみられた場合、呼吸器系に生じた変化として考えられるのはどれか。
 ただし、対象者の自発呼吸はなく、人工呼吸器による陽圧変化のみにより肺気量位が変化しているものとする。


1. 肺活量の増加
2. 残気量の減少
3. 気道抵抗の増加
4. 胸郭柔軟性の低下
5. 肺コンプライアンスの増加

解答

解説

本症例のポイント

 図を見ると、呼吸理学療法前・後で変化しているのは、肺気量(02L→0.4L)であることが分かる。また一方で気道内圧の変化はない。肺気量とは、換気に際して移動する空気量をいう。

1. ×:肺活量とは、[最大吸気量 + 予備呼気量]のことをいう。つまり、限界まで吸い、限界まで吐いたときの空気の量である。文章から、対象者の自発呼吸はなく、人工呼吸器による陽圧変化のみにより肺気量位が変化しているものであるため、肺気量の増加=肺活量の増加とは言えない。
2. ×:残気量とは、最大に呼出させた後、なおも肺内に残っている空気量のことをいう。肺気量の増加=残気量の減少とはいえない。
3. ×:気道内圧が変わらず、肺気量が増加しているため、気道抵抗が増加ではなく低下している。気道抵抗と肺容量の関係をみると、肺容量が高くなると気道抵抗は小さくなる。
4. ×:胸郭柔軟性が低下に伴い、肺気量は減少する。選択肢3と同じ理由で、気道内圧が変わらず、肺気量が増加しているため、胸郭柔軟性の低下ではなく増加である
5. 〇:正しい。肺コンプライアンスの増加である。肺コンプライアンスとは、肺の膨らみやすさの指標である。肺、胸郭にはたえず縮まろうとする性質(弾性)があり、コンプライアンスは弾性の逆数で表される。肺コンプライアンスの増加により、一回換気量が増加し肺気量が上昇していると考えられる。

 

 

 

 

 

 

8.75歳の男性。右利き。脳梗塞による右片麻痺。右短下肢装具を装着し四脚杖を使用して介助なく20mまでの歩行が可能である。食事は左手で普通のスプーンやフォークを使用して介助なく可能だが箸は使えない。
 歩行と食事のFIMの点数の組み合わせで正しいのはどれか。

1. 歩行6点:食事5点
2. 歩行6点:食事6点
3. 歩行5点:食事6点
4. 歩行5点:食事7点
5. 歩行4点:食事7点

解答

解説
歩行:右短下肢装具を装着し四脚杖を使用して介助なく20mまでの歩行が可能である。は、5点である。
食事:左手で普通のスプーンやフォークを使用して介助なく可能だが箸は使えない。は、7点である。

食事で、スプーンやフォークは、自助具に含まれないので注意して覚える。

ちなみに、
歩行6点は「50m以上歩行しているが補装具が必要な場合は修正自立」、
歩行4点は「手を触れる程度の介助があれば50mの移動が可能」。

食事6点は「自助食器や自助具を使用するが、自立して行える」、
食事5点は「万能カフなど自助具を装着してもらう必要がある。」

 

よって、選択肢4. 歩行5点:食事7点である。

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9. ある薬物を投与する前後の運動開始前・中・後の血圧の変化を示す。この薬物の作用はどれか。

1. 副交感神経刺激
2. 交感神経α受容体刺激
3. 交感神経α受容体抑制
4. 交感神経β受容体刺激
5. 交感神経β受容体抑制

解答

解説


 図を見ると、薬物投与後に①収縮期血圧のわずかな上昇②拡張期血圧の著明な低下が分かる。

α作用とβ作用について

・α1作用:主に血管収縮
・α2作用:ノルアドレナリン放出抑制によるネガティブフィードバック
・β1作用:心臓の陽性変性作用
・β2作用:血管、気管支の弛緩

1. ×:副交感神経刺激であれば、血管は拡張するはずなので、収縮期・拡張期ともに低下する。
2. ×:交感神経α受容体刺激は、血管平滑筋を収縮させ、心臓の収縮性・興奮性を活性化させる。つまり、収縮期・拡張期ともに上昇する。
3. ×:交感神経α受容体抑制は、血管平滑筋を拡張させ、心臓の収縮性・興奮性を低下させる。つまり、収縮期・拡張期ともに低下する。
4. 〇:正しい。交感神経β受容体刺激は、血管平滑筋を弛緩させ、心臓の拍出量を規制する働きを持つ。つまり、運動時に交感神経が働いても、図の通り収縮期血圧はそこまで上昇を示さないが、拡張期血圧は下がる。
5. ×:交感神経β受容体抑制は、血管平滑筋を弛緩させ、心臓の拍出量を抑制化する働きを持つ。つまり、収縮期・拡張期ともに低下する。

ポジティブフィードバックとネガティブフィードバック

【ネガティブフィードバック】
①エストロゲンレベルが上昇したらゴナドトロピンが低下する → ネガティブフィードバック
②エストロゲンレベルが低下したらゴナドトロピンが上昇する → ネガティブフィードバック

【ポジティブフィードバック】
①エストロゲンレベルが上昇したらゴナドトロピンも上昇する → ポジブフィードバック
※ポジブフィードバックは一定条件が整わないと発現しません。ヒトではストラジオールが 200 pg/ml 以上に達し、それが 48 時間以上持続した時のみ発現します。間脳や下垂体でどのような現象が起きているかは考慮する必要がありません。

(※図・一部引用:「ポジティブフィードバックとネガティブフィードバック」より)

 

 

 

 

 

10. 生後8か月の乳児。運動発達の遅れがあり、療育施設にて理学療法を受けている。図のような姿勢を示す。
 優先して行う運動はどれか。

1. 寝返り
2. 膝立ち
3. 四つ這い
4. 立ち上がり
5. 免荷立位での交互振り出し

解答

解説

本症例のポイント

・生後8か月の乳児。
・運動発達の遅れがあり。
上肢の支持ありでの座位手立ち位が可能。
→本症例は、正常発達の6か月程度の獲得時期と考えられる。そのため、次に獲得する目標としては7か月程度の運動が望ましい。ちなみに、正常の生後8か月の乳児の獲得時期として、①上肢の支持なしでの座位、②ずり這いが可能な時期となる。

1. ×:寝返りは、6か月程度で可能となる。獲得できていると考えられる。
2. ×:膝立ちは、9か月程度で可能となる。上肢支持なしでの座位が獲得できて、膝立ちなど頭より高いものへの興味が出てくる。まだ上肢の支持なしでの座位ができていないため、時期尚早と考えられる。四つ這い獲得後に行うことが多い。
3. 〇:正しい。四つ這いは8か月程度で可能となる。この時から、ずり這いから四つ這いの練習を始める。
4. ×:立ち上がりは、9か月程度である。膝立ち同様に、上肢支持なしでの座位が獲得できて、膝立ちなど頭より高いものへの興味が出てくる。まだ上肢の支持なしでの座位ができていないため時期尚早と考えられる。
5. ×:免荷立位での交互振り出しは、11か月程度で可能となる。まだ行うには時期尚早と考えられる。ちなみに、足踏み反射(自動歩行)は、乳児が歩行するようなしぐさのことである。1~2か月で消失する。免荷ではなく、抗重力位を徐々にとらせていくようにする。

 

4 COMMENTS

あああ

歩行4点じゃなくて5点が「補装具の有無にかかわらず最低15m程度の歩行ができるじゃないですか?

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。

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