第54回(H31) 理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16. NICUにおける低出生体重児の腹臥位での姿勢を図に示す。
 この児に対するポジショニングで適切な肢位はどれか。2つ選べ。

1. 頚部伸展位
2. 体幹伸展位
3. 肩関節内旋位
4. 肩甲骨挙上位
5. 股関節内転位

解答3,5

解説

本症例のポイント

NICU(略:Neonatal Intensive Care Unit)とは、新生児集中治療室のことである。呼吸管理が必要な赤ちゃん、チアノーゼ(血流が悪く顔色や全身が紫色になっている状態)や先天性の異常やさまざまな病気を抱えた赤ちゃん、超・極低出生体重児たちが保育器の中で、呼吸、心拍、体温、栄養を管理して育てられる。
低出生体重児とは、2500g未満児のこと。1500g未満を「極低出生体重児」、1000g未満を「超低出生体重児」と呼ぶ。低体温、低血糖、貧血、黄疸(高ビリルビン血症)などが起こりやすく、感染への抵抗力も弱いため、外的ストレスをできる限り減らす。ポジショニングは、体内にいるときに近い姿勢を保つ。子宮内環境に近づける。
→低出生体重児は、胎内で屈曲姿勢をとる期間が少なく、神経系の発達が未成熟なため、在胎週数に応じた筋緊張が低下を認める。したがって、成熟児に比べて、四肢伸展、外転位の不良姿勢や不良運動パターンを認めやすい。胎内での屈曲姿勢に近い肢位をとらせるのが正しい。そのため、タオルやクッションなどを使用し姿勢のセッティングが必要になる。ポイントは、①頚部の軽度屈曲位、②肩甲帯の下制・前進、③骨盤後傾、④肩・股関節中間位(内・外転)、⑤上・下肢屈曲位である。

1. ×:頚部伸展位ではなく、頚部の軽度屈曲位が正しい。
2. ×:体幹伸展位ではなく、体幹の軽度屈曲位が正しい。
3. 〇:正しい。肩関節内旋位をとる。
4. ×:肩甲骨挙上位ではなく、肩甲帯下制位が正しい。
5. 〇:正しい。股関節内転位をとる。股関節外転しないように予防する。

 

 

 

 

 

17.82歳の男性。15年前から動作時の息切れ及び咳や痰の増加がみられ、自宅近くの医療機関にて加療していた。徐々に動作の呼吸困難感が強くなり、入浴動作で息切れを感じるようになっている。2年前から在宅酸素療法が開始されている。動脈血ガス分析は、PaO2:65Torr、PaCO2:47Torr、HCO3-:29. 5mEq/L、肺機能検査は、%VC:62%、FEV1%:42%であった。吸入薬として長時間作用性β2刺激薬、長時間作用性抗コリン薬が処方されている。
 本症例に有酸素運動を行う場合の運動強度として最も適切なのはどれか。

1. 7METs
2. 修正Borg指数7
3. 最大仕事量の75%
4. 目標心拍数130/分
5. 最大酸素摂取量の40%

解答

解説

(※図引用:「呼吸機能検査 フロー・ボリューム曲線」医學事始様HPより)

本症例のポイント

・82歳男性()
・15年前から、動作時の息切れ及び咳や痰の増加、入浴動作で息切れを感じるようになった。
・2年前から、在宅酸素療法が開始。
【動脈血ガス分析】
PaO2:65Torr、PaCO2:47Torr、HCO3-:29. 5mEq/L
【肺機能検査】
%VC:62%FEV1%:42%
・吸入薬:長時間作用性β2刺激薬、長時間作用性抗コリン薬が処方。
→肺機能検査は、%VC:62%(80%以下)、FEV1%:42%(70%以下)であるので、混合性換気障害であることが分かる。主な疾患として、混合性障害:肺気腫、拘束性換気障害:肺結核、肺線維症など、閉塞性換気障害:気管支喘息、気管支拡張症などがあげられる。

1. ×:7METsは、ジョギング(8㎞/h)、自転車(19㎞/h)程度の運動負荷量である。入浴動作は、4~5METsであり、本症例は設問から「息切れを伴う」状態であるため、7METsは運動負荷が大きすぎると考える。(※参考:厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」から)
2. ×:修正Borg指数7は、「とても強い」に値する。呼吸リハビリでは運動の中止と判断する。目安としては4~5の「多少強い」「強い」が呼吸リハビリの基準となっている。
3. ×:「最大仕事量」は運動強度の指標とはならない。なぜなら、最大仕事量とは、熱力学系の用語の一つで、1つの平衡状態から他の平衡状態に移るとき、系が外になしうる仕事の最大量をいう。「最大仕事量」ではなく、最大心拍数だった場合でもカルボーネン法に基づくと75%は過負荷である。
4. ×:目標心拍数130/分について、運動療法の際に目標とする心拍数を決める際にはKarvonenの式(カルボーネン法)によって求められる。(最大心拍数-安静時心拍数)×K+安静時心拍数である。ここでKは通常0.6、高リスク例では0.4~0.5、心不全では0.3~0.5で求められる。ちなみに、最大心拍数は、220-年齢とすることが多い。そのため、計算すると、220-82=138 この時点で目標心拍数130/分は過負荷と判断できる。
5. 〇:正しい。最大酸素摂取量の40%である。最大酸素摂取量の60~80%の負荷強度は、高い運動能力の改善がみられるために生理学的効果は高い。しかしながら、高強度であるためにリスクが高く監視が必要であり、また、重症例では実施できないことがある。一方、40~60%の負荷強度で行われるため、リスクは小さく、抑うつや不安感の改善効果が大きいとされる。さらに、在宅で継続しやすく高度な呼吸困難症例にも適応となる。

公式

Karvonen法(カルボーネン法)は、年齢や安静時心拍数から運動強度を算出するときに使用される。

Karvonen法(カルボーネン法)は「目標心拍数=(220-年齢)-安静時心拍数)×運動強度%(k:係数)+安静時心拍数」で求めることができる。
※予測最大心拍数=(220-年齢)
※kは年齢や傷病の状態に応じて0.3~0.7程度で設定する。

 

 

 

 

 

18. 60歳の女性。心不全。運動療法中に心室性期外収縮が確認された。この時の心電図を下図に示す。
 この心室期外収縮について正しいのはどれか。

1. 3段脈である。
2. P波がみられる。
3. Lownの分類4bである。
4. QRS幅は0.12秒未満である。
5. 洞調律よりも早く出現する心室興奮である。

解答

解説


 心室性期外収縮とは、本来の洞結節からの興奮より早く、心室で興奮が開始していることをいう。つまり、P波が認められず、幅広い変形したQRS波がみられる。

1. ×:3段脈ではない。3段脈とは、3拍に1回の割合で期外収縮を繰り返す状態のことをいう。図は5拍に1度期外収縮を繰り返している。
2. ×:P波はみられない。P波は洞結節の興奮である。心室性期外収縮とは、本来の洞結節からの興奮より早く、心室で興奮が開始している状態であるためP波はみられない
3. ×:Lownの分類「4b」ではなく2である。Lownの分類(ろーんぶんるい)とは、心室性期外収縮の重症度分類のことをいう。Grade1~4a/4bあり、5までの全6段階ある。4bとは、3連発以上起こっていることをいう。本症例は、散発性(1個/分または30個/時間以上)である。
4. ×:QRS幅は0.12秒「未満」ではなく以上である。横軸1㎜は、0.04秒に相当する。QRS幅は0.12秒未満であれば3メモリ未満であるが、5メモリ程度の幅広い変形したQRSが観察できる。
5. 〇:正しい。洞調律よりも早く出現する心室興奮である。心室性期外収縮とは、本来の洞結節からの興奮より早く、心室で興奮が開始していることをいう。

Lownの分類(心室性期外収縮の重症度評価)

・Grade0:心室性期外収縮なし
・Grade1:散発性(1個/分または30個/時間未満)
・Grade2:散発性(1個/分または30個/時間以上)
・Grade3:多源性(期外収縮波形の種類が複数あるもの)
・Grad4a:2連発
・Grade4b:3連発以上
・Grade5:短い連結期(R on T現象)

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19. 70歳の男性。食道がんを内視鏡的に切除した後に放射線療法を行ってから6か月が経過した。
 今後予測される放射線療法の副作用はどれか。

1. 末梢神経障害
2. 気道浮腫
3. 食欲不振
4. 皮膚炎
5. 悪心

解答

解説

放射線療法の副作用

放射線療法は、①照射中に起こる副作用、②数か月後に起こる副作用、③6か月後に起こる副作用と大きく3つある。

  1. 照射中からおこる可能性がある症状:気分不快、食欲不振、胃痛、倦怠感、下痢、照射した部分の皮膚の色素沈着やかさつきなど。
  2. 数か月後に起こる可能性があるもの:放射線腸炎、長引く下痢や繰り返す腹痛など。
  3. 治療終了後6か月以降に起きる可能性のあるもの:放射線性胃十二指腸潰瘍腸管の狭窄過敏性腸症候群など。

1. 〇:正しい。末梢神経障害が最も考えられる。
2. ×:気道浮腫は、照射中に起こる副作用として考えられる。
3. ×:食欲不振は、照射中に起こる副作用として考えられる。
4. ×:皮膚炎は、照射中に起こる副作用として考えられる。
5. ×:悪心は、照射中に起こる副作用として考えられる。

 

 

 

 

 

20. 65歳の男性。右利き。突然の意識障害で搬送された。くも膜下出血の診断で、破裂脳動脈瘤のクリッピング手術を施行された。発症後3か月の頭部CTを下図に示す。
 この患者に出現しやすい症状はどれか。

1. 上着の左右を間違えて袖を通す。
2. ジェスチャーの模倣ができない。
3. 移動するときに左側の人や物にぶつかりやすい。
4. 知っている人なのに声を聞かないとわからない。
5. 担当理学療法士に毎日初対面のように挨拶する。

解答

解説

 発症後3か月の頭部CTでは、出血部位は低吸収域としてうつる。真ん中の側脳室スライドの写真から、右前頭葉あたりが障害されていることが分かる。右前頭葉の障害で起こる症状を選択できれば正解となる。

1. ×:上着の左右を間違えて袖を通すことは、着衣失行といい、右の頭頂葉後方の障害で起こる。
2. ×:ジェスチャーの模倣ができないのは、観念運動失行といい、左の縁上回の障害で起こる。
3. ×:移動するときに左側の人や物にぶつかりやすいのは、半側空間無視といい、右の頭頂葉後方の障害で起こる。
4. ×:知っている人なのに声を聞かないとわからないのは、相貌失認といい、右の後頭葉から側頭葉にかけての障害で起こる。
5. 〇:担当理学療法士に毎日初対面のように挨拶するのは、前向健忘といい、脳のほぼどこに損傷が起きても健忘をきたす可能性がある。消去法から正答にたどりつく。

くも膜下出血の補足

くも膜下出血後の合併症には、再出血・脳血管攣縮・正常圧水頭症などがある。脳血管攣縮による梗塞の好発部位は、「前交通動脈」であり、本症例の画像とも一致する。正常圧水頭症の場合、画像上では①脳室の拡大、②シルビウス裂の拡大、③高位円蓋部脳溝の狭小化といった所見がみられる。また、正常圧水頭症の症状として、①尿失禁、②認知症、③歩行障害などがあげられる。

 

6 COMMENTS

大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
確かに、前向健忘ですね!!
勉強になりました。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
Q20の症状が、「脳血管性認知症」ということでしょうか?
確かに、脳血管性認知症は、時間や場所や人物の認識がうまくできなくなる見当識障害が症状としてあるため、あり得るとは思います。なので、担当理学療法士に毎日初対面のように挨拶する様子を「重度の見当識障害」として扱ってもいいのかなと思いますが、私も未熟なもので断言できません。曖昧な回答になってしまい、申し訳ありません。

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