第54回(H31) 理学療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11. 45歳の男性。会社の事務員として働いていたが、自転車運転中に自動車にはねられ、びまん性軸索損傷を受傷した。身体機能に問題がなかったため、1か月後に以前と同じ部署である庶務に復職した。仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えているが、何から手をつければ良いのか優先順位がつけられず、周囲の同僚から仕事を促されてしまう状況である。
 考えられるのはどれか。

1. 記憶障害
2. コミュニケーション障害
3. 失行
4. 失認
5. 遂行機能障害

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の男性(びまん性軸索損傷)。
・身体機能に問題なし。
・1か月後:以前と同じ部署に復職。
・仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えている。
何から手をつければ良いのか優先順位がつけられず、周囲の同僚から仕事を促されてしまう状況である。
→びまん性軸索損傷とは、頭部外傷後、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない状態である。交通事故などで脳組織全体に回転加速度衝撃が加わり、神経線維が断裂することで生じる。頭部外傷は、前頭葉・側頭葉が損傷されやすい。びまん性軸索損傷の好発部位は、①脳梁、②中脳、③傍矢状部などである。症状として、①意識障害、②記銘・記憶障害、③性格変化、④情動障害、⑤認知障害、⑥行動障害などの高次脳機能障害がみられる。他にも、運動失調、バランス障害も特徴的である。

選択肢1~5はいずれもびまん性軸索損傷で起こり得る。よって、本症例の「仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えているが、何から手をつければ良いのか優先順位がつけられず・・・。」といった症状と適切なものを選択する問題である。

1. ×:記憶障害とは、事故や病気の前に経験したことが思い出せなくなったり、新しい経験や情報を覚えられなくなった状態のこと。自分のしたことを忘れてしまったり、作業中に声をかけられると、何をしていたか忘れてしまう。本症例は、仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えているため、記憶障害とは考えにくい。
2. ×:コミュニケーション障害とは、なんらかの原因により人とのコミュニケーションに困りごとや苦痛が生じる障害である。 例えば、「文章を上手く繋げることが難しく感じ、会話を続けることが困難に感じる」ことや「言葉を思ったように発することができない」などが挙げられる。びまん性軸索損傷の場合は、主に性格変化が原因でコミュニケーション障害が生じやすい。
3. ×:失行症とは、指示された内容や行動の意味を理解しているにもかかわらず、その動作ができないことをいう。文脈から「何から手をつければ良いのか優先順位がつけられず」と記載されている。もし失行症でその動作ができない場合、「①道具が上手く使えない、②日常の動作がぎこちなくなる」などといった記載になる。したがって、本症例は仕事の方法は分かっているため、失行ではない。
4. ×:失認症とは、視覚、聴覚、触覚の感覚の機能には問題はないが、それが何であるかがわからないことをいう。頭頂連合野の障害では、半側空間無視・着衣失行・構成障害・身体部位失認などを生じやすく、後頭葉の障害では、物体失認・相貌失認・色彩失認・運動視障害などを生じやすい。
5. 〇:正しい。遂行機能障害が考えられる。遂行機能障害とは、物事を計画し、順序立てて実行するという一連の作業が困難になる状態である。遂行機能障害に対する介入方法としては、解決方法や計画の立て方を一緒に考える問題解決・自己教示訓練が代表的である。

間違いやすい失行の種類

観念運動失行とは、自然な運動では障害がなく、単純な動作(模倣)を指示すると運動ができない失行のことである。ジャンケンやキツネの真似が困難になる。指示がなければ出来る。優位半球の縁上回の障害で起こる。

観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉を中心とする広範囲な障害で生じる。例えば、タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。

 

 

 

 

 

 

 

12. 70歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法のステージは上肢Ⅱ、下肢Ⅲ。下肢の随意運動は共同運動がわずかに認められる程度である。歩行はT字杖にて室内は自立している。
 ADL指導で正しいのはどれか。2つ選べ。

1. ベッド上で起き上がる
2. 浴槽に入る
3. シャツを着る
4. 床から立ち上がる
5. 階段を上る

解答1,3

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(脳梗塞による右片麻痺)
・Brs上肢Ⅱ(上肢のわずかな随意運動)、下肢Ⅲ(座位、立位での股・膝・足の同時屈曲)。
・下肢の随意運動:共同運動がわずかに認められる。
・歩行:室内T字杖自立
→右片麻痺のADL指導である。間違いやすいものとして、①エスカレーターは昇降とも「健側」から。②低い障害物・溝が狭いものは「杖→患側→健側」、高い障害物・溝が広いものは「杖→健側→患側」で行う。

1. 〇:正しい。ベッド上で起き上がるのは、安定して行うため非麻痺側(左側)を下にして行う。
2. ×:浴槽に入るのは、感覚低下によるやけどなどの事故を防ぐため非麻痺側(左側)から入る。ちなみに、浴槽から出るときは麻痺側(右側)から出る。
3. 〇:正しい。シャツを着るときは、麻痺側(右側)から着る。非麻痺側(左側)からでは、洋服のたるみがなくなり着にくくなる。ちなみに脱衣は非麻痺側(左側)から行う。
4. ×:床から立ち上がるときは、安全に行うため非麻痺側(左側)を支持として行う。
5. ×:階段を上るときは、安全に行うため非麻痺側(左側)から先に上段に乗せて体を持ち上げる。ちなみに、下りる際は麻痺側(右側)から行う。

 

 

 

 

 

 

 

13. 82歳の女性。転倒して右股関節痛を訴えた。エックス線写真を別に示す。
 疑うべき疾患はどれか。

1. 股関節脱臼
2. 坐骨骨折
3. 大腿骨近位部骨折
4. 恥骨結合離開
5. 恥骨骨折

解答

解説

本症例のポイント

 エックス線で骨折を見抜くコツとして、“骨の連続性”を追っていくこと。左右差の違いなどで独自の解き方をすると、本症例のようにレントゲン撮影時に、骨盤や体幹回旋していたり、股関節回旋していると惑わされてしまうので注意が必要である(撮影時は極力そういったことがないようにしているが・・・。)とはいえ、本症例のエックス線写真から明確な骨折線は判断しにくい。受傷機転である「転倒して右股関節痛」もヒントとなる。

1. ×:股関節脱臼ではない。なぜなら、しっかり大腿骨頭が寛骨臼に入っているのが分かる。
2. ×:坐骨骨折ではない。なぜなら、坐骨に骨折線が認められないことと、痛みの部位は右股関節痛を訴えていることため。
3. 〇:正しい。大腿骨近位部骨折を疑うべきである。なぜなら、本症例は転倒し右股関節痛を訴えているため。ちなみに、大腿骨近位部骨折とは、大腿骨頭から頸部間でのことを指す。
4. ×:恥骨結合離開は、出産時に起こる恥骨結合部が離開し痛みが生じていることである。恥骨結合が6mm以上開いている場合は、恥骨結合離開と診断されるが、本症例のレントゲンの恥骨結合部はそこまでの離開は認められない。ちなみに、恥骨結合離開とは、出産時に起こる恥骨結合部が離開し痛みが生じていることである。分娩後に恥骨痛が出現し、歩行時障害が現れたら疑われる。治療として、離開の程度によるが、安静ベルトによる固定が必要になる。重いものを持ち上げたり、長時間の歩行を控えるよう指導するだけでなく、骨盤ベルトを正しく着用することが重要である。

大腿骨近位部骨折とは?

大腿骨近位部骨折は頸部骨折・転子部骨折、転子下骨折を含む総称である。高齢者など骨粗鬆症に多い骨折である。閉経後女性ホルモンなどの関係もあり女性に多くみられる。

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 60歳の男性。右利き。歩行困難のため搬送された。発症7日目の頭部MRIと頭部MRAを別に示す。

14. 閉塞している動脈はどれか。

1. 右前大脳動脈
2. 右中大脳動脈
3. 右内頚動脈
4. 右椎骨動脈
5. 脳底動脈

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の男性(右利き)
・歩行困難のため搬送。
・頭部MRI:右大脳半球に梗塞を認める(右前頭葉~頭頂葉に高信号の梗塞巣)。
・頭部MRA:右の中大脳動脈水平部以遠が描写されていない。
右中大脳動脈(MCA)領域での脳梗塞が疑われる。

1. ×:前大脳動脈は、前頭頂葉内側・頭頂葉内側の領域となる。
2. 〇:正しい。中大脳動脈は、前頭葉・頭頂葉・側頭葉の外側あたりの領域となる。
3. ×:内頚動脈の主幹部の閉塞は、側副血行路の発達や閉塞機序によって、無症状から重篤なものまで多彩な症状をきたす。内頚動脈は、前大脳動脈・中大脳動脈・レンズ核線条体動脈に分岐する。
4~5. ×:椎骨動脈~脳底動脈主幹部の完全閉塞は、重篤な症状をきたす。小脳~後頭葉・側頭葉内側までの領域を支配する血管に分岐し、完全閉塞を起こすと、回転性のめまいや、悪心・嘔吐などの症状がみられる。後大脳動脈に分岐し閉塞した場合、後頭葉・側頭葉内側領域となる。

(※図引用:慶應義塾大学医学部 解剖学教室)

 

 

 

 

 

 

次の文により14、15の問いに答えよ。
 60歳の男性。右利き。歩行困難のため搬送された。発症7日目の頭部MRIと頭部MRAを別に示す。

15. この患者に生じやすい症状はどれか。

1. 観念失行
2. 左右失認
3. 純粋失読
4. 病態失認
5. 観念運動失行

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の男性(右利き)
・歩行困難のため搬送。
・頭部MRI:右大脳半球に梗塞を認める(右前頭葉~頭頂葉に高信号の梗塞巣)。
・頭部MRA:右の中大脳動脈水平部以遠が描写されていない。
右中大脳動脈(MCA)領域での脳梗塞が疑われる。MRIから右の頭頂葉~後頭葉の外側あたりが障害されていることが分かる。患者は右利きであるため劣位半球の脳梗塞である。劣位半球の障害では、半側空間無視の他、着衣失行身体失認病態失認などがみられる。したがって、選択肢4.病態失認が正しい。病態失認とは、明らかに病的症状が認められるのに、その存在を認知しえないことを言う。患者は症状を指摘されてもこれを否認する。右大脳半球病変に伴う左片麻痺例でみられることが多く、特に急性期に出現しやすい。

1.5. ×:観念失行/観念運動失行は、優位半球(左)の頭頂葉で起こる。観念失行のほかにも観念運動失行やゲルストマン症候群が起こることを覚えておく。観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉を中心とする広範囲な障害で生じる。例えば、タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。観念運動失行とは、自然な運動では障害がなく、単純な動作(模倣)を指示すると運動ができない失行のことである。ジャンケンやキツネの真似が困難になる。指示がなければ出来る。優位半球の縁上回の障害で起こる。
2. ×:左右失認は、優位半球(左)の頭頂葉で起こる。ゲルストマン症候群の症状の一つである。ゲルストマン症候群は、手指失認、失書、左右失認、失算である。主に、左頭頂葉(角回)と後頭葉の移行部の損傷で発生するが、4症状がそろって現れることは稀で、失語症を伴う場合が多い。
3. ×:純粋失読(視覚性失読)は、優位半球(左)の後頭葉が障害されると起こる。失書を伴わない失読である。文字を指でなぞらえると読むことができ、自発書字・書取りも可能である。たいして、頭頂葉性失読は書字と読字がともに障害されている状態をいう。

 

2 COMMENTS

匿名

PTOT国家試験の54回の午前問題12番の適切なADLを指導しなさいという問題ですが、4番が×の理由って下肢のBRSがⅢで随意性もわずかにしかないため、立ち上がりを支えるには不十分な回復段階だからではないでしょうか?
解説の通りに非麻痺肢を図の通りにすること自体が難しいように感じますし、支持規定面も狭くなるので危険性が上がるような気がします。
学生の意見なので間違っているかもしれませんが、、、。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
第54回午前12問目選択肢4の理由ですね。
私も考えてみましたが、コメント投稿者様の言う通り、理由は様々あると思います。
「右下肢のBRSがⅢで随意性もわずか」ですから、図のように右下肢(麻痺側)を支持して立ち上がるのは困難と考えます。もし床上動作を指導するなら、左下肢(非麻痺側)を支持した片膝立ち位を経由する方が正しいかと。(台を用いてもよいでしょう)。つまり、コメント投稿者様の言う通り、立ち上がりを支えるには不十分な回復段階だからではないということです。
もちろん、右下肢(麻痺側)を支持した姿勢(選択肢4)の姿勢にまず慣れないこと・転倒の危険性が高いからという理由でもいいと思います。繰り返しになりますが、選択肢4に限って言えば、不適切な理由はいくつもあり、まず選択から除外される選択肢といえるでしょう。

コメント投稿者様の意見と違うところは、「非麻痺肢を図の通りにすること自体が難しいように感じますし、支持規定面も狭くなるので危険性が上がるような気がします。」という部分です。となれば、下肢のBRSⅢ以上の麻痺は、床上動作練習は行わないということでしょうか?行うのであればどのような方法を取りますか?よろしくお願いいたします。

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