第53回(H30) 作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

 

16 67歳の女性。認知症。2年前ごろから身だしなみに気を遣わずに出かけるようになった。次第に同じ食事メニューを繰り返し作る、日常生活で会話の言葉をオウム返しにする、買い物をしても代金を払わず、とがめられても気にしないといったことが多くなったため、家族に付き添われて精神科を受診し入院した。作業療法が開始された。
 この患者に見られる特徴はどれか。

1.転倒しやすい。
2.情動失禁がみられる。
3.手続き記憶が損なわれる。
4.時刻表的生活パターンが見られる。
5.「部屋にヘビがいる」といった言動がある。

解答4

解説

本症例のポイント

・67歳の女性(認知症)
【2年前から】
身だしなみに気を遣わずに出かける。
次第に同じ食事メニューを繰り返し作る、日常生活で会話の言葉をオウム返しにする(常同行動)
買い物をしても代金を払わず、とがめられても気にしないといったことが多くなった(反社会的行動)
→本症例は、前頭側頭型認知症が疑われる。前頭側頭型認知症(Pick病)とは、病理所見として、前頭葉と側頭葉が特異的に萎縮する特徴を持つ認知症である。脳血流量の低下や脳萎縮により人格変化、精神荒廃が生じ、植物状態におちいることがあり、2~8年で衰弱して死亡することが多い。発症年齢が50~60代と比較的若く、初発症状は人格障害・情緒障害などがみられるが、病期前半でも記憶障害・見当識障害はほとんどみられない。働き盛りの年代で発症することが多いことで、患者さんご本人が「自分は病気である」という自覚がないことが多い。その後、症状が進行するにつれ、性的逸脱行為(見知らぬ異性に道で抱きつくなどの抑制のきかない反社会的な行動)、滞続言語(何を聞いても自分の名前や生年月日など同じ語句を答える)、食行動の異常(毎日同じものを食べ続ける常同行動)などがみられる。治療は、症状を改善したり、進行を防いだりする有効な治療方法はなく、抗精神病薬を処方する対症療法が主に行われている。(参考:「前頭側頭型認知症」健康長寿ネット様HPより)

1.5.× 転倒しやすい/「部屋にヘビがいる」といった言動がある(幻視)のは、Lewy小体型認知症である。Lewy小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動異自律神経障害などが特徴である。
2.× 情動失禁は、脳血管性認知症で特徴的である。血管性認知症は、脳細胞の死滅によって起こる認知症であり、その部位や範囲によって症状は様々である。他の症状として、巣症状(失語、失行、失認など脳の局所性病変によって起こる機能障害)や階段状に認知障害が進行することが特徴である。
3.× 手続き記憶が損なわれるのは、Alzheimer型認知症などで特徴的である。前頭側頭型認知症では、初期では記憶や日常生活動作の障害は目立たない。
4.〇 正しい。時刻表的生活パターンが見られる(常同行動)のは前頭側頭型認知症の特徴である。

Alzheimer型認知症とは?

Alzheimer型認知症は、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。

 

 

 

 

 

 

17 28歳の女性。産後うつ病。育児休暇中である。元来、何事にも手を抜けない性格。出産から4ヶ月経過した頃から、子供の成長が気になり始め、夫に不安をぶつけようになった。次第に「母親失格」と言ってはふさぎ込むようになったため、夫に連れられて精神科を受診し入院となった。1ヵ月半後、個別的作業療法が開始となったが、手芸中に「わたしは怠け者」とつぶやく様子がみられた。
 この患者に対する作業療法士の対応として適切なのはどれか。

1.日記を取り入れる。
2.育児の振り返りを行う。
3.患者の不安な気持ちに寄り添う。
4.家族の育児への協力方法について話し合う。
5.性格による自己否定的考えについて話し合う。

解答3

解説

本症例のポイント

・28歳の女性(産後うつ病、育児休暇中)
・元来、何事にも手を抜けない性格。
・出産から4ヶ月経過した頃:育児に関して夫に不安をぶつけようになる。
・次第に「母親失格」と言ってはふさぎ込むようになった。
・1ヵ月半後:作業療法が開始、手芸中に「わたしは怠け者」とつぶやく様子がみられた。
→産後うつ病とは、産褥婦の約3%にみられ、産褥1か月以内に発症することが多い。強い抑うつ症状を呈し、育児にも障害が出る。産後うつ病の患者への適切な対応が大切である。本症例は、作業療法中に「わたしは怠け者」とつぶやく様子がみられていることから、「回復期前期」であると考えられる。抑うつ状態の患者に対し、まずは患者の不安に寄り添い共感的態度をとることが基本である。

1.× 日記を取り入れることは時期尚早であり、これは回復後期に行う。日記を取り入れることで、過去の振り返りができ、ストレス対処法を学べたり具体的な生活課題に取り組むことができる。
2.× 育児の振り返りを行うことは時期尚早であり、これは回復後期に行う。現在、育児の振り返りを行うと、より育児に関して「わたしは怠け者」などネガティブになりかねない。まずは、「~したい」を大切に、ゆったり・楽しさを実感できる作業療法を選択する。
3.〇 正しい。患者の不安な気持ちに寄り添う。本症例は、作業療法中に「わたしは怠け者」とつぶやく様子がみられていることから、「回復期前期」であると考えられる。抑うつ状態の患者に対し、まずは患者の不安に寄り添い共感的態度をとることが基本である。
4.× 家族の育児への協力方法について話し合う必要はない。なぜなら、設問から本症例は、「子供の成長が気になり始め、夫に不安をぶつけようになった」と記載されている。解決すべき課題は「家族の育児への協力方法」ではなく「子供の成長が気になり始めたこと」もしくは「夫に不安をぶつけたときの夫の対応」などである。したがって、家族の育児への協力方法について話し合ったとしても直接的解決には至らないと考えられる。
5.× 性格による自己否定的考えについて話し合う必要はない。なぜなら、設問から本症例は「元来、何事にも手を抜けない性格」であり、現在「わたしは怠け者」と自己否定的考えになっている原因は、「産後うつ病」によるため。話し合ったところで直接的解決には至らない。

 

 

 

 

 

 

18 29歳の女性。歩行困難を主訴に整形外科外来を受診したが器質的問題が認められなかったため、紹介によって精神科外来を受診し入院することとなった。手足が震え、軽い麻痺のような脱力があり、自立歩行ができないため車椅子を使用している。立位保持や移乗に介助を必要とし、ADLはほぼ全介助である。
 この時点の患者に対する作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.自己洞察を促す。
2.自己表現の機会を増やす。
3.集団活動で役割を担わせる。
4.自己中心的な依存は受け入れない。
5.身体機能に対する治療的な介入を行う。

解答2/5

解説

本症例のポイント

・29歳の女性。
・歩行困難を主訴に整形外科外来を受診したが器質的問題が認められなかった。
・精神科外来を受診、入院。
・手足が震え、軽い麻痺のような脱力があり、自立歩行ができないため車椅子を使用している。
・立位保持や移乗に介助を必要とし、ADLはほぼ全介助である。
→本症例は、ストレスに関する記載はないが、転換性障害が考えられる。転換性障害は、欲求不満が身体症状に転換された病気のことである。症状として、①運動症状(失立失歩、失声、痙攣、チック)、②感覚症状(らせん状視野狭窄、知覚障害)、③嘔吐などがみられる。また、転換性障害として歩行障害(失立失歩)がみられることは多いが、転倒や怪我をすることはまれである。しかし、そのまま歩行せず足を使わなければ、廃用性機能障害になってしまうため、作業療法ではその予防が重要となる。まずは身体的対応を行うが、徐々に自分の感情を症状で表すのではなく、言語化できるように促していく。

1.× 自己洞察を促す優先度は低い。自己洞察とは、”自分自身の体調、心の状態をどれだけ分かるか”で自分の性格や思考、感情傾向、など、自分についての洞察(自分の心、体の状態を把握する)を得ることをいう。洞察ではなく言語的な自己表現を促す。
2.〇 正しい。自己表現の機会を増やす。自分の気持ちや直面している困難を意識化し、言語的に表現できるように促す。
3.× 集団活動で役割を担わせるのは時期尚早である。まずは個別に対応する必要がある。集団活動は、精神遅滞の患者に対して行う。なぜなら、精神遅滞の患者は、対人交流が苦手であるため。集団活動によって対人交流の機会を増やし、円滑な対人関係を築けるよう訓練する。
4.× 自己中心的な依存は「受け入れない」のではなく、一般的な共感傾聴い行い普通な対応で接する。転換性障害の性格傾向に、依存性が強い、自己中心的、社会性が未熟である傾向が多い。これらの性格傾向から、周囲の関心を引くような誇張的・演技的態度をとることもある。ただ、患者の訴えに対しては真剣に耳を傾け、大げさであっても「受け入れない」といった態度ではなく、普通な対応で接することが大切である。
5.〇 正しい。身体機能に対する治療的な介入を行う。まずは身体的対応を行うが、徐々に自分の感情を症状で表すのではなく、言語化できるように促していく。

 

 

 

 

一休みに・・・。

 

 

 

 

19 26歳の女性。衝動的な浪費や奔放な異性交遊のあとに抑うつ状態となり、リストカットを繰り返していた。常に感情が不安定で、空虚感や見捨てられることへの不安を訴える。職場での対人関係の悪化をきっかけに自殺企図が認められたため入院となった。
 この患者に対する作業療法で適切なのはどれか。

1.患者の申し出に応じて面接を行う。
2.初回面接で自殺企図について話し合う。
3.攻撃性がみられた場合には治療者を替える。
4.患者の希望にあわせてプログラムを変更する。
5.治療目標や治療上の契約を繰り返し確認する。

解答5

解説

本症例のポイント

・26歳の女性。
・衝動的な浪費や奔放な異性交遊のあとに抑うつ状態となり、リストカットを繰り返していた。
・常に感情が不安定で、空虚感や見捨てられることへの不安を訴える。
・職場での対人関係の悪化をきっかけに自殺企図が認められたため入院となった。
→本症例は、境界性パーソナリティ障害が疑われる。境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つ。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他社との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。【関わり方】患者が周囲の人を巻き込まないようにするための明確な態度をとる姿勢が重要で、また患者の自傷行為の背景を知るための面接が必要である。

1.4.× 患者の申し出に応じて面接を行う/患者の希望にあわせてプログラムを変更することの優先度は低い。なぜなら、枠組みを超える要求に対して応じてしまうと、さらに要求がエスカレートし歯止めが利かなくなってしまうため。
2.× 初回面接で自殺企図について話し合うのは時期尚早である。治療者との信頼関係ができてから話し合うのが適切である。
3.× 攻撃性がみられた場合でも治療者を替える必要はない。境界性パーソナリティ障害は、衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。治療者に対しても同様で、理想化とこき下ろしの極端な態度をとることが多い。ただし、担当を変更すると、見捨てられ不安を助長する恐れもあるため、関係の恒常性を維持するようにする。
5.〇 正しい。治療目標や治療上の契約を繰り返し確認する。なぜなら、治療の枠組みを作り、遵守を促すことが重要であるため。

 

 

 

 

 

 

20 52歳の男性。統合失調症で精神科入院歴があるが、この9年間は治療中断しており、時々幻聴に影響された言動がみられる。医師の往診のあと、なんとか本人の同意を得て訪問支援開始となった。初回訪問時、居間で20分ほど落ち着いて話ができる状況である。
 初期の訪問において、作業療法士が最も留意すべきなのはどれか。

1.服薬勧奨を積極的に行う。
2.1日に複数回の訪問を行う。
3.身の回りの整理整頓を促す。
4.毎回違うスタッフが訪問する。
5.本人の興味や関心事を把握する。

解答5

解説

本症例のポイント

・52歳の男性(統合失調症)
・9年間:治療中断、時々幻聴に影響された言動あり。
・医師の往診のあと、訪問支援開始となった。
・初回訪問時、居間で20分ほど落ち着いて話ができる状況である。
→本症例は、「維持期から急性期への移行期」の統合失調症患者である。急性期の症状である「幻聴」も見られていることから、治療中断しないようまず治療関係を形成して継続的な医療につなげるよう関わることが重要である。

1.× 服薬勧奨を積極的に行う優先度は低い。設問には「治療中断している」ことは記載されていたが、「服薬を中断している」とまでは記載されておらず、服薬勧奨すべきかは断定できない。初期の訪問において、まず服薬できているか?を評価する必要がある。
2.× 1日に複数回の訪問を行う優先度は低い。なぜなら、幻聴はあるが比較的落ち着いており、1日複数回来られると精神的負担やストレスが大きいと考えられるため。初期の訪問において、「1日に複数回の訪問を行える」と判断できる材料がなく、基本的に多くても関係性を作るためにも症状の負担を考え1日1回までのほうが良い。
3.× 身の回りの整理整頓を促す優先度は低い。なぜなら、設問から「身の回りのこと」の記載はされていないため。初期の訪問において、「身の回りの整理整頓ができていない」と勝手に判断せず、評価して助言へと移す必要がある。
4.× 毎回「違うスタッフ」ではなく同じスタッフが訪問する。なぜなら、対人刺激は最小限に設定すべきであるため。
5.〇 正しい。本人の興味や関心事を把握する。本症例は、「維持期から急性期への移行期」の統合失調症患者である。急性期の症状である「幻聴」も見られていることから、治療中断しないようまず治療関係を形成して継続的な医療につなげるよう関わることが重要である。まずは、本人の興味や関心事を把握し、それらをきっかけに治療関係を築くことから始める。

”統合失調症とは?”
統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。
(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)

 

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