第53回(H30)理学療法士 国家試験解説【午後問題11~15】

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11.52歳の男性。2型糖尿病。足のしびれと血糖値の上昇のため入院となった。検査結果では空腹時血糖305mg/dL、尿検査でケトン体陽性であった。虚血性心疾患と腎機能障害は認めない。
 この患者への対応で正しいのはどれか。

1.安静臥床とする。
2.1日200kcalを消費させる運動を行う。
3.1RMの80 %で下肢の筋力増強運動を行う。
4.病棟内歩行などの軽度な負荷にとどめる。
5.目標心拍数115/分で有酸素運動を20分間行う。

解答:4

解説

本症例のポイント

・52歳の男性(2型糖尿病
・足のしびれと血糖値の上昇のため入院。
・検査結果:空腹時血糖305mg/dL、尿検査でケトン体陽性。
・虚血性心疾患と腎機能障害は認めない。
→空腹時血糖値が250㎎/dl以上ある場合は、運動療法は禁忌である。本症例の空腹時血糖は305mg/dL、尿検査でケトン体陽性であることからケトアシドーシスを呈していると考えられる。歩行程度は軽度の負荷であるため行えるが、積極的な運動療法は禁忌である。

1.× 安静臥床(安静を保ちながらベッド上に寝ていること)に留めておく必要はない。むしろ、深部静脈血栓症や廃用症候群に陥りやすいため行わない方が良い。ただし、運動療法は禁忌である。
2~3.5.× 1日200kcalを消費させる運動を行う。1RMの80 %で下肢の筋力増強運動を行う。目標心拍数115/分で有酸素運動を20分間行うレベルの運動療法は禁忌である。なぜなら、本症例はケトアシドーシスを呈しているため。ただし、運動療法が行えるようになった場合は、1日200kcalを消費させる運動は行うことができる。
4.〇 正しい。病棟内歩行などの軽度な負荷にとどめる。病棟内のトイレへの移動や食堂への行き来程度は行う。ただし、心配であれば必ず主治医と連携を取り許可をもらうように努める。

2型糖尿病の理学療法

 1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。

①末梢組織のインスリン感受性の改善(ぶどう糖の利用を増加させる)
②筋量増加、体脂肪・血中の中性脂肪の減少。(HDLは増加する)
③摂取エネルギーの抑制、消費エネルギーの増加。
④運動耐容能の増強。

【糖尿病患者に対する運動療法】
運動強度:一般的に最大酸素摂取量の40~60%(無酸素性代謝閾値前後)、ボルグスケールで『楽である』〜『ややきつい』
実施時間:食後1〜2時間
運動時間:1日20〜30分(週3回以上)
消費カロリー:1日80〜200kcal
運動の種類:有酸素運動、レジスタンス運動(※対象者にあったものを選択するのがよいが、歩行が最も簡便。)

【運動療法の絶対的禁忌】
・眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症。
・レーザー光凝固後3~6カ月以内の網膜症。
・顕性腎症後期以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)。
・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合。
・高度の糖尿病自律神経障害がある場合。
・1型糖尿病でケトーシスがある場合。
・代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)。
・急性感染症を発症している場合。
(※参考:「糖尿病患者さんの運動指導の実際」糖尿病ネットワーク様HPより)

 

 

 

 

 

 

12.50歳の男性。1か月前から腰痛と右殿部痛が生じ、徐々に右下肢の疼痛が増悪してきた。腰部MRIを示す。
 この病態で陽性になるのはどれか。

1.Apley test
2.Lasegue test
3.Lachman test
4.Thompson test
5.McMurray test

解答:2

解説

本症例のポイント

・50歳の男性
・1か月前:腰痛と右殿部痛が生じ、徐々に右下肢の疼痛が増悪してきた。
・腰部MRI:L5・S1間の椎間板の突出が認める。
→本症例は、椎間板ヘルニアが疑われる。椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

1.× Apley test(アプレーテスト)は、半月板損傷のテストである。腹臥位、検査肢の膝関節を90°屈曲位で、圧迫を加えながら下腿を内外旋するテストである。
2.〇 正しい。Lasegue test(ラセーグテスト)は、椎間板ヘルニア、脊椎すべり症、横靭帯肥厚、脊柱管狭窄症など神経根障害を検査する。背臥位で下肢を伸展したまま持ち上げると70°に達するまでに下肢に疼痛を訴え、それ以上の挙上が不可となるものを陽性とする。
3.× Lachman test(ラックマンテスト:前方引き出しテスト)は、前十字靭帯損傷のテストである。背臥位で大腿骨を固定して、脛骨を前方に引き出す。
4.× Thompson test(トンプソンテスト)は、アキレス腱断裂のテストである。腹臥位で膝屈曲位にて下腿三頭筋を把持した際の足部の様子を観察するテストである。反射的に足部が底屈すれば正常(陰性)であり、底屈せずアキレス腱が断裂していた場合(陽性)である。
5.× McMurray test(マックマリーテスト)は、半月板損傷のテストである。①背臥位で膝を完全に屈曲させ片手で踵部を保持する。②下腿を外旋させながら膝を伸展させたときに痛みやクリックを感じれば内側半月の損傷、下腿を内旋させながら膝を伸展させたときに生じるならば外側半月の損傷を示唆する。

 

 

 

 

 

13.25歳の男性。野球の試合で走塁中に大腿後面に違和感と痛みが生じた。直後に整形外科を受診したところ、大腿部エックス線写真では骨折を認めなかった。
 この時点での物理療法で適切なのはどれか。

1.交代浴
2.極超短波
3.アイシング
4.ホットパック
5.パラフイン浴

解答:3

解説

本症例のポイント

・25歳の男性。
・野球の試合で走塁中に大腿後面に違和感と痛みが生じた。
・直後に整形外科を受診したところ、大腿部エックス線写真では骨折を認めなかった。
→本症例は、エックス線写真上で骨折はないことから、筋・腱など軟部組織の損傷と推察される。筋や腱の受傷直後の対応は、RICE処置を行う。RICE処置とは、①安静(Rest)、②冷却(Ice)、③圧迫(Compression)、③挙上(Elevation)することで、これらの頭文字をとったものである。

1.× 交代浴は、末梢循環を改善させることが目的である。温水と冷水に交互に患部をさらし、自律神経を整える物理療法である。
2.4.5.× 極超短波/ホットパック/パラフイン浴などの温熱療法は、急性炎症時には禁忌である。ちなみに、温熱療法の禁忌は、①急性炎症、②悪性腫瘍、③感覚障害と意識障害、④出血傾向、⑤循環障害・動脈硬化などである。
3.〇 正しい。アイシングは、RICE処置の「I」であり、急性炎症に対する処置である。

 

 

 

 

 

 

14.身体計測の結果を図に示す。
 厚さ3cmのクッションを用いる場合の車椅子の基本寸法で正しいのはどれか。(不適切問題:解2つ)

1.背もたれ高:45cm
2.肘掛けの高さ:23cm
3.シート長(座長):43 cm
4.膝窩からフットプレート:38 cm
5.座幅:40 cm

解答:2/5(両方正解)

解説

本問題は、厚さ3cmのクッションを用いるため、基本寸法にクッションの厚さを考慮することが重要である。

1.×:背もたれの高さは、『腋窩高(42cm)- 5~10cm』である。したがって、32~37cmとなり、クッションの厚さ(2~3cm)を考慮すると、35~40cmが正しい。
2.〇:正しい。肘掛けの高さは、23cmで正しい。肘掛けの高さは『肘を90°に曲げたときの高さ(18cm) + 2cm』である。そこらから、クッションの厚さ(2~3cm)を考慮すると、23cmとなる。
3.×:シート長(座長)は、『座底長(40cm) - 2.5~5cm』である。約35~37.5cmが正しい。
4.×:段差にぶつからないよう、フットレストの床面からのクリアランスは5cm以上離す。つまり、約33cmとなる。
5.〇:正しい。座幅は、40 cmである。座幅は、『殿幅(35cm) + ゆとり2~5cm』である。

 

 

 

 

 

 

15.58歳の女性。5年前に子宮頸癌の手術を行った。2年前から右下肢にリンパ浮腫が出現し、弾性ストッキングを着用していた。1年前から安静臥位で右下肢を挙上しても浮腫が改善せず、皮膚が固くなり非圧窩性浮腫が認められたため、週1回外来で理学療法を実施していた。2日前に蜂窩織炎を発症し、現在、薬物療法中である。
 対応として適切なのはどれか。

1.患部の冷却
2.スキンケア休止
3.圧迫下での下肢運動
4.用手的リンパドレナージ
5.経皮的電気刺激療法<TENS>

解答:1

解説

MEMO

・58歳の女性(5年前:子宮頸癌の手術)
・2年前:右下肢にリンパ浮腫が出現し、弾性ストッキングを着用。
・1年前:安静臥位で右下肢を挙上しても浮腫が改善せず、皮膚が固くなり非圧窩性浮腫が認められた。
・2日前:蜂窩織炎を発症。
・現在:薬物療法中。
→本症例は、2日前に蜂窩織炎を発症し、現在、薬物療法中であるため、まだ炎症中であると考えられる。蜂窩織炎とは、皮膚とその下にある皮下脂肪にかけて、細菌が入り込んで、感染する皮膚の感染症である。スキンケアが重要である。また、浮腫が出現した時の対処として、①スキンケア、②マッサージによるリンパドレナージ、③圧迫療法、④浮腫減退運動療法を総合的に行う。

1.〇 正しい。患部の冷却は有効である。なぜなら、蜂窩織炎が発症しているため。
2.× スキンケアの「休止」ではなく欠かさず行う。なぜなら、非圧窩性浮腫、蜂窩織炎を認めるため。
3~4.× 圧迫下での下肢運動/用手的リンパドレナージは、圧迫下では効果が薄く、また蜂窩織炎の炎症中に、運動を行うのは控える。蜂窩織炎が存在する状態では、患肢を高くして安静(RICE処置)にする。
5.× 経皮的電気刺激療法<TENS>は当てはまらない。なぜなら、経皮的電気刺激療法<TENS>の適応は、慢性腰痛、変形性関節症、関節リウマチ、脊髄損傷後の慢性痛、切断による幻肢痛など、治療目的は鎮痛であるため。

 

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