第52回(H29) 作業療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

 

16 55歳の男性。アルコール依存症に肝機能障害を合併。仕事上のトラブルから連続飲酒状態となり入院治療に至った。退院後、依存症専門デイケアを利用することになったが、少し位なら飲んでも大丈夫と思っている様子であった。妻同伴で担当作業療法士と面接を行った際に再発予防のための助言を受けることとなった。
 作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。

1. 断酒の意志の弱さを患者に指摘する。
2. 飲みたい場合は少量にとどめるよう患者に勧める。
3. 患者の飲酒状況を把握してもらうよう妻に依頼する。
4. 体力回復を促すため患者の食事管理を妻に依頼する。
5. Alcoholics Anonymous(A. A.)への参加を患者に勧める。

解答5

解説

本症例のポイント

・55歳の男性(アルコール依存症、肝機能障害)
・入院理由:仕事上のトラブルから連続飲酒状態となった。
・退院後:少し位なら飲んでも大丈夫と思っている様子であった。
→アルコール依存症の治療で最も重要なことは、目指すところは節酒ではなく断酒ある。患者が断酒し、社会復帰できるような作業療法を行っていく。

1.× 断酒の意志の弱さを患者に指摘する必要はない。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。自分の意志だけでは断酒できないことを認められるように支援することが重要である。
2.× 飲みたい場合は「少量にとどめるよう(節酒)」患者に勧める必要はない。なぜなら、目指すところは節酒ではなく断酒であるため。
3~4.× 患者の飲酒状況を把握/体力回復を促すため患者の食事管理を「」に依頼する必要はない。治療後期では家族関係の回復があげられるが、安易に「妻に依頼する」と、共依存を助長しかねない。妻が、イネイブラー(enabler)になりかねず、自分自身の課題として取り組む必要がある。共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態を指す。依存症・アディクション(嗜癖:しへき)は、「身体的・精神的・社会的に、自分の不利益や不都合となっているにもかかわらず、それをやめられずに反復し続けている状態」である。イネイブラー(enabler)とは、嗜癖その他の問題行動を陰で助長している身近な人のことを指す。「世話焼き人」などと訳されることが多い。
5.〇 正しい。Alcoholics Anonymous(A. A.)への参加を患者に勧める。Alcoholics Anonymous(A.A.)とは、アルコール依存症の世界的な自助グループである。アルコール依存症の患者は、単独で断酒することが難しく、自助グループへの参加や集団との関わりにより再発を防止できる。メンバーが共通の話題や目標をもち、互いに支え合うことで問題に向かうことができる。

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

アルコール依存症の治療

 アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。

 

 

 

 

 

 

17 17歳の女子。高校2年生。高校入学時、身長158cm、体重55kgであったが、同級生に「太っている」と言われ、食事を制限して半年間に12kgやせた。高校1年の秋ごろから月経が不順になり、半年前から無月経となった。このため無月経と体重減少とを主訴に入院治療が開始されたが各種検査を受けることに抵抗感が強い。母親は「もともと太ってなどいなかったと説得して欲しい」と希望する。
 作業療法士の患者に対する治療的態度として適切なのはどれか。2つ選べ。

1. 心理的な問題には触れない。
2. 食事については、本人の判断に任せる。
3. 受容的態度で、健康状態についての本人の考え方を尋ねる。
4. 母親の希望を受け入れて元の体重でも肥満でなかったことを説明する。
5. 全身的な健康状態を確認する必要性を伝え、臨床検査を受けることを勧める。

解答3/5

解説

本症例のポイント

・17歳の女子(高校2年生)
・高校入学時:身長158cm、体重55kg(半年後:12kgの減量)
・高校1年の秋ごろ:月経が不順
・半年前:無月経
・各種検査を受けることに抵抗感が強い。
→本症例は、思春期における摂食障害(神経性無食症)が疑われる。まず治療関係づくりを重視する。本人が受け入れやすい内容から話題にして治療の進展を図り、心理的な問題にも触れていく。

1.× 心理的な問題には「触れない」のではなく触れる。なぜなら、摂食障害の発症には心理的背景も関わっているため。本症例も同級生に「太っている」と言われたことから始まっている。
2.× 食事については、「本人の判断に任せる」のではなく本人はなるべく考えないように対応する。食べ物以外へ関心を向けることは作業療法のポイントである。また、生命の危機にもつながるため、食事への介入は必要である。
3.〇 正しい。受容的態度で、健康状態についての本人の考え方を尋ねる。なぜなら、摂食障害の患者は、自身の不健康の状態を重要視しない傾向があるため。受容とは、ありのままを受け入れることである。ありのままの自分を受容してもらえると、人は自己に対する価値や信頼感を取り戻すことができる。
4.× 母親の希望を受け入れて元の体重でも肥満でなかったことを「説明する」必要はない。なぜなら、性格的特徴として、強情負けず嫌いがあげられる。今回、本症例は、母親から意見には聞く耳を持たず同級生に「太っている」と言われたことから始まっている。したがって、入院したばかりの本症例にはボディイメージのゆがみが修正されておらず、「肥満ではない」と他人から説明されても納得しない可能性が高い。
5.〇 正しい。全身的な健康状態を確認する必要性を伝え臨床検査を受けることを勧める。本症例は、無月経と体重減少がみられている。全身の健康状態に懸念があることを伝え、臨床検査の必要性を理解してもらう。

摂食障害とは?

摂食障害には、①神経性無食症、②神経性大食症がある。共通して肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤の使用抑うつの症状がみられる。作業療法場面での特徴として、過活動、強迫的なこだわり、抑うつ、対人交流の希薄さ、表面的な対応がみられる。患者の性格として、細かい数値へのこだわり(①体重のグラム単位での増減、②この食べ物はあの食べ物より〇カロリー多いなど)がみられる。

【摂食障害の作業療法のポイント】
①ストレス解消、②食べ物以外へ関心を向ける、③自身の回復(自己表出、他者からの共感、自己管理)、④過度の活動をさせない、⑤身体症状、行動化に注意する。

【性格的特徴】
①強情、②負けず嫌い、③執着心が強い、③極端な行動に及びやすい。

 

 

 

 

一休みに・・・。

 

 

 

 

 

18 8歳の男児。小児自閉症と診断されている。言語発達の遅れがみられ、軽度の精神遅滞を合併している。小学校に入学した後、「先生が何を言っているか分からない」と訴えた。保護者も強く希望し、特別支援学校に転校した。
 この児とのコミュニケーションにおいて、作業療法士が最も留意すべきなのはどれか。

1. 一度に複数の指示をする。
2. 絵やカードを豊富に使い指示をする。
3. 言葉より表情の変化で意図を伝える。
4. 不適切な行動は時間をおいてから指摘する。
5. 個別にではなく集団の一員として声をかける。

解答2

解説

本症例のポイント

・8歳の男児(小児自閉症)
・合併:言語発達の遅れ、軽度の精神遅滞。
・小学校入学後:「先生が何を言っているか分からない」と訴えた。
・保護者も強く希望し、特別支援学校に転校した。
→自閉症(小児自閉症障害)は、対人関係を築けない、活動や興味の極端な限定がみられる、男児に多いなどのAsperger症候群に類似した特徴を持つが、言語発達の遅れ、知能低下がみられる点でAsperger症候群区別される。

1.× 「一度に複数」ではなく「一度に1つずつ」指示をする。なぜなら、小児自閉症患者は、一度に複数の情報を処理することが苦手であるため。
2.〇 正しい。カードを豊富に使い指示をする。なぜなら、小児自閉症患者は、聴覚(言葉で指示をする)よりも視覚に訴えた方が、指示が伝わりやすいため。
3.× 逆である。「表情の変化」より「言葉」で意図を伝える。なぜなら、小児自閉症患者は、表情を読み取ることは苦手なため。明確に言葉で意図を伝える必要がある。ただし、本症例は小学校入学後、「先生が何を言っているか分からない」と訴えているため、簡単な分かりやすい言葉で伝える必要がある。
4.× 不適切な行動を「時間をおいてから指摘」ではなく直後に指摘する。なぜなら、小児自閉症患者は、時間を置くと何を指摘されているのかわからなくなってしまうため。不適切な行動は、その場で指摘をして、本人が受け入れやすいようなより適切な行動を指示する。
5.× 逆である。「集団の一員」にではなく「個別」として声をかけるのは不適切である。なぜなら、小児自閉症患者は、集団の一員として声をかけられても、自分がその対象となっていることの理解が難しいため。個別の声掛けが必要である。

 

 

 

 

 

 

19 79歳の女性。Alzheimer型認知症。趣味の詩吟や洋裁をして過ごしていたが、75歳ごろから物忘れが目立ち始めた。最近、夫が入院して独居となったが、洋裁や家事ができなくなり自信を喪失して介護老人保健施設に入所となった。HDS-R10点で、日付、減算、遅延再生および野菜の想起に失点を認めた。問題行動は特に認めない。
 この患者に対する自己効力感の向上を目的とした作業療法導入時の作業として適切なのはどれか。

1. 詩吟
2. 洋裁
3. 計算ドリル
4. 献立づくり
5. 立体パズル

解答1

解説

本症例のポイント

・79歳の女性(Alzheimer型認知症)
趣味の詩吟や洋裁をして過ごしていた
・75歳ごろ:物忘れが目立ち始めた。
・最近:夫が入院して独居となったが、洋裁や家事ができなくなり自信を喪失して介護老人保健施設に入所となった。
・HDS-R:10点(日付、減算、遅延再生および野菜の想起に失点)
・問題行動は特に認めない。
→この患者に対する自己効力感の向上を目的とした作業療法導入時の作業を選択する問題である。自己効力感(セルフ・エフィカシー:self efficacy)とは、「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること」である。 カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した。

1.〇 正しい。詩吟は、この患者に対する自己効力感の向上を目的とした作業療法導入時の作業として適切である。なぜなら、患者の昔ながらの趣味の一つで現在も苦手意識を持っていないため。また、座位で疲労が少なく実施可能である。
2.× 洋裁は優先度が低い。患者の昔ながらの趣味の一つであるが、問題文から、「洋裁や家事ができなくなり自信を喪失して介護老人保健施設に入所となった。」という経緯がある。そのため、洋裁をすることでかえってできていた昔と比較し自信を失い、自己効力感は得られない可能性が高い。
3.× 計算ドリルは優先度が低い。なぜなら、HDS-Rにて減算に失点が認められるため。能力を上回る活動である計算ドリルを行うことで、うまくできず自信を失い、自己効力感は得られない可能性が高い。
4.× 献立づくりは優先度が低い。なぜなら、問題文から「洋裁や家事ができなくなり自信を喪失して介護老人保健施設に入所となった。」という経緯があるため。かえって自信を失い、自己効力感は得られない可能性が高い。
5.× 立体パズルは優先度が低い。作業療法導入時の作業として、患者が継続して参加できるような種目(馴染みのある種目)を用意する必要がある。設問文には立体パズルの記載はなく、HDS-R:10点の本症例には戸惑いが生まれる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

20 19歳の男性。統合失調症。幻覚妄想がみられ、両親に付き添われて精神科病院を受診した。病識は曖昧であったが、外来医師と両親の説得で本人が入院に同意した。入院2日目の夜になって「こんなところにいては、お前はダメになる。薬を飲むと頭が変になってしまうぞという声が聞こえる。一刻も早く退院したい。入院時の同意は取り下げる」と強く訴え興奮したため、精神保健指定医の判断によって、両親の同意の下、非自発的な入院形態に変更された。
 この患者の変更後の入院形態はどれか。

1. 医療保護入院
2. 応急入院
3. 緊急措置入院
4. 措置入院
5. 任意入院

解答1

解説

本症例のポイント

・19歳の男性(統合失調症
・最初の入院:外来医師と両親の説得で本人が入院に同意した(任意入院)。
・入院2日目夜:「こんなところにいては、お前はダメになる。薬を飲むと頭が変になってしまうぞという声が聞こえる。一刻も早く退院したい。入院時の同意は取り下げる」と強く訴え興奮した。
精神保健指定医の判断によって、両親の同意の下、非自発的な入院形態に変更された。
→任意入院中に、精神保健指定医の判断によって、両親の同意の入院となっている。

1.〇 正しい。医療保護入院とは、入院を必要とする精神障害者で、本人の同意がなくても、精神保健指定医の診察および家族等の同意があれば入院させることができる制度である。退院は、精神科病院の管理者の判断と、家族等の同意により決められる。なお、医療保護入院は、1名の家族等に相当する者の同意があれば可能である。だが、本症例の場合、患者は未成年であるので、原則として両親双方の同意が必要である。
2.× 応急入院とは、精神障害者に対し、急を要するが家族等からも本人からも同意が得られない場合に、72時間以内に限り入院させることができる制度である。
3.× 緊急措置入院とは、措置入院(自傷他害のおそれのある患者に対して、2名の精神保健指定医が入院の必要性を認めた場合に入院させることができる制度)に該当する症例ではあるが、急速を要し、2名の精神保健指定医の診察ができない場合に1名の指定医の診察で、72時間以内のも措置入院ができる制度である。72時間以内にあらためて2名の指定医による診察が必要である。
4.× 措置入院とは、自傷他害のおそれのある患者に対して、2名の精神保健指定医が入院の必要性を認めた場合に入院させることができる制度である。都道府県知事または政令指定都市の市長の命令による。患者本人の同意は、必ずしも必要としないが、精神保健指定医の診察は2人以上の診察が必要である。また、国立・都道府県立精神科病院または指定病院に限り、入院権限は都道府県知事にある。
5.× 任意入院は、本人の同意に基づく入院である。本人から退院の申出があれば、退院させなければならない。精神保健指定医の診察は必要ないが、書面による本人意思の確認が必要である。精神保健指定医が必要と認めれば、72時間以内の退院制限が可能であり、入院権限は精神科病院管理者である。

入院の形態

①任意入院:患者本人の同意:必要。精神保健指定医の診察:必要なし。そのほか:書面による本人意思の確認。備考:本人の申し出があれば退院可能。精神保健指定医が必要と認めれば、72時間以内の退院制限が可能。入院権限:精神科病院管理者。

②医療保護入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:家族等のうち、いずれかの者の同意。備考:入院後、退院後ともに10日以内に知事に届け出る。入院権限:精神科病院管理者

③応急入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:医療および保護の依頼があるが、家族等の同意が得られない。備考:入院期間は72時間以内。入院後直ちに知事に届け出る。知事指定の病院に限る。入院権限:精神科病院管理者

④措置入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:2人以上の診察そのほか:自傷・他害のおそれがある。備考:国立・都道府県立精神科病院または指定病院に限る。入院権限:都道府県知事

⑤緊急措置入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察そのほか:自傷・他害のおそれが著しく、急を要する。備考:入院期間は72時間以内。指定医が1人しか確保できず時間的余裕がない場合、暫定的に適用される。入院権限:都道府県知事

 

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