第52回(H29) 作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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16 67歳の女性。作業療法中に傾眠傾向が続いた日があるかと思えば、声かけにはきはきと受け答えをする日もある。部屋の間違いや道に迷うことも多い。あるとき突然「カーテンの陰に人がいる」と話し怯えだした。
 この患者の原因疾患として最も可能性が高いのはどれか。

1. Alzheimer型認知症
2. Lewy小体型認知症
3. 前頭側頭型認知症
4. 正常圧水頭症
5. 血管性認知症

解答2

解説

本症例のポイント

・67歳の女性。
・作業療法中に傾眠傾向が続いた日があるかと思えば、声かけにはきはきと受け答えをする日もある、部屋の間違いや道に迷うことも多い(認知機能の変動・動揺
・あるとき突然「カーテンの陰に人がいる」と話し怯えだした(幻視)。
→本症例は、Lewy小体型認知症が疑われる。Lewy小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動障害、自律神経障害などが特徴である。

1.× Alzheimer型認知症は、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。
2.〇 正しい。Lewy小体型認知症がこの患者の原因疾患として最も可能性が高い。
3.× 前頭側頭型認知症(Pick病)とは、病理所見として、前頭葉と側頭葉が特異的に萎縮する特徴を持つ認知症である。脳血流量の低下や脳萎縮により人格変化精神荒廃が生じ、植物状態におちいることがあり、2~8年で衰弱して死亡することが多い。発症年齢が50~60代と比較的若く、初発症状は人格障害・情緒障害などがみられるが、病期前半でも記憶障害・見当識障害はほとんどみられない。働き盛りの年代で発症することが多いことで、患者さんご本人が「自分は病気である」という自覚がないことが多い。その後、症状が進行するにつれ、性的逸脱行為(見知らぬ異性に道で抱きつくなどの抑制のきかない反社会的な行動)、滞続言語(何を聞いても自分の名前や生年月日など同じ語句を答える)、食行動の異常(毎日同じものを食べ続ける常同行動)などがみられる。治療は、症状を改善したり、進行を防いだりする有効な治療方法はなく、抗精神病薬を処方する対症療法が主に行われている。(参考:「前頭側頭型認知症」健康長寿ネット様HPより)
4.× 正常圧水頭症とは、脳脊髄液(髄液)の循環障害によって拡大した脳室が、頭蓋骨内面に大脳半球を押しつけることにより、数々の脳の障害を引き起こす一連の病態である。①認知症、②尿失禁、③歩行障害の三徴がみられる。脳外科的な手術であるシャント術で改善する。
5.× 血管性認知症の主な症状として情動失禁(感情失禁)があげられる。脳梗塞や脳出血によって引き起こされ、60歳~70歳台の男性に起こりやすい。全認知症のうち19.5%が血管性認知症である。高血圧や糖尿病、脂質異常症といった基礎疾患、ストレスや喫煙、肥満、メタボリックシンドローム、大量の飲酒などの脳卒中の危険因子は、血管性認知症の発症リスクを高める。

Lewy小体型認知症とは?

Lewy小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動障害、自律神経障害などが特徴である。

 

 

 

 

 

 

 

17 45歳の男性。統合失調症。20 年間の入院の後、退院してグループホームに入居することになった。作業療法士は患者の強みとしての性格、才能、希望、環境について、日常生活、経済的事項、仕事などの項目に分けて本人と一緒に確認・文章化し、患者の言葉を用いて退院後の目標を立てた。
 本アセスメントの根拠となるモデルはどれか。

1. ICF モデル
2. 人間作業モデル
3. ストレングスモデル
4. 脆弱性—ストレスモデル
5. CMOP(Canadian Model of Occupational Performance)

解答3

解説

本症例のポイント

問題文の作業療法士は、「患者の強みとしての性格、才能、希望、環境について、日常生活、経済的事項、仕事などの項目に分けて本人と一緒に確認・文章化し、患者の言葉を用いて退院後の目標を立てている」。
→その評価方法を選択する。

1.× ICF モデルとは、すべての人々を対象として、障害(マイナス面)と健康な状態(プラス面)の両面からその人の「健康状態の構成要素」を評価する分類として策定されたものである。生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加の3つの構成要素)と、それに影響する背景因子(環境因子・個人因子の2つの構成因子)で構成される。
2.× 人間作業モデルを構成するのは、「作業」を人間性の保持に必要なもの、健康が破綻した後の再調整をするものとして位置づけている。その人の行動を位置づけるものとして「意志・習慣化・遂行技能」の3要素の相互作用と、これに加えて「環境」 を4要素として挙げており、これらよりどの程度作業に適しているかを考える。
3.〇 正しい。ストレングスモデルが、設問の本アセスメントの根拠となるモデルである。ちなみに、ストレングスモデルとは、患者がもつ性格・技能・環境・関心などのよい点(ストロングポイント)に着目して、それを伸ばし、回復に向かわせるような取り組みを行うことをいう。
4.× 脆弱性(ぜいじゃくせい) —ストレスモデル(生物学的なストレス脆弱性、脆弱性ストレスモデル、素因ストレスモデル)は、精神疾患の発症を説明する標準的な理論である。ストレス脆弱性モデルによれば、発症しやすい素質と、その人の限界値を超えるストレスが組み合わさった場合、人間は精神疾患を発症する。発症に果たす個人側の決定的な生物学的要因を指し示す概念であるため、個人因子に該当する。
5.× CMOP(Canadian Model of Occupational Performance:カナダ作業遂行モデル)は、「人は作業欲求をもち、人が作業を行うことを可能にするためには、人と作業療法士の協業的アプローチが重要である」とする作業療法理論である。ちなみに、協業的(協働的)アプローチとは、それぞれが別々の役割を持ちながらも、協力して共通の目標を達成するために、それぞれの得意な部分を活かして取り組んでいくというやり方のことである。

 

 

 

 

 

 

18 57歳の女性。夫と寝たきりの母親との3人暮らし。編み物を趣味としていた。患者は手の抜けない真面目な性格で、介護が2年続いたころから「体が動かない。死んでしまいたい」と寝込むようになった。夫に連れられ精神科病院を受診し入院。1か月後に作業療法が導入となった。しかし、作業療法士に「母のことが気になるんです。ここにいる自分が情けない」と訴えた。
 この患者への対応として適切なのはどれか。

1. 主治医に早期の退院を提案する。
2. 他の患者をお世話する役割を提供する。
3. 趣味の編み物をしてみるよう提案する。
4. 休むことも大切であることを説明する。
5. 他の患者との会話による気晴らしを促す。

解答4

解説

本症例のポイント

・57歳の女性(夫と寝たきりの母親との3人暮らし)
・手の抜けない真面目な性格
・介護が2年経過:「体が動かない。死んでしまいたい(希死念慮)」と寝込むようになった。
・現在:作業療法士に「母のことが気になるんです。ここにいる自分が情けない」と訴えた。
→本症例は、うつ病が疑われる。急性期~回復期前の関わりをする。

1.× 主治医に早期の退院を提案する必要はない。なぜなら、退院の時期や指示は主治医が担当するため。作業療法士は、患者のリハビリや病棟の様子・状況を報告する。本症例は、「母のことが気になるんです」と母への必要以上の気遣いはみられるものの早期退院できる理由にはならず、また「自分が情けない」と自己評価の低下がみられることからもうつ病の状況は退院できるレベルではないと考える。
2.× 他の患者をお世話する役割を提供する優先度は低い。なぜなら、本症例は入院前の2年間介護をしていたため。うつ病を発症した現在は過去のようにうまく行えず、本人が期待する程度にはできないと考えられる。そのため患者はますます自己評価が低くなる恐れが高いと考えられる。
3.× 趣味の編み物をしてみるよう提案する優先度は低い。なぜなら、本症例は編み物を趣味としていたため。うつ病を発症した現在は過去のようにうまく行えず、本人が期待する程度にはできないと考えられる。そのため患者はますます自己評価が低くなる恐れが高いと考えられる。
4.〇 正しい。休むことも大切であることを説明する。うつ病患者に対する急性期の作業療法は、十分な休息をとりながら、負担の少ない作業への参加を促すことが大切である。本症例も同様に、十分な休養をとることがうつ病の治療で重要であることを、患者に説明する必要がある。
5.× 他の患者との会話による気晴らしを促すことは負担が大きく時期尚早である。回復後期に集団の中で他者との体験や感情を共有するのが良い。現在は、自分のペースででき、達成感があって、自己評価を高めるような作業が望ましい。(病前に得意だった作業や、出来不出来が明確な作業は自信を失うもととなるため好ましくない。)

 

 

 

 

 

 

19 7歳の男児。幼児期から落ち着きがなく、他の子供から遊具を取り上げる、列に並べない、座って待てないことが多かった。小学校入学後も、周囲の生徒の文房具を勝手に使う、課題に集中せず席を離れるなどが頻繁にみられていた。自宅でも落ち着きがなく、母親が注意すると興奮する状況であった。この男児について作業療法士が担当教員から相談を受けることになった。
 担当教員への助言内容として適切なのはどれか。

1. 注意・叱責は強く行う。
2. 男児の席を教室の中心に設ける。
3. 望ましい行動が生じたら直ちに褒める。
4. 不得意なことは時間を要しても習得を目指す。
5. 集団生活に必要なルールを本人に詳しく説明する。

解答3

解説

本症例のポイント

・7歳の男児。
・幼児期:落ち着きがなく(注意欠如・多動性)、他の子供から遊具を取り上げる、列に並べない(衝動性)、座って待てないことが多かった(多動性・衝動性)。
・小学校入学後:周囲の生徒の文房具を勝手に使う(衝動性)、課題に集中せず席を離れる(多動性・衝動性)などが頻繁にみられていた。
・自宅でも落ち着きがなく、母親が注意すると興奮する状況であった。
・この男児について作業療法士が担当教員から相談を受けることになった。
→本症例は、注意欠如・多動性障害(ADHD)が疑われる。

1.× 注意・叱責は強く行う必要はない。なぜなら、自信喪失や自尊心の低下につながるため。対人関係面で周囲との軋轢を生じやすく、大人からの叱責や子どもからのいじめにあうことがある。このため、二次障害として、自信喪失、自己嫌悪、自己評価の低下がみられることがある。そのため、患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。
2.× 男児の席を教室の中心に設ける必要はない。なぜなら、周囲からの刺激を受けやすく、①注意欠如、②多動性、③衝動性の症状が助長される可能性が高いため。
3.〇 正しい。望ましい行動が生じたら直ちに褒める。治療として①まず、行動療法を行う。𠮟責せずに、個別に近い対応で作業を粘り強く支援していく。サポートが良ければ、成長とともに過半数は改善していく。放置すると、思春期に感情障害、行為障害、精神病様状態に陥りやすい。
4.× 不得意なことは時間を要しても習得を目指す必要はない。むしろ習得困難である。なぜなら、注意欠如・多動性障害(ADHD)は、①注意欠如、②多動性、③衝動性の症状で得意なこと以外は長く続けられないため。
5.× 集団生活に必要なルールを本人に詳しく説明する必要はない。なぜなら、注意欠如・多動性障害(ADHD)の衝動性によりルールを守れないため。ルールを知らなかったり忘れているわけではない。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療

注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、発達障害の一つであり、脳の発達に偏りが生じ年齢に見合わない①注意欠如、②多動性、③衝動性が見られ、その状態が6ヵ月以上持続したものを指す。その行動によって生活や学業に支障が生じるケースが多い。対人関係面で周囲との軋轢を生じやすく、大人からの叱責や子どもからのいじめにあうことがある。このため、二次障害として、自信喪失、自己嫌悪、自己評価の低下がみられることがある。そのため、患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。

①まず、行動療法を行う。𠮟責せずに、個別に近い対応で作業を粘り強く支援していく。
②改善しない場合は、中枢神経刺激薬による薬物療法を用いる。中枢を刺激して、注意力・集中力を上げる。
※依存・乱用防止のため、徐放薬が用いられる。

 

 

 

 

 

 

20 43歳の男性。統合失調症。幻聴と妄想が消失せず9年間の入院生活を送っていたが、入院患者の地域生活移行を進める方針の下、地域のアパートを借りて退院することになった。そこで、本人の地域生活を支えるため、作業療法士、看護師、精神保健福祉士、医師らがチームを組み、24時間365日体制で相談や訪問のサービスを開始した。
 このサービスに該当するのはどれか。

1. Assertive Community Treatment(ACT)
2. Illness Management and Recovery(IMR)
3. Individual Placement and Support(IPS)
4. Intentional Peer Support(IPS)
5. Wellness Recovery Action Plan(WRAP)

解答1

解説

本症例のポイント

・43歳の男性(統合失調症)
・幻聴と妄想が消失せず9年間の入院生活を送っていた(重度精神障害)が、入院患者の地域生活移行を進める方針の下、地域のアパートを借りて退院することになった。
・本人の地域生活を支えるため、作業療法士、看護師、精神保健福祉士、医師らがチームを組み、24時間365日体制で相談や訪問のサービスを開始した。
重度精神障害でも地域生活を行えるよう専門職チーム24時間365日体制で相談や訪問のサービスは何か?。

1.〇 正しい。Assertive Community Treatment(ACT:精神障害者への包括型地域生活支援プログラム)とは、重い精神障害をもった人(入退院を繰り返すなど)であっても、地域社会の中で自分らしい生活を実現・維持できるよう包括的な訪問型支援を中心に提供するケアマネジメントモデルのひとつである。地域社会でうまく生活を継続することができるように多職種が365日・24時間体制で多職種によって構成されたチームにより関わる仕組みである。サービス提供は原則的に無期限である。
2.× Illness Management and Recovery(IMR:疾患の管理と回復)とは、回復のための心理社会的な治療法を中心とするプログラムで、心理教育、認知行動療法、再発予防のための方策、社会生能訓練、対処技能訓練などが含まれる。
3.× Individual Placement and Support(IPS)は、患者への信頼と可能性を信じることをベースとして、症状の安定度や職業準備性よりも就労意欲を重視し、仕事の中で自分を高め(ストレングス)、最終目的を疾患からの回復(リカバリー)とするものである。つまり、精神障害者の就労を支援するものである。
4.× Intentional Peer Support(IPS)は、人同士が支え合うピアサポートが中心となっている。一般に、「同じような立場の人によるサポート」といった意味で用いられる言葉である。サービス利用者とサービス提供者を、同じ人間としてのピア、生きていく仲間としてのピアととらえ、相互に責任を有し敬意を払うという基本姿勢や、相互に学び合う関係を実践していくものである。
5.× Wellness Recovery Action Plan(WRAP:元気回復行動プラン)は、①リカバリーに大切なこと、 ②元気に役立つ道具箱をベースに6つのプラン「①日常生活管理プラン、②引き金になる出来事に気づき対応するための行動プラン(外的要因)、③注意サインに気づき対応するための行動プラン(内的要因)、④調子が悪くなってきているときのサインに気づき対応するための行動プラン、⑤クライシス(緊急状況)プラン、⑥クライシス後プラン」について、自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである。

IPSとは?

IPSとは、個別の就労活動支援と職場定着支援を中心とした就労支援モデルです。正式名称は「Individual Placement and Support」といい、日本語に訳すと「個別職業紹介とサポート」になります。IPSモデルの理念は、「どんなに重い精神障害を持つ人であっても、本人に働きたいという希望さえあれば、本人の興味、技能、経験に適合する職場で働くことが出来る」「就労そのものが治療的であり、リカバリーの重要な要素となる」という信念に基づいています。

IPSモデルの基本原則
IPSには下記7つの基本原則があります
① 就労支援対象についての除外基準なし
② 短期間、短時間でも企業への就労を目指す
③ 施設内でのトレーニングやアセスメントは最小限とし、迅速に職場開拓(就職活動など)を実施する
④ 就労支援と医療保健の専門家でチームを作る
⑤ 職探しは本人の技能や興味に基づく
⑥ 就労後のサポートは継続的に行う
⑦ 生保や年金など経済的側面の相談、支援も行う

(引用:「IPSモデルとは?」多摩地域IPS就労支援センター様HPより)

 

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