第51回(H28) 理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16 大動脈弁閉鎖不全の雑音を最も聴取しやすい部位はどれか。

1. ①
2. ②
3. ③
4. ④
5. ⑤

解答1(採点除外問題)
理由:問題としては適切であるが、受験者レベルでは難しすぎるため。

解説

 大動脈弁閉鎖不全症は、心臓の出口である大動脈弁の閉まりが悪くなり、心臓から大動脈に押し出された血液が再び心臓内に逆流する病気である。

1.〇 正しい。①は、大動脈弁領域の聴取部位である。
2.× ②は、聴取部位ではないが、胸骨を跨いで対側の第4肋間胸骨左縁は三尖弁領域である。
3.× ③は、肺動脈弁領域である。
4.× ④は、聴取部位としてどこも当てはまらず不適切である。
5.× ⑤は、僧帽弁領域である。

 

 

 

 

 

 

17 37歳の女性。5年前に多発性硬化症と診断。発症当初は再発寛解型であったが、2年前に二次進行型に移行し右痙性片麻痺がある。2週前から右内反尖足位の痙縮が増悪し、MAS(modified Ashworth scale)で段階2である。
 右足の痙縮に対する治療で適切なのはどれか。

1. 赤外線療法
2. ホットパック
3. 電気刺激療法
4. アキレス腱延長術
5. 経頭蓋磁気刺激法

解答3

解説

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

1~2.× 赤外線療法/ホットパックなどの温熱療法は禁忌である。なぜなら、多発性硬化症は、Uhthoff現象(ウートフ現象)があり、体温上昇により症状が一過性に悪化するため。
3.〇 正しい。電気刺激療法は、右足の痙縮に対する治療に有効である。電気刺激療法は、筋肉や腱・靭帯を刺激し、痙性の減弱や筋再教育、疼痛緩和などを期待する治療法である。他にも、痙縮には寒冷療法が有効である。
4.× アキレス腱延長術とは、足関節尖足位拘縮などに対する手術療法である。適応疾患は、脳性麻痺の二次障害などである。
5.× 経頭蓋磁気刺激法(TMS)は、大脳を局所的に磁気刺激するものである。目的は、脳の機能代償能力を発揮させることである。適応疾患は、脳卒中後遺症Parkinson病などである。

MAS(modified Ashworth scale)の判定基準

0:筋緊張の亢進がない
1:軽度の筋緊張亢進があり、ひっかかりや可動域の終末でわずかな抵抗がある
1+:軽度の筋緊張亢進があり、ひっかかりと引き続く抵抗感が残りの可動域(1/2以内)にある
2:さらに亢進した筋緊張が可動域ほぼ全域にあるが、他動運動は可能
3:顕著な筋緊張亢進があり、他動運動は困難
4:他動運動では動かない。

 

 

 

 

 

18 50歳の男性。閉塞性動脈硬化症。300m程度の歩行ごとに下肢の痛みのために5〜6分の休息をとる。座位や立位時に痛むことはない。
 理学療法で適切なのはどれか。

1. 寒冷療法
2. 極超短波療法
3. トレッドミル歩行練習
4. PNFによる最大抵抗運動
5. 弾性ストッキングによる圧迫療法

解答3

解説

閉塞性動脈硬化症とは?

閉塞性動脈硬化症は、手や足の血管の動脈硬化により、狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こして、血液の流れが悪くなり、手先や足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなる病気である。下肢の慢性虚血による間欠性跛行が発症症状であることが多く、虚血が進行すると壊死に至る。50~70歳代の男性、糖尿病症例に多くみられる。太ももの付け根(大腿動脈)や足の甲(足背動脈)を触診し、脈が触れないことで診断し、確定診断には血管造影検査を行う。

【病期】
Ⅰ期:「しびれ」「冷感」。
Ⅱ期:「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」。一定距離を歩くと脚が傷み、休むとまた歩けるようになる。
Ⅲ期:「安静時疼痛」。安静にしていても脚に痛みが生じる。
Ⅳ期:「潰瘍」「壊疽」。血液が足の先に行かないので、足に潰瘍ができ、ついには足が腐ってしまう。

【治療】
まず動脈硬化の原因である糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療を行う。喫煙者は禁煙する。初期の手足の冷感やしびれには血管拡張薬や血液を固まりにくくする薬(抗血小板剤)を用いる。また歩くことによって、側副血行路が発達し血行の流れの改善をはかる。

(※参考:「閉塞性動脈硬化症」厚生労働省HPより)

1.× 寒冷療法は、局所新陳代謝の低下、毛細血管浸透圧の減少、血管収縮とその後の拡張、感覚受容器の閾値の上昇、刺激伝達遅延による中枢への感覚インパルス減少、筋紡錘活動の低下等がある。これらの作用により、炎症や浮腫の抑制、血液循環の改善、鎮痛作用、筋スパズムの軽減が期待される。(引用:「寒冷療法」物理療法系専門領域研究部会 著:加賀谷善教)
2.× 極超短波療法は温熱療法の一つである。加温することで痛みの緩和や筋緊張の軽減、循環の改善などの効果が期待できる。
3.〇 正しい。トレッドミル歩行練習である。本症例は、閉塞性動脈硬化症があり、間欠性破行が認められている。閉塞性動脈硬化症の間欠性跛行例には運動療法が効果的であるため正しい。
4.× PNF(固有受容性神経筋促通法)による最大抵抗運動の目的は、主に固有受容器を刺激することによって、神経・筋の反応を促通することである。末梢神経疾患のみでなく、中枢神経疾患の治療としても用いられる。①促進要素、②特殊テクニック、③促進パターンの3つから構成される。固有受容器とは、身体の位置や動きに関する情報をもたらす受容器(筋紡錘,ゴルジの腱器官,関節の受容器,前庭迷路受容器)のことをいう。
5.× 弾性ストッキングによる圧迫療法は、下肢の静脈瘤深部静脈血栓症に対して行う治療である。弾性ストッキングの圧迫によって、血管内の逆流防止弁が正常に作用することになり、血栓予防や血液のよどみ(うっ滞)を回避することができる。

 

 

 

 

 

19 69歳の男性。肺癌。これまで化学療法を行ったが病状は進行し、経過中に脳転移がみられた。胸部エックス線写真と頭部造影とを下図に示す。現在、呼吸に関する自覚症状はないが、全身倦怠感、食思不振および悪心があり、外出する気分になれず自宅に閉じこもる傾向にある。
 この時期に適切な理学療法はどれか。


1. 嚥下練習
2. 下肢促通運動
3. 屋外での歩行運動
4. 軽打法による排痰
5. 漸増的な持久性運動

解答3

解説

 本症例は、自宅に閉じこもり傾向があるため、廃用症候群を予防し、気分転換をするためにも軽度な運動が推奨される。

1.× 嚥下練習などの所見を認めていないため優先度は低いと考えられる。
2.× 下肢促通運動の優先度は低い。なぜなら、下肢促通運動は脳性麻痺などに用いるため。
3.〇 正しい。屋外での歩行運動を行う。なぜなら、本症例は自宅に閉じこもり傾向であり、気分転換を促すため。また廃用症候群を予防にもつながる。
4.× 軽打法による排痰の優先度は低い。なぜなら、呼吸による自覚症状はなく、排痰を認める記載もないため。
5.× 漸増的な持久性運動は負荷が大きいため不適切である。漸増的な持久性運動とは、ランニングなどの運動を指す。本症例は、肺癌患者であり全身倦怠感や悪心も認められている。

 

 

 

 

 

20 78歳の女性。左片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅲ及び下肢Ⅳ。高次脳機能障害あり。要介護2。娘と2人暮らしであるが、日中、自宅で1人で過ごす時間があるため、回復期リハビリテーション病棟退院後、通所リハビリテーションを受けることとなった。
 通所リハビリテーションの目標として優先順位が低いのはどれか。

1. 家事動作の自立
2. 着衣動作の自立
3. 歩行能力の改善
4. 排泄動作の自立
5. 立位保持能力の改善

解答1

解説

 通所リハビリテーションは、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送る(ADL自立)ことができるようサービスが提供される。よって、選択肢1.家事動作の自立は、IADL項目であるため優先順位は低い。
2~5.× 着衣動作の自立/歩行能力の改善/排泄動作の自立/立位保持能力の改善により、ADLの自立・改善し、活動の維持も見込まれるため優先度は高い。

通所リハビリテーションとは?

通所リハビリテーションは、利用者が老人保健施設・病院・診療所などに通い、日常生活上の支援や、生活機能訓練を受け、可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるようにするものである。

 

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