第47回(H24) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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次の文により10、11の問いに答えよ。
 68歳の男性。作業中に脚立の上から転落したため搬入された。強い腰痛を訴え、下肢の運動麻痺が認められる。脊椎MRIを下図に示す。

11 同日、脊椎固定術を行い、リハビリテーションを開始した。受傷3か月後のMMTによる筋力を表に示す。
 この時点で、下肢に使用する装具として適切なのはどれか。

1.MSH-KAFO
2.右KAFO
3.右KO
4.右AFO
5.右足底装具

解答4

解説

本症例のポイント

①MMTの結果から、「右の足関節底・背屈、足趾伸展」の麻痺が見られる。

1〜2.× MSH-KAFO(hip-knee-ankle-foot orthosis with a medial single hip joint:内側単股継手付き長下肢装具)/右KAFO (knee-ankle-foot orthosis:長下肢装具)は、股・膝関節の弛緩性麻痺に用いられることが多い。本症例は、股・膝関節の筋力は比較的保たれているため優先度が低い
3.× 右KO(knee orthosis:膝装具)は、膝コントロールの不十分(膝折れなど)な患者に用いられることが多い。本症例は、膝関節の筋力は比較的保たれているため優先度が低い
4.〇 正しい。右AFO(ankle-foot orthosis:短下肢装具)が本症例に適応となる。足関節の筋力低下に対して用いられることが多い。
5.× 右足底装具は、扁平足・外反母趾・変形性膝関節症など用いられることが多い。本症例は、いずれの記載もないため優先度が低い

 

 

 

 

 

12 剣状突起に水面がくる深さのプールで立ち、下肢を伸展した状態で股関節屈曲伸展運動を繰り返した。このときの単位時間当たりの反復回数と酸素摂取量との関係を図に示す。
 反復回数の増加に対する酸素摂取量の変化の関係を決定している因子はどれか。

1.浮力
2.水温
3.水深
4.静水圧
5.粘性抵抗

解答5

解説

問題のポイント

【単位時間当たりの反復回数】=【運動速度を増やす】と言い換えられる。

【酸素摂取量の増加】=【運動強度の増加】と言い換えられる。

1.× 浮力は関与しない。なぜなら、剣状突起に水面がくる深さのプールで立っているのは固定であるため。浮力は、水中に浸かっている体積により決定される。水中に浸かっている体積自体は変化しないため浮力も変化しない。
2.× 水温は関与しない。ただし、運動を伴わない状態であれば、水温の変化により酸素摂取量は変化する。
3.× 水深は関与しない。なぜなら、剣状突起に水面がくる深さのプールで立っているのは固定であるため。ただし、水深が深くなることによって運動抵抗が増加する。
4.× 静水圧は関与しない。なぜなら、静水圧はあらゆる方向から受ける力であるため。静水圧とは、静止している液体の中の任意の面に作用する圧力のことである。
5.〇 正しい。粘性抵抗が、反復回数の増加に対する酸素摂取量の変化の関係を決定している因子である。なぜなら、粘性抵抗は、水中で動く速度の2乗に比例するため、粘性抵抗が大きくなれば強度もそれに比例して大きくなるため。

 

 

 

 

 

13 70歳の男性。視床出血による右片麻痺。ダブルクレンザック足継ぎ手に外側Tストラップがついた装具を処方され、装具の静的な適合判定を行った後に歩行練習を開始した。歩行時の麻痺側立脚中期に膝の過伸展が観察されたが、装具を調整したことでこの現象は消失した。
 装具の調整方法として適切なのはどれか。

1.金属支柱の強度を増した。
2.下腿半月を深くした。
3.足継ぎ手後方の調節ロッドを押し込んだ。
4.足継ぎ手前方の調節ロッドを押し込んだ。
5.足継ぎ手の位置を後方へずらした。

解答3

解説

本症例のポイント

歩行時の麻痺側立脚中期に「膝の過伸展(反張膝)」が観察されたが、装具を調整したことでこの現象は消失した。

【反張膝の原因】
①膝関節伸展筋の筋力低下
②固有感覚障害による代償
③足関節底屈筋の痙性
④足関節底屈拘縮

1.× 金属支柱の強度を増すことで、内・外反の動揺を軽減する。
2.× 下腿半月を深くすることにより、下腿が後方へ運動しやすくなる。つまり、足関節が底屈しやすくなるため反張膝の増悪につながる。
3.〇 正しい。足継ぎ手後方の調節ロッドを押し込んだ場合、反張膝の予防につながる。なぜなら、後方の調節ロッドを押し込むと、足部は背屈位(底屈制限)となるため。
4.× 足継ぎ手前方の調節ロッドを押し込んだ場合、反張膝の増悪につながる。なぜなら、前方の調節ロッドを押し込むと、足部は底屈位(背屈制限)となるため。
5.× 足継ぎ手の位置を後方へずらした場合、足関節底屈位につながる。つまり、反張膝・尖足の増悪につながる。一方で、足継ぎ手の位置を前方へずらした場合は、足関節前方に重力が落ちるため足関節背屈位につながる。

反張膝に対する理学療法

装具療法:①足関節底屈制動、②膝の安定化、③患側の補高など。
運動療法:①筋力増強、②持続伸張、③立位体重支持運動など。

 

 

 

 

 

 

14 45歳の女性。脊髄小脳変性症。ADLは自立している。独歩は可能で、会社へは電車で通勤している。最近ふらつきが多くなり、時に転倒することがあるという。
 この患者に指導する内容として適切なのはどれか。

1.杖歩行
2.片脚起立訓練
3.下肢のスクワット訓練
4.職場での車椅子の使用
5.リズムに合わせた歩行訓練

解答3

解説

本症例のポイント

・45歳の女性(脊髄小脳変性症)
・ADL:自立。
・独歩:可能(最近ふらつきが多くなり、ときに転倒することがある)
・会社への通勤:電車
→本症例は、脊髄小脳変性症の初期である。歩行補助具として、脊髄小脳変性症ではT字杖、ロフストランド杖、抑速ブレーキ付き歩行器もしくは重錘バンドを巻いた歩行器などが使用されている(※一部抜粋:「脊髄小脳変性症理学療法ガイドライン 」より)。

1.× T字杖を使用した応用歩行よりも優先度が高い選択肢が他にある。本症例は、「ときに転倒」レベルである。国語の授業のようになってしまうが、頻度を表現する言葉には「よく、ときおり、ほとんど」などが用いられる。「ときに」は、頻度を含む「時々、たまに」という意味も含まれているが、一番よくつかわれるのは「場合によっては」という意味であり、「条件」の意味が大きい。場合によった条件下での転倒であるので、T字杖を使用した場合でも防ぐことができるかは疑問が残り、また、臨機応変の環境変化にも対応すべく「T字杖」ではなく両側四点杖を使用した応用歩行を行うことが多い。ただし、本症例は、会社へは電車で通勤しており、荷物を持つことも想定に入れるため、両側の四点杖の使用も現実的ではない。仮に安全に会社通勤を行うのであれば、電車ではなくタクシーなどに変更するよう指導する。※T字杖の使用自体が間違いといったことではない。”歩行補助具として、脊髄小脳変性症ではT字杖、ロフストランド杖、抑速ブレーキ付き歩行器もしくは重錘バンドを巻いた歩行器などが使用されている”(※一部抜粋:「脊髄小脳変性症理学療法ガイドライン 」より)。
2.× 片脚起立訓練は優先度が低い。なぜなら、片足での起立訓練は転倒の危険性が高いため。バランス練習・下肢筋力トレーニングにせよ安全な環境下で実施する。
3.〇 正しい。下肢のスクワット訓練を実施する。小脳失調を主体とする脊髄小脳変性症に対して、バランスや歩行に対する理学療法を集中的に行うと、小脳失調や歩行が改善する(グレード1B)(※引用:「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」)
4.× 職場での車椅子の使用は時期尚早である。なぜなら、本症例は時折転倒することがあるが独歩可能で、会社へは電車で通勤しているため。転倒に至った原因を探り、その原因に適した解決策を提案する。
5.× リズムに合わせた歩行訓練は優先度が低い。なぜなら、パーキンソン病にみられるすくみ足に対するアプローチであるため。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

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15 9歳の男児。Duchenne型筋ジストロフィー。独歩は可能だが、腹部を突き出し両肩を左右に振る動揺歩行と内反尖足とが顕著である。床からの立ち上がり動作では登はん性起立を示し、柱などにつかまればかろうじて立ち上がることができる。
 上肢に拘縮はなく、ゆっくりであるが両上肢を挙上することができる。
 この時期に行う理学療法士の対応で優先順位が高いのはどれか。

1.AFOを装着させ歩行時の内反尖足を矯正する。
2.体幹装具を装着させ歩行時の姿勢を矯正する。
3.松葉杖歩行の練習を行う。
4.四つ這い移動の練習を行う。
5.電動車椅子の購入を家族に提案する。

解答4

解説

Gowers徴候(登はん性起立)とは?

Gowers徴候(登はん性起立)は、床から起立する時、まず床に手をついて、お尻を高くあげ、次にひざに手をあてて、手の力を借りて立ち上がる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーでみられる症状である。

1.× AFO(ankle-foot orthosis:短下肢装具)を装着させ、歩行時の内反尖足を矯正する優先度が低い。なぜなら、Duchenne型筋ジストロフィーは、下腿三頭筋の短縮により足関節は底屈し、尖足変形を呈するため。AFO(ankle-foot orthosis:短下肢装具)は、足関節の筋力低下に対して用いられることが多い。
2.× 体幹装具を装着させ歩行時の姿勢を矯正する優先度が低い。なぜなら、体幹装具を装着させるのは、車椅子のシーティングが必要になるステージ6以降である。ちなみに、本症例は、独歩・床からの立ち上がり動作が可能であることからステージ3〜4程度と考えられる。
3.× 松葉杖歩行の練習を行う優先度が低い。なぜなら、本症例は独歩可能であるため。進行するにつれ、①歩行器→②手すり→③手びき→④四つ這いのように理学療法を行っていく。 また、松葉杖は免荷のために使用されることが多い。
4.〇 正しい。四つ這い移動の練習を行うのが、選択肢の中で優先度が最も高い。なぜなら、ステージ5から、主な移動は四つ這いとなるため。本症例はステージ3〜4である。独歩は可能であるが、動揺歩行や内反尖足・登攀性起立などの様子がみられる。スムーズな移行のためにも練習しておく。
5.× 電動車椅子の購入を家族に提案するには時期尚早である。なぜなら、本症例は独歩可能であるため。歩行が不能になるステージ5以降に行っていく。

Duchenne型筋ジストロフィーのステージ

ステージ1 歩行可能 介助なく階段昇降可能(手すりも用いない)
ステージ2 階段昇降に介助(手すり、手による膝おさえなど)を必要とする
ステージ3 階段昇降不能 平地歩行可能 通常の高さのイスからの立ち上がり可能
ステージ4 歩行可能 イスからの立ち上がり不能
ステージ5 歩行不能 四つ這い可能
ステージ6 四つ這い不能だが、いざり移動可能
ステージ7 這うことはできないが、自力で坐位保持可能
ステージ8 ベッドに寝たままで体動不能 全介助

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