第46回(H23) 作業療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 55歳の男性。脊髄小脳変性症。発症後3年経過。協調運動障害によってSTEF右46点、左48点である。
 この患者のパーソナルコンピュータ使用に適しているのはどれか。

1.タイピングエイド
2.PSB
3.BFO
4.キーボードカバー
5.トラックボールマウス

解答

解説

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

本症例のポイント

・55歳の男性(脊髄小脳変性症)
・発症後3年経過、協調運動障害によってSTEF右46点、左48点
→STEF(Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)が100点満点のうち右46点、左48点であることから、脊髄小脳変性症の障害の進行、両上肢の把持・移動の能力は著しく低下していることが考えられる。

1.× タイピングエイドは、主に関節リウマチ手指に麻痺がある人が用いる。脊髄小脳変性症では、運動失調や測定異常があるため目的物に到達することが難しい。
2.× PSB(ポータブル スプリング バランサー)は、高位脊髄損傷、筋ジストロフィー、腕神経叢麻痺、多発性筋炎、筋萎縮性側索硬化症、Guillain-Barre症候群などで適応となる。わずかな力でも自由に自分の意思で上肢を動かすことができるため筋力低下を代償できる。
3.× BFO(Balanced Forearm OrthosisまたはBall bearing Feeder Orthosis)は、主に第4,5頸髄損傷者に用いられる。患者の前腕を支えてごくわずかの力で上肢の有益な運動を行なわせようとする補装具の一種である。
4.〇 正しい。キーボードカバーは、振戦があっても他のキーに触れずに目的のキーだけを押すことを補助するものである。適応疾患は、運動失調のある脊髄小脳変性症アテトーゼ型脳性麻痺などに用いられる。
5.× トラックボールマウスは、ボールを転がすことでPC上のマウスポインタを移動させることができるマウスである。通常のマウス操作が困難(マウスが重たい)場合などに用いられ、主に脊髄損傷者に用いられる。

STEF(Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)

 上肢の動作能力、特に動きの速さを客観的に、しかも簡単かつ短時間(20~30分)に把握するための評価法である。10種類のテストからなり、それぞれ大きさや形の異なる物品を把持して移動させ、一連の動作に要した時間を計測し、所要時間を決められた点数(1~10点)に当てはめて、右手と左手との差を左右別に合計点数を算出する。また参考値との比較も可能である。

 

 

 

 

 

 

12 72歳の男性。右下葉肺癌の手術後、嗄声が出現した。術後3日目から食事が開始され、病棟内の歩行が許可された。術後10日目に発熱し、禁食となった。術後12日目に解熱し、作業療法が開始された。術直後と術後10日目の胸部エックス線写真を下図に示す。
 この患者への対応で優先すべきなのはどれか。

1.寝返り動作練習
2.トイレ動作練習
3.腹式呼吸の指導
4.口腔ケアの指導
5.口すぼめ呼吸練習

解答

解説

本症例のポイント

・右下葉肺癌の手術後、嗄声が出現。
・術後3日目:食事が開始、病棟内の歩行が許可。
・術後10日目:発熱、禁食。
・術後12日目に解熱し、作業療法が開始。
・術後10日目の胸部エックス線写真は、右下肺野の透過性が低下し白くなっている。

嗄声とは、声帯を振動させて声を出すとき、声帯に異常が起こり「かすれた声」になっている状態である。嗄声の原因は、①声帯自体に問題がある場合と、②声帯を動かす神経に問題がある場合がある。本症例は手術後に起こったため、反回神経麻痺を生じ、食事開始後に発熱したことからも、嚥下障害(誤嚥性肺炎)が起こったと考えられる。

1~2.× 寝返り動作練習/トイレ動作練習の優先度が低い。なぜなら、術後3日目で病棟内歩行の許可がおり、すでに獲得済みと考えられるため。
3/5.× 腹式呼吸の指導/口すぼめ呼吸練習の優先度が低い。なぜなら、腹式呼吸や口すぼめ呼吸練習は閉塞性換気障害(肺気腫など)に有効であるため。口すぼめ呼吸とは、呼気時に口をすぼめて抵抗を与えることにより気道内圧を高め、これにより末梢気管支の閉塞を防いで肺胞中の空気を出しやすくする方法である。鼻から息を吸い、呼気は吸気時の2倍以上の時間をかけて口をすぼめてゆっくりと息を吐くため、呼吸数は減少する。
4.〇 正しい。口腔ケアの指導は最も優先度が高い。なぜなら、食事開始後に発熱したことからも、嚥下障害(誤嚥性肺炎)が起こったと考えられるため。誤嚥性肺炎は、筋を含んだ喀痰や唾液、誤嚥した食塊など本来肺に入ってはいけないものが肺に入ってしまうことで引き起こされる。口腔ケアは肺炎の発症率を有意に低下させる。

 

 

 

 

 

 

次の文により13、14の問いに答えよ。
 29歳の女性。歩行困難を主訴に整形外科外来を受診したが、検査では異常は認められなかった。紹介されて精神科外来を受診し、入院することとなった。手足がふるえ、軽い麻痺のような脱力があり、自立歩行ができないため車椅子を使用している。
 立位保持や移乗に介助を必要とし、ADLはほぼ全介助である。

13 この患者の障害はどれか。

1.社会恐怖
2.強迫性障害
3.離人性障害
4.転換性障害
5.パニック障害

解答

解説
1.× 社会恐怖(症)=社交(社会)不安障害は、対人場面において、過剰な不安や緊張が誘発されるあまり、動悸・震え・吐き気・赤面・発汗などの身体症状が強く発現する。学童期~思春期の発症が多い。一方、25歳以上での発症はまれといわれている。
2.× 強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。作業療法では、他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。
3.× 離人性障害(離人・現実感喪失症候群)とは、自分自身および自分の周囲が、非現実的で、疎隔(ベールで覆いかぶせられたような感じ)され、情緒がなくなったような感じを訴えるものである。うつ病、恐怖症性障害、強迫性障害、初期の統合失調症に「離人感」がみられるが、これらの障害の診断基準を満たさないものがこの障害である。
4.〇 正しい。転換性障害がこの患者の傷害と最も合致する。転換性障害は、無意識領域下に抑圧されたストレスや葛藤が、知覚あるいは随意運動系の身体症状に変換された反応である。①演技性、②自己愛性、③依存性などの特徴的な性格がみられることも多く、性格の未熟性が身体症状の出現の原因になりうる。失立失歩、失声、痙攣、知覚障害、らせん状視野狭窄などを呈する。何らかの心理的要因があり、従来は「ヒステリー」と呼ばれた。
5.× パニック障害とは、突然前触れもなく(誘因なく)、動悸・息苦しさ・めまいなどの症状が出現するパニック発作を繰り返し、そのため「またあの発作が起きたらどうしよう」と過度に心配になって、外出などが制限される病気である。

 

 

 

 

 

次の文により13、14の問いに答えよ。
 29歳の女性。歩行困難を主訴に整形外科外来を受診したが、検査では異常は認められなかった。紹介されて精神科外来を受診し、入院することとなった。手足がふるえ、軽い麻痺のような脱力があり、自立歩行ができないため車椅子を使用している。
 立位保持や移乗に介助を必要とし、ADLはほぼ全介助である。

14 この時点の患者に対する作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.自己洞察を促す。
2.自己表現の機会を増やす。
3.身体症状に対して対応する。
4.自己中心的な依存は禁止する。
5.集団活動で役割を担ってもらう。

解答2・3

解説

転換性障害とは?

転換性障害は、無意識領域下に抑圧されたストレスや葛藤が、知覚あるいは随意運動系の身体症状に変換された反応である。①演技性、②自己愛性、③依存性などの特徴的な性格がみられることも多く、性格の未熟性が身体症状の出現の原因になりうる。失立失歩、失声、痙攣、知覚障害、らせん状視野狭窄などを呈する。何らかの心理的要因があり、従来は「ヒステリー」と呼ばれた。

1.× 自己洞察を促す優先度は低い。なぜなら、転換性障害は、無意識領域下に抑圧されたストレスや葛藤が、知覚あるいは随意運動系の身体症状に変換された反応である。つまり、無意識下で起こっているため、初期から自己洞察しても効果は薄いと考えられる。ちなみに、自己洞察とは、”自分自身の体調、心の状態をどれだけ分かるか”で自分の性格や思考、感情傾向、など、自分についての洞察(自分の心、体の状態を把握する)を得ることをいう。
2.〇 正しい。自己表現の機会を増やす。なぜなら、自己の不安感や直面している困難を意識化させるため。自分の気持ちを様々な方法で表現できるように促す。
3.〇 正しい。身体症状に対して対応する。なぜなら、患者は身体疾患であると確信しているため。身体症状に枠を決めて対応していくことは、患者との信頼関係を構築するのに有効である。
4.× 自己中心的な依存は禁止する優先度は低い。なぜなら、依存を全く禁止しては信頼関係を築くことが難しいため。ただし、治療の枠組みをしっかりつくって、過度に依存的な関係をつくらないことが重要である。患者の訴えに対して傾聴し共感し理解する態度で接しつつも、訴えに対して大げさに反応したり、必要以上に援助しないことが重要である。
5.× 集団活動で役割を担ってもらう優先度は低い。なぜなら、①演技性の特徴的な性格がみられることも多く、集団活動では、他者の自分への関心を必要以上に引こうと、動けないままでいようとする無意識が働き、治療が進展しない可能性が高いため。

 

 

 

 

 

 

次の文により15、16問いに答えよ
 25歳の女性。対人関係が不安定で、母親に甘えたかと思うと急に怒り出すなど、感情が変わりやすく、時に激しく落ち込むことが多かった。漠然とした不安感を訴え、自傷行為を繰り返すため精神科外来を受診し、入院することとなった。

15 この患者にみられやすいのはどれか。

1.空虚感
2.躁状態
3.思考制止
4.離脱症状
5.広場恐怖

解答

解説

本症例のポイント

・25歳の女性。
・対人関係が不安定、感情の起伏が激しい。
・漠然とした不安感を訴え、自傷行為を繰り返す。
境界性パーソナリティ障害と疑える。

境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つ。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他者との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。

【関わり方】
患者が周囲の人を巻き込まないようにするための明確な態度をとる姿勢が重要で、また患者の自傷行為の背景を知るための面接が必要である。

1.〇 正しい。空虚感は、境界型パーソナリティー障害にみられやすい。衝動的にイライラ感や不安感が出現する一方で、慢性的な空虚感も持ち合わせており、抑うつ状態を呈する場合もある。
2.× 躁状態は、躁病でみられ他患者への話しかけが増え、逸脱行為、食欲増進、大声でしゃべるなど物事をやりたくて仕方ない、注意の転導、過干渉などが特徴である。
3.× 思考制止は、思考が緩徐でうまく進まない。うつ病に起こる障害である。
4.× 離脱症状とは、生体が薬物に適応して、薬物の存在下で生理的平衡が保たれる状態になったあと、急に薬をやめることにより、生理的平衡が乱れて身体症状が生じるようになることをいう。
5.× 広場恐怖とは、雑踏・公衆の場所・家から離れての一人旅など、不安が起こってもすぐには安全な場所(自宅など)に避難できない状況を恐れ、そのような状況になることを避けることをいう。パニック障害を伴うことがある。

 

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