第46回(H23) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11. 53歳の女性。脳出血による右片麻痺で、発症後6週経過。Brunnstrom法ステージは上肢、手指、下肢ともにⅣ。両足をそろえた位置から理学療法士を両上肢で押しながら図のように左足を一歩前に出す運動を行っている。
 この目的として誤っているのはどれか。

1.歩幅の拡大
2.歩隔の拡大
3.右側の殿筋強化
4.右側の下腿三頭筋の強化
5.右側上肢肩甲帯の安定化

解答2

解説
1.〇 歩幅の拡大を目的としている。歩幅とは、一歩踏み出した足のつま先からつま先の長さである。歩幅が拡大することで、前方への推進力や歩行効率の向上につながる。設問文からも「左足を一歩前に出す運動」ということから、歩幅の拡大目的が第一であると考えられる。
2.× 歩隔の拡大を目的にしていない。歩隔とは、歩く時の両足間の横の幅のことである。バランスが悪いと支持基底面を広くとろうとすることで歩隔が拡大する(ワイドベース)。歩行練習やステップ練習のそもそもの目的として、歩容が改善させることで歩隔の減少するが、あえて歩隔の拡大を目的とはしない。
3〜4.〇 右側の殿筋/下腿三頭筋強化を目的としている。設問文から「左足を一歩前に出す運動」を行っている。支持側が右側となり、右側の下肢支持性向上を目的にしている。
5.〇 右側上肢肩甲帯の安定化を目的としている。設問から「理学療法士を両上肢で押しながら」ステップ練習を行っている。肩甲帯の強化につながる。

 

 

 

 

 

 

 

12. 56歳の女性。3年前に右手の振戦で発症したParkinson病患者。数か月前から前傾姿勢を認めるようになった。事務員として仕事をしている。
 理学療法として優先されるのはどれか。

1.リズム音を用いた歩行訓練
2.体幹筋のストレッチ訓練
3.呼吸リハビリテーション
4.下肢の筋力増強訓練
5.環境整備

解答2

解説

本症例のポイント

①数か月前から前傾姿勢を認める。
②事務員として仕事をしている。
→ステージⅡ相当(両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。)自宅における自主的な運動療法を主体となるが、ステージⅢ以降は、積極的なリハビリを行っていく。

1.3.× リズム音を用いた歩行訓練/呼吸リハビリテーションは優先度が低い。なぜなら、積極的なリハビリはステージⅢ以降となるため。また、本症例は就業されており、歩行・呼吸の機能低下は軽度と考えられる。
2.〇 正しい。体幹筋のストレッチ訓練は、理学療法として優先される。なぜなら、設問から本症例は、「数か月前から前傾姿勢を認める」ようになっている。前傾姿勢の予防や全身の関節可動域維持や体幹筋の回旋によるリラクセーションを行う。
4.× 下肢の筋力増強訓練より優先度が高い選択肢が他にある。なぜなら、就業し活動性が保たれているため。また56歳と比較的若めであるため、下肢筋力は日常生活を過ごす程度以上には残存していることが考えられる。
5.× 環境整備は優先度が低い。なぜなら、ステージⅢ(歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる)以降となるため。ADLの介助量軽減や安全性向上のため、環境整備を行うことが多い。

Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

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【PT専門のみ】パーキンソン病についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

13. 46歳の男性。脊髄小脳変性症。最近、歩行が不安定となり、壁を伝うことが多くなってきた。片脚起立は困難。複視と眼振が強く、日常生活でも気分不良となる。
 理学療法として適切なのはどれか。

1.継ぎ足歩行
2.Frenkel体操
3.号令を用いた歩行
4.バランスボードを用いた起立訓練
5.リズミック・スタビリゼーション

解答5

解説

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

1.× 継ぎ足歩行(タンデム歩行)は、症例には優先度が低い。なぜなら、転倒の危険性が高いため。設問から本症例は、「歩行が不安定となり、壁を伝うことが多い。片脚起立は困難」である。ちなみに、継ぎ足歩行(タンデム歩行)とは、踵とつま先を交互に接触させて直線上を歩行することである。
2.× Frenkel体操は、症例には優先度が低い。なぜなら、本症例は複視と眼振が強いため。Frenkel体操は、脊髄癆性運動失調などに適応となるが、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法である。
3.× 号令を用いた歩行は、本症例には優先度が低い。なぜなら、パーキンソニズムは認められていないため。号令(例:いち、にぃなどの数字の声がけ)を用いた歩行はパーキンソン病に適用する。
4.× バランスボードを用いた起立訓練は、本症例には優先度が低い。なぜなら、本症例は「複視と眼振が強く、日常生活でも気分不良となる」ため。これを自律神経症状のことと判断できないが、起立訓練のように視野や視点が変化する運動は控えたほうが良いと考えられる。
5.〇 正しい。リズミック・スタビリゼーション(PNF)は、理学療法として適切である。なぜなら、一定の肢位を保持し、外乱刺激を交互に律動的に与えることができるため。リズミック・スタビリゼーション(PNF)は、主動筋と拮抗筋の交互の等尺性収縮を繰り返すもので、関節固定筋群の同時収縮を促通し協調性を改善するのに有効な治療手技である。

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【PT】脊髄小脳変性症についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

14. 4歳の男児。脳性麻痺痙直型両麻痺。図のような理学療法を行っている。
 訓練目的として誤っているのはどれか。

1.上肢パラシュート反応の促通
2.股関節内転筋の緊張抑制
3.股関節伸展筋の促通
4.体幹伸展筋の促通
5.膝屈曲筋の促通

解答5

解説

痙直型両麻痺に対する理学療法

亢進した筋緊張を抑制し、①病的反射の抑制、②適切な反射の促通、③運動パターンの学習を行う。

1.〇 上肢パラシュート反応(保護伸展反応)の促通を訓練目的としている。②適切な反射の促通に該当する。上肢パラシュート反応(保護伸展反応)は、防御的に四肢を伸展して頭部を保護したり、支持して姿勢を安定させようと働く反応である。抱き上げた子どもの体を支えて下方に落下させる、もしくは座位で前方・側方・後方に倒すと、両手を伸ばし、手を開いて体を支える。下方・前方への反応は、6ヵ月頃に出現し生涯続く反応である。
2.〇 股関節内転筋の緊張抑制を訓練目的としている。なぜなら、股関節内転筋は筋緊張が亢進しやすいため。設問の図から検者が股関節外転位に保っているのが読み取れる。また、痙直型両麻痺児の歩行の特徴としても、股関節は内転・内旋位をとりやすい。
3〜4.〇 股関節伸展筋/体幹伸展筋の促通を訓練目的としている。なぜなら、股関節は屈筋群の筋緊張が亢進しやすいため。亢進した筋緊張を抑制し、①病的反射の抑制、②適切な反射の促通、③運動パターンの学習を行う。
5.× 膝屈曲筋の促通を訓練目的として誤っている。なぜなら、脳性麻痺痙直型両麻痺は、膝関節屈曲筋の筋緊張が亢進しやすいため。設問の図でも膝関節伸展位に保つようにアプローチしている。

 

参考にどうぞ↓

【PT/OT/共通】脳性麻痺についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

 

15.車椅子の写真を下図に示す。
 使われている部品はどれか。

1.リクライニング式バックサポート
2.開き式フット・レッグサポート
3.デスク型アームレスト
4.ノブ付きハンドリム
5.トグル式プレーキ

解答5

解説

(画像引用:松永製作所様HP〜ノブ付きハンドリム〜)

1.× リクライニング式バックサポートは使用されていない。リクライニング式バックサポートは、バックサポートが角度調節可能なものである。座位保持が困難な患者に使用される。この車椅子には背折れ機構がついている。手押しハンドルを折りたたむことができてコンパクトになる。
2.× 開き式フット・レッグサポートは使用されていない。開き式フット・レッグサポートは、レッグサポートが開閉し移乗動作を行いやすくする。
3.× デスク型アームレストは使用されていない。デスク型アームレストは、アームレストが湾曲しテーブルの下の空間に入りやすいものである。
4.× ノブ付きハンドリムは使用されていない。ノブ付きハンドリムは、ハンドリムを把持できない方に用いられる。この車椅子には波型ハンドリムが実装されている。
5.〇 正しい。トグル式プレーキは使われている部品である。トグル式ブレーキは、従来のレバーブレーキよりも少ない力で簡単に固定することができる。

 

4 COMMENTS

大川 純一

ご返信ありがとうございます。
「厚生労働省が掲載している46回理学療法士国家試験の正答値表」を確認してまいりましたが、14番は、正答値表・当ブログのホームページでも「答え5」と一致しております。
私自身の理解ができていない可能性もございますので、お手数をおかけしますが、もう少し詳しく説明していただけると幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
匿名

14番ホームページでは答え5になっているのですがどちらが正しいのでしょうか

返信する
大川 純一

コメントありがとうございます。
「どちらが正しいのでしょうか?」というのは、「答え5」と何を参考にしているのでしょうか?
理解力がなく申し訳ございません。
補足説明していただければと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する

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