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6 65歳の男性。右上腕外側の持続圧迫による橈骨神経麻痺。発症後3日。橈骨神経領域の感覚障害がある。Danielsらの徒手筋力テストで腕橈骨筋3、橈側手根伸筋2、尺側手根伸筋2、指伸筋2、長母指外転筋2、示指伸筋1である。
この患者に対する作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。
1.手関節の伸展他動運動
2.MP関節伸展の抵抗運動
3.Capener装具による示指伸張
4.コックアップスプリントの装着
5.手関節伸筋に対する遠心性収縮による筋力強化
解答1・4
解説
65歳の男性(橈骨神経麻痺)
橈骨神経領域の感覚障害。
MMT:腕橈骨筋3、橈側手根伸筋2、尺側手根伸筋2、指伸筋2、長母指外転筋2、示指伸筋1。
1.〇 正しい。手関節の伸展他動運動を実施する。なぜなら、MMT2レベルだと自動運動にて全可動域を動かすことは困難であるため。他動運動により可動域を確保する。
2.× MP関節伸展の抵抗運動の優先度は低い。なぜなら、MMT2レベルだと自動運動にて全可動域を動かすことは困難であるため。ちなみに、MP関節伸展の主動作筋は指伸筋である。
3.× Capener装具(カプナー装具)による示指伸張の優先度は低い。なぜなら、PIP関節の伸展拘縮・尺骨神経麻痺などに利用するため。ちなみに、Capener装具(カプナー装具)とは、ワイヤー(ピアノ線によるバネ)によって手指を屈曲位に保持する装具である。
4.〇 正しい。コックアップスプリントの装着する。なぜなら、手関節背屈位に保持する働きを持ち、橈骨神経麻痺に適応となるため。下垂手のまま拘縮することを防ぐ。
5.× 手関節伸筋に対する遠心性収縮による筋力強化の優先度は低い。なぜなら、橈側手根伸筋および尺側手根伸筋がMMTで段階2レベルであるため。ちなみに、遠心性収縮とは、加えられた負荷が筋張力よりも大きく、筋は収縮しているが伸びる状態のこと。これは最大張力の場合だけでなく、種々の筋張力レベルで起こる。日常の運動動作は、重力方向との関係で身体の種々の部分で遠心性収縮が起きている。遠心性収縮は、筋力増強効果が大きいとされるが、筋の損傷も大きい。筋力増強効果は、遠心性→等尺性→求心性の順に大きい。
7 78歳の女性。脳梗塞の右片麻痺。発症後3か月経過。右上肢のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅱ。感覚障害はない。徐々に上肢の関節拘縮が進んできた。患者の車椅子座位の写真を下図に示す。
この患者に対する作業療法で適切なのはどれか。
1.手関節屈筋にTENSを行う。
2.速い他動運動で筋の伸張を行う。
3.肘屈曲型アームスリングを装着する。
4.上腕二頭筋に温熱を加えて伸張する。
5.手関節伸展用の動的スプリントを装着する。
解答4
解説
・78歳の女性(脳梗塞の右片麻痺)。
・発症後3か月経過。
・右上肢のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅱ。感覚障害はない。
1.× 手関節屈筋にTENSを行う優先度は低い。なぜなら、TENS(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:経皮的末梢神経電気刺激法)は、電気刺激により疼痛軽減の効果(ゲートコントロール理論)に適応となるため。また、本症例は写真からも屈曲拘縮をきたしている。したがって、痙縮の治療目的でEMS(神経筋電気刺激)などを与えるにしても、相反抑制による拮抗筋(手関節伸筋)がターゲットとなる。
2.× 速い他動運動で筋の伸張を行う優先度は低い。なぜなら、痙縮がさらに増悪する可能性が高いため。痙縮は「腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性増加を特徴とする運動障害で、伸張反射の亢進の結果生じる上位運動ニューロン症候群の一徴候」と定義されている。つまり、速い他動運動での伸張は逆に屈筋群の痙性を強めることや、疼痛や損傷の原因となりうるため、伸張を行う際にはゆっくりと行う。
3.× 肘屈曲型アームスリングを装着する優先度は低い。なぜなら、すでに肘関節屈筋群の緊張が高まっている状態であるため。ちなみに、肘屈曲型アームスリングは肩関節亜脱臼(弛緩性麻痺)に用いられる。
4.〇 正しい。上腕二頭筋に温熱を加えて伸張する。温熱療法の作用は様々であるが、痙性の減弱に効果があるとの報告がある。ちなみに、温熱療法の禁忌は、①急性炎症、②悪性腫瘍、③感覚障害と意識障害、④出血傾向、⑤循環障害・動脈硬化などである。いずれも本症例には当てはまらない。
5.× 手関節伸展用の動的スプリントを装着する優先度は低い。なぜなら、右上肢のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅱであるため。痙性が高く随意性が低い。
8 65歳の女性。左被殻出血。発症後4日。ベッドサイドでの作業療法が開始された。JCS(Japan coma Scale)はⅠ-1だが問いかけに対する返答に間違いが多い。
初回の作業療法評価として適切なのはどれか。2つ選べ。
1.STEF
2.関節可動域測定
3.三宅式記銘力検査
4.カナダ作業遂行測定(COPM)
5.Brunnstrom法による運動検査
解答2・5
解説
・65歳の女性(左被殻出血)
・発症後4日(JCS:Ⅰ-1見当識は保たれているが意識清明ではない状態)
・問いかけに対する返答に間違いが多い。
→この状態で信頼できる検査結果が得られる評価を実施する。
1.× STEF(Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)は、上肢の動作能力、特に動きの速さを客観的に、しかも簡単かつ短時間(20~30分)に把握するための評価法である。10種類のテストからなり、それぞれ大きさや形の異なる物品を把持して移動させ、一連の動作に要した時間を計測し、所要時間を決められた点数(1~10点)に当てはめて、右手と左手との差を左右別に合計点数を算出する。また参考値との比較も可能である。
2.〇 正しい。関節可動域測定は、他動的に関節を動かし測定するため本症例の状態でも正確に測定できる。
3.× 三宅式記銘力検査とは、記憶の形成、保持、再生と注意機能を評価する検査である。2つずつ対にした「有関連対語10対」と「無関係対語10対」を読んで聞かせたあとに、片一方を読んでもう一方を想起させて10点満点の得点とし、同じことを3回繰り返す。
4.× カナダ作業遂行測定(COPM:Canadian Occupational Performance Measure)とは、患者が現時点で改善したいと考える活動と、それらの重要度、遂行度、満足度を10点満点で示したものである。第1段階~第4段階まである。第4段階は、再評価となり、各問題の遂行度と満足度をクライエントがもう一度評定する。総スコアを計算し、初回評価時と再評価時の変化を見る。
5.〇 正しい。Brunnstrom法による運動検査は、模倣でも可能であるため本症例の状態でも正確に測定できる。
9 21歳の男性。脊髄損傷(第5頸髄節まで機能残存)。車椅子上での訓練場面を下図に示す。
この訓練姿勢と関連のある日常生活動作はどれか。
1.除圧動作
2.寝返り動作
3.足上げ動作
4.ズボン着脱動作
5.プッシュアップ動作
解答1
解説
第5頚髄節の機能残存レベルは、三角筋と上腕二頭筋が残存しており、肩関節運動、肘関節屈伸・回外が可能である。プッシュアップ動作はできないため、平地では車椅子や電動車椅子を使用する。
1.〇 正しい。除圧動作は、設問の写真と関連のある日常生活動作である。設問の写真の姿勢は側方への倒れ込みであり、除圧をする際に行われる。第5頸髄損傷者が除圧をする際には、写真のように前腕遠位を車椅子のグリップに引っ掛けて体幹を側方に倒れ込ませることによって行う。
2~3.× 寝返り動作/足上げ動作は、写真の動作とは関係は低い。ちなみに、足上げ動作とは、上肢を大腿後面に入れ持ち上げる動作のことである。C6レベルから可能である。
4~5.× ズボン着脱動作/プッシュアップ動作は、写真の動作とは関係は低い。ズボンの着脱およびプッシュアップは手関節の背屈が可能な第6頸髄損傷レベルから可能である。
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【OT/共通】脊髄損傷についての問題「まとめ・解説」
10 42歳の女性。多発性硬化症による両側視神経炎を伴う四肢麻痺。筋力低下が進行し、移動には車椅子を使用している。Danielsらの徒手筋力テストでは上肢近位部3+、遠位部4。有痛性けいれんがある。
この患者に対する作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。
1.木工作業で本棚を作る。
2.七宝焼きでピアスを作る。
3.ざる編みで籐カゴを作る。
4.卓上編み機でマフラーを編む。
5.小さな刻印で革に模様をつける。
解答3・4
解説
・42歳の女性(多発性硬化症)。
・両側視神経炎を伴う四肢麻痺、筋力低下。
・移動:車椅子。
・MMT:上肢近位部3+、遠位部4。
・有痛性けいれん。
1.× 木工作業で本棚を作る優先度は低い。なぜなら、視力低下・複視を伴い危険であるため。また、作業全体の上肢への負荷量が大きい。
2.× 七宝焼きでピアスを作る優先度は低い。なぜなら、細かい作業となり、視力が要求されるため。本症例では両側視神経炎を伴った四肢麻痺であり、視力が要求される細かい作業や筋力の必要な作業は困難である。
3.〇 正しい。ざる編みで籐カゴを作る。視力や筋力があまり要求されず実施できる。
4.〇 正しい。卓上編み機でマフラーを編む。卓上編み機は、視認性が低くても比較的使用が容易である。また、大きな力を必要せず、また細かい作業が少なく休みながらの作業が可能である。
5.× 小さな刻印で革に模様をつける優先度は低い。なぜなら、視力低下・複視を伴い危険であるため。また、細かい作業であり、巧緻性が必要な作業であるため。負荷が大きく本症例では筋力低下により木槌は使用できない可能性もある。
多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。
(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)
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