第48回(H25) 作業療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 35歳の男性。生来健康であった。転倒し右肘頭骨折を受傷した。術後のエックス線写真を下図に示す。骨折部や全身の状態は良好である。
 この患者の作業療法で最も注意すべき合併症はどれか。

1.偽関節
2.変形治癒
3.遷延治癒
4.異所性骨化
5.Sudeck 骨萎縮

解答4

解説

中肘骨折とは?

 中肘骨折は、成人において発症頻度も高く、不適切な治療により偽関節や関節拘縮を生じやすい。多くは関節内骨折で、骨端は上腕三頭筋により後上方へ転位する。そのため、手術ではテンションバンドワイヤリング(引き寄せ締結)法を行うことが多く、本症例もこの術式である。自発痛や運動痛、腫脹などの症状があり、尺骨神経麻痺を合併することもある。

1、3. × 偽関節/遷延治癒は、最も注意すべき合併症とはいえない。遷延治癒とは、骨折治癒機転が遅れた状態である。偽関節とは、骨折端に骨癒合機能が消失した状態をいう。原因としては、①不適切な治療と固定性の不良、②固定期間の不足・受傷時の骨折の状態(骨片間の転位が大きい、骨折部の粉砕が強い、開放骨折で感染の影響など)が影響する。本症例では、手術でしっかりと固定されており、術後も骨折部や全身の状態は良好であったことから、偽関節や遷延治癒は考えにくい。
2.× 変形治癒は、最も注意すべき合併症とはいえない。変形治癒とは、転位を残したまま骨癒合が完了した状態である。鈎状突起骨折を伴わない頭骨頭骨折+肘関節後方脱臼では、保存治療を行うと頭骨頭の変形治癒に伴う前腕回旋制限を起こしやすいとされている。本症例では鈎状突起を骨折しており、合併症としては考えにくい。
4.〇 正しい。異所性骨化は、最も注意すべきである。肘関節では、他の関節と比べて異所性骨化が起きやすい。異所性骨化とは、本来骨組織が存在しない部位(筋・筋膜・靱帯・関節包など)に異常に骨形成が起こる現象である。石灰化との違いは、骨梁構造を認める点である。 好発部位は股関節・膝関節・肩関節・肘関節などである。
5.× Sudeck骨萎縮(ズディック骨萎縮)は、最も注意すべき合併症とはいえない。急性反射性骨萎縮(Sudeck 骨萎縮)とは、骨折や外傷後に急速に骨萎縮が出現することである。手関節の外傷や骨折後に続発することが多い

 

 

 

 

 

 

7 76歳の女性。右大腿骨頸部骨折を受傷し、後方進入による人工骨頭置換術を受けた。
 術後3週に実施する動作で安全性が高いのはどれか。

1.床に座る
2.椅子に座る
3.浴槽をまたぐ
4.靴を履く
5.床に落ちた物を拾う

解答5

解説

人工骨頭置換術の患側脱臼肢位

①後方アプローチ:股関節内転内旋過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展

1.× 図のような床に座る姿勢は控える。なぜなら、床座りやとんび座りは股関節過屈曲・内旋位をとり、股関節に負担をかけるため。適切な高さでの椅子での生活を指導する。
2.× 図のような椅子に座る姿勢は控える。なぜなら、図の椅子では座面が低く、股関節が過屈曲となるため。ただし、適切な高さの椅子での生活は好ましい。
3.× 図のような浴槽をまたぐ姿勢は控える。なぜなら、図の入浴動作は股関節が過屈曲となっているため。手すりを把持し立ったまま浴槽をまたぐよう指導する。
4.× 図のような靴を履く姿勢は控える。なぜなら、前屈のみの姿勢をとると股関節が過屈曲となるため。靴ベラを使用するよう指導することが多い。
5.〇 正しい。図では、健側を軸足にして股関節を屈曲せずにリーチャーを使用している。股関節に負担がないため適切である。その他に、床の物は患側を後ろにずらして拾うという方法がある。患側を後ろにずらすことで股関節伸展させ、過屈曲を避けられる。

 

 

 

 

 

8 68歳の女性。関節リウマチ。右利き。夫との2人暮らし。肩関節と肘関節に可動域制限はない。膝関節痛の鎮痛のために坐薬を用いている。手関節痛が強いときには夫が家事を行っているが、できるだけ自分でやりたいという気持ちが強い。手指の写真とエックス線写真とを別に示す。
 この患者に対する自助具で適切なのはどれか。2つ選べ。

解答1/5

解説

”関節リウマチとは?”

関節リウマチは、関節滑膜を炎症の主座とする慢性の炎症性疾患である。病因には、遺伝、免疫異常、未知の環境要因などが複雑に関与していることが推測されているが、詳細は不明である。関節炎が進行すると、軟骨・骨の破壊を介して関節機能の低下、日常労作の障害ひいては生活の質の低下が起こる。関節破壊(骨びらん) は発症6ヶ月以内に出現することが多く、しかも最初の1年間の進行が最も顕著である。関節リウマチの有病率は0.5~1.0%とされる。男女比は3:7前後、好発年齢は40~60歳である。
【症状】
①全身症状:活動期は、発熱、体重減少、貧血、リンパ節腫脹、朝のこわばりなどの全身症状が出現する。
②関節症状:関節炎は多発性、対称性、移動性であり、手に好発する(小関節)。
③その他:リウマトイド結節は肘、膝の前面などに出現する無痛性腫瘤である。内臓病変は、間質性肺炎、肺線維症があり、リウマトイド肺とも呼ばれる。
【治療】症例に応じて薬物療法、理学療法、手術療法などを適宜、組み合わせる。

(※参考:「関節リウマチ」厚生労働省HPより)

関節保護の原則とは?

関節リウマチ患者に対する日常生活の指導は、関節保護の原則に基づき行う。関節保護の原則とは、疼痛を増強するものは避けること、安静と活動のバランスを考慮すること、人的・物的な環境を整備することがあげられる。変形の進みやすい向きでの荷重がかからないように手を使う諸動作において、手関節や手指への負担が小さくなるように工夫された自助具が求められる。

1.〇 ドアオープナーは、手指および手関節の負担軽減のために用いられる。
2.× キーボードカバーは、運動失調のある患者に用いられる。
3.× リーチ制限に対応した座薬注入器である。本症例にはリーチ制限は生じていない。
4.× 長柄ブラシは、リーチ制限を代償するための自助具である。
5.〇 柄に角度のついた包丁は、関節リウマチの生じる手の変形に対応する。

類似問題はこちら↓

【OT専門のみ】関節リウマチについての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

9 正常発達の子どもの姿勢を図に示す。
 この時期に、遠城寺式乳幼児分析的発達検査表に示される項目で獲得できているのはどれか。

1.ガラガラを振る。
2.人見知りをする。
3.身ぶりをまねする。
4.ひとりで座って遊ぶ。
5.音声をまねようとする。

解答1

解説

対称性緊張性頸反射(STNR)とは?

刺激と反応:腹臥位(水平抱き)で頭部を伸展させると、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、上肢は伸展、下肢は屈曲し、頭部を屈曲させると逆に上肢は屈曲、下肢は伸展する。

出現と消失時期:4~6 ヵ月に出現、8~12ヵ月まで。

反射が苦手な方はこちら↓

【暗記用】姿勢反射を完璧に覚えよう!

1.〇 正しい。ガラガラを振るのは、4~5ヵ月に獲得する。
2/5.× 人見知りをする/音声をまねようとするのは、10~11ヵ月に獲得する。 
3.× 身ぶりをまねするのは、9~10ヵ月に獲得する。
4.× ひとりで座って遊ぶのは、7~8ヵ月に獲得する。

 

 

 

 

 

 

10 45歳の女性。2〜3年前から上肢の筋力低下の進行と嚥下障害が認められ、筋萎縮性側索硬化症と診断された。現在、上肢の筋力はMMTで肩関節周囲2-、手指筋2、頸部・体幹筋と下肢は3。移動は車椅子介助、車椅子への移乗も軽介助を必要とする。食事はポータブルスプリングバランサーを使用して自立しており、その他のADLは全介助となっている。発声によるコミュニケーションは可能だが、呼吸機能は徐々に低下している。
 この患者に今後導入が予想されるコミュニケーション機器はどれか。2つ選べ。

解答3/5

解説

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

1.× 人工喉頭である。喉頭摘出や気管切開術後の患者のための福祉用具である。筋萎縮性側索硬化症では喉頭の異常により声が出せなくなるわけではなく、また上肢の筋力を考えると、図に示すように自身で機器を操作することも難しいので、適応ではない。 
2.× 助聴具(もしもしフォン)である。軽~中等度程度の難聴の高齢者のための福祉用具である。耳元で大きな声で話すことなく、声を大きく、聞き取りやすくすることができる。
3.〇 透明文字盤である。筋萎縮性側索硬化症では、末期まで眼球運動保持されるため、発声困難となった場合、透明文字盤を用いて会話(アイコンタクト)することができる。
4.× ボタンが大きく、操作性や視認性に配慮した福祉電話である。現在、発声によるコミュニケーションは可能であるが、呼吸機能が徐々に低下してきており、近しいと考えられるので、今後のコミュニケーション手段として適切ではない。
5.〇 意思伝達装置である。意思伝達装置は、指先や目のまばたき等でスイッチ操作し、文章を作成することのできるコミュニケーション手段である。図では、目の下部にセンサーが取り付けられている。この先、四肢の筋力は一層に低下し指先での操作は難しくなることが予想されるため、いずれこの意思伝達装置が導入されると考えられる。

類似問題です↓
【OT/共通】筋萎縮性側索硬化症についての問題「まとめ・解説」

 

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