第59回(R6)作業療法士国家試験 解説【午後問題41~45】

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41 PTSDで誤っているのはどれか。

1.アンヘドニアがみられる。
2.アルコール乱用の要因となる。
3.小さな物音に敏感に反応する。
4.外傷体験の直後は詳しく体験を語らせる。
5.フラッシュバックによる心的外傷の再体験がみられる。

解答

解説

PTSDとは?

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、大規模な災害や事故の現場、他人の悲惨な死など、心理的に大きなストレスを受ける状況下に居合わせた場合、1か月以上心的外傷による障害が持続した場合に生じる。典型的な症状として、①感覚や情動の鈍化、②心的外傷を想起するような状況の回避、③再現的で侵入的な回想(フラッシュバック)や悪夢、④過覚醒、⑤驚愕反応の亢進などが認められる。

1.〇 正しい。アンヘドニアがみられる。アンヘドニアとは、無快楽症ともいい、喜びや楽しみを感じられないこと。統合失調症やうつ病、PTSDなどにみられる症状の一つである。
2.〇 正しい。アルコール乱用の要因となる。なぜなら、外傷的な出来事に関する苦痛な記憶を繰り返し(再体験)、アルコールを乱用することで苦痛を回避しようとするため。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人は、アルコール依存症などの合併症を引き起こす可能性が80~90%という報告もある。
3.〇 正しい。小さな物音に敏感に反応する。なぜなら、心の傷に関わるものを避けるようになることが影響しているといわれているため。感情が麻痺して鈍感になる。
4.× 外傷体験の直後は詳しく体験を語らせることはしない。なぜなら、外傷体験の直後は、詳しく体験を語ることでさらに症状(フラッシュバック)を悪化させる可能性があるため。
5.〇 正しい。フラッシュバックによる心的外傷の再体験がみられる。典型的な症状として、①感覚や情動の鈍化、②心的外傷を想起するような状況の回避、③再現的で侵入的な回想(フラッシュバック)や悪夢、④過覚醒、⑤驚愕反応の亢進などが認められる。

 

 

 

 

 

42 小学校高学年の注意欠如多動性障害で高頻度にみられる症状はどれか。

1.ケアレスミスが多い。
2.自分の氏名が書けない。
3.自ら同級生との接触を避ける。
4.家庭では普通に話すが学校では発語が乏しい。
5.忘れ物がないか気になり何度も確認してしまう。

解答

解説

注意欠陥多動性障害(ADHD)とは?

注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、発達障害の一つであり、脳の発達に偏りが生じ年齢に見合わない①注意欠如、②多動性、③衝動性が見られ、その状態が6ヵ月以上持続したものを指す。その行動によって生活や学業に支障が生じるケースが多い。治療として、①まず、行動療法を行う。②改善しない場合は、中枢神経刺激薬による薬物療法を用いる。中枢を刺激して、注意力・集中力を上げる。※依存・乱用防止のため、徐放薬が用いられる。

1.〇 正しい。ケアレスミスが多いのは、小学校高学年の注意欠如多動性障害で高頻度にみられる症状である。ケアレスミスとは、知識や能力の不足ではなく、不注意による誤り、そそっかしい間違いのことである。注意欠陥多動性障害は、①注意欠如、②多動性、③衝動性が見られるためケアレスミスが多い。
2.× 自分の氏名が書けないのは、書字障害ゲルストマン症候群で見られる。書字障害は、特定の活動(この場合は書くこと)に対する能力の低下を示している。学習障害の一種である。ゲルストマン症候群とは、優位球の角回の障害で起こる①手指失認、②左右失認、③失書、④失算の四徴のことである。
3.× 自ら同級生との接触を避けるのは、境界性パーソナリティー障害で見られる。境界性パーソナリティ障害とは、対人関係・自己像・感情の不安定・著しい衝動性を特徴とする。情緒が不安定で衝動性が亢進し、対人関係を良好に維持することが困難である。衝動的な浪費、奔放な異性関係、自傷行為、見捨てられ不安などがみられる。
4.× 家庭では普通に話すが学校では発語が乏しいのは、選択性緘黙で見られる。選択性緘黙(場面緘黙)とは、学校や会社など特定の状況下で話すことができないという疾患のこと。緘黙(かんもく)と読む。性格によるものではなく、対人コミュニケーションに対する強い不安が根底にあるとされている。
5.× 注意欠陥多動性障害(ADHD)は、忘れ物がないか気になり何度も確認してしまうことをしない。なぜなら、①注意欠如のため、確認をおろそかにしていることが多い。したがって、忘れ物が多い特徴を持つ。ちなみに、何度も不合理的に確認することを強迫という。強迫性障害とは、自らは不合理だと思っている考えが繰り返し浮かび(強迫観念)、それを打ち消すためにやはり不合理な行為を繰り返してしまうこと(強迫行為)をいう。

 

 

 

 

43 せん妄の対応で正しいのはどれか。

1.感覚を遮断する。
2.抗精神病薬は無効である。
3.積極的に身体拘束を行う。
4.興奮時は強い口調で注意する。
5.身体疾患の治療を並行して行う。

解答

解説
1.× 感覚を遮断する必要はない。むしろ、せん妄は心理的因子も発生要因である。感覚を遮断することで脳が混乱しやすい状況となりえるため、ある程度の感覚(寝室を薄暗くするなど)は必要である。
2.× 抗精神病薬は「無効」ではなく有効である。せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。せん妄の症状が強い場合や原因への対処が難しい場合は、対症療法として抗精神病薬が使用される。抗精神病薬は、脳内のドーパミン神経の活動を抑えることにより、幻覚や妄想、作為体験などの精神病症状に対して効果を有する薬物の総称である。主に統合失調症や双極性障害などの精神疾患の治療を目的として用いられる。
3.× 積極的に身体拘束を行う必要はない。なぜなら、身体拘束はせん妄の改善に効果が薄いため。むしろ、せん妄は心理的因子も発生要因であるため、せん妄の症状を増悪させる恐れがある。また、身体拘束には条件がある。身体拘束が認められるためには、①切迫性(緊急性)、②非代替性(他の方法が利用できない場合)、③一時性(限られた期間のみ使用)の3つの要件がすべて満たされていなければならない。また、身体拘束の使用は最小限に抑えられるべきであり、その目的、適切な方法、持続期間などについて慎重に評価される必要がある。
4.× 興奮時は強い口調で注意する必要はない。なぜなら、せん妄は、軽度~中等度の意識障害も伴っており、強い口調で注意しても改善は見込めないため。むしろ、興奮症状も見られるため、よりせん妄の症状を増悪させる恐れがある。
5.〇 正しい。身体疾患の治療を並行して行う。なぜなら、せん妄の誘発要因として、身体疾患があげられるため。脳疾患、心疾患、外科的手術後、心理的因子、薬物、環境にも起因する。

せん妄とは?

せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。
【原因】脳疾患、心疾患、脱水、感染症、手術などに伴って起こることが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。

【症状】
①意識がぼんやりする。
②その場にそぐわない行動をする。
③夜間に起こることが多い。 (夜間せん妄)
④通常は数日から1週間でよくなる。

【主な予防方法】
①術前の十分な説明や家族との面会などで手術の不安を取り除く。
②昼間の働きかけを多くし、睡眠・覚醒リズムの調整をする。
③術後早期からの離床を促し、リハビリテーションを行う。

 

 

 

 

 

44 アルコール依存症の治療で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.抗酒薬が治療の中心である。
2.診断には脳波検査が必須である。
3.家族の共依存に対して働きかける。
4.自助グループへの参加が有効である。
5.重症の身体合併症の治療は依存症の改善後に行う。

解答3・4

解説

1.× 抗酒薬が治療の中心「とはいえない」。アルコール依存症の根幹となる治療が、心理社会的治療である。心理社会的治療は、患者さんの断酒しようとする気持ちを維持して支えるために、お酒を飲まない習慣を身に付けること、良好な人間関係を構築・維持していくこと、社会生活上のストレスに打ち勝つことを目的に行われる。ちなみに、抗酒薬は、嫌酒薬ともいい、その名の通り、お酒を飲まないようにする薬である。その機序として、①アルデヒド脱水素酵素の働きを抑制する。②アセトアルデヒドが分解されず体内に長く留まる。③吐き気や頭痛,などの不快症状を引き起こす。薬物療法に至って、抗酒薬に限らず抗不安薬抗渇望薬を処方する。
2.× 診断には脳波検査が「必須ではない」。なぜなら、脳波検査は、主にてんかんを判断する検査であるため。脳波とは、その電気の波を頭皮上に装着した電極より記録し、大脳の活動状態を調べるものである。脳波検査では一般的に、てんかんなどの発作性意識障害の鑑別、脳腫瘍や脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、頭部外傷などで中枢神経系の異常を疑う場合、薬物等による中毒やそれらに伴う意識障害の時などに行われる。
3.〇 正しい。家族の共依存に対して働きかける。なぜなら、アルコール依存症は、イネイブラー(enabler)である家族と患者との共依存が問題となる疾患であるため。共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態を指す。依存症・アディクション(嗜癖:しへき)は、「身体的・精神的・社会的に、自分の不利益や不都合となっているにもかかわらず、それをやめられずに反復し続けている状態」である。ちなみにイネイブラー(enabler)とは、嗜癖その他の問題行動を陰で助長している身近な人のことを指す。「世話焼き人」などと訳されることが多い。
4.〇 正しい。自助グループへの参加が有効である。自助グループとは、共通の悩みを持つ当事者や家族が互いに支えあって、問題に向き合うことを目的に自主的に形成されたグループのことをいう。アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。
5.× 重症の身体合併症の治療は、依存症の「改善後」ではなく同時に行う。アルコール依存症になると、身体合併症(肝炎や肝硬変など)になる可能性が高まる。特に、アルコール依存症の解毒期においては、合併症の治療(振戦せん妄による合併する身体および精神症状を改善)するため、アルコール依存症と併行して治療を進める必要がある。

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

 

 

 

 

 

45 統合失調症の認知機能障害の改善に焦点を当てたプログラムで、パソコン上の教育用ソフトウェア課題を用いるのはどれか。

1.LASMI
2.NEAR
3.SCIT
4.SFS
5.WRAP

解答

解説
1.× LASMI(Life Assessment Scale for the Mentally Ill:精神障害者社会生活評価尺度)は、精神障害者の社会機能を検査する評価法である。精神障害のある人の生活を包括的に評価するための尺度である。5つの大項目(①日常生活、②対人関係、③労働または課題遂行能力、④持続性・安定性、⑤自己認識)からなる。評価は過去1ヶ月間の行動について、0~4点の5段階で評価する。
2.〇 正しい。NEARは、統合失調症の認知機能障害の改善に焦点を当てたプログラムで、パソコン上の教育用ソフトウェア課題を用いる。NEAR(Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation:認知矯正療法)とは、統合失調症患者を対象とし、記憶力・集中力・物事の段取りを考えて実行する能力などの認知機能障害の改善を図るためのリハビリテーションである。動機づけを高めるため、コンピュータゲームを使用するところに特徴がある。参加可能基準は、主に7つ挙げられ、①年齢は13歳~65歳、②知的レベルは境界以上、③取りレベルは小学4年生以上、④現時点で物質及びアルコール乱用者ではない、⑤何らかの中毒における解毒から1ヵ月以上経過している、⑥過去3年間に頭部外傷歴がない、⑦セッションの間座っていられる程度に精神症状が安定していることがあげられる。
3.× SCIT(Social Cognition and Interaction Training:社会認知と対人関係のトレーニング)は、統合失調症患者の社会認知の障害を治療ターゲットとする、対人関係改善のためのグループワークトレーニングである。
4.× SFS(Social Functioning Scale:社会機能評価尺度)は、慢性期の統合失調症における家族介入の効果を測定するため、コミュニティでの生活の維持において重要な機能を評価する尺度である。19項目の質問用紙で行う。
5.× WRAP(Wellness Recovery Action Plan:元気回復行動プラン)は、重篤な精神科患者であっても元気になって回復できる方法があり、そのためのプランについて、自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである。①リカバリーに大切なこと、 ②元気に役立つ道具箱をベースに6つのプラン「①日常生活管理プラン、②引き金になる出来事に気づき対応するための行動プラン(外的要因)、③注意サインに気づき対応するための行動プラン(内的要因)、④調子が悪くなってきているときのサインに気づき対応するための行動プラン、⑤クライシス(緊急状況)プラン、⑥クライシス後プラン」について、自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである。

”統合失調症とは?”

統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。

(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)

 

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