第59回(R6)理学療法士国家試験 解説【午後問題36~40】

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36 二重積の規定因子はどれか。2つ選べ。

1.呼吸数
2.心拍数
3.一回拍出量
4.収縮期血圧
5.動静脈酸素較差

解答2・4

解説

二重積(ダブルプロダクト)とは、最高血圧(収縮期血圧)と心拍数を掛け合わせた指標である。心臓への負荷と全身の酸素消費量を測る指標で、心血管事故を予測できるリスク因子だといわれている。また、二重積屈曲点は、運動強度の増加に伴う生体反応において、血中乳酸濃度が急増する乳酸閾値(LT)を簡便に測定する方法である。

1.× 呼吸数は、二重積の規定因子とはいえない。呼吸数はバイタルサインの一つで、成人の呼吸数の基準値は12~18回/分である。バイタルサインとは、生命徴候のことで、脈拍、呼吸、体温、血圧、意識レベルの5つである。
2.4.〇 正しい。心拍数/収縮期血圧は、二重積の規定因子である。二重積(ダブルプロダクト)とは、最高血圧(収縮期血圧)と心拍数を掛け合わせた指標である。
3.× 一回拍出量は、二重積の規定因子とはいえない。一回拍出量とは、一回の心拍で心臓から送り出す血液量のことである。
5.× 動静脈酸素較差は、二重積の規定因子とはいえない。動静脈酸素較差とは、動脈血に含まれる酸素量と静脈血に含まれる酸素量の差のことである。

年齢別の脈拍数

・胎児:140〜160/分
・新生児:120〜140/分
・乳児:110〜130/分
・幼児:100〜110/分
・学童:80〜90/分
・成人:70〜80/分

 

 

 

 

 

37 痙直型脳性麻痺児の陽性徴候はどれか。

1.運動麻痺
2.感覚障害
3.共同運動
4.筋力低下
5.巧緻運動障害

解答

解説

陽性徴候と陰性徴候

陽性徴候とは、普段出ていないけど病気になることで出現する症状のことである。
例えば、クローヌス、痙縮、バビンスキー反射、連合反応などである。

陰性徴候とは、普段持っている能力(健常者が持っている能力)が失われることである。
例えば、筋力低下、巧緻性の低下、疲労感などである。

1~2.5.× 運動麻痺/感覚障害/筋力低下/巧緻運動障害は、痙直型脳性麻痺児の陰性徴候である。
3.〇 正しい。共同運動は、痙直型脳性麻痺児の陽性徴候である。

脳性麻痺とは?

脳性麻痺とは、お腹の中にいる間から、生後4週間までの間に発生した脳への損傷によって引き起こされる運動機能の障害を指す。失調型やアテトーゼ型などのタイプがある。アテトーゼとは、顔や手足をゆっくりと動かしてしまうものである。身体が突っ張ったり捻じれたりするジストニア、顔や手足をゆっくりと動かしてしまうアテトーゼ、踊るように身体を振ってしまう舞踏運動、上肢や下肢をいきなり大きく振り回してしまうバリズムなどがある。痙直型脳性麻痺の場合、股関節が屈曲・内転・内旋しやすく、尖足になりやすい。痙直型の特徴として、①機敏性の低下、②筋力低下、③脊髄反射の亢進などである。それらに加えて、脊髄レベルでの相反神経作用の障害として、動筋と拮抗筋が同時に過剰収縮を起こす病的な同時収縮や痙直の強い拮抗筋からの過剰な緊張性相反性抑制による④動筋の機能不全がみられる。

 

 

 

 

38 四肢切断後の幻肢痛への対応で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.ミラーセラピーが有用である。
2.経皮的電気刺激法は禁忌である。
3.義肢装着練習は幻肢痛を増悪させる。
4.患者に幻肢痛が残存している部位をイラストで図示させる。
5.鎮痛薬はプレガバリンよりも非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を優先する。

解答1・4

解説
1.〇 正しい。ミラーセラピーが有用である。ミラーセラピー(mirror therapy)とは、鏡を使用して運動の視覚フィードバックを与える治療法である。矢状面で両肢間に鏡を設置し、鏡に映された一側肢が鏡に隠れた反対側肢の位置と重なるようにする。切断や麻痺などの患側肢の遠位部に健側肢の映った鏡像がつながって見えることで、患側肢が健常な実像であるかのように感じさせながら運動を行う。ほかにも、心因性の要素が関係するため薬物療法以外の治療法 (バイオフィードバック、リラクセーション訓練、認知行動族法、経皮的電気神経刺激法【TENS】 など)も用いられる。
2.× 経皮的電気刺激法は、「禁忌」ではなく適応である。経皮的電気刺激法(TENS)の電流が正常な皮膚の表面を通過して下部の神経を活性化する(※参考:「成人における切断術後の幻肢痛および断端痛に対する経皮的電気神経刺激(TENS)」Cochrane様HPより)。ただし、文献によって意見はさまざまである。一般的に、「経皮的電気神経刺激(TENS)、 鍼治療、脊髄刺激療法によって痛みが和らぐことがある」と記載されている(※引用:「残存肢の痛み(幻肢痛、幻肢感覚)」MSDマニュアル家庭版様HPより)。
3.× 義肢装着練習は、幻肢痛を「増悪させる」と言い切れない。むしろ、軽減する結果も見込める。なぜなら、幻視痛は、心因性の要素が関係するため。「幻肢痛は実際には存在しない場所の痛みであるため、直接手当てをすることができません。ときにはこの痛みのために義足の装着訓練を中止しなければならないことも起こります。一方、義足を装着すると幻肢痛が和らいだという方もいます。ひとによって感じ方が異なります。」と記載されている(※引用:「はじめての義足」国立障害者リハビリテーションセンター様HPより)。
4.〇 正しい。患者に幻肢痛が残存している部位をイラストで図示させる。なぜなら、切断側のボディーイメージの乱れが生じている可能性が高いため。イラストで図示してもらうことにより、イメージの改善につながりやすい。幻肢・幻肢痛とは、腕や足の切断後、失ったはずの感覚があり、かつそこに痛みを感じる状態である。
5.× 逆である。鎮痛薬は「非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉」よりも「プレガバリン」を優先する。なぜなら、幻肢痛の痛みは、炎症による痛みではないため。非ステロイド性抗炎症薬<NSAIDs>は、炎症などを引き起こすプロスタグランジンの生成を抑え、抗炎症作用や解熱、鎮痛に働く。副作用として、消化器症状(腹痛、吐き気、食欲不振、消化性潰瘍)、ぜんそく発作、腎機能障害が認められる。したがって、非ステロイド性抗炎症薬が効果的であるのは、侵害受容性疼痛である。幻肢痛の薬物療法として、鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)、三環系抗うつ薬抗痙攣薬、プレガバリン(リリカ)などの抗てんかん薬が、神経痛の治療に使われることがある。コデインやモルヒネなどのオピオイド系の薬を使用することもあるが、医師の指示のもと、適切な量の調節が必要である(※参考:「幻肢痛」慢性通治療の専門医による痛みと身体のQ&A様HPより)。

幻肢・幻肢痛とは?

幻肢・幻肢痛とは、腕や足の切断後、失ったはずの感覚があり、かつそこに痛みを感じる状態である。切断をした人の約7割で生じるが、強い痛みは5~10%とまれである。幻肢痛のメカニズム(発生の機序)は解明されていない。下肢より上肢、近位部より遠位部に多く、電撃痛や、捻られるような痛み、ズキズキするような痛みなど様々である。一般的に、切断の手術後1週間以内に発症し、6か月~2年で消失することが多いが、それ以上長引くこともある。幻肢の大きさは健肢とほぼ同様で、幻肢痛が発生するのは、失った手や指、足などが多い。一方、肘や膝に感じることはまれで、4~6歳以下の小児切断例では出現しないことが多い。幻肢痛への一般的な治療方法として、薬物療法と非薬物療法に分けられる。幻肢痛は天候や精神的ストレスに左右されるため、薬物療法は、鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)、三環系抗うつ薬抗痙攣薬、プレガバリン(リリカ)などの抗てんかん薬が、神経痛の治療に使われる。非薬物療法としては、ミラーセラピーである。幻肢は断端の運動につれて移動し、断場の状態(神経や癒着など)に関連を持つ場合がある。

※幻視痛は、心因性の要素が関係するため薬物療法以外の治療法 (バイオフィードバック、リラクセーション訓練、認知行動療法、経皮的電気神経刺激法【TENS】 など)も用いられる。ちなみに、ミラーセラピー(mirror therapy)とは、鏡を使用して運動の視覚フィードバックを与える治療法である。矢状面で両肢間に鏡を設置し、鏡に映された一側肢が鏡に隠れた反対側肢の位置と重なるようにする。切断や麻痺などの患側肢の遠位部に健側肢の映った鏡像がつながって見えることで、患側肢が健常な実像であるかのように感じさせながら運動を行う。

(※参考:「幻肢痛」慢性通治療の専門医による痛みと身体のQ&A様HPより)

 

 

 

 

 

39 寛解期にある多発性硬化症に対する理学療法の禁忌はどれか。

1.他動的な関節可動域練習
2.中等度強度の有酸素運動
3.低強度の筋力増強練習
4.電気刺激療法
5.温熱療法

解答

解説
1~3.× 他動的な関節可動域練習/中等度強度の有酸素運動/低強度の筋力増強練習は、理学療法として実施できる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。「多発性硬化症に対して心身機能・活動・社会参加・環境因子・個人因子を考慮した包括的なリハビリテーションが必要である。障害に応じて、運動耐容能・筋力・バランス能力・易疲労性・歩行能力などの維持・改善を目的に、中等度の強度までの運動療法を行う」と記載されている(※引用:「第15章リハビリテーション」一般社団法人日本神経学会様HPより)。
4.× 電気刺激療法は理学療法として実施できる。電気刺激療法の主な種類として、①TENS(経皮的電気刺激療法)や②NMES(神経筋電気刺激法)などがあげられる。①経皮的電気刺激療法<TENS>の治療目的は鎮痛である。温熱を出さず、慢性疼痛の緩和や痙縮改善に効果がある。疼痛部位の支配神経などに電極を配置し、経皮的に低周波による電気刺激を加える方法である。
5.〇 正しい。温熱療法は、寛解期にある多発性硬化症に対する理学療法の禁忌である。なぜなら、多発性硬化症のユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)に配慮しなければならないため。

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

類似問題です↓
【PT】多発性硬化症についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

40 末梢神経障害による感覚障害に伴う運動失調の治療法で適切でないのはどれか。

1.重錘負荷
2.弾性緊縛帯
3.電気刺激療法
4.姿勢鏡を用いた立位練習
5.歩行補助具を用いた歩行練習

解答

解説

MEMO

末梢神経障害による感覚障害に伴う運動失調の治療法(脊髄後索病変)
→運動失調は、障害部位によって①小脳性、②脊髄(後索)性、③迷路(前庭)性、④大脳性に分けられる。脊髄後索病変により深部感覚が障害されて四肢・体幹の運動失調が生ずるもので、閉眼により立位保持ができなくなる(Romberg徴候)など、視覚の代償がなくなると運動失調が悪化するという特徴がある。

1.〇 正しい。重錘負荷は適応となる。重り負荷法(重錘負荷法)とは、上下肢に重りを着用させることで運動学習を進め、運動・動作の改善を図る方法である。脊髄小脳変性症(運動失調)に適応となり、上肢では 200g~400g、下肢では 300g~600g 程度のおもりや重錘バンドを巻く。
2.〇 正しい。弾性緊縛帯は適応となる。弾性緊縛帯とは、上肢・下肢の近位部を弾性包帯で圧迫すると、上下肢の過剰な運動が妨げられる方法のこと。生理的機序として、装着部筋紡錘からの求心性入力の増加による、筋緊張低下の改善といわれている。
3.× 電気刺激療法は、末梢神経障害による感覚障害に伴う運動失調の治療法で適切でない。電気刺激療法の主な種類として、①TENS(経皮的電気刺激療法)や②NMES(神経筋電気刺激法)などがあげられる。①経皮的電気刺激療法<TENS>の適応は、慢性腰痛、変形性関節症、関節リウマチ、脊髄損傷後の慢性痛、切断による幻肢痛など、治療目的は鎮痛である。②神経筋電気刺激療法は、主に筋肉や運動神経への電気刺激により筋収縮を起こすことで、筋力増強や筋委縮の予防、痙縮抑制などを目的に行われる治療法である。
4.〇 正しい。姿勢鏡を用いた立位練習は適応となる。姿勢鏡とは、全身を映して視覚的フィードバックを用いることで、姿勢矯正や歩行練習、プッシャー現象の減少目的に使用される。脊髄(後索)性失調のみでなく、姿勢鏡により視覚的情報を付与し、認知的な歪みを矯正し、ほかの失調に効果があった事例も報告されている。
5.〇 正しい。歩行補助具を用いた歩行練習は適応となる。なぜなら、歩行器、前腕支持つきの歩行器などは歩行器自体が安定し、支持基底面も広くなるため有用と考えられるため。小脳失調による重度の酩酊歩行を呈している場合、杖の使用はむしろ危険で禁忌と説明している文献もある。とはいえ、歩行補助具=「杖のみ」ではない。

 

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