第59回(R6)理学療法士国家試験 解説【午前問題11~15】

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11 50歳の男性。左下腿切断。義足歩行練習中に左側の踵接地から立脚中期までに急激な膝屈曲が生じた。
 考えられる原因はどれか。2つ選べ。

1.足部が底屈しすぎている。
2.足部後方バンパーが硬すぎる。
3.ソケット初期屈曲角が大きすぎる。
4.ソケットが足部に対して後方すぎる。
5.ソケット初期内転角が不足している。

解答2・3

解説

本症例のポイント

・50歳の男性(左下腿切断)
・義足歩行練習中に左側の踵接地から立脚中期まで:急激な膝屈曲が生じた。

【膝関節の膝折れの原因】
①断端後面末梢部の痛み
②ソケットが踵に対し前方
②足部が背屈位
③膝関節伸展筋の機能不全
④ソケットの初期屈曲角が過大

1.× 足部が底屈しすぎている場合、膝関節は反張膝になりやすい。なぜなら、歩行に伴う足関節背屈角度を膝関節伸展で代償しようとするため。一般的に、反張膝の原因として、①膝関節伸展筋の筋力低下、②固有感覚障害による代償、③足関節底屈筋の痙性、④足関節底屈拘縮などがあげられる。
2.〇 正しい。足部後方バンパーが硬すぎる。後方バンパーあるいは踵部が硬すぎる場合、踵接地時の外旋や膝過屈曲の原因となる。なぜなら、踵接地の際に、つま先部分がゆっくり床に設置(衝撃吸収)できないため。踵接地から急激なつま先接地となり、その勢いで膝過屈曲となりやすい。ちなみに、後方バンパーが弱すぎる場合、足底が床にたたきつけられる歩行(フットスラップ)が起こる。
3.〇 正しい。ソケット初期屈曲角が大きすぎる。ソケット初期屈曲角が大きすぎる場合、膝折れを起こしそうな不安定感につながる。なぜなら、義足立脚期に膝が前方に押され、膝関節屈曲方向に促されるため。ちなみに、初期屈曲角度が不足した場合、膝が後ろに押され反張膝がみられる。
4.× ソケットが足部に対して後方すぎる場合、膝関節は反張膝になりやすい。なぜなら、重心が膝関節軸の前方を通るため。特に、立脚中期に反張膝が助長される。
5.× ソケット初期内転角が不足している場合、ソケットが外側に傾き足底の内側が床面から浮き上がる(前額面において支障をきたす)。言い換えると、ソケットの外壁にゆるみが生じている。そのため、5°程度の生理的な内転角をつける。義足の外側傾斜、靴底の内側が床面から浮き上がる、下腿内側近位部と外側遠位部の圧迫感などが観察される。

 

 

 

 

 

12 図に示す姿勢のうち、労働災害予防を目的とした動作指導で適切な作業姿勢はどれか。

解答

解説

1. ×:骨盤が過度に後傾し、腰椎の前弯も減少すると、椎間板内圧を亢進させる姿勢になるため労働に適さない。
2. ×:両膝伸展位で、作業する物との距離が遠いと、背筋群への負荷が大きく腰痛の原因となりやすいため不適切。
3. ×:立位時での作業は、「なるべく体幹回旋させたまま」ではなく、体の正面で作業するのが良い。
4. ×:物の持ち上げ動作は、背筋群への負荷を減らすため、両膝屈曲位・体幹中間位で持ち上げるのが良い。
5. 〇:正しい。図のように、低い所での作業は必ずしゃがみ、腰部の屈曲を軽減させると良い。

腰痛患者の生活指導

 腰痛患者の生活指導では、腰椎の過度な動きを避け、腰部の安静を保つことが重要である。特に、①背部を常に直立位にする、②腹筋を常に収縮させる、③殿筋を常に収縮させる、④動作時などには膝を屈曲させるなどがあげられる。

 座位姿勢は、正座が最も腰椎の生理的前弯を保ちやすい。あぐら座位、長坐位は脊柱が後弯するため不適切である。横座りも同様に脊柱の側屈を強制されるため不適切である。

 

 

 

 

13 36歳の男性。1週前、バイク運転中に転倒し左前腕を打撲した。その後、徐々に左手指の伸展が困難になった。左上肢のMMTは肘関節屈曲が5、前腕回外が2、手関節屈曲が4、手関節伸展が4、手指伸展が1。左上肢の感覚障害は認めない。針筋電図検査では回外筋、総指伸筋および長母指伸筋で安静時に脱神経電位を認めた。
 障害されている神経はどれか。

1.尺骨神経
2.正中神経
3.橈骨神経
4.後骨間神経
5.前骨間神経

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の男性。
・1週前:バイク運転中に転倒し左前腕を打撲。
・その後:徐々に左手指の伸展が困難。
・MMT:肘関節屈曲が5、前腕回外が2、手関節屈曲が4、手関節伸展が4、手指伸展が1
・感覚障害:認めない
・針筋電図検査:回外筋、総指伸筋および長母指伸筋で安静時に脱神経電位を認めた。
→本症例は、後骨間神経麻痺が疑われる。なぜなら、①下垂指がみられ、②感覚障害が認められないため。

1.× 尺骨神経は考えにくい。なぜなら、本症例は感覚障害を認めないため。尺骨神経麻痺とは、尺骨神経損傷により手掌・背の尺側に感覚障害やFroment徴候陽性、鷲手がみられる麻痺である。Froment徴候(フローマン徴候)とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。
2.× 正中神経は考えにくい。なぜなら、本症例は感覚障害を認めないため。正中神経麻痺とは、tear drop sign(ティア ドロップ サイン)または、perfect O(パーフェクト Oテスト)や、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる麻痺である。ファーレン徴候(Phalen徴候)とは、手首を曲げて症状の再現性をみる検査である。perfect O(パーフェクト Oテスト)とは、親指と人差し指の先端をくっつけて丸形を作る検査である。
3.× 橈骨神経は考えにくい。なぜなら、本症例は感覚障害を認めないため。橈骨神経麻痺とは、母指背側の感覚障害と上腕三頭筋・腕橈骨筋・長、短橈側手根伸筋、総指伸筋などの伸筋群の麻痺(下垂手)を認める。
4.〇 正しい。後骨間神経が障害されている神経である。なぜなら、①下垂指、②感覚障害が認められないため。下垂指とは、手首の背屈は可能で、手指の付け根の関節の伸展ができなくなり、指のみが下がった状態のことである。後骨間神経麻痺の確定診断には、筋電図検査、X線検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行う。
5.× 前骨間神経は考えにくい。なぜなら、本症例は涙のしずくサインがみられないため。前骨間神経麻痺とは、涙のしずくサイン陽性(母指と示指の第1関節の屈曲ができなくなる)、皮膚の感覚障害は見られない場合、疑われる神経麻痺のことである。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査など必要に応じて行う。

前骨間神経と後骨間神経について

前骨間神経と後骨間神経は、前腕の橈骨と尺骨という2つ骨の間を繋ぐ骨間膜の前後を走る神経である。両者とも触覚に異常がないのが特徴である。神経炎以外にも、外傷、絞扼性神経障害でも生じる。

【前骨間神経】
・肘の辺りで正中神経から分岐して主に母指(親指)と示指の第1関節を動かす筋肉を支配している。
→涙のしずくが陽性。

【後骨間神経】
・肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している。
→下垂指(drop finger)となる。

 

 

 

 

 

14 6歳の男児。二分脊椎。歩行時の様子を図に示す。
 予測されるSharrardの分類の上限はどれか。

1.Ⅰ群
2.Ⅱ群
3.Ⅲ群
4.Ⅳ群
5.Ⅴ群

解答

解説

1.× Ⅰ群(胸髄レベル)は、車椅子を使用している状態である。下肢を自分で動かすことはできない。訓練レベルで、骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用し行うことがあるが、図の歩容には至らない。
2.〇 正しい。Ⅱ群(L1〜2レベル)が、予測されるSharrardの分類の上限である。Ⅱ群(L1〜2レベル)は、車椅子と杖歩行を併用している状態である。歩行は、長下肢装具とロフストランドクラッチで行うことが多いため、骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用してきれいなフォームで行える。
2.× Ⅱ群(L1〜2レベル)は、車椅子と杖歩行を併用している。長下肢装具とロフストランドクラッチで行うことが多い。
3.× Ⅲ群(L3〜4レベル)は、長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能なものである。
4.× Ⅳ群(L5レベル)は、短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。
5.× Ⅴ群(S1〜2レベル)は、ほとんど装具が不要で自立歩行可能。

Sharrard(シェラード)の分類

第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない。
第Ⅱ群(L1〜2レベル):車椅子と杖歩行を併用している。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。
第Ⅲ群(L3〜4レベル):長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能。
第Ⅳ群(L5レベル):短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。股関節伸展、足関節底屈が可能。
第Ⅴ群(S1〜2レベル):ほとんど装具が不要で自立歩行可能。足関節の安定性が低い。
第Ⅵ群(S3レベル):ほとんど運動麻痺はなく、健常児とほぼ同様の歩行。

 

 

 

 

 

15 60歳の男性。内側型の変形性膝関節症に対して手術療法が行われた。術後のエックス線写真を下に示す。
 骨癒合を促進させるために最も優先度が高い治療法はどれか。

1.温熱療法
2.牽引療法
3.超音波療法
4.電気刺激療法
5.電磁波療法

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の男性。
・内側型の変形性膝関節症に対して手術療法。
→本症例は、高位脛骨骨切り術手術を実施している。現在、手術後の期間は不明であるが、どの期間でも安全に処方できる治療を選択しよう。手術後1年後に金属を抜く予定である(※参考:「高位脛骨骨切り術について」信州大学医学部附属病院より)

1.× 温熱療法は優先度が低い。なぜなら、手術後、炎症していると考えられるため。温熱療法の禁忌は、①急性炎症、②悪性腫瘍、③感覚障害と意識障害、④出血傾向、⑤循環障害・動脈硬化などである。ちなみに、温熱療法の目的として、①組織の粘弾性の改善、②局所新陳代謝の向上、③循環の改善である。慢性的な疼痛に対する温熱療法の生理学的影響として、血行の改善によるケミカルメディエーター(痛み物質)の除去、二次的な筋スパズムの軽減、疼痛閾値の上昇などがある。
2.× 牽引療法は骨癒合を促進させる効果は期待できない。牽引療法の目的は、骨折の整復と固定、脱臼の整復、関節疾患に対する関節の安静、疼痛の緩解、変形、拘縮の予防と矯正等、脊椎疾患に対する局所の安静と免荷などがあげられる。腰椎椎間板ヘルニアの急性期において、持続的牽引療法が適応になることが多い。
3.〇 正しい。超音波療法が骨癒合を促進させるために最も優先度が高い治療法である。なぜなら、超音波骨折治療法が適応となるため。超音波骨折治療法とは、低出力超音波パルス(Low Intensity Pulsed Ultrasound:LIPUS)を用いた治療法で、日本では1998年から実施されている。低出力超音波パルスは、断続的(パルス状)超音波であり、その音圧による物理的刺激を骨折部位に与えることで骨癒合が促進される。ちなみに、一般的な超音波療法の禁忌として、①眼への照射(眼に超音波を照射すると組織の空洞化を起こす)、②成長時の骨端、③心臓、生殖器官、内分泌器官、④良性または悪性腫瘍、麻痺部、⑤ペースメーカーの入っている部位(ペースメーカーを損傷する可能性)、⑥脊髄疾患(多発性硬化症、脊髄灰白質炎、脊髄空洞症)があげられる。また、合成樹脂や関節セメントが留置されている場所の超音波療法は禁忌である。なぜなら、骨セメントはアクリル樹脂を含んでおり、超音波照射によって加熱・溶融の恐れがあるため。
4.× 電気刺激療法は骨癒合を促進させる効果は期待できない。電気刺激療法の主な種類として、①TENS(経皮的電気刺激療法)や②NMES(神経筋電気刺激法)などがあげられる。①経皮的電気刺激療法<TENS>の適応は、慢性腰痛、変形性関節症、関節リウマチ、脊髄損傷後の慢性痛、切断による幻肢痛など、治療目的は鎮痛である。②神経筋電気刺激療法は、主に筋肉や運動神経への電気刺激により筋収縮を起こすことで、筋力増強や筋委縮の予防、痙縮抑制などを目的に行われる治療法である。
5.× 電磁波療法において、金属部位への照射は禁忌である。マイクロ波療法(極超短波療法)は、深部組織を温めるために用いられる電磁波療法である。極超短波とは、深部温熱療法である。2450MHzの電磁波を利用し、エネルギーの半価層(エネルギーが半減する深度)は、3~4cm、筋の加温に有効である。一般的に、極超短波療法(マイクロ波)の禁忌は、①温熱療法一般の禁忌(急性炎症部位、悪性腫瘍、出血傾向、知覚麻痺)、②金属部位への照射(衣服、装飾品、体内金属含む)、③心臓ペースメーカー使用者、④眼球、男性生殖器、妊婦の腹部、⑤小児の骨端線である。

椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

 

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