第59回(R6)理学療法士国家試験 解説【午前問題1~5】

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※解答の引用:第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について(厚生労働省HPより)

 

 

1 30歳の女性。バドミントンの選手である。
 膝前十字靱帯損傷を予防するための指導で最も適切なのはどれか。

1.後方重心を意識した動作を指導する。
2.体幹浅層の筋力トレーニングを指導する。
3.下肢遠位筋の協調性トレーニングを指導する。
4.ジャンプ着地時に膝が内反位にならないように指導する。
5.静的な姿勢保持からバランストレーニングに進めるように指導する。

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の女性。
バドミントンの選手である。
膝前十字靱帯損傷を予防する。
→前十字靭帯とは、膝関節の中で、大腿骨と脛骨をつないでいる強力な靭帯である。役割は、主に①大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないような制御(前後への安定性)と、②捻った方向に対して動きすぎないような制御(回旋方向への安定性)である。前十字靭帯損傷とは、スポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多い非接触損傷が特徴的な靭帯損傷である。Lachman test(ラックマンテスト)/軸移動テスト(pivot shift test:ピポットシフトテスト)/Jerkテスト(ジャークテスト)は、膝前十字靭帯損傷を検査する。

1.× 「後方」ではなく前方重心を意識した動作を指導する。なぜなら、後方重心だと、重心が膝関節の後方に(つまり脛骨がより前方へ移動する力が)働くため。また、本症例は、バドミントン選手であり、前方への迅速な動きや急激な方向転換が必要である。したがって、前方重心を基本とするが、一時的な後方重心にも耐久出来るようアプローチが必要である。
2.× 「体幹浅層」ではなく膝関節周囲の筋力トレーニングを指導する。なぜなら、前十字靭帯の役割は、大腿骨と脛骨をつないでいる靭帯であるため。体幹筋に着目した場合でも、瞬発性に寄与する体幹浅層に限らず、安定性に寄与する深層筋も鍛えるよう指導する。
3.× 「下肢遠位筋」に限らず全身の協調性トレーニングを指導する。なぜなら、多関節運動の協調性低下が前十字靭帯損傷のリスク因子として指摘されているため。また、協調性は着地時の衝撃吸収や安定性を高めるのに重要である。したがって、下肢遠位筋に限らず、少なくとも下肢近位筋のトレーニングも必要である。
4.× ジャンプ着地時に、膝が「内反位(O脚)」ではなく外反位(X脚)にならないように指導する。なぜなら、膝の内反位は、前十字靭帯損傷のリスク因子であるため。ジャンプからの着地時に膝が内側に倒れる動作は、膝への過度なストレスを引き起こす。この指導は、特に女性アスリートにおいて、前十字靭帯損傷予防のために非常に重要である。
5.〇 正しい。静的な姿勢保持からバランストレーニングに進めるように指導する。一般的なバランス練習の流れとして、①支持基底面内に重心を保持する(静的)、②支持基底面内なら重心を移動できる(動的)、③支持基底面内から逸脱しても新たに支持基底面を形成できる(立ち直り)とすすめていく。

前十字靭帯損傷に関する知識

前十字靭帯とは、膝関節の中で、大腿骨と脛骨をつないでいる強力な靭帯である。役割は、主に①大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないような制御(前後への安定性)と、②捻った方向に対して動きすぎないような制御(回旋方向への安定性)である。

前十字靭帯損傷とは、スポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多い非接触損傷が特徴的な靭帯損傷である。Lachman test(ラックマンテスト)/軸移動テスト(pivot shift test:ピポットシフトテスト)/Jerkテスト(ジャークテスト)は、膝前十字靭帯損傷を検査する。

 

 

 

 

 

2 84歳の男性。心疾患の既往はない。転倒して右大腿骨近位部骨折を受傷し、緊急で骨接合術を受けた。翌日離床を目的に理学療法が処方されたが、右下腿の腫脹と圧痛を訴えている。
 最も優先的に確認すべき血液検査項目はどれか。

1.BNP
2.Dダイマー
3.HbA1c
4.PT-INR
5.SP-D

解答

解説

本症例のポイント

・84歳の男性。
・心疾患の既往はない。
・転倒して右大腿骨近位部骨折を受傷し、緊急で骨接合術を受けた。
・翌日:離床を目的に理学療法が処方。
右下腿の腫脹圧痛を訴えている。
→本症例は、深部静脈血栓症(DVT)が疑われる。なぜなら、深部静脈血栓症(DVT)は、手術後や活動不足の期間によく見られる合併症であり、特に高齢者においてはそのリスクが高まるため。ちなみに、静脈血栓塞栓症とは、手足の静脈に血栓ができて血管が詰まる深部静脈血栓症(DVT)と、その血栓が血流に乗って運ばれ肺の動脈に詰まる肺血栓塞栓症を合わせた総称である。深部静脈血栓症とは、長時間の安静や手術などの血流低下により下肢の静脈に血栓が詰まってしまう病気である。下肢の疼痛、圧痛、熱感などの症状がみられる。ほかのリスク因子として、脱水や肥満、化学療法などがあげられる。

1.× BNP(心臓に無理がかかると増加する心臓ホルモン)とは、心臓に無理がかかると増加する心臓ホルモンのことである。心不全の病態を反映する指標であるため、BNPの増加は心不全の増悪を表している。
2.〇 正しい。Dダイマーが、最も優先的に確認すべき血液検査項目である。なぜなら、本症例は、深部静脈血栓症(DVT)が疑われるため。Dダイマーとは、フィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物である。つまり、血液検査において血栓症の判定に用いられる。
3.× HbA1cとは、1~2か月の平均的な血糖値を表す。糖尿病の診断などに用いる。
4.× PT-INRとは、PT(プロトロンビン時間)の成績表記のひとつで、血液凝固系の検査で、出血傾向のスクリーニング検査、血液凝固障害の検査の指標として使われるため。被験者から採取した血液が凝固するまでにどれほどの時間がかかったのかを測定する。正常値は 0.85~1.15(約1)で、血液凝固阻止剤を飲むと上昇し、内服をやめると下がる。
5.× SP-D(肺サーファクタントプロテインD)とは、間質性肺炎のマーカーである。Ⅱ型肺胞上皮細胞と細気管支領域に存在するクララ細胞から産生される物質である。肺に極めて特異性が高く、間質性肺疾患で高値を示し、活動性の指標になる。ちなみに、間質性肺炎とは、肺の間質組織の線維化が起こる疾患の総称で、慢性的かつ進行性の特徴を持つ。病因は、喫煙、職業上の曝露、感染、免疫不全などである。症状は咳、痰、呼吸困難などで、早期には特徴的な症状がないこともある。

肺血栓塞栓症とは?

肺血栓塞栓症とは、肺の血管(肺動脈)に血のかたまり(血栓)が詰まって、突然、呼吸困難や胸痛、ときには心停止をきたす危険な病気である。ロング・フライト血栓症やエコノミークラス症候群などと呼ばれる。離床(車椅子乗車や立位訓練、歩行訓練など)を開始したタイミングで発症するリスクが高くなるため注意が必要である。多く原因は、足の深いところにある静脈(深部静脈)に血液の塊である血栓ができて、その血栓が血流に乗って心臓を介して肺動脈に詰まることである。

 

 

 

 

3 65歳の男性。入浴中、軽度の意識障害および左片麻痺が突然出現したため救急車で搬送された。救急外来到着時の頭部単純CTを下に示す。
 考えられるのはどれか。

1.慢性硬膜下血腫
2.くも膜下出血
3.脳梗塞
4.脳挫傷
5.脳出血

解答

解説

本症例のポイント

・65歳の男性(入浴中、軽度の意識障害および左片麻痺)。
・症状が突然出現し救急外来到着時の頭部単純CTに示す。
→単純CT像は、急性期のくも膜下出血や脳出血、石灰化などに有用である。また、急性期の脳出血や石灰化、骨折などの骨の形態変化などに適している。脳出血急性期に出血部位が高吸収域(白く映る)になる。MRIでも病巣の確認は行えるが、撮影時間を比較すると、CTは数秒、MRIは数分~数十分かかるためCTを選択されることが多い。

1.× 慢性硬膜下血腫とは、軽度の外傷により軽微な出血が起こり、経時的に血腫が増大し、やがて症状が現れる。症状として、認知障害、頭痛、尿失禁、歩行障害、片麻痺などである。CT画像から、急性硬膜下血腫に特徴的な①三日月状の高吸収域、②左側脳室体部の圧排変形、③midlineの偏位がみられる。
2.× くも膜下出血とは、くも膜と呼ばれる脳表面の膜と脳の空間(くも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液が存在している)に存在する血管が切れて起こる出血である。約85%が、破裂脳動脈瘤が原因である。くも膜下出血では、くも膜下腔に血液が流入し、CTでは高吸収域として抽出される。また、約90%で鞍上部周囲のくも膜下腔にヒトデ型(ペンタゴンともいわれる)の高吸収域を認める。合併症には、①再出血、②脳血管攣縮、③正常圧水頭症などがある。①再出血:発症後24時間以内が多く、死亡率も高い。②脳血管攣縮:72時間後〜2週間後(ピークは8〜10日)が多く、脳血管攣縮による梗塞の好発部位は、「前交通動脈」である。③正常圧水頭症:数週〜数ヶ月後に認知症状、尿失禁、歩行障害などの症状が出現する。
3.× 脳梗塞とは、何らかの原因で脳の動脈が閉塞し、血液がいかなくなって脳が壊死してしまう病気である。どの動脈による閉鎖なのかによって、症状は異なる。脳梗塞の超急性期は、単純CT検査には映らず、約1日たたないと検出されない。慢性期は、頭部単純CTで低吸収域として描出される。なぜなら、脳梗塞によって壊死した脳組織は、徐々に液体化し、最終的には脳脊髄液となるため。
4.× 脳挫傷とは、強く殴られたり、強い頭部打撲を来すことで衝撃が脳に伝わり脳そのものが損傷を受けることで生じる。設問文から「入浴中、軽度の意識障害および左片麻痺が突然出現した」と記載のあることから、脳挫傷より優先される選択肢がほかにある。ちなみに、脳挫傷における頭部単純CTは、出血していた場合、挫傷した部位からの出血がみられやすい。
5.〇 正しい。脳出血が最も考えられる。なぜなら、本症例の症状と、単純CT像が合致するため。ちなみに、出血部位として被殻出血が当てはまる。被殻出血とは、頭痛や麻痺(片麻痺や顔面神経麻痺)、病側の共同偏視、優位半球障害時に運動失語、劣位半球障害時に失行・失認などがみられる。

 

急性期における梗塞巣の確認のしやすさ

①拡散強調像(DWT):超急性期(発症後1~3時間)
②FLAIR像:発症後3~6時頃
③T2強調像:発症後3~6時頃
④T1強調像の順である。

 

 

 

 

 

4 50歳の女性。2日前に階段を下りた際に膝を捻った。その直後から左膝の痛みが続いているため受診した。左膝内側および膝窩部に痛みがあり、McMurrayテスト陽性であった。エックス線写真では明らかな異常所見を認めない。
 次に確認すべき検査はどれか。

1.関節造影
2.CT
3.MRI
4.PET〈positron emission tomography〉
5.SPECT(single-photon emission computed tomography)

解答

解説

本症例のポイント

・50歳の女性。
・2日前:階段を下りた際に膝を捻った。
・その直後:左膝の痛みが続いている。
・左膝内側および膝窩部に痛みがあり、McMurrayテスト陽性であった。
エックス線写真では明らかな異常所見を認めない
→本症例は、半月板損傷が疑われる。半月板はエックス線では映らないため、MRIでの検査が必要となる。ちなみに、マックマレーテスト(McMurray Test)は、半月板損傷を検査する。①背臥位で膝を完全に屈曲させ片手で踵部を保持する。②下腿を外旋させながら膝を伸展させたときに痛みやクリックを感じれば内側半月の損傷、下腿を内旋させながら膝を伸展させたときに生じるならば外側半月の損傷を示唆する。

1.× 関節造影とは、アルトログラフィともいい、関節内に注射針を刺して造影剤や空気を入れ、レントゲン撮影CT撮影を行う検査である。したがって、半月板は映らない。通常のレントゲン撮影では写らない関節腔(関節が占めるスペース)の形状、拡がりを明らかにして、滑膜の増殖、関節面の不整、相対する関節面の適合性、靭帯損傷などによる造影剤の漏出などを調べる検査である。
2.× CTは、半月板が映らない。CTとは、エックス線を使用した撮影である。腫瘍や出血などの異常の有無や程度が分かる。出血部位は低吸収域(黒)としてうつる。
3.〇 正しい。MRI(核磁気共鳴画像法)が本症例において次に確認すべき検査である。なぜなら、本症例は、半月板損傷が疑われ、MRI検査により、半月板(軟部組織)の損傷を非常に詳細に評価できるため。ちなみに、核磁気共鳴画像法(MRI)とは、核磁気共鳴現象を利用して生体内の内部の情報を画像にする方法である。治療前にがんの有無や広がり、他の臓器への転移がないかを調べたり、治療の効果を判定したり、治療後の再発がないかを確認するなど、さまざまな目的で行われる精密検査である。
4.× PET〈positron emission tomography〉は、半月板が映らない。PET〈positron emission tomography〉とは、陽電子放出断層撮影とも訳され、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍ブドウ糖を取り込む性質を利用した検査である。がん細胞がグルコースを取り込みやすいという代謝上の特徴を利用した検査である。
5.× SPECT(single-photon emission computed tomography)は、半月板が映らない。SPECT(single-photon emission computed tomography)は、ドパミントランスポーターの変化を画像でとらえている検査(要は、Parkinson病の診断に使用される)となる。ドパミントランスポーターとは、ドパミン量を調整する部分である。ドバミン神経細胞には、ドパミンを再び取り込み、ドパミン量を調整する部分(ドパミントランスポーター)がある。パーキンソン病ではドパミン神経細胞が減少するため、健康な人の場合と比べて白く見えた部分が小さくなる。

 

 

 

 

 

5 73歳の男性。身長170cm、体重55kg。糖尿病でインスリン治療導入中。運動強度の決定のため自転車エルゴメーターを用いて、1分間に20Watts増加させるランプ負荷法で心肺運動負荷試験を行った。二酸化炭素排出量および酸素摂取量の変化のグラフを下に示す。
 指導すべき適切な運動強度はどれか。
 ただし、1METの酸素摂取量は3.5mL/min/kgとする。

1.約3METs
2.約4METs
3.約5METs
4.約6METs
5.約7METs

解答

解説

用語の整理

・ランプ負荷法:運動負荷強度を直線的に増加させる方法である。
・心拍運動負荷試験:ランプ負荷法を用いて呼気ガス分析を併用することで、至適運動強度の設定や無酸素性作業閾値(AT)を求めることに用いられる試験である。

嫌気性代謝閾値とは、運動時に有酸素運動から無酸素運動へと切り替わる運動強度の閾値のことである。”HRの増加率が上昇するポイントがATと一致すると報告している。”(心拍数二乗法による無酸素性作業閾値の測定の有用性より引用。はじめに1段落目 最後の行)

本症例の場合、酸素摂取量1200mL/minが嫌気性代謝閾値(ATポイント)である。

1METの酸素摂取量は3.5mL/min/kg

(※mL/min/kg:1分間に体重1kgあたりどれだけ酸素を摂取できるか)

したがって、

1200(mL/min)/55(㎏)

=21.8(mL/min/kg)

1METの酸素摂取量は3.5mLであるため、

21.8(mL/min/kg) /3.5(mL)

=6.23(METs)

したがって、選択肢4.約6METsが指導すべき適切な運動強度といえる。

2型糖尿病の理学療法

 1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。

①末梢組織のインスリン感受性の改善(ぶどう糖の利用を増加させる)
②筋量増加、体脂肪・血中の中性脂肪の減少。(HDLは増加する)
③摂取エネルギーの抑制、消費エネルギーの増加。
④運動耐容能の増強。

【糖尿病患者に対する運動療法】
運動強度:一般的に最大酸素摂取量の40~60%(無酸素性代謝閾値前後)、ボルグスケールで『楽である』〜『ややきつい』
実施時間:食後1〜2時間
運動時間:1日20〜30分(週3回以上)
消費カロリー:1日80〜200kcal
運動の種類:有酸素運動、レジスタンス運動(※対象者にあったものを選択するのがよいが、歩行が最も簡便。)

【運動療法の絶対的禁忌】
・眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症。
・レーザー光凝固後3~6カ月以内の網膜症。
・顕性腎症後期以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)。
・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合。
・高度の糖尿病自律神経障害がある場合。
・1型糖尿病でケトーシスがある場合。
・代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)。
・急性感染症を発症している場合。

(※参考:「糖尿病患者さんの運動指導の実際」糖尿病ネットワーク様HPより)

 

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