第58回(R5)理学療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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次の文により、6、7の問いに答えよ。
 75歳の男性。一人暮らし。歩行時のふらつきを主訴に来院した。以前から食事が不規則で、5日前から食事を摂らなくなった。上肢に明らかな異常はないが、下肢筋力はMMT4レベルで、下肢遠位優位のしびれ感がある。膝蓋腱反射は亢進しているが、アキレス腱反射は低下し、Babinski反射は陽性だった。眼振は認めない。血清ビタミンB12の低下を認めた。重心動揺検査結果を下に示す。

6.可能性が高い疾患はどれか。

1.皮膚筋炎
2.Shy-Drager症候群
3.筋萎縮性側索硬化症
4.ポストポリオ症候群
5.亜急性連合性脊髄変性症

解答

解説

本症例のポイント

・75歳の男性(一人暮らし)
・主訴:歩行時のふらつき
・5日前:食事を摂らなくなった。
・上肢:明らかな異常なし。
・下肢筋力:MMT4レベル下肢遠位優位のしびれ感
・膝蓋腱反射:亢進、アキレス腱反射:低下、Babinski反射:陽性。
・眼振:認めない。
血清ビタミンB12の低下あり
→本症例は、亜急性連合性脊髄変性症が疑われる。大きな特徴として、血清ビタミンB12の低下があげられる。この病気の原因は、悪性貧血の原因ともなるビタミンB12の欠乏である。通常、ビタミンB12が欠乏するのは、食事に問題があるためではなく、体がこのビタミンを吸収できないためである。ビタミンB12は、神経細胞を取り囲み信号を伝える速度を高めている脂肪のさや(髄鞘)の形成と維持に必要な物質です。亜急性連合性脊髄変性症では、髄鞘が損傷することで、脊髄から出る感覚神経線維と運動神経線維が変性する。ときに脳、視神経、末梢神経が損傷を受けることもある(※参考:「亜急性連合性脊髄変性症」MSDマニュアル家庭版より)。

1.× 皮膚筋炎(多発性筋炎)とは、膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と40~60歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。
2.× Shy-Drager症候群とは、(シャイ・ドレーガー症候群)は、多系統萎縮症の一種である。自律神経障害が先行し、その後に小脳症状やパーキンソン症状が加わる。自律神経障害として、主に起立性低血圧や勃起障害、膀胱直腸障害などがみられる。
3.× 筋萎縮性側索硬化症(ALS)より優先度が高いものが他にある。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、本症例のような血清ビタミンB12の低下はみられないため。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
4.× ポストポリオ症候群は、ポリオの後遺症として60歳前後で筋力低下や手足のしびれ、疼痛などの症状が現れる障害である。ポリオウイルスによる急性灰白髄炎によって小児麻痺を生じた患者が、罹患後、数十年を経て新たに生じる疲労性疾患の総称であり、急性灰白髄炎後の症状には、筋力低下、筋萎縮、関節痛、呼吸機能障害、嚥下障害などの症状を呈する。筋力低下は急性期の小児麻痺で障害をみられなかった肢にも比較的高頻度で生じる。診断基準は、①ポリオの確実な既往があること、②機能的・神経学的にほぼ完全に回復し、15年以上も安定した期間を過ごせていたにも関わらずその後に疲労や関節痛、筋力低下などの症状が発現した場合である。Halstead(ハルステッド)の診断基準を使用されることもある。
5.〇 正しい。亜急性連合性脊髄変性症の可能性がもっとも高い。亜急性連合性脊髄変性症は、ビタミンB12欠乏により脊髄が変性する進行性疾患である。両手足にチクチク感と痺れを生じ、振動覚や位置覚を障害される。場合によっては上下肢筋にこわばりを生じ、動作がぎこちなくなることもある。ビタミンB12をすぐに注射や経口で投与すれば、通常は完全に回復する。筋緊張緩和を目的に温熱療法を用いることができる(※参考:「亜急性連合性脊髄変性症」MSDマニュアル家庭版より)。

多系統萎縮症とは?

 多系統萎縮症とは、神経系の複数の系統(小脳、大脳基底核、自律神経など)がおかされる疾患で、3つのタイプがある。

①オリーブ橋小脳萎縮症:小脳や脳幹が萎縮し、歩行時にふらついたり呂律がまわらなくなる小脳失調型
②線条体黒質変性症:大脳基底核が主に障害され、パーキンソン病と同じような動作緩慢、歩行障害を呈する大脳基底核型
③Shy-Drager 症候群:もうひとつは自律神経が主に障害され起立性低血圧や発汗障害、性機能障害などがみられる自律神経型

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

次の文により、6、7の問いに答えよ。
75歳の男性。一人暮らし。歩行時のふらつきを主訴に来院した。以前から食事が不規則で、5日前から食事を摂らなくなった。上肢に明らかな異常はないが、下肢筋力はMMT4レベルで、下肢遠位優位のしびれ感がある。膝蓋腱反射は亢進しているが、アキレス腱反射は低下し、Babinski反射は陽性だった。眼振は認めない。血清ビタミンB12の低下を認めた。重心動揺検査結果を下に示す。

7.この患者の左右へのバランス障害に対する踵の補正で適切なのはどれか。

1.SACHヒール
2.Thomasヒール
3.外側フレアヒール
4.逆Thomasヒール
5.内側ウェッジヒール

解答

解説

本症例のポイント

・75歳の男性(一人暮らし)
・主訴:歩行時のふらつき
・下肢筋力:MMT4レベル下肢遠位優位のしびれ感
・重心動揺検査:閉眼時に明らかな重心動揺の増大
→支持基底面の広さは、広い方が安定する。左右へのバランス障害に対して、支持基底面が広くなる踵の補正を行う。

(※図一部改変:「第52回理学療法士国家試験午後7問目」より)

1.× SACHヒールは、踵接地時のショック吸収を目的とする。踵部のクッションがたわむことで衝撃を吸収する。踵部分がクッション性の高い材質になっており、踵接地時の足部進行方向の安定化とヒールロッカー機能を持たせ、距骨下関節や距腿関節の強直・拘縮や距骨粘液嚢腫、踵骨骨棘に適応となる。
2.× Thomasヒールは、ヒールの内側を延長したもので、内側縦アーチの支持である。主に扁平足や外反偏平足に適応となる。
3.〇 正しい。外側フレアヒールが、この患者の左右へのバランス障害に対する踵の補正である。なぜなら、支持基底面の延長に寄与するため。ちなみに、一般的に外側フレアヒールは、内反足の適応である。
4.× 逆Thomasヒールは、ヒールの外側を延長したもので、踵立方関節・立方中足関節を支持し、内反尖足に対して適応である。
5.× 内側ウェッジヒールとは、内側を上げ、外側を下げるように補正することで膝関節外反変形(X脚)に適応となる。

 

 

 

 

8.6歳の女児。公園で転倒し、骨折の診断で同日緊急手術を受けた。術後のエックス線写真を下に示す。
 術後の患側上肢の理学療法で正しいのはどれか。

1.術後1週で筋力増強運動を開始する。
2.肘関節の運動は自動より他動を優先する。
3.術後2週で肩関節の可動域練習を開始する。
4.仮骨形成してから肘関節の可動域練習を開始する。
5.術後翌日に急激な痛みがあっても手指運動を行う。

解答

解説

本症例のポイント

本症例の術後のエックス線から、上腕骨顆上骨折が疑われる。上腕骨顆上骨折とは、小児の骨折中最多であり、ほとんどが転倒の際に肘を伸展して手をついた場合に生じる。転移のあるものは、肘頭が後方に突出してみえる。合併症は、神経麻痺(正中・橈骨神経)、フォルクマン拘縮(阻血性拘縮)、内反肘変形などである。ちなみに、フォルクマン拘縮とは、前腕屈筋群の虚血性壊死と神経の圧迫性麻痺により拘縮を起こすものである。

1~3.× 術後1週で筋力増強運動を開始する/肘関節の運動は自動より他動を優先する/術後2週で肩関節の可動域練習を開始する必要はない3週間三角巾(肘関節軽度屈曲位)で固定する必要がある。上腕骨顆上骨折の初期治療を誤った場合、骨折部はしばしば偽関節となり肘関節外側部の成長が障害されて外反肘変形をきたす恐れがある。
4.〇 正しい。仮骨形成してから肘関節の可動域練習を開始する。仮骨形成とは、骨折すると、骨の連続性が断たれた状態になるが、その骨を融合するために新たに形成されるのが未熟な組織である。初期の炎症期の後の修復期に仮骨が形成される。 できたばかりの仮骨は強度が弱く不安定だが、時間の経過とともに石灰化していく。
5.× 術後翌日に急激な痛みがあった場合は、手指運動も行わないほうが良い。小児肘関節外傷後は、可動域改善の目的の関節運動は禁忌である。なぜなら、組織の破壊や出血により、しばしば過剰化骨を形成して骨性強直をきたすためである。小児の関節拘縮は、成長と日常生活の自動運動によって改善されることが大半である。

偽関節とは?

偽関節とは、骨折端に骨癒合機能が消失した状態をいう。原因としては、①不適切な治療と固定性の不良、②固定期間の不足・受傷時の骨折の状態(骨片間の転位が大きい、骨折部の粉砕が強い、解放骨折で感染の影響など)が影響する。①大腿骨頸部骨折、②手の舟状骨骨折、③脛骨中下1/3骨折等は偽関節を起こしやすい。

 

 

 

 

 

9.図のような所見において考えられるのはどれか。

1.仙腸関節機能不全
2.右股関節脱臼
3.右膝蓋骨脱臼
4.右半月板損傷
5.右後十字靭帯損傷

解答

解説
1.× 仙腸関節機能不全(仙腸関節病変:仙腸関節・股関節の変形性疾患や炎症性反応)は、Patrickテスト(パトリックテスト)を用いる。Patrick徴候(パトリック徴候)は、被験者を背臥位で患側側部を反対側の膝の上に置き、股関節屈曲・外転・外旋の肢位をとらせ、患側膝の内側部を背側に圧迫した時に、仙腸関節・股関節に痛みが出る所見である。
2.〇 正しい。右股関節脱臼が考えられる。図は、アリス徴候である。アリス徴候は、背臥位で両膝を屈曲しながら、股関節を屈曲して両下腿をそろえ、左右の膝の高さを比べる診察法である。膝の高さに差があるときに陽性と診断し、股関節脱臼を疑う。これは、股関節の脱臼が生じると大腿骨頭が寛骨臼の後方に位置するため、左右差が生じる。一方、両側脱臼例や下肢に骨性の短縮が存在する症例の場合、有効ではないため注意が必要である。
3.× 右膝蓋骨脱臼は、脱臼不安感テスト(apprehension test)を用いる。脱臼不安感テストは、膝蓋骨を大腿骨に押さえつけながら、外側に移動させて膝を曲げる。患者が「脱臼しそうな不安感」を訴えると陽性となる。
4.× 右半月板損傷は、McMurrayテスト(マックマリーテスト)を用いる。McMurrayテスト(マックマリーテスト)は、①背臥位で膝を完全に屈曲させ片手で踵部を保持する。②下腿を外旋させながら膝を伸展させたときに痛みやクリックを感じれば内側半月の損傷、下腿を内旋させながら膝を伸展させたときに生じるならば外側半月の損傷を示唆する。
5.× 右後十字靭帯損傷は、後方引き出しテスト(posterior drawer test)を用いる。後方引き出しテストは、背臥位にて患側膝90°屈曲位で、検者は下腿を後ろ方に押す。陽性の場合、脛骨は止まることなく後方に押し込める。

 

 

 

 

 

10.67歳の男性。両下肢に脊髄後索性運動失調がみられる。座位で図のように床に記された複数の足形に対し、目で確認しながら自身の足を移動するよう指示した。
 この運動はどれか。


1.Bohler体操
2.Buerger-Allen体操
3.Frenkel体操
4.McKenzie体操
5.Williams体操

解答

解説

脊髄後索性運動失調とは?

運動失調は、障害部位によって①小脳性、②脊髄(後索)性、③迷路(前庭)性、④大脳性に分けられる。脊髄後索病変により深部感覚が障害されて四肢・体幹の運動失調が生ずるもので、閉眼により立位保持ができなくなる(Romberg徴候)など、視覚の代償がなくなると運動失調が悪化するという特徴がある。

1.× Bohler体操(ベーラー体操)は、脊椎圧迫骨折患者の背筋強化に使用する。脊椎伸展運動によって背筋の筋力強化を目的とした体操である。
2.× Buerger-Allen体操(バージャー・アレン体操)は、閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害に対する運動療法として考案された。下肢の挙上と下垂を繰り返して反射性充血を促し、側副血行路の形成を促進する体操である。ちなみに、閉塞性動脈硬化症とは、血液の通り道が狭窄、閉塞することにより、組織や臓器全体に血液が行き渡らなくなって(虚血)障害を起こす病気である。
3.〇 正しい。Frenkel体操(フランクル体操)は、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法であり、脊髄性運動失調などに対して行われる。多発性硬化症(MS)による視覚障害は、球後視神経炎を初発症状として呈することが多い。
4.× McKenzie体操(マッケンジー法)は、腰痛症に対して使用する。ニュージーランドの理学療法士「ロビン・マッケンジー氏」により考案された、腰部の伸展を主に行う運動である。脊柱の生理的前弯の減少に対し、関節可動域を改善することで脊柱前弯を獲得させ、椎間板内の髄核を前方に移動させることを目的に行う。
5.× Williams体操(ウィリアムス体操)は、腰痛症に対して腰部の負担を軽減するために用いられる。方法として、腹筋強化・大殿筋強化・ハムストリングス強化・背筋群のストレッチングを行う。

腰痛体操

McKenzie体操(マッケンジー法):ニュージーランドの理学療法士「ロビン・マッケンジー氏」により考案された、腰部の伸展を主に行う運動である。脊柱の生理的前弯の減少に対し、関節可動域を改善することで脊柱前弯を獲得させ、椎間板内の髄核を前方に移動させることを目的に行う。

Williams体操(ウィリアムス体操):目的は、腰痛症に対して腰部の負担を軽減することである。方法として、腹筋・大殿筋・ハムストリングス・背筋群のストレッチングを行う。

 

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