第58回(R5)理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11.80歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅱ、下肢Ⅲ。下肢の随意運動は分離運動がわずかに認められる程度である。歩行はT字杖と短下肢装具を使用して自宅内移動が可能である。
 ADL指導で最も適切なのはどれか。

1.ベッド上で起き上がる
2.低い段を昇る
3.低い段を降りる
4.ズボンを履く
5.浴槽に入る

解答

解説

本症例のポイント

・80歳の男性(脳梗塞による右片麻痺
・Brs:上肢Ⅱ(上肢のわずかな随意運動)、下肢Ⅲ(座位、立位での股・膝・足の同時屈曲)。
・下肢の随意運動:分離運動わずかに認められる。
・歩行:T字杖と短下肢装具を使用。
→右片麻痺のADL指導である。間違いやすいものとして、①エスカレーターは昇降とも「健側」から。②低い障害物・溝が狭いものは「杖→患側→健側」、高い障害物・溝が広いものは「杖→健側→患側」で行う。

1.〇 正しい。ベッド上で起き上がる際は、安定して行うため非麻痺側(左側)を下にして行う。
2~3.× 低い段を昇る際は、非麻痺側(左側)から先に上段に乗せて体を持ち上げる。一方、低い段を降りる際は、麻痺側から先に下段へ下ろし、非麻痺側で体を支えておく。なぜなら、本症例の下肢の随意運動は、分離運動わずかに認められる程度で、歩行は、T字杖と短下肢装具を使用しているため。
4.× ズボンを履く際は、「麻痺側下肢→非麻痺側下肢」の順で行う。一方、ズボンを脱ぐときは、「非麻痺側下肢→麻痺側下肢」の順とする。
5.× 浴槽に入る際は、感覚低下によるやけどなどの事故を防ぐため非麻痺側(左側)から入る。ちなみに、浴槽から出るときは、浴槽をまたぐ際の転倒防止のため麻痺側(右側)から出る。

 

 

 

 

 

12.標準的な体格の成人における松葉杖の調整で正しいのはどれか。

解答

解説

(※図一部改変:「シニア男女と歩行支援用具のセット素材」illustAC様より)

【標準的な体格の成人における松葉杖の調整】
a.腋窩から横木までの距離:2~3横指分
→なぜなら、腋窩に密着すると、体重が腋窩にかかり、接触(圧迫)性の腕神経麻痺を起こすため(よく腋窩神経麻痺と書かれていることがあるが、腋窩神経を圧迫することはない)。松葉杖は、手部と腋窩下(体幹)で支持して使用する。
b.肘の屈曲角度:(20度)~30度
→なぜなら、肘を軽度屈曲することで、松葉杖の操作(肘関節の筋出力)がしやすいため。肘関節完全伸展位で行った場合、ロッキングが起こる可能性があるため控えるべきである。

したがって、選択肢3.a.3横指、b.30度が正しい。

松葉杖の知識

2本の松葉杖で身体を支えることができるため、体重をかけないようにする事が目的である。松葉杖のそれぞれの下端を靴の脇約5cm、つま先の前方15cmのところに突き、上端が腋窩から指2~3本分(約5cm)下にくるように松葉杖の長さを調整する。ハンドグリップは肘が20°~30曲がる位置に来るよう調節する。

【松葉杖の適応】
・片方の下肢骨折
・対麻痺障害などの立位保持が困難な場合
・荷重負荷制限
・上腕の筋力が十分であること

【免荷】
1/2~1/3部分免荷:両松葉杖
2/3~3/4部分免荷:片松葉杖
3/4部分荷重以上:T字杖

 

 

 

 

 

13.45歳の女性。身長155cm、体重60kg。3METs程度の歩行速度で1時間歩いた場合の消費カロリー量に最も近いのはどれか。
 ただし、ウォーキングで消費するカロリー(kcal)を1.05×METs×時間(H)×体重(kg)とする。

1.190kcal
2.230kcal
3.270kcal
4.310kcal
5.350kcal

解答

解説

設問文から与えられた式に基づいて、消費カロリーを計算できる。
・45歳の女性(身長155cm、体重60kg
3METs程度の歩行速度
1時間歩行した。

消費カロリー(kcal)= 1.05 × METs × 時間(H)× 体重(kg)

この式に、METs:3、時間:1時間、体重:60kgを代入する。

消費カロリー(kcal)
=1.05 × 3 × 1 × 60
189 kcal

したがって、選択肢1.190kcalが本症例の消費カロリー量に最も近い。

 

 

 

 

14.68歳の男性。5年前にParkinson病と診断された。現在、両手に安静時振戦両側上下肢に中等度の筋強剛を認める。「最近、歩いているときに足が出にくく、バランスを崩して転びそうになることが増えてきた」との訴えがある。日常生活は自立しているが、屋外歩行時には転倒への不安があるため外出を控えている。
 この患者のHoehn&Yahrの重症度分類ステージはどれか。

1.Ⅰ
2.Ⅱ
3.Ⅲ
4.Ⅳ
5.Ⅴ

解答

解説

本症例のポイント

・68歳の男性(5年前:Parkinson病)。
・両手:安静時振戦あり。
・両側上下肢:中等度の筋強剛あり。
バランスを崩して転びそうになる
・日常生活:自立
・屋外歩行時:転倒への不安があるため外出を控えている
→パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

1.× Ⅰは、片側のみの症状がみられるが、軽症で機能障害は認められない状態である。
2.× Ⅱは、両側の症状がみられるが、バランス障害はない状態である。また、日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
3.〇 正しい。がこの患者のHoehn&Yahrの重症度分類ステージである。なぜなら、本症例は、①バランスを崩して転びそうになる(姿勢反射障害)、②日常生活は自立あるが、外出を控えているため。ちなみに、Ⅲは、歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる場合をさす。
4.× Ⅳは、日常生活・通院に介助を必要とするが、立位・歩行はどうにか可能な状態を指す。
5.× Ⅴは、寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する状態を指す。また、歩行・起立は不能である。

Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

 

 

 

 

 

15.58歳の男性。脳卒中による左片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ。
 麻痺側の位置覚検査を行う際の患者への指示で適切なのはどれか。

1.「掌を上に向けて、両腕を水平に保ってください」
2.「左腕を動かしますので、右腕でまねをしてください」
3.「左足の親指を動かします。何回動いたか答えてください」
4.「右膝を曲げますので、左脚を同じように曲げてください」
5.「左手の親指が手の甲の方へ動いたら‘‘上”、掌の方へ動いたら‘‘下”と答えてください」

解答

解説
1.× 「掌を上に向けて、両腕を水平に保ってください」と指示するのは、バレー徴候である。バレー徴候とは、脳血管障害などによって起こる。上位運動ニューロン障害による片側性の軽い運動麻痺を評価するための方法である。上肢の筋力が低下する(麻痺がある)と、両腕を水平に維持することが困難となるため、麻痺側がゆっくりと回内しながら下降してくる。
2.〇 正しい。「左腕を動かしますので、右腕でまねをしてください」と指示するのは、麻痺側の位置覚検査(模倣試験)である。模倣試験は、再現試験を反対肢で同じ動作を示すことによって評価できる。再現試験とは、深部感覚のうち関節位置覚が障害されている場合、障害側を他動的または自動的に動かし、再び同じ動作をしてもらうものである。
3.× 「左足の親指を動かします。何回動いたか答えてください」と指示する試験自体、存在しない。※もし、それ以外の理由でしたらコメントくだされば幸いです。
4.× 「右膝を曲げますので、左脚を同じように曲げてください」と指示するのは左右逆である。また、本症例のBrs下肢Ⅳとはいえ、健側と同様の再現は難しい。
5.× 「左手の親指が手の甲の方へ動いたら‘‘上”、掌の方へ動いたら‘‘下”と答えてください」と指示するのは、麻痺側の受動運動覚の検査である。受動運動覚の検査とは、四肢が動かされた方向が判るかどうかを調べる検査である。位置覚の検査とならないように、動かして「すぐに」答えられるか?も判断する。

深部感覚検査

・再現試験:障害側を他動的または自動的に動かし、再び同じ動作をしてもらうものである。
・模倣試験:再現試験を反対肢(健側を動かす)で同じ動作を示すことによって評価できる。
・関節定位覚(母指探し)検査:対象者の検査する上肢の親指のみを伸展させ、閉眼させた状態でその母指を他側の手でつまませる検査である。つまむ方の上肢の運動を観察することで、対側の関節位置覚(関節定位覚)の障害の程度を見極める検査である。

 

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