第58回(R5)理学療法士国家試験 解説【午前問題1~5】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

 

※問題・解答の引用:第58回理学療法士国家試験、第58回作業療法士国家試験の問題および正答について(厚生労働省HPより)

 

1.Danielsらの徒手筋力テストで股関節外転の段階3の測定をする際、図のような代償がみられた。
 代償動作を生じさせている筋はどれか。2つ選べ。


1.大腰筋
2.中間広筋
3.腸骨筋
4.半腱様筋
5.半膜様筋

解答1・3

解説

1.〇 正しい。大腰筋が代償動作を生じさせている。大腰筋の作用は、股関節屈曲である。ちなみに、【起始】第12胸椎~第4腰椎の椎体と椎間円板、すべての腰椎の肋骨突起、第12肋骨、【停止】大腿骨の小転子である。腸腰筋は、腸骨筋と大腰筋の2筋からなる。
2.× 中間広筋の作用は、膝関節伸展である。ちなみに、【起始】大腿骨の前面と両側面、【停止】膝蓋骨、脛骨粗面である。
3.〇 正しい。腸骨筋が代償動作を生じさせている。腸骨筋の作用は、股関節屈曲、外旋である。ちなみに、【起始】腸骨窩全体、【停止】大腿骨の小転子である。腸腰筋は、腸骨筋と大腰筋の2筋からなる。
4.× 半腱様筋の作用は、股関節伸展、内転、内旋、膝関節屈曲である。ちなみに、【起始】坐骨結節(大腿二頭筋長頭の起始の内側でこれと融合)、【停止】脛骨粗面の内側(鵞足を形成)である。
5.× 半膜様筋の作用は、股関節伸展、内転、内旋、膝関節屈曲である。ちなみに、【起始】坐骨結節、【停止】脛骨粗面、脛骨内側顆の後部、斜膝窩靭帯、膝窩筋筋膜である。

代償動作とは?

代償動作とは、本来の動作や運動を行うのに必要な機能以外の機能で補って動作や運動を行うことである。ある運動を行うときに、動筋の筋力低下や麻痺からその作用を他の筋の運動によって補おうとする見せかけの運動をすることで、筋力検査をする場合には注意する必要がある。

例えば、肘関節伸展における代償動作として、
①肩関節外旋(棘下筋、小円筋)を使用し、重力で肘関節伸展する。
②肩関節水平内転(大胸筋)を使用し、重力で肘関節伸展する。

類似問題です↓
【PT専門のみ】MMTについての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

2.立位姿勢から膝関節を屈曲し、体幹を前傾させて静止した姿勢を図に示す。
 床反力ベクトルの作用線の向きが正しいのはどれか。
 ただし、矢印は力の向き、点線はその延長線を示す。

1.a
2.b
3.c
4.d
5.e

解答

解説

ポイント

立位姿勢から膝関節を屈曲し、体幹を前傾させて静止した姿勢である。
→静止立位の身体重心(center of gravity:COG)は、常に下向きの重力が作用している。その直下には足圧中心が存在し、重力の大きさと同じ分だけの床反力を生み出している。したがって、均衡が保たれ、姿勢を保持することができる。一方、床反力ベクトルとは、多数の足底に生じる床反力を合成し、1つの矢印にしたものをさす。

立位姿勢から膝関節を屈曲し、体幹を前傾させて静止した姿勢において、床反力ベクトルは主に2つに分けられる。

垂直方向(上向き)の成分:重力に対抗して、体重を支えるために働く力。この力により、人間の体は床から浮かび上がることなく、立ったまま安定していることができる。

水平方向(前後)の成分:体幹が前傾したことで、重心が変化し、体の重心を支えるために働く力。この力により、前傾姿勢を維持するために、体が前に倒れるのを防ぐ役割を果たす。

この状態での床反力ベクトルは、垂直方向(上向き)と水平方向(前後)の成分を組み合わせたものとなる。つまり、斜め上方向(前方と上方)に向かう。この力は、膝関節の屈曲や体幹の前傾によって生じる不安定さを相殺し、人間が安定した姿勢を保つことができるように支える役割を果たしている。

したがって、選択肢3.cが床反力ベクトルの作用線の向きである。

ちなみに、床反力ベクトルの作用線の向きは、選択肢2.b、選択肢5.eは平行で地面と垂直で上方向に向いている。本問題は一つ選だけ選ぶ問題であるため、同じ向きである選択肢2.b、選択肢5.eは、消去法でありえないことがわかる。

身体重心と足圧中心

足圧中心(center of pressure:COP)とは、床反力作用点、圧力中心とも表現され、床と身体との接触面に働く力の分布の中心点である。足底が床面に接触した場合、矢印に示すような多くのさまざまな大きさや方向に向かった反力が足底に生じる。多数の足底に生じる床反力を合成し、1つの矢印にしたものを床反力ベクトルとよび、矢印の根本部分が床反力作用点となり足圧中心点を示している。両足で床に接している場合では、右足の床反力作用点が1点、左足の床反力作用点が1点と各々の足圧中心点を示すことができるが、左右の床反力作用点のつりあう点を合成床反力作用点として考え、足圧中心点として求めることがある。

(※引用:「理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?」理学療法ジャーナル 52巻7号 (2018年7月発行)より)

 

 

 

 

 

3.82歳の女性。高血圧と糖尿病の治療を長期にわたり行っている。徐々に歩行障害がみられるようになり、転倒することが多くなった。頭部MRIのFLAIR像を下に示す。
 画像所見で考えられるのはどれか。

1.視床出血
2.硬膜下血腫
3.くも膜下出血
4.正常圧水頭症
5.多発性脳梗塞

解答

解説

MRI検査とは?

核磁気共鳴画像法(MRI)とは、核磁気共鳴現象を利用して生体内の内部の情報を画像にする方法である。治療前にがんの有無や広がり、他の臓器への転移がないかを調べたり、治療の効果を判定したり、治療後の再発がないかを確認するなど、さまざまな目的で行われる精密検査である。

FLAIR像は、急性期(発症24時間~1週間)において梗塞巣を確認しやすい。FLAIR画像は、基本的には水の信号を抑制したT2強調画像(脳室が黒く見えるT2WI風の画像)であり、脳室と隣接した病巣が明瞭に描出される。ラクナ梗塞に代表されるかくれ脳梗塞や血管性認知症にみられるビンスワンガー型白質脳症などの慢性期の脳梗塞部位(白色に描出される)確認に有用である。

1.× 視床出血は、被殻出血と並んで頻度の高い脳出血である。脳出血全体の30%程度を占めている。そもそも視床は、感覚路の中継点(対側の四肢体幹および顔面の知覚を中継)である。したがって、麻痺に比べ、感覚障害が強くなる。
2.× 硬膜下血腫は、①急性と②慢性に大きく分類される。①急性硬膜下血腫とは、短時間のうちに硬膜と脳の間に血腫が形成された状態のことであり、頭部外傷としては重症に分類される。ほとんどが頭部外傷によるもので、児童虐待の死因として最も多い。一方、②慢性硬膜下血腫とは、軽度の外傷により軽微な出血が起こり、経時的に血腫が増大し、やがて症状が現れる。症状として、認知障害、頭痛、尿失禁、歩行障害、片麻痺などである。CT画像から、急性硬膜下血腫に特徴的な①三日月状の高吸収域、②左側脳室体部の圧排変形、③midlineの偏位がみられる。
3.× くも膜下出血とは、くも膜と呼ばれる脳表面の膜と脳の空間(くも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液が存在している)に存在する血管が切れて起こる出血である。くも膜下出血ではくも膜下腔に血液が流入し、CTでは高吸収域として抽出される。また、約90%で鞍上部周囲のくも膜下腔にヒトデ型(ペンタゴンともいわれる)の高吸収域を認める。合併症には、①再出血、②脳血管攣縮、③正常圧水頭症などがある。①再出血:発症後24時間以内が多く、死亡率も高い。②脳血管攣縮:72時間後〜2週間後(ピークは8〜10日)が多く、脳血管攣縮による梗塞の好発部位は、「前交通動脈」である。③正常圧水頭症:数週〜数ヶ月後に認知症状、尿失禁、歩行障害などの症状が出現する。
4.× 正常圧水頭症とは、脳脊髄液(髄液)の循環障害によって拡大した脳室が、頭蓋骨内面に大脳半球を押しつけることにより、数々の脳の障害を引き起こす一連の病態である。①認知症、②尿失禁、③歩行障害の三徴がみられる。脳外科的な手術であるシャント術で改善する。画像所見の特徴として、①脳室の拡大、②シルビウス裂の拡大、③高位円蓋部脳溝の狭小化といった所見がみられる。
5.〇 正しい。多発性脳梗塞が画像所見で考えられる。多発性脳梗塞は両側性に梗塞(直径15㎜以下)が多発する症候である。つまり、ラクナ梗塞が多発した状態である。症状として、偽性球麻痺、脳血管性認知症、パーキンソン症候群、両側性錐体路徴候、排泄障害、眼球障害などがあげられる。

MRI検査の禁忌

①体内の電子電機部品(ペースメーカ、移植蝸牛刺激装置(人工内耳)、植込み型除細動器、神経刺激器、植込み型プログラマブル注入ポンプ):MRI対応型もあるためしっかり確認する。
②素材の確認できない脳動脈クリップ:MRI対応型もあるためしっかり確認する。
③目や脳など特定の重要臓器に迷入した鉄片などの強磁性体の破片
④眼部のインプラントや材料で強磁性金属を使用しているもの
⑤磁場によって活性化するもの(磁力で装着する義眼、磁石部分が脱着不能な義歯など)
⑥目のメークアップ用品、カラーコンタクト
⑦入れ墨
⑧補聴器
⑨いくつかの管腔内デバイス
⑩ニトログリセリン真皮浸透絆創膏

 

 

 

 

4.NICUに入院中の低出生体重児。在胎週数30週。腹臥位での姿勢を図に示す。
 この児に対するポジショニングとして適切な肢位はどれか。2つ選べ。


1.頭部伸展位
2.体幹伸展位
3.肩甲帯前方突出位
4.肩関節外転位
5.股関節内外転中間位

解答3・5

解説

本症例のポイント

NICUに入院中の低出生体重児
・在胎週数30週。
→NICU(略:Neonatal Intensive Care Unit)とは、新生児集中治療室のことである。呼吸管理が必要な赤ちゃん、チアノーゼ(血流が悪く顔色や全身が紫色になっている状態)や先天性の異常やさまざまな病気を抱えた赤ちゃん、超・極低出生体重児たちが保育器の中で、呼吸、心拍、体温、栄養を管理して育てられる。NICU部門が対象とする疾患は、早産・低出生体重児のみならず、先天奇形などの外科疾患など多岐にわたる。【主な対象疾患】早産児、低出生体重児、呼吸障害、心疾患、新生児感染症、低酸素性虚血性脳症、染色体異常、先天異常、外科疾患などである。
→低出生体重児とは、2500g未満児のこと。1500g未満を「極低出生体重児」、1000g未満を「超低出生体重児」と呼ぶ。外的ストレスをできる限り減らす必要がある。ポジショニングは、体内にいるときに近い姿勢を保つ。子宮内環境に近づける。なぜなら、低出生体重児は、胎内で屈曲姿勢をとる期間が少なく、神経系の発達が未成熟、在胎週数に応じた筋緊張が低下を認めるため。したがって、成熟児に比べて、四肢伸展、外転位の不良姿勢や不良運動パターンを認めやすい。胎内での屈曲姿勢に近い肢位をとらせるのが正しい。そのため、タオルやクッションなどを使用し姿勢のセッティングが必要になる。ポイントは、①頚部の軽度屈曲位、②肩甲帯の下制・前進、③骨盤後傾、④肩・股関節中間位(内・外転)、⑤上・下肢屈曲位である。

1.× 頭部は、「伸展位」ではなく軽度屈曲位にする。
2.× 体幹は、「伸展位」ではなく軽度屈曲位にする。
3.5.〇 正しい。肩甲帯前方突出位/股関節内外転中間位は、この児に対するポジショニングとして適切な肢位である。タオルやクッションなどを使用し、胎内での屈曲姿勢に近い肢位をとらせる。ポイントとして、①頚部の軽度屈曲位、②肩甲帯の下制・前進、③骨盤後傾、④肩・股関節中間位(内・外転)、⑤上・下肢屈曲位である。
4.× あえて、肩関節外転位にする必要はない。肩・股関節は、中間位(内・外転)が望ましい。※ただし、第54回理学療法士午後問題16において、3. 肩関節内旋位、5. 股関節内転位が適切な肢位として、厚生労働省が回答している。

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」)

分娩時期の分類

流産期とは、妊娠21週6日までの妊娠中絶(分娩)。
早産期とは、妊娠22週0日~36週6日における分娩。
正期産とは、妊娠37週0日~41週6日までの分娩。
過期産とは、42週0日以後の分娩。

 

 

 

 

 

5.66歳の男性。左下腿切断。30年前からの2型糖尿病で左下肢の閉塞性動脈硬化症のため切断し、下腿義足を製作した。
 この下腿義足ソケットの種類はどれか。


1.KBM式
2.PTB式
3.TSB式
4.吸着式
5.在来式

解答

解説

1.× KBM式(Kondylen Bettung Munster式)は、下腿切断のソケットで、大腿骨顆の上方を両側からソケットで包むようにして義足を懸垂している。
2.× PTB式(patellar tendon bearing式)は、下腿切断のソケットで懸垂のためのカフベルトが必要である。
3.〇 正しい。TSB式(Total Surface bearing式)は、断端全体に圧縮をかけるように採型を行い、全面接触支持させるソケットである。特徴として、シリコンライナーを使用しているため密着性が高く、膝関節の筋力を損なわない。耐荷重性能が高く活動的な切断者に適しているなどのメリットがあるため、スポーツ復帰に適している。ただし、デメリットとしては効果であったり、内ソケットがシリコンであるため発汗への対応は難しい。
4.× 吸着式(ソケット)は、ソケット内壁と断端の軟部組織を密着させることによって自己懸垂性を持つソケットである。バルブより空気を追い出し、最後にふたをする。ベルトなどの牽引用の付属品が必要ない。
5.× 在来式は、差し込み式で円錐状のソケット上部と大腿コルセットで体重を支持する。

閉塞性動脈硬化症とは?

閉塞性動脈硬化症は、手や足の血管の動脈硬化により、狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こして、血液の流れが悪くなり、手先や足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなる病気である。下肢の慢性虚血による間欠性跛行が発症症状であることが多く、虚血が進行すると壊死に至る。50~70歳代の男性、糖尿病症例に多くみられる。太ももの付け根(大腿動脈)や足の甲(足背動脈)を触診し、脈が触れないことで診断し、確定診断には血管造影検査を行う。

【病期】
Ⅰ期:「しびれ」「冷感」。
Ⅱ期:「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」。一定距離を歩くと脚が傷み、休むとまた歩けるようになる。
Ⅲ期:「安静時疼痛」。安静にしていても脚に痛みが生じる。
Ⅳ期:「潰瘍」「壊疽」。血液が足の先に行かないので、足に潰瘍ができ、ついには足が腐ってしまう。

【治療】
まず動脈硬化の原因である糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療を行う。喫煙者は禁煙する。初期の手足の冷感やしびれには血管拡張薬や血液を固まりにくくする薬(抗血小板剤)を用いる。また歩くことによって、側副血行路が発達し血行の流れの改善をはかる。

(※参考:「閉塞性動脈硬化症」厚生労働省HPより)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)