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11 65歳の男性。喫煙者。10年前から高血圧、高脂血症、糖尿病で内服治療をしている。4週前に外傷性第5胸髄損傷、完全対麻痺で入院。入院時の血糖は350mg/dL、HbA1cは8.0%。入院後1週で離床訓練が開始された。この患者が上肢エルゴメーター運動を実施中に、急に動悸と左肩周囲の違和感を訴えた。直ちに運動を中止し安静にさせたところ症状は数分で消失した。症状消失後のバイタルサインに異常を認めなかった。
この症状の原因として考えられるのはどれか。
1.低血糖
2.起立性低血圧
3.急性心筋梗塞
4.労作性狭心症
5.自律神経過反射
解答4
解説
・65歳の男性。
・喫煙者、高血圧、高脂血症、糖尿病、外傷性第5胸髄損傷。
・入院時の血糖は350mg/dL、HbA1cは8.0%。
・上肢エルゴメーター運動を実施中、急に動悸と左肩周囲の違和感。
・安静にて数分で消失。
・バイタルサインに異常なし。
1.× 低血糖症状の可能性は低い。なぜなら、基準値と症状が当てはまらないため。本症例の入院時の血糖は350mg/dL、HbA1cは8.0である。ちなみに、血糖値の基準は、80~90mg/dl、HbA1cは5.9以下である。また、低血糖症状は、血糖値が低下するとカテコラミン(インスリン拮抗ホルモン)の分泌が上昇し、交感神経刺激症状が出現する。さらに血糖値が低下すると脳・神経細胞の代謝が低下し、中枢神経症状が出現する。頭痛や空腹感などの比較的軽度な症状から始まるが血糖値が低下し続けると昏睡に至る。低血糖症状は、①自律神経症状と②中枢神経症状に分けられる。①自律神経症状は、冷感・顔面蒼白・頻脈・動悸・発汗・手の震え・空腹感などである。②中枢神経症状は、頭痛・集中力低下・視力低下・痙攣・昏睡などである。予防法として、飴や角砂糖などを携帯してもらう。
2.× 起立性低血圧の可能性は低い。なぜなら、起立性低血圧の場合は起きた直後に症状が起こるため。起立性低血圧とは、寝た姿勢や座った姿勢から急に起き上がったり、立ち上がった際に血圧が低下し、めまいが起こる症状である。症例は運動時に症状が生じている。起立性低血圧は、原因として①自律神経障害、②薬剤性、③加齢、④飲酒、⑤出血や脱水などの循環血漿量の低下が挙げられる。
3.× 急性心筋梗塞の可能性は低い。なぜなら、本症例の場合、安静にて数分で症状が消失しているため。急性心筋梗塞とは、冠状動脈内に血栓が形成され、動脈を閉塞し心筋が壊死することである。心筋の壊死が生じるため血液検査にて、CRP値は1〜3日後に上昇する。
4.〇 正しい。労作性狭心症である。労作性狭心症とは、激しい運動をした際に起こる狭心症である。冠動脈が動脈硬化によって狭くなっている状態で、激しい運動をすると血流が悪くなり、胸の痛みや左肩の痛みなどが生じる。症例の症状も運動時に動悸と肩痛が出現し、運動を中断したことで症状が消失したことから労作性狭心症ということが分かる。
5.× 自律神経過反射の可能性は低い。なぜなら、本症例は、安静にて数分で消失し、バイタルサインに異常がなかったため。自律神経過反射は、T5~6以上の脊髄損傷患者において、損傷部以下の臓器からの刺激によって起こる自律神経の異常反射である。内臓神経の抑制が解除されるため、主に骨盤内臓器が緊張する促通刺激が原因となり誘発される。原因は①膀胱刺激、②直腸刺激、③内臓刺激、④皮膚刺激などが挙げられる。生命の危険を伴い合併症を伴う。自律神経過反射の症状は、高血圧、ガンガンする頭痛、顔面紅潮、損傷レベルより上部での発汗、鼻詰まり、吐き気、脈拍60以下の徐脈、損傷レベルより下部の鳥肌である。
【血液検査】
・WBC:2~3時間上昇(7日に正常化)
・CK:2~4時間上昇(3~7日に正常化)
・トロポニンT:3~4時間上昇(14~21日に正常化)
・AST:6~12時間上昇(3~7日に正常化)
・LD(LDH):12~24時間上昇(8~14日に正常化)
・CRP:1~3日上昇(21日に正常化)
・ESR:2~3日上昇(5~6週)
※急性心筋梗塞を来した場合、血液検査にて心筋壊死所見を示すデータがみられるのは、通常、発症2時間以降である。WBC、CKの異常が最も早く出現する。
12 55歳の女性。乳癌。ステージIV。今回、両下肢の脱力を認めて受診した。腰椎と肋骨の多発病的骨折と診断された。L2以下の不全対麻痺を認め、放射線治療終了後に作業療法開始となった。ベッド上生活で食事以外には介助を要していた。Performance Statusは4である。患者は「足が動かないが、家族と暮らしたい」、家族は「できれば家につれて帰りたい」と希望した。
この患者への作業療法について適切なのはどれか。
1.退院の時期を決定する。
2.下肢機能訓練は行わない。
3.福祉用具の適応を検討する。
4.現時点から積極的な離床を図る。
5.ADL訓練時にはコルセットは装着しない。
解答3
解説
・55歳の女性。
・乳癌(ステージIV)、多発病的骨折(両下肢の脱力、腰椎、肋骨)
・L2以下の不全対麻痺
・放射線治療
・ベッド上生活で食事以外には介助を要す。
・Performance Status:4(まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす)
・患者「足が動かないが、家族と暮らしたい」
・家族「できれば家につれて帰りたい」
1.× 退院の時期を決定するのは時期尚早である。なぜなら、本症例は、放射線治療が終了し、作業療法が開始となった時点であるため。また、作業療法の予後予測だけで、退院の時期を決定することはできない。また、患者だけでなく、家族や医療チームで話し合い、自宅へ退院するのであれば環境調整や介護力など調整などが必要となる。
2.× 下肢機能訓練は「行わない」のではなく「行う」。なぜなら、関節可動域訓練は関節拘縮の予防と介助量軽減のため必要である。本症例は、L2以下の不全対麻痺で、両下肢の脱力もみられ、「足が動かない」という訴えもある。過度な負担は、乳癌、多発病的骨折により骨折しやすいため注意が必要である。
3.〇 正しい。福祉用具の適応を検討する。なぜなら、本症例は、ベッド上生活で食事以外には介助を要しており、作業療法が開始されて間もないため。本症例の評価を行い、福祉用具や残存機能を用いて生活することが大切である。また、患者・家族とも「自宅で生活する方向」を希望している。入院中の環境設定が退院後の生活に参考となる。ちなみに、福祉用具とは、日常生活に支障のある障害者や要介護者・要支援者の生活の便宜を図るための用具、及び機能訓練のための用具のことである。義肢や車椅子などの補装具と呼ばれる機能補助用具も福祉用具の一種である。
4.× 現時点から積極的な離床を図ることの優先度が低い。なぜなら、本症例は放射線治療後の副作用を考慮するため。放射線治療後の副作用は、頭部で脱毛、口腔で口の渇き、味覚の異常、胸部で咳、息切れ、腹部で軟便や下痢などがみられる。したがって、リハビリ強度は易疲労性を考慮し緩やかに上げる必要がある。
5.× ADL訓練時にはコルセットは「装着しない」のではなく「装着する」。なぜなら、本症例は腰椎と肋骨の多発病的骨折を認められて骨折しやすい状態であるため。ちなみに、病的骨折とは、正常な強度をもっていない骨(病的な状態にある骨)が、普通なら骨折を起こさないような軽微な1回の外力によって折れることをいう。基本的には、リハビリ(作業療法中)はコルセットを基本的に装着するし、コルセットを外して行うADL訓練(入浴や更衣動作)を行いたい場合は、主治医に支持を仰ぎ、主治医の許可を書面にもらうことが多い。
Performance Status(パフォーマンスステータス)とは、全身状態の指標の1つで、患者さんの日常生活の制限の程度を示す。
0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業
2:歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3:限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。
13 50歳の女性。脳出血後の左片麻痺。発症後2か月経過し、Brunnstrom法ステージ上肢V、手指Vであった。
図の作業活動のうち、この患者が困難なのはどれか。
1.革細工
2.陶芸
3.マクラメ
4.木工
5.和紙ちぎり絵
解答3
解説
ステージⅤは、基本的共同運動から独立した運動が可能である。
上肢Ⅴ:共同パターンからかなり分離した運動が可能な状態。
・腕を側方水平位に挙上する。
・腕を頭上まで挙上する。
・肘関節伸展で前方または側方水平位で回旋する。
手指Ⅴ:集団伸展が可能で、対向つまみ、筒握り、球握りが可能な状態。しかし、手指の拙劣さは残存している状態。
1.× 革細工(レザークラフト)は可能である。革細工(レザークラフト)の作業の中で、スーベルカッターやモデラで後を付けることが最も細かな動作となり、ほかは木槌で革に模様を付けるなど粗大的運動が多い作業である。
2.× 陶芸は可能である。陶芸の工程として主に9つ(①土もみ、②成形、③装飾、④乾燥、⑤素焼き、⑥絵付け、⑦施釉、⑧再乾燥、⑨本焼き)あるが、様々な方法や代用手段を用いることで、症例も十分可能と考える。電動ろくろを使用しないひも作り法の難易度は低い。
3.〇 正しい。マクラメは最も困難である。マクラメは、紐を交差させて結び、結び目で模様を作り装飾品などに細工する作業である。結ぶ動作がメインとなるため、代用手段も少なく高度な手指機能が必要とされる。また、設問のように、机上ではなく滞空操作のまま結んでいくのは、本症例の上肢Ⅴでは困難であると考えられる。
4.× 木工は可能である。大工は、ノコギリで板を切ったり、金槌で釘を打ったりと比較的に粗大運動の多い作業である。設問の図のように3〜4横指でハケをつかみ操作することも可能と考えられる。
5.× 和紙ちぎり絵は可能である。ちぎり絵は、ちぎった紙は乱雑でも問題なく、貼り付ける箇所も目標物を大きくすることで難易度の調整も可能である。設問の図のように3横指分に紙をちぎることは、症例も可能と考えられる。
14 43歳の女性。アルコール依存症。高校卒業後、就職。20代から職場での緊張感で晩酌をする習慣があった。40歳ころから酒量が増え、二日酔いのまま出動するようになった。上司に勤務態度を注意されたことで無断欠勤が目立つようになり、最近、泥酔状態で保護されて精神科病院に入院となった。離脱症状が落ち着いた後、作業療法が処方された。
この時点での作業療法評価で最も重要度が高いのはどれか。
1.基礎体力
2.対人関係技能
3.断酒への意志
4.復職への意欲
5.問題解決能力
解答1
解説
・43歳の女性。
・アルコール依存症。
・20代から晩酌。
・40代から酒量が増え、無断欠勤するように。
・最近、泥酔状態で精神科病院に入院。
・離脱症状が落ち着いた後、作業療法が処方された。
→アルコール依存症の初期治療では、身体的治療・離脱症状の管理と治療が行われる。これらの治療が終わった後は、生活リズムをつくることや、体力作りが作業療法の中心となる。その後は、心理教育、内省などによって治療への動機づけを行いながら、仲間づくりや断酒会などの自助グループへの参加、生活設計の立て直しを行っていく。
1.〇 正しい。基礎体力は、この時点での作業療法評価で最も重要度が高い。なぜなら、入院前の不規則な生活や偏った食事から体力が落ちていることが多いため。アルコール依存症の初期治療では、身体的治療・離脱症状の管理と治療が行われる。これらの治療が終わった後は、生活リズムをつくることや、体力作りが作業療法の中心となる。その後は、心理教育、内省などによって治療への動機づけを行いながら、仲間づくりや断酒会などの自助グループへの参加、生活設計の立て直しを行っていく。
2.4.5.× 対人関係技能/復職への意欲/問題解決能力(ストレス対処行動の獲得)は、作業療法の導入期には時期尚早である。回復期が終了して社会復帰を目指す時期に行う。
3.× 断酒への意志は、作業療法の導入期には時期尚早である。アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。
アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。
【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など
15 24歳の女性。大学卒業後に事務職として勤務していたが、汚物が付着していないかと気になり、頻繁に手を洗い何度も確認するようになった。確認行為により仕事に支障をきたすようになり退職した。家族は本人の確認行為に応じていた。精神科を受診したところ強迫性障害と診断され、外来での作業療法が処方された。
作業療法士から家族へのアドバイスとして最も適切なのはどれか。
1.常に本人を監視するように伝える。
2.本人の再就職を促すように伝える。
3.家の中の消毒を徹底するように伝える。
4.病気の原因を本人と話し合うように伝える。
5.本人からの確認の要求に応じないように伝える。
解答5
解説
・24歳の女性。
・強迫性障害(頻繁な手洗い)
・事務職
・仕事に支障をきたすようになり退職。
・家族は「本人の確認行為に応じてる」。
強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。治療として、①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、②森田療法、③認知行動療法などである。作業療法では、他のことに目を向けさせることによりこだわりを軽減することを目的とする。
1.× 「常に本人を監視するように伝える」とアドバイスする必要はない。強迫性障害とは、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。監視されているからといって、強迫行為を止めることにはつながらず、むしろより意識し助長する可能性が考えられる。
2.× 「本人の再就職を促すように伝える」とアドバイスする優先度が低い。なぜなら、本症例は外来での作業療法が処方された段階で、現在の強迫行為が見られている状態で、仕事に支障をきたすようになり退職しているため。選択肢の中に優先度が高いものが他にある。
3.× 「家の中の消毒を徹底するように伝える」とアドバイスする必要はない。強迫性障害は、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。消毒したからといって、「汚物が付着していないか?」という強迫行為を止めることにはつながらない。
4.× 「病気の原因を本人と話し合うように伝える」とアドバイスする必要はない。強迫性障害は、自分の意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消すために不合理な行動(強迫行為)を繰り返す状態をいう。話し合いで病気の原因(強迫観念)にとらわれず、強迫行為を止めることにはつながらない。強迫性障害の治療法の一つで認知行動療法(曝露反応妨害法)がある。ある強迫観念に曝された時に、それに対する強迫行為を我慢(反応妨害)させることで徐々に不安や恐怖に慣れさせるものである。不安の弱い曝露反応から順番に繰り返していくことで効果を発揮していく。
5.〇 正しい。本人からの確認の要求に応じないように伝えることは、作業療法士から家族へのアドバイスで最も優先度が高い。なぜなら、強迫性障害は本人も不合理な行動だと自覚しているため。強迫行為が始まれば、作業を中止させたり指摘したり、要求に応じる必要はない。なぜなら、「症状へのとらわれ」を助長させてしまうおそれがあるため。強迫行為が始まってもなるべく早く作業に復帰するように促すことが重要である。