第57回(R4) 理学療法士国家試験 解説【午後問題36~40】

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36 全身持久力トレーニングの効果で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.最大心拍出量は減少する。
2.末梢血管抵抗は増加する。
3.最大酸素摂取量は増加する。
4.同じ運動強度での換気量は減少する。
5.嫌気性代謝闘値が出現する運動強度が低下する。

解答3・4

解説

1.× 最大心拍出量は、減少ではなく「増大」する。なぜなら、心臓容積の増大や一回拍出量増加が見られるため。心拍出量は、「1分間の心拍出量(CO)=1回の拍出量(SV)×1分間の心拍数(HR)」と表す。最大1回拍出量は身体活動の影響を受け、運動トレーニングにより心筋が拡張して心臓容積を増大かつ、心筋が肥大して収縮力が強化される。ただし、最大心拍数は運動トレーニングによって改善されないことが多く、身体活動量を増やしても最大心拍数の増加による最大酸素摂取量の増大は期待できない。
2.× 末梢血管抵抗は、増加ではなく「低下」する。なぜなら、持久力トレーニングにて、末梢血管が開くこと(末梢血管抵抗が低下すること)により、毛細血管から骨格筋への酸素供給効率が良くなる(末梢での酸素供給が潤滑になる)ため。骨格筋の毛細血管密度は増加する。これにより高血圧リスクを低下させる。
3〜4.〇 正しい。最大酸素摂取量は増加する/同じ運動強度での換気量は減少する。肺に対する効果として、①呼吸筋筋力増強による一回換気量の増加、②肺血流量の増加による肺拡散容量増加、③肺容量の増加、④肺胞と肺毛細血管との接触面積増加などがあげられる。全身持久力トレーニング(有酸素運動)は、呼吸筋や肺コンプライアンスを向上させ、運動耐容能を向上につながる。
5.× 嫌気性代謝闘値(AT)が出現する運動強度が、低下ではなく「増加」する。嫌気性代謝閾値(AT)とは、運動時に有酸素運動から無酸素運動へと切り替わる運動強度の閾値のことである。つまり、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値である。骨格筋に対する効果(ATP含有量増加、グリコーゲン含有量増加)により、嫌気性代謝閾値(AT)は増加する。

全身持久力トレーニングの効果

1) 骨格筋に対する効果
ミトコンドリア量増加
ミオグロビン含有量増加
ATP含有量増加
グリコーゲン含有量増加
毛細血管密度増大
筋血流量増加

2) 心臓に対する効果
毛細血管密度増大
心臓容積増大
全血液量増加
循環血液量増加
一回拍出量増加
安静時末梢血管抵抗低下
心筋活動量の増加

3) 肺に対する効果
呼吸筋筋力増強による一回換気量の増加
肺血流量の増加による肺拡散容量増加
肺容量の増加
肺胞と肺毛細血管との接触面積増加

4) その他
体脂肪の減少
血中コレステロール量の減少

 

 

 

 

 

37 嚥下反射が惹起された瞬間の食物の流れを観察できる検査法はどれか。

1.食物テスト
2.嚥下造影検査
3.嚥下内視鏡検査
4.改訂水飲みテスト
5.反復唾液嚥下テスト

解答

解説

嚥下内視鏡検査によるホワイトアウトとは?

ホワイトアウトとは、嚥下内視鏡検査において、嚥下反射時に咽頭腔の収縮により視野が確保できず、白色画面になることである。正常の嚥下時には、咽頭収縮により一時的に視野が白く、観察不能となる。これは、嚥下内視鏡検査の欠点であるが、ホワイトアウトの有無で咽頭の筋肉がしっかり収縮しているかどうか評価することができる。

1.× 食物テストとは、高齢者用食品として厚生労働省の規格基準を満たしているレトルトパックのプリンや粥、液状食品を専用のスプーンを使って食べてもらい、嚥下反射の有無やむせ、呼吸の変化などを観察し、評価する方法である。
2.〇 正しい。嚥下造影検査は、嚥下反射が惹起された瞬間の食物の流れを観察できる検査法である。嚥下造影検査は、造影剤(または、造影剤を含む食物)を下させてレントゲン透視によりその状態を観察、評価する検査である。通常は2方向から動画で記録する。確認できるものとして、①低下するときの喉頭や気管内への造影剤侵入(誤)の有無、②咽頭内造影剤残留の有無、③食形態の影響や体位の影響、④代償的手技の効果があげられる。摂食・嚥下障害の疑いがある方に対して、飲み込みの過程や状態を正確に評価するための検査である。
3.× 嚥下内視鏡検査は、経鼻内視鏡(鼻腔ファイバースコープ)で嚥下を観察する検査である。経鼻内視鏡は非常に細径であり、通常は局所麻酔を用いずに挿入できる。他の利点として、①痰や食物残査などによる口腔内の汚染状況は造影検査よりもわかりやすい、②実際の食物を用いて検査できる、③持ち運びが容易(場所を選ばず検査できる)であることがあげられる。ちなみに、検査できる項目として①唾液や喀痰の貯留の有無、②食物を飲み込んだ後の咽頭内への食物の残留の有無、③気管への流入、④嚥下に影響を与えることのある声帯の動きなどを評価することができる。
4.× 改訂水飲みテスト〈MWST〉とは、3mlの冷水を口腔内に入れて嚥下を行わせ、嚥下反射誘発の有無、むせ、呼吸の変化を評価する。嚥下あり、呼吸良好、むせない状態で、追加嚥下運動(空嚥下)が2回/30秒可能であれば、最高点数の5点である。このテストでむせや湿声がない場合は30mlの水飲みテストを実施する。反対に3㏄の水で嚥下ができず、むせや湿声がある場合は、機器による嚥下機能の精査が必要となる。
5.× 反復唾液嚥下テスト〈RSST〉は、30秒間の空嚥下を実施してもらい、嚥下反射の随意的な能力を評価する。3回/30秒以上から嚥下の反復ができれば正常である。詳しい説明:検査者は中指で、被検者の「喉仏」を軽く押さえた状態のまま、30秒間唾液を飲み続け、連続して飲み込みができるか(嚥下反射が起きるか)を確認する。喉仏が中指をしっかりと乗り越えた場合のみを有効としてカウントし、3回/30秒以上であれば正常、3回/30秒未満の場合は嚥下機能に障害がある可能性がある。

嚥下造影検査とは?

嚥下造影検査は、造影剤(または、造影剤を含む食物)を下させてレントゲン透視によりその状態を観察、評価する検査である。通常は2方向から動画で記録する。

【確認できるもの】
①低下するときの喉頭や気管内への造影剤侵入(誤)の有無
②咽頭内造影剤残留の有無
③食形態の影響や体位の影響
④代償的手技の効果

嚥下内視鏡検査

経鼻内視鏡で嚥下を観察する検査である。経鼻内視鏡は非常に細径であり、通常は局所麻酔を用いずに挿入できる。

【利点】
①痰や食物残査などによる口腔内の汚染状況は造影検査よりもわかりやすい。
②実際の食物を用いて検査できる。
③持ち運びが容易(場所を選ばず検査できる)。

【欠点】
ホワイトアウト
→ホワイトアウトとは、嚥下内視鏡検査において、嚥下反射時に咽頭腔の収縮により視野が確保できず、白色画面になることである。正常の嚥下時には、咽頭収縮により一時的に視野が白く、観察不能となる。これは、嚥下内視鏡検査の欠点であるが、ホワイトアウトの有無で咽頭の筋肉がしっかり収縮しているかどうか評価することができる。

 

 

 

 

38 新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎後の患者に呼吸機能検査を行ったところ、努力性肺活量は5.00Lで、1秒率は80%であった。
 年齢、性別、体格をもとに計算した1秒量の予測値が3.46Lであるとき、%一秒量(%FEV1)で正しいのはどれか。

1.76%
2.86%
3.96%
4.106%
5.116%

解答

解説

用語の説明

最初の1秒間に呼出される量(1秒量)とその割合(%一秒量)である。

どれぐらい多くの息を吐ききれるか?(一秒率)

【公式】
%一秒量(%FEV1)=1秒量(FEV1実測値)÷ 1秒量(FEV1予測値:3.46L)× 100

※本症例の1秒量の予測値は、3.46Lである。

 

1秒量(FEV1実測値)を求める。
【公式】
1秒率(FEV1%)=1秒量(FEV1)÷ 努力肺活量(FVC)× 100

   本症例に当てはめると↓↓

      80%=1秒量(FEV1)÷ 5.00(L)

 1秒量(FEV1)=5.00(L)× 0.8

 1秒量(FEV1)=4.00(L)

 

②1秒量=4.00(L)、予測1秒量­=3.46(L)を公式に当てはめる。
%一秒量(%FEV1)=1秒量(FEV1実測値)÷ 1秒量(FEV1予測値:3.46L)× 100
%一秒量(%FEV1)=115.6%

したがって、選択肢5.116%が正しい。

 

 

 

 

 

39 視覚の代償を利用する運動療法はどれか。

1.PNF
2.緊縛帯法
3.重り負荷法
4.Frenkel体操
5.不安定板を用いた練習

解答

解説

1.× PNF(proprioceptive neuromuscular facilitation:固有受容性神経筋促通法)は、固有受容器の刺激により神経筋機構の反応を促進する方法である。末梢神経疾患のみでなく、中枢神経疾患の治療としても用いられる。①促進要素、②特殊テクニック、③促進パターンの3つから構成される。固有受容器とは、身体の位置や動きに関する情報をもたらす受容器(筋紡錘,ゴルジの腱器官,関節の受容器,前庭迷路受容器)のことをいう。
2.× (弾性)緊縛帯法とは、四肢・体幹を圧迫固定することで運動効果を向上させる手段である。脊髄小脳変性症に対し、運動学習を進め、運動・動作の改善をはかることを目的に利用する。体幹や四肢近位部の筋の筋腹から関節にかけて弾性包帯を巻いて圧迫する。 
3.× 重り負荷法(重錘負荷法)とは、上下肢に重りを着用させることで運動学習を進め、運動・動作の改善を図る方法である。脊髄小脳変性症(運動失調)に適応となり、上肢では 200g~400g、下肢では 300g~600g 程度のおもりや重錘バンドを巻く。
4.〇 正しい。Frenkel体操(フランクル体操)は、視覚の代償を利用する運動療法である。脊髄癆による下肢の固有感覚障害性協調障害の治療法として開発され、視覚的に確認を入れながら背臥位、座位、立位のように安定した姿勢から不安定な姿勢、簡単な運動から複合的な難しい運動課題に移行していく。小脳性協調運動障害にも適応となる。
5.× 不安定板を用いた練習は、位置覚や運動覚による深部感覚を中心に姿勢修正を要しつつバランスをとる練習となる。足関節捻挫後の治療や高齢者の転倒予防に対して用いられる。

 

 

 

 

40 関節と生じやすい脱臼の組合せで正しいのはどれか。

1.胸鎖関節:後方脱臼
2.肩関節:後方脱臼
3.肘関節:後方脱臼
4.股関節:前方脱臼
5.足関節:前方脱臼

解答

解説

脱臼

前方脱臼:近位関節面に対して遠位関節面が前方に転位した場合。
後方脱臼:近位関節面に対して遠位関節面が後方に転位した場合。

1.× 胸鎖関節は、後方脱臼ではなく「前方脱臼」である。胸鎖関節脱臼は、衝突や墜落などで方や腕が後ろ方向に引っ張られた際に鎖骨近位端が第1肋骨を視点として前方に脱臼する。その大部分が胸鎖関節前方脱臼となる。
2.× 肩関節は、後方脱臼ではなく「前方脱臼」である。ちなみに、外傷性脱臼の中では肩関節脱臼が最も頻度が高く、約50%を占める。外傷性脱臼の特徴として、捻挫や亜脱臼より高度な関節包や靭帯の損傷を伴う。腋窩神経の損傷が起こりやすい。
3.〇 正しい。肘関節は、後方脱臼である。肘関節後方脱臼は転倒・転落などの外力により起こりやすい。肘関節伸展位で転倒などにより肘の過伸展が強制され長軸方向へ力が働くと、肘頭が上腕骨後方に脱臼する。ちなみに、外傷性脱臼では、肩関節脱臼に次いで多い。
4.× 股関節は、前方脱臼ではなく「後方脱臼」である。股関節脱臼は、膝・股関節を屈曲した状態で膝に対して後方に強い力が加わった結果生じる。車の乗車中が最も多く、ダッシュボードに打ちつけられる損傷される。合併症として座骨神経損傷、遅発性の大腿骨頭の骨壊死があり、そのほとんどが後方脱臼となる。
5.× 足関節は、前方脱臼ではなく「側方脱臼」である。足関節はほとんどの脱臼が整復可能な脱臼が多いが骨折を伴う脱臼もある。足関節を捻った際など捻挫時に脱臼することが多い。

 

2 COMMENTS

austin

問題37嚥下検査の選択枝3の解説が不十分です。
ホワイトアウトという言葉を検索して勉強してみてください。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘どおりホワイトアウトに関する記載を追記してみました。
今後とも宜しくお願いいたします。

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