第57回(R4) 理学療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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16 12歳の男児。脳性麻痺痙直型両麻痺。GMFCSレベルⅢで、立位では図のような姿勢を示す。
 治療方針として優先されるのはどれか。

1.長下肢装具を作製する。
2.体幹筋の同時収縮を促す。
3.選択的後根切断術を検討する。
4.歩行練習での介助量を減らす。
5.上肢での支持能力を向上させる。

解答

解説

本症例のポイント

脳性麻痺痙直型両麻痺である。両麻痺とは、両下肢に重度の麻痺がある状態のこと。痙直型両麻痺の歩行(クラウチング歩行)は、股・膝とも屈曲位で伸びきらない歩行である。さらに、股関節は内転・内旋となるため内股での歩行が特徴的である。

GMFCSレベルⅢ:「歩行補助具を使用して歩くことは可能」である。本症例は、はさみ足(股関節内旋位・膝関節屈曲位)・内反尖足が認められる。痙直型両麻痺の特徴として、体重支持に際し、陽性支持反応にもとづく同時収縮が起こり、下半身を中心に漸進的に伸展緊張の亢進をもたらす(両下肢の麻痺に、軽~中等度の両上肢・体幹の麻痺を伴うことが多い)。

1.× 長下肢装具を作製する優先度は低い。なぜなら、GMFCSレベルⅢは、「歩行補助具を使用して歩くことは可能」であるため。本症例は、尖足を認めるため短下肢装具PCW(postural control walker)を検討する。
2.〇 正しい。体幹筋の同時収縮を促す。なぜなら、腹筋群は体幹を安定させ、殿筋群は股関節伸筋・外旋・外転に働くため。同時収縮とは、「屈筋」と、「伸筋」を同時に収縮する現象である。つまり、「体幹筋の同時収縮を促す」とは、「腹筋群と殿筋群の同時収縮の促通を行う」と同義となる。
3.× 選択的後根切断術を検討する優先度は低い。なぜなら、選択的後根切断術における10歳以上の適応は、疼痛緩和などの目的以外は限定的である可能性が示されている(脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版より引用)ため。選択的後根切断術とは、その名の通り、痙縮の原因となる反射の経路を脊髄に入る直前で遮断して痙縮を軽減する治療である。
4.× 歩行練習での介助量を減らす必要はない。なぜなら、GMFCSレベルⅢは、「歩行補助具を使用して歩くことは可能」であるため。本症例は、短下肢装具PCW(postural control walker)を検討し、積極的に下肢に正しい荷重を加えていくことが大切である。
5.× 上肢での支持能力を向上させる優先度は低い。なぜなら、本症例は両麻痺であり、上肢の麻痺は軽度であるため。また、本症例の立位姿勢での図をみても、片手支持にて立位姿勢を保持できている。つまり、上肢の支持能力は十分であると考えられる。したがって、治療方針として優先されるとはいいがたい。

「GMFCS」とは?

粗大運動能力分類システム(gross motor function classification system:GMFCS)は、判別的な目的で使われる尺度である。子どもの座位能力、および移動能力を中心とした粗大運動能力をもとにして、6歳以降の年齢で最終的に到達するという以下5段階の機能レベルに重症度を分類している。

・レベルⅠ:制限なしに歩く。
・レベルⅡ:歩行補助具なしに歩く。
・レベルⅢ:歩行補助具を使って歩く。
・レベルⅣ:自力移動が制限。
・レベルⅤ:電動車いすや環境制御装置を使っても自動移動が非常に制限されている。

参考にどうぞ↓

理学療法士国家試験 脳性麻痺についての問題9選「まとめ・解説」

 

 

 

 

次の文により 17、18の問いに答えよ。
 65歳の男性。間質性肺炎。労作時呼吸困難、咳を主訴に来院した。3年前から歩行時の呼吸困難が増悪した。1か月前から咳、労作時の呼吸困難の悪化を認め入院となった。入院時、心電図は洞調律。血液検査では CRP 3.1 mg/dL(基準値:0.3mg/dL未満)、KL-6 790U/mL(基準値 500 U/mL未満)であった。
 理学療法評価では、mMRC息切れスケールはグレード3。筋力はMMT上下肢4、6分間歩行テストは200 mであった。胸部CTを下に示す。

17  この患者の胸部 CT として最も可能性が高いのはどれか。

1.①
2.②
3.③
4.④
5.⑤

解答

解説

本症例のポイント

・65歳の男性。
・間質性肺炎(労作時呼吸困難)。
・3年前:歩行時の呼吸困難が増悪。
・1か月前:咳、労作時の呼吸困難の悪化を認め入院。
・入院時:心電図は洞調律。血液検査では CRP、KL-6基準値よりも上昇。
・理学療法評価:mMRC息切れスケールはグレード3。筋力はMMT上下肢4、6分間歩行テストは200 m。
(mMRC息切れスケールはグレード3:平坦な道を約100m,あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。6分間歩行テスト:200m以下では生活範囲がごく身近に限られると評価できる。)

→本症例の間質性肺炎は重症でかなり進行していると考えられる。間質性肺炎は肺の間質組織の線維化が起こる疾患の総称である。進行して炎症組織が線維化したものは肺線維症と呼ばれる。

1.× ①肺気腫である。終末気管支より末梢の気腔が異常に拡張し、肺胞構造が壊れ、空気含有量が増えるという状態を反映して、①透過性の亢進:低吸収領域(LAA)の出現、②肺胞壁の菲薄化、③肺の過膨張というCT所見が得られる。間質性肺炎の所見でもあるすりガラス陰影がみられるものの、mMRC息切れスケールはグレード3、6分間歩行テストは200 mの機能の肺とは考えにくい。
2.× ②心不全である。心不全は、心拡大・両肺野のうっ血・胸水貯留などである。
3.× ③肺水腫である。肺水腫は、血管の透過性が亢進、肺野のレントゲン透過性は低下し(血管も広範囲で白く見えるようになり)、蝶形陰影を呈することが多い。
4.〇 正しい。④間質性肺炎である。間質性肺炎の所見は、画像上にすりガラス陰影などが出現する。進行すると、網状影・輪状影となる。
5.× ⑤閉塞性換気障害(COPD)である。肺気腫が進んで肺組織が壊れている。慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、以前には慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称である。他の特徴として、肺の過膨張、両側肺野の透過性亢進、横隔膜低位、横隔膜の平低化、滴状心などの特徴が認められる。

修正MRC(mMRC)質問票

グレード0:激しい運動をしたときだけ息切れがする。
グレード1:平坦な道を早足で歩く,あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある。
グレード2:息切れがあるので,同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い,あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているとき,息切れのために立ち止まることがある。
グレード3:平坦な道を約100m,あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
グレード4:息切れがひどく家から出られない,あるいは衣服の着替えをするときにも息切れがある。

(動画でわかる呼吸リハビリテーション第4版p137より引用)

参考にどうぞ↓
外部リンク「胸部単純写真での間質影陰影の読影:XP-CT対比

 

 

 

 

 

18 全身持久力トレーニングを行う場合、トレーニングを中止すべき状態はどれか。2つ選べ。
トレーニング前の所見は、血圧 120/65 mmHg、心拍数 85/分、呼吸数 19回/分、SpO2 96%、修正 Borg Scale3であった。

解答1・4

解説

アンダーソン・土肥の運動基準について

Ⅰ.運動を行わないほうがよい場合
1)安静時脈拍数120/分以上
2)拡張期血圧120以上
3)収縮期血圧200以上
4)労作性狭心症を現在有するもの
5)新鮮心筋梗塞1ヶ月以内のもの
6)うっ血性心不全の所見の明らかなもの
7)心房細動以外の著しい不整脈
8)運動前すでに動悸、息切れのあるもの

Ⅱ.途中で運動を中止する場合
1)運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛などが出現した場合
2)運動中、脈拍が140/分を越えた場合
3)運動中、1分間10個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性または心室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合
4)運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合

Ⅲ.次の場合は運動を一時中止し、回復を待って再開する
1)脈拍数が運動時の30%を超えた場合、ただし、2分間の安静で10%以下にもどらぬ場合は、以後の運動は中止するかまたは極めて軽労作のものにきりかえる
2)脈拍数が120/分を越えた場合
3)1分間に10回以下の期外収縮が出現した場合
4)軽い動悸、息切れを訴えた場合

1.〇 正しい。自覚症状としてめまいが出現しているため運動を中止する。ちなみに、修正 Borg Scale3は「楽である」に該当する。
2~3.× 基準を満たさないため、全身持久力トレーニングを行う場合、トレーニングを中止すべき状態とはいえない。
4.〇 正しい。自覚症状として動悸が出現しているため運動を中止する。
5.△ 分かる方いたらコメント欄に教えてください。厚生労働省の答えでは、選択肢1/4が正解となっている。収縮期血圧40mmHg以上の上昇を認めるため運動を中止する項目に該当する。
以下コメントより抜粋)ただし、①患者さんの自覚症状の訴えを優先する(動悸がある時点で心臓への負担が大きいことがわかる)、②拡張期血圧は20mmHg以上の上昇が見られないことから、選択肢1/4のほうが運動を中止する優先度が高いと判断する。

修正Borg指数とは?

修正Borg指数は、自覚的運動強度の指標である。修正Borg指数は、運動したときのきつさを数字と簡単な言葉で表現し、標準化したものである。0~10の数字で表し、0に近づくと楽と感じ、10に近づくときついという解釈になる。4~5が運動の目安となり、7~9が運動の中止基準となる。

 

 

 

 

 

19 50歳の男性。会社の健康診断で尿糖陽性を指摘され、受診した。入院時、身長175cm、体重85kg。脈拍75/分、血圧165/86mmHg。両側足関節の振動覚は鈍麻。血液生化学所見では、空腹時血糖385mg/dL(基準値65~109mg/dL)、HbA1c 8.6%(基準値4.6~6.2%)、トリグリセリド362mg/dL(基準値30~150mg/dL)、LDLコレステロール128mg/dL(基準値70~139mg/dL)であった。尿検査でケトン体陰性であった。入院後、食事療法と薬物療法が開始されている。
 運動療法開始時に必要な条件はどれか。

1.感覚障害が改善する。
2.脂質異常症が改善する。
3.尿中ケトン体が陽性となる。
4.HbA1cが基準値内まで低下する。
5.空腹時血糖が250mg/dL未満となる。

解答

解説

本症例のポイント

・50歳の男性(身長175cm、体重85kg)。
・脈拍75/分、血圧165/86mmHg。両側足関節の振動覚は鈍麻。
・血液生化学所見:空腹時血糖、HbA1c、トリグリセリドは基準を上回る。尿検査:ケトン体陰性。
糖尿病の疑いがある。

【運動療法の絶対的禁忌】
・眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症。
・レーザー光凝固後3~6カ月以内の網膜症。
・顕性腎症後期以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)。
・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合。
・高度の糖尿病自律神経障害がある場合。
・1型糖尿病でケトーシスがある場合。
・代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)。
・急性感染症を発症している場合。
(※参考:「糖尿病患者さんの運動指導の実際」糖尿病ネットワーク様HPより)

1.× 感覚障害が改善することは、運動療法開始時に必要な条件とはいえない。ただし、高度の糖尿病自律神経障害がある場合は、運動療法の絶対的禁忌に当てはまるため注意が必要である。左右対称に手袋・靴下型に異常感覚をきたしやすく、糖尿病足病変にも注意が必要である。
2.× 脂質異常症/が改善することは、運動療法開始時に必要な条件とはいえない。むしろ、脂質の異常を改善するために運動療法を実施する。
3.× 尿中ケトン体が陽性となることは、運動療法開始時に必要な条件とはいえない。むしろ、尿中ケトン体が陽性の場合は運動を控えるべきである。ケトン体の検査は、ケトーシスやケトアシドーシスの診断に用いられる。通常、尿ケトン体は陰性である。インスリン依存状態(主に1型糖尿病)の人は、空腹時血糖値の高さに比例してケトン体が増える。
4.× HbA1cが基準値内まで低下することは、運動療法開始時に必要な条件とはいえない。むしろ、HbA1cが基準値内まで低下するために運動療法を実施する。HbA1Cは、インスリン抵抗性ではなく、長期間(1~2ヵ月間)の血糖値コントロール状況の指標になる。HbA1Cは、ヘモグロビンのアミノ基とブドウ糖が結合したものである。HbA1Cは、ヘモグロビンの生体内における平均寿命(約120日)の半分程度、すなわち、過去1〜2ヶ月の血糖状態を表すため、血糖値よりも正確な血糖状態を評価することができる。
5.〇 正しい。空腹時血糖が250mg/dL未満となるのは、運動療法開始時に必要な条件である。代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)は運動療法を禁止したほうがよい場合(運動療法の絶対的禁忌)となる。

2型糖尿病の理学療法

 1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。

①末梢組織のインスリン感受性の改善(ぶどう糖の利用を増加させる)
②筋量増加、体脂肪・血中の中性脂肪の減少。(HDLは増加する)
③摂取エネルギーの抑制、消費エネルギーの増加。
④運動耐容能の増強。

【糖尿病患者に対する運動療法】
運動強度:一般的に最大酸素摂取量の40~60%(無酸素性代謝閾値前後)、ボルグスケールで『楽である』〜『ややきつい』
実施時間:食後1〜2時間
運動時間:1日20〜30分(週3回以上)
消費カロリー:1日80〜200kcal
運動の種類:有酸素運動、レジスタンス運動(※対象者にあったものを選択するのがよいが、歩行が最も簡便。)

 

 

 

 

20 75歳の男性。3年前にParkinson病を発症。Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅢ。3か月前からトイレ前で小刻み歩行を生じるほか、歩行や立ち座りが不安定となり、屋内移動で妻の介助が必要となった。現在、妻とマンションで2人暮らしである。
 自宅の住環境整備で適切でないのはどれか。

1.ベッドに介助バーを設置する。
2.居室の出入り口を開き戸にする。
3.脱衣場と浴室の段差を解消する。
4.寝室からトイレの廊下に手すりを設置する。
5.トイレ前の廊下にはしご状の目印をつける。

解答

解説

本症例のポイント

・75歳の男性(Parkinson病)
・Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅢ。
(ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる)
・3か月前:トイレ前で小刻み歩行を生じるほか、歩行や立ち座りが不安定、屋内移動で妻の介助が必要となった。
・現在、妻とマンションで2人暮らし。

1.〇 正しい。ベッドに介助バー(L字バー)を設置する。なぜなら、介助バー(L字バー)は、起き上がりや立ち上がり、歩き始めの安定性に寄与するため。
2.× 居室の出入り口は、開き戸ではなく「引き戸」のほうが転倒予防につながる。なぜなら、開き戸の開閉に、方向転換が必要になり転倒のリスクがあるため。
3.〇 正しい。脱衣場と浴室の段差を解消する。なぜなら、段差によるつまずき転倒の予防となるため。パーキンソン病にはすり足歩行・小刻み歩行がみられる。
4.〇 正しい。寝室からトイレの廊下に手すりを設置する。本症例は、「3か月前からトイレ前で小刻み歩行を生じるほか、歩行や立ち座りが不安定となり、屋内移動で妻の介助が必要と」なっている。寝室からトイレの廊下に手すりを設置することで、転倒の予防だけでなく妻の介助量の軽減にも寄与する。
5.〇 正しい。トイレ前の廊下にはしご状の目印をつける。パーキンソン病のすくみ足の誘発因子と対応方法として、①視覚(障害物を跨ぐ、床に目印をつける)、②聴覚(メトロノームなどのリズムや歩行に合わせてのかけ声)、③逆説的運動(階段昇降)があげられる。また、【誘発因子】として、狭路や障害物、精神的緊張などが関係する。

Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ

ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

 

2 COMMENTS

匿名

問18についてです。
学校の先生がおっしゃっていたのですが、
・患者さんの自覚症状の訴えを優先する(動悸がある時点で心臓への負担が大きいことがわかる)
・拡張期血圧は20mmHg以上の上昇が見られない

と言う点から、解答は1、4でいいのではないか。とのことでした。

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大川 純一

コメント・ご教示ありがとうございます。
解説修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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