第57回(R4) 理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 治療前後の心電図を下に示す。
 治療の作用として正しいのはどれか。

1.不応期の短縮
2.心収縮力の増強
3.房室間の伝導の抑制
4.洞房結節の脱分極促通
5.心室筋の活動電位持続時間の延長

解答

解説

QT延長の危険性

QT時間は心電図のQRSの始まりからT波の終わりまでの時間で、これは心室筋の活動電位持続時間に相当する。この活動電位持続時間が延長すると心筋は電気的に不安定になり、心室期外収縮やTorsades de Pointes[トルサード・(ド・)ポワント](以下TdP)と呼ばれる重症不整脈が出やすくなる。TdPはQRS波の振幅と周期長が1拍ごとに変化し、基線の周囲をねじれながら振動するように見える心室頻拍で、眼前暗黒感や失神、ときに心室細動に移行して突然死を招くこともある。

1.× 不応期は、短縮ではなく延長している。心筋には、脱分極を生じている間は、そこに新たな刺激を加えても反応を示さない特性がある。この期間を不応期という。不応期には、①絶対的不応期と②相対的不応期がある。R-Tの頂点を絶対不応期といい、絶対不応期は、いかなる強い刺激を与えても反応しない時期である。T波の頂点からT波の終わりまでを相対不応期といい、相対不応期は、比較的強い刺激である場合には反応する。
2.× 心収縮力は、増強ではなく低下している。Q波からT波の終わりまでの時間をQT時間というが、①心臓の収縮力の低下や、②薬剤などの影響などによってQT時間が延長することがある。
3.× 房室間の伝導は、抑制ではなく変化ない。房室間の伝導は、心電図のPR間隔に該当する。房室間の伝導が抑制された場合は、PR間隔が延長される。
4.× 洞房結節の脱分極は、促通ではなく抑制している。洞房結節の脱分極は、心電図のP波に該当する。治療後の心電図は、QT時間の延長が生じており、相対的に洞房結節の脱分極(P波)の回数は減っている。
5. 〇 正しい。心室筋の活動電位持続時間の延長は、治療の作用で心電図から読み取れる。抗不整脈薬や抗うつ薬などの副作用としてQT時間の延長が生じる。そのほかにも、①低カリウム血症、②低カルシウム血症、③低マグネシウム血漿、④心筋虚血、⑤QT延長症候群などで起こる。QT時間の延長は致死的不整脈の原因となることもあるため、注意が必要である。

 

 

 

 

 

12 左側臥位の胸部 CTを下に示す。
 肺が拡張し、最も含気が多いと考えられるのはどれか。

1.①
2.②
3.③
4.④
5.⑤

解答

解説

本問題のポイント

肺が拡張し、最も含気が多いと考えられるのは?
→含気とは、内部に空気を含まれていることである。「含気量が多い」=「肺胞が破壊されている(呼吸の効率が悪い)」=「透過性亢進している」を探し出す。

肺の透過性亢進(CT画像上、黒く映る)は、肺胞が破壊されている状態を表す。特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、①肺の透過性亢進、②滴状心、③横隔膜低位などの所見で診断されることが多い。したがって、選択肢1.①が正しい。

 

 

 

 

13  65歳の女性。左変形性股関節症。3年前からの左股関節痛に対して後方侵入法で人工股関節置換術を受けた。術後のエックス線写真を下に示す。
 手術後3週までの患側の理学療法で正しいのはどれか。

1.立ち上がり動作は股関節内旋位で行う。
2.術後翌日から等尺性筋力増強練習を開始する。
3.術後3日間はベッド上安静とする。
4.術後2週は股関節を45度以上屈曲しない。
5.術後3週は免荷とする。

解答

解説

人工骨頭置換術の患側脱臼肢位

①後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展

人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されており、前方アプローチと後方アプローチと比較して、後方アプローチで発生しやすい。

1.× 立ち上がり動作は、股関節内旋位ではなく「股関節中間位から外旋位」で行う。なぜなら、後方アプローチ後は禁忌肢位であるため。
2.〇 正しい。術後翌日から等尺性筋力増強練習を開始する。また病院や施設によっては、手術翌日より全体重をかけてリハビリを実施できる。
3.× 術後3日間はベッド上安静とする必要はない。術後1日目より、全体重をかけられるためベッドサイドリハビリや起立練習等を開始する。
4.× 術後2週は股関節を45度以上屈曲してもよい。むしろ関節拘縮予防の予防のため、股関節過屈曲にならない程度(90°)程度まで関節可動域訓練を実施する。
5.× 術後3週は免荷とする必要はない。術後1日目より、全体重をかけられる。ちなみに、主に免荷が必要になる疾患として、前十字靭帯断裂やアキレス腱断裂などの手術後であり、2~3週間目は部分荷重となることが多い。

 

 

 

 

 

14 60歳の男性。7年前から歩行時にふらつきを自覚し、6年前から話し方が単調で途切れ途切れとなり膀胱直腸障害と起立性低血圧を認めた。四肢の固縮や振戦が徐々に進行し、2年前から車椅子で移動するようになった。最近、声が小さくなり呼吸困難感を訴えるようになった。頭部 MRIのFLAIR 画像で水平断(A)及び矢状断(B)を下に示す。
 この疾患で合併する可能性が高いのはどれか。

1.失語
2.拮抗失行
3.声帯麻痺
4.下方注視麻痺
5.他人の手徴候

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の男性。
・7年前:ふらつきを自覚。
・6年前:断綴性発語や膀胱直腸障害、起立性低血圧。
・2年前:車椅子で移動。
・最近:声が小さくなり呼吸困難感。
脊髄小脳変性症を疑える。

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

1.× 失語は、基本的に大脳の言語中枢の損傷により起こる。 言語中枢が損傷される原因の90%以上が、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中である。
2.× 拮抗失行は、脳梁幹障害でみられる。拮抗失行とは、右手の行動に対して左手が不随意に反対目的の行動をとるという特異な異常行動がみられる左手のことをいう。
3.〇 正しい。声帯麻痺は、合併する可能性が高い。声帯麻痺とは、声帯をコントロールする筋肉を動かせない状態である。典型的な症状は、声の変化のほか、ときに呼吸困難などがみられる。原因は腫瘍や外傷のほか、神経損傷などがある。
4.× 下方注視麻痺は、進行性核上性麻痺で起こる。進行性核上性麻痺は、淡蒼球、視床下核、中脳、小脳にある神経細胞が脱落することに起因する疾患である。中年期以降の男性(特に50~70歳)に多く発症し、易転倒性、注視麻痺、パーキンソニズム、認知症(前頭側頭型認知症)などの特徴的な症状を有する。診断にはパーキンソン病、多系統萎縮症、末梢神経障害、大脳基底核変性症など他疾患の除外が必要である。ちなみに、核上性とは、眼球運動を直接支配する神経細胞群(脳神経核)より上位ということを意味している。
5.× 他人の手徴候は、大脳皮質基底核変性症や脳梗塞などでみられる。責任病変は、脳梁前部右前頭葉内側部である。ちなみに、他人の手徴候とは、手が本人の意思とは関係なく他人の手のように勝手に動く現象である。また、進行性核上性麻痺の特徴として、垂直性核上性注視麻痺・転倒・頸部後屈・パーキンソニズムが特徴である。

注視麻痺とは?

注視麻痺とは、水平方向または垂直方向のいずれかに両眼を動かすことができない状態である。水平注視の障害が最も多く、中脳病変、水平注視中枢および第Ⅵ神経核を侵す橋病変に起因する。

 

 

 

 

15  6歳の女児。顕在性二分脊椎。機能残存レベルは第4腰髄である。
 歩行練習の実施方法で適切なのはどれか。(※不適切問題:解2つ)

1.靴型装具を使用する。
2.短下肢装具と杖を併用する。
3.短下肢装具のみを使用する。
4.長下肢装具と杖を併用する。
5.骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用する。

解答2・3(※複数の選択肢を正解として採点する)
理由:複数の正解があるため。

解説

本症例のポイント

・6歳の女児。
・顕在性二分脊椎。
・機能残存レベル:第4腰髄。
(Sharrardの分類:第Ⅲ群(L3〜4レベル)長下肢装具または短下肢装具による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能)

1.× 靴型装具を使用するのは、第Ⅴ群(S1〜2レベル)である。ちなみに、第Ⅴ群(S1〜2レベル)は、ほとんど装具が不要で自立歩行可能である。足関節の安定性が低い。
2.〇 正しい。短下肢装具と杖を併用するのは本症例の歩行練習である。なぜなら、第Ⅲ群(L3〜4レベル)では、長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能であるため。実用的なレベルまで獲得できれば、訓練レベルで選択肢3.短下肢装具のみを使用しての歩行練習も行う。
3.〇 正しい。短下肢装具のみを使用するのは本症例の歩行練習である。第Ⅳ群(L5レベル)では、短下肢装具による自立歩行可能で、装具なしでも歩行可能である。本症例は、機能残存レベルは第4腰髄であるが、訓練レベルで行う。
4.× 長下肢装具と杖を併用するのは、第Ⅲ群のL3レベルである。本症例は、機能残存レベルは第4腰髄であるため現時点で獲得できているものと考える。
5.× 骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用するのは、第Ⅰ群(Th12レベル)である。

Sharrard(シェラード)の分類

第Ⅰ群(胸髄レベル):車椅子を使用している。下肢を自分で動かすことはできない。
第Ⅱ群(L1〜2レベル):車椅子と杖歩行を併用している。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。
第Ⅲ群(L3〜4レベル):長下肢装具(L3)または短下肢装具(L4)による杖歩行可能。股関節外転、足関節背屈が可能。
第Ⅳ群(L5レベル):短下肢装具による自立歩行可能。装具なしでも歩行可能。股関節伸展、足関節底屈が可能。
第Ⅴ群(S1〜2レベル):ほとんど装具が不要で自立歩行可能。足関節の安定性が低い。
第Ⅵ群(S3レベル):ほとんど運動麻痺はなく、健常児とほぼ同様の歩行。

 

2 COMMENTS

匿名

コメント失礼します。
6歳の女児。顕在性二分脊椎。機能残存レベルは第4腰髄である。
 歩行練習の実施方法で適切なのはどれか。(※不適切問題:解2つ)
についてなのですが
答え5の
骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用するのは、第Ⅱ群(L1レベル)である。第Ⅱ群(L1〜2レベル)は、車椅子と杖歩行を併用する。股関節屈曲・内転、膝関節伸展が可能。

骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用するのは、第Ⅰ群(Th12レベル)である。
ではないでしょうか?
間違っていたらすみません。
ご確認ほどよろしくお願い致します。

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大川 純一

コメントありがとうございます。
ご指摘通り間違えておりました。
修正致しましたのでご確認ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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