第57回(R4) 理学療法士国家試験 解説【午前問題1~5】

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※解答の引用:第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について(厚生労働省HPより)

 

1 47歳の女性。抗リン脂質抗体症候群の既往がある。右変形性膝関節症に対して高位脛骨骨切り術を3日前に受けた。右大腿部から足部まで発赤を伴う腫脹を認め、Homans徴候陽性である。術後に実施した主な血液検査の結果を表に示す。
 術後の合併症として考えられるのはどれか。

1.蜂窩織炎
2.リンパ浮腫
3.化膿性関節炎
4.うっ血性心不全
5.深部静脈血栓症

解答

解説

抗リン脂質抗体症候群とは?

抗リン脂質抗体症候群とは、抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己免疫疾患であり、リン脂質(またはリン脂質と結合した蛋白)に対する自己抗体により引き起こされる様々な病態の総称である。抗リン脂質抗体症候群(APS)には、基礎疾患を伴わないもの(原発性APS)と伴うもの(続発性APS)があり、続発性APS は全身性エリテマトーデス(SLE)を基礎疾患とする場合が多い。主症状は動静脈の血栓症と妊娠合併症である。

Homans徴候とは?

Homans徴候(ホーマンズ徴候)とは、深部静脈血栓症でみられる理学所見である。 膝関節伸展位で足関節の背屈を他動的に強制する。腓腹部に疼痛を訴える場合(Homans徴候陽性)には下腿の深部静脈血栓症の可能性を示唆する。

1.× 蜂窩織炎は、細菌感染による真皮深層~皮下組織の急性膿皮症である。リンパ浮腫を起こすと、リンパ液の流れが悪くなるため、虫に刺されたり、小さな傷があると、細菌が侵入し、腕や脚全体に炎症が広がる。そのため、血液検査で高値を示すのは白血球数CRPである。本症例の白血球数は正常範囲内である。
2.× リンパ浮腫とは、がんの治療部位に近い腕や脚などの皮膚の下に、リンパ管内に回収されなかった、リンパ液がたまってむくんだ状態のことをいう。つまり、リンパ浮腫以外の浮腫を惹起する疾患や、癌の転移・再発が除外される必要がある。したがって、本症例の場合、血液検査の上記項目ではその他疾患の除外ができないため不適当である。ちなみに、リンパ浮腫の治療は、複合的理学療法といわれ、以下の4つの治療を組み合わせながら行う。①リンパドレナージ、②圧迫療法、③圧迫下における運動療法、④スキンケアである。リンパ液を流してあげることで突っ張った皮膚を緩め、硬くなった皮膚を柔らかくする。この状態で弾性包帯を巻いたり、スリーブといわれるサポーターのようなものや、弾性ストッキングを着用し、リンパの流れの良い状態を保ち、さらにむくみを引かせて腕や脚の細くなった状態を保つ。そして、圧迫した状態でむくんだ腕や脚を挙上する、動かすことでさらにむくみを軽減・改善をはかる。
3.× 化膿性関節炎は、関節に細菌が入り込んで感染し、炎症を起こす病気である。 関節に炎症が起こると、その部位が激しく痛み、表面の皮膚が赤くはれあがって熱を持つ。 そのほか、全身に現れる症状として、悪寒や倦怠感、食欲の低下などがある。血液検査で高値を示すのは白血球数CRPである。本症例の白血球数は正常範囲内である。
4.× うっ血性心不全とは、心臓のポンプ機能が弱まり、充分な量の血液を全身に送れなくなって、血液の滞留(うっ血)が起こしている状態である。 このため、呼吸困難や倦怠感、むくみなどが生じる。BNPが 100pg/mL以上であることが診断基準である。症例のBNP値は正常範囲内である。
5.〇 正しい。深部静脈血栓症は、術後の合併症として考えられる。深部静脈血栓症の血液検査で高値を示すのはD-ダイマーである。また、下肢の整形外科術後早期、抗リン脂質抗体症候群(APS)の既往、Homans徴候陽性であることは、いずれも深部静脈血栓症が疑われる所見である。

本症例のポイント

血液検査の結果、基準値から逸脱している項目は、①D-ダイマーと②CRPである。本症例は、高位脛骨骨切り術を3日前に実施しているため、2.25という値は手術による炎症と考えるのが妥当である。

【CRP値の基準】
0.4mg/dl以下:正常
0〜2:ウイルス感染症の疑い
2〜5:ウイルス感染 細菌感染症
5以上:細菌感染症
10以上:抗生剤点滴が必要なことが多い。

 

 

 

 

 

2 74歳の女性。左片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢Ⅱ、下肢Ⅲ。患側の筋緊張は低く、随意的な筋収縮もわずかにみられる程度である。平行棒内立位は中等度介助が必要で、左下肢は膝伸展位を保持することが困難で、体重をかけると膝折れが生じる。
 診療録の問題指向型医療記録の記載でassessment(評価)はどれか。

1.左下肢の筋力が低下している。
2.左下肢の筋力増強練習を行う。
3.左下肢の筋緊張が低下している。
4.左下肢に長下肢装具を使用し立位練習を行う。
5.左下肢の筋緊張低下により体重支持力が低下している。

解答

解説

問題指向型医療記録とは?

問題指向型医療記録とは、患者の抱える問題に目を向け、患者の問題を中心に行う医療(POM:problem oriented medical)の考え方に合わせた記録方法のことをいう。問題(プロブレム) 毎に情報を整理し、問題毎にSOAP(subjective, objective, assessment, plan)に分けて記載する方法のこと。記載内容は以下のように整理する。

①S(Subjective):主観的情報
②O(Objective):客観的情報
③A(Assessment):評価
④P(Plan):計画

1.3.× 「左下肢の筋力が低下している」「左下肢の筋緊張が低下している」は、Objective(客観的情報)である。
2.× 「左下肢の筋力増強練習を行う」「左下肢に長下肢装具を使用し立位練習を行う。」は、Plan(計画)である。
5.〇 正しい。「左下肢の筋緊張低下により体重支持力が低下している。」は、O(客観的情報)に基づき推察を述べているため、assessment(評価)である。

 

 

 

 

3 心電図を下に示す。
 心房粗動はどれか。

1.①
2.②
3.③
4.④
5.⑤

解答

解説
1.〇 正しい。①は心房粗動である。心房粗動の特徴は、①規則正しいRR間隔、②幅の狭いQRS波、③P波の代わりに規則正しい心房粗動波(F波)が認められる。
2.× ②は心房細動である。心房細動の特徴として、心房の興奮が形・大きさともに不規則であり、基線が揺れている(f波)。心房が正常に収縮しないためにP波が消失し、QRS波が不規則である。心房細動は、心原性脳塞栓症の原因として最も多い不整脈である。
3.× ③は心拍数75bpmの正常洞調律である。正常洞調律の特徴として、洞結節で発生した信号が、正常に刺激伝導系として伝達され、P・QRS・T波が規則正しく出現し、これが一定のリズムで繰り返されている。
4.× ④は心室性期外収縮である。心室性期外収縮の特徴として、P波の消失、幅が広く形の異なるQRSを認める。図は3連発であり、Lown分類Grade4b(3連発以上、心室頻拍VT)に相当するため、すぐに医師に連絡し適切な指示を仰ぐ必要がある。
5.× ⑤は心房性期外収縮である。心房性期外収縮の特徴として、本来の洞結節の興奮より早く、心房内及び房室接合部付近での刺激が発生するため、本来のリズムより早期にP波が出現し、その後に続くQRS波は幅が狭い。

Lownの分類(心室性期外収縮の重症度評価)

Grade0:心室性期外収縮なし
Grade1:散発性(1個/分または30個/時間未満)
Grade2:散発性(1個/分または30個/時間以上)
Grade3:多源性(期外収縮波形の種類が複数あるもの)
Grad4a:2連発
Grade4b:3連発以上
Grade5:短い連結期(R on T現象)

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4 関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準による)で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.胸腰部屈曲
2.頸部屈曲
3.肩甲帯挙上
4.手屈曲
5.母指橈側外転

解答1・4

解説

1.〇 正しい。胸腰部屈曲の【基本軸】仙骨後面、【移動軸】第一胸椎棘突起と第5腰椎棘突起を結ぶ線である。ちなみに、【測定部位及び注意点】は、①体幹側面より行う、②立位、腰かけ座位または側臥位で行う③股関節の運動が入らないように行う。
2.× 頸部屈曲の【基本軸】肩峰を通る床への垂直線、【移動軸】外耳孔と頭頂を結ぶ線である。ちなみに、【測定部位及び注意点】は、頭部体幹の側面で行う原則として腰かけ座位とする。設問の図の移動軸が身体の背面となっている。
3.× 肩甲帯挙上の【基本軸】両側の肩峰を結ぶ線、【移動軸】肩峰と胸骨上縁を結ぶ線である。ちなみに、【測定部位及び注意点】は、背面から測定する。設問の図の基本軸が胸骨を通る床への垂直線となっている。
4.〇 正しい。手屈曲(掌屈)の【基本軸】橈骨、【移動軸】第二中手骨である。ちなみに、【測定部位及び注意点】は、前腕は中間位とする。
5.× 母指橈側外転の【基本軸】示指(橈骨の延長上)、【移動軸】母指である。ちなみに、【測定部位及び注意点】は、運動は手掌面とする以下の手指の運動は、原則として手指の背側に角度計を当てる。設問の図の基本軸が、中指となっている。

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5 Danielsらの徒手筋力テストによる頸筋・体幹筋のテストで正しいのはどれか。

1.頸部伸展:段階3
2.体幹回旋:段階4
3.体幹屈曲:段階3
4.体幹伸展:段階3
5.骨盤挙上:段階3

解答

解説

1.× 設問の図は、「頸部伸展:段階3」ではなく、「頭部伸展:段階3」の検査である。ちなみに、頸部伸展:段階3の検査は、患者は上を見上げたり顎を突き出したりすることなく、頸部を伸展する必要がある。2.× 設問の図は、「体幹回旋:段階4」ではなく、「体幹回旋:段階3」の検査である。ちなみに、体幹回旋:段階4の検査は、背臥位で両腕を胸の上で交差する必要がある。
3.× 設問の図は、「体幹屈曲:段階3」ではなく、「体幹屈曲:段階4」の検査である。ちなみに、体幹屈曲:段階3の検査は、背臥位で腕は体の面より上方で伸ばす必要がある。
4.〇 正しい。体幹伸展:段階3は設問のように行う。ちなみに、体幹伸展:段階4〜5の検査は手を頭の側方に軽くタッチして体幹伸展する必要がある。また、体幹伸展:段階2の検査は、患者は可動域の一部を動かすことができている状態である。つまり、臍が検査台から離れているところまで持ち上げられるかが判断基準となる。
5.× 設問の図は、「骨盤挙上:段階3」ではなく、「骨盤挙上:段階4以上」の検査である。なぜなら、検査者は抵抗を加えているため。ちなみに、骨盤挙上:段階3の検査は、患者は可能な可動域全体を動かすことができているかが判断基準となる。

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4 COMMENTS

ウエダ

初めまして、いつもありがたく拝見させていただいてます。
Q3の問題で心電図⑤の解説で心房性期外収縮とありますが、上室性期外収縮ではないでしょうか

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大川 純一

コメントありがとうございます。
心房性期外収縮と上室性期外収縮は同じものと認識しております。
心房=上室だと思います。
違ったら教えてください。
今後ともよろしくお願いいたします。

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シブヤトモタカ

初めまして、試験勉強の際にいつも拝見させて頂いております。
57-午前問題4の1の胸腰部屈曲についてですが 規定だと移動軸「第1胸椎の棘突起~第5腰椎の棘突起を結んだ線」ですよね。
図を見た感じだと「鼻梁~第5腰椎の棘突起を結んだ線」に見えてしまうのですが、これは何故でしょうか?

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大川 純一

コメントありがとうございます。
第1胸椎と第5腰椎の棘突起を結んだ延長線上に、鼻梁があるだけなんじゃないですか。
今後ともよろしくお願いいたします。

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