第55回(R2) 作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

 

16 16歳の男子。高校に進学したが友人関係のトラブルが続き不登校となった。校医に相談し精神科を受診したところ、対人関係技能の低さ、こだわりの強さ、感覚過敏などを指摘され、作業療法に参加することとなった。
 この患者でみられる行動の特徴として正しいのはどれか。

1. 相手に気を遣い過ぎる。
2. 本音と建前を区別できない。
3. 葛藤に満ちた対人関係を結ぶ。
4. 他者の関心を集めようとする。
5. 否定的評価を受ける状況を避けようとする。

解答2

解説

本症例は、広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)と考えられる。根拠として、①対人関係技能の低さ、②こだわりの強さ、③感覚過敏という症状がみられるため。広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)とは、相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンの障害、および限局・常同・反復的な行動パターンがあげられる。生後5年以内に明らかとなる一群の障害である。通常は精神遅滞を伴う。

1.× 相手に気を使うことや感情を理解することは困難である。つまり、コミュニケーションが苦手である。
2.〇 正しい。本音と建前を区別できない。広汎性発達障害者は、比喩的な表現を理解できず、字義通りに受け取ってしまう傾向が強い。例えば、「顔が広い」は、知り合いが多いという意味だが、自分の顔の面積が広いと受け取ってしまう。したがって、広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)には、抽象的な表現は避け、具体的な表現を心がける。
3.× 葛藤に満ちた対人関係を結ぶことはしない。広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)は、葛藤というあいまいな状況を作ることはなく、対人関係においては、好きか嫌いかを明確に定めてその通りに行動する傾向がある。
4.× 他者の関心を集めようとする行動はしない。なぜなら、広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)は、自分の関心があることは他者も関心があると思い込む傾向があるため。したがって、一方的に話す。
5.× 否定的評価を受ける状況を避けようとすることもしない。なぜなら、広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)は、他人の気持ちを考えることが困難であるため。したがって、否定的評価を受けていても、それを実感することはなく、自分の興味・関心に従い行動する傾向がある。

 

 

 

 

 

 

17 40歳の男性。20歳から飲酒を始め、就職後はストレスを解消するために自宅で習慣的に飲酒していた。その後、毎晩の飲酒量が増え、遅刻や無断欠勤をし、休みの日は朝から飲酒するようになった。連続飲酒状態になり、リビングで泥酔し尿便を失禁していた。心配した妻に連れられて精神科を受診し、そのまま入院となった。離脱症状が治まり、体調が比較的安定したところで主治医から作業療法の指示が出された。初回面接時には「自分は病気ではない」と話した。
 初期の対応で適切なのはどれか。

1. 飲酒しないように繰り返し指導する。
2. 心理教育により依存症の理解を促す。
3. AA< Alcoholics Anonymous >を紹介する。
4. 10 METs の運動で身体機能の回復を促す。
5. 飲酒による問題の存在を受け入れるよう促す。

解答2

解説

本症例は、アルコール依存症者であるがそれを否認している状態といえる。このような場合には、まずアルコール依存症の理解から始め、病気であることを受け入れ、治療に参加できるようにする。アルコール依存症における作業療法の導入期の目的は、生活リズムの確立と体力の回復である。精神的に負荷のかかる作業や集団で行う作業は尚早である。また、アルコール依存症の作業療法の導入期以降の課題は、生活リズムの維持と心理教育、退院の前には、生活設計や自助グループへの参加が目標となる。

1.× 飲酒しないように繰り返し指導するのは効果は薄い。なぜなら、病識のないアルコール依存症患者に断酒を指導しても納得できないため。
2.〇 正しい。心理教育により依存症の理解を促す。初期の作業療法では、心理教育を行って、本人がアルコール依存症であることを理解してもらう必要がある。心理教育とは、症状の理解や服薬の必要性の理解など、病識の獲得と治療方法への理解が中心に行われる。
3.× AA< Alcoholics Anonymous >を紹介する必要はない。AA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)は現時点では時期尚早である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていくものである。退院が近くなったら、断酒自助グループを紹介し、退院後の断酒継続のために参加することをすすめる。
4.× 10METs の運動で身体機能の回復を促す必要はない。なぜなら、10METSの運動(例えば分速161mのランニングや柔道などの格闘技、ラグビー、水泳の平泳ぎなどを6分間行う)は、体調が安定したばかりのこの時期には負荷が大きいため。ただし、アルコール依存症患者に軽めの運動は有効である。
5.× 飲酒による問題の存在を受け入れるよう促しても効果は薄い。なぜなら、本症例は、アルコール依存症者であるがそれを否認している状態であるため。ただし、依存症に対する理解ができれば飲酒による問題を自覚できるようになる。

 

 

 

 

 

 

18 22歳の女性。幼少期から聞き分けの良い子だと両親に評価されてきた。完全主義であり、社交的ではないものの仲の良い友人はいた。中学生の時に自己主張をして仲間はずれにされ、一時的に保健室登校になったことがある。その後は優秀な成績で高校、大学を卒業したが、就職してからは過剰適応によるストレスで過食傾向になった。体重増加を同僚に指摘されてから食事を制限し、身長は170cm だが体重を45kg未満に抑えることにこだわるようになった。
 この患者への外来での作業療法士の関わりとして最も適切なのはどれか。

1. 幼少期の母子体験に触れる。
2. 作業療法の目的は半年間かけて伝える。
3. 体重測定の結果をグラフ化するのを手伝う。
4. 作業に失敗しても大丈夫であることを伝える。
5. 本人の作業療法での作品の背景にあるものを分析して伝える。

解答4

解説

本症例は、摂食障害と考えられる。就職後のストレスにより過食傾向となり、体重増加を同僚に指摘されてから食事を制限して低体重の維持にこだわっている。摂食障害は、男女比は1対10と、圧倒的に女性に多い病気である。

1.× 作業療法士が、あえて幼少期の母子体験に触れる必要はない。これを中心的に扱うのであれば、作業療法士よりも心理士との心理面接が適切である。ちなみに、摂食障害の患者は生育歴で様々な問題を抱えていることが多く、母親との心理的葛藤がみられることも多いが、幼少期の母子体験に触れるのは患者との信頼関係ができた後に行うべきである。
2.× 作業療法の目的は、半年間かけて伝えるのではなく、導入時に明確にしておく。なぜなら、特に摂食障害者はあいまいな設定が苦手(数字へのこだわりがある)であるため。作業療法導入にあたって、時間や場所、目的は明確にする。
3.× 体重測定の結果をグラフ化するのを手伝う必要はない。なぜなら、体重増減へのこだわりが増強されてしまうため。
4.〇 正しい。作業に失敗しても大丈夫であることを伝える。なぜなら、知的レベルが高く完璧主義である一方で、自己評価の低さがベースにあるため。したがって、作業に失敗すると自信を失い自責的になりやすい。
5.× 本人の作業療法での作品の背景にあるものを分析して伝える(洞察指向の精神療法)のは時期尚早である。洞察型精神療法とはは、無意識の葛藤をとり、自我の強さを欠くところに焦点を当てる技法で、深層心理の分析などを含む。摂食障害の作業療法では、「痩せることへのこだわり」が増強されるような作業内容を避け、こだわりを忘れさせるような作業内容が望ましい。

支持的精神療法と洞察型精神療法

【支持的精神療法】 患者の精神構造は未分化であるという前提から、患者の自我機能を支えつつ、健康なレベルに戻すことを目的とする。

【洞察型精神療法】 無意識の葛藤をとり、自我の強さを欠くところに焦点を当てる技法で、深層心理の分析などを含む。

 

 

 

 

 

 

19 66歳の女性。歌が好きでカラオケをよく楽しんでいたが、1年前から言葉数が少なくなり夫が心配して精神科を初めて受診した。MMSEは正常範囲内であった。MRIでは前頭葉優位の限局性脳萎縮があり、SPECTでは両側の前頭葉から側頭葉に血流低下が認められた。現在は定年退職した夫と2人暮らしをしており、家事は夫が行っている。デイケアに週1回通所しており、好きだった塗り絵や和紙工芸などの作業活動に参加するが、落ち着きがなく途中で立ち去ろうとする行動が頻回にみられる。
 作業活動の持続を促す対応として最も適切なのはどれか。

1. 注意がそれたら道具や材料を見せながら声をかける。
2. 顔見知りのメンバーが多いフロアに移動する。
3. 立ち去ってはいけないとはっきり伝える。
4. 初めて体験する手工芸を取り入れる。
5. セラピストを変更する。

解答1

解説

本症例は、前頭側頭型認知症と考えられる。症状として、①発語の減少、②自発性の低下、③行動異常、④前頭葉優位の萎縮、⑤前頭葉・側頭葉の血流低下がみられる。他の特徴は、記憶や日常生活動作の障害はあまり目立たないが、落ち着きのなさや脱抑制(本症例の場合は「立ち去り」)などの性格変化が目立つ。対応としては、気が散らない環境で、慣れている作業を続けてもらうのが良い。

1.〇 正しい。注意がそれたら道具や材料を見せながら声をかける。認知症患者は、興味・関心の低下、集中力の維持困難のため、作業の場から立ち去ってしまうことがある。そのため、身近に道具や材料を置いてそれらを提示しながら声掛けをし、他の物事に注意が散乱しないように配慮する。
2.× 顔見知りのメンバーが多いフロアに移動する必要はない。なぜなら、顔見知りが多いと注意がそれやすいため。むしろ、顔見知りが少ない環境がよい。
3.× 立ち去ってはいけないとはっきり伝える必要はない。なぜなら、行動面での問題を口頭で指摘しても、認知症患者は、興味・関心の低下、集中力の維持困難のため。注意されたという印象だけが残り、かえって行動障害を助長する可能性がある。
4.× 初めて体験する手工芸を取り入れる必要はない。なぜなら、初めて体験する手工芸は慣れるのに時間がかかり、途中で飽きてしまうことが多いため。したがって、本人の趣味を取り入れるなど馴染みのある作業の方がよい。
5.× セラピストを変更する必要はない。なぜなら、スタッフを含めた治療環境の変化は患者の混乱を招くため。

器質性精神障害の作業療法のポイント
①ADL動作の維持
②生活リズムの維持
③体力の回復
④個人の生活史を尊重した個別対応
⑤対人交流の回復,維持

※器質性精神障害とは、脳そのものの病変によって精神症状が出現する疾患をいう。認知症を来すものが多い。
(例:Alzheimer型認知症、Lewy小体型認知症、前頭側頭型認知症(Pick病)、脳血管性認知症、頭部外傷、神経梅毒、脳炎、Creutzfeldt-Jakob病、AIDS)

 

 

 

 

 

 

20 32歳の女性。8歳の娘が担任の先生の勧めで1週前に精神科を受診し、注意欠如・多動性障害と診断を受けた。放課後等デイサービスを利用することになり、作業療法士がこの女性と面接したところ「集中力が続かないし、物忘れもひどかったけど、まさか自分の子どもが障害児なんて思っておらずいつも叱っていた。お友達ともうまくいっていない状況が続いており、とても心配していた。これからどうしたら良いでしょうか」と話す。
 この時の作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。

1. 娘への不適切な対応を指摘する。
2. 障害の特徴について解説する。
3. 他の障害児の親に会わせる。
4. 障害は改善すると伝える。
5. 不安を受け止める。

解答5

解説

注意欠如・多動性障害(ADHD)の特徴として、①注意欠如、②多動性、③衝動性である。対人関係面で周囲との軋轢を生じやすく、大人からの叱責や子どもからのいじめにあうことがある。このため、二次障害として、自信喪失、自己嫌悪、自己評価の低下がみられることがある。そのため、患児の行動特徴を周囲が理解し、適切に支援をしていくことが重要である。 サポートが良ければ、成長とともに過半数は改善していく。放置すると、思春期に感情障害、行為障害、精神病様状態に陥りやすい。

1.× 娘への不適切な対応を指摘するのは時期尚早である。なぜなら、母親は娘が障害児であることがわかってショックを受けている段階であるため。これまでの娘への対応の悪さを指摘されることでさらにショックが増す可能性が高いため、娘への不適切な対応を指摘するのはある程度受容ができてから行う。
2.× 障害の特徴について解説するのは時期尚早である。なぜなら、母親のショック・不安が強い状態であるため。ただし、障害の理解は重要であるため、ある程度受容ができたら行う。
3.× 他の障害児の親に会わせるのは時期尚早である。なぜなら、母親のショック・不安が強い状態であるため。ただし、同じ患児をもつ母親同士の情報交換は重要であるため、ある程度受容ができたら行う。
4.× 障害は改善すると伝えてはならない。サポートが良ければ、成長とともに過半数は改善していくが、安易に楽観的な見通しを述べてはいけない。
5.〇 正しい。不安を受け止める。まずは母親の言葉に耳を傾け、不安な気持ちを受け止めることがこの時の作業療法士の対応で最も適切である。受容の段階は、「ショック→否認→混乱→再起→受容」にみけられ、その過程で様々な感情が起こる。

 

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