第54回(H31) 作業療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 49歳の男性。くも膜下出血後、高次脳機能障害の診断を受けた。現在は妻が車で送迎し、通院リハビリテーション治療と作業所への通所を行っている。WAIS-Ⅲは言語性IQ 77点、動作性IQ 70点、全検査IQ 72点。三宅式記銘力検査で、有関係対語5-7-8、無関係対語0-1-1、TMT で、A84秒、B99秒。妻がフルタイムで復職するため、通院や通所への対応が必要となった。本人は自分で車を運転しての通院・通所を希望している。
 対応として正しいのはどれか。

1. 通院や通所を中止する。
2. 運転免許証を返納させる。
3. バスを利用しての外出訓練を行う。
4. 自分で車を運転しての外出訓練を行う。
5. ケアマネジャーと一緒の外出訓練を行う。

解答

解説

本症例のポイント

・49歳の男性(膜下出血後、高次脳機能障害)
・現在:移動手段は妻が車で送迎。妻が復職するため、通院や通所への対応が必要。
・本人の希望:自分で車を運転しての通院・通所。
・WAIS-Ⅲ:言語性IQ 77点、動作性IQ 70点、全検査IQ 72点(境界域)。
・三宅式記銘力検査:有関係対語5-7-8無関係対語0-1-1
・TMT:A84秒B99秒。(標準値:A30秒以下、B64秒以下)

→本症例は、知能検査及び記銘力検査の結果、どちらも低下している。またドライバーは、人命を奪う可能性もあるため必要な指導が必要になる。

三宅式記銘力検査とは、記憶の形成、保持、再生と注意機能を評価する検査である。2つずつ対にした「有関連対語10対」と「無関係対語10対」を読んで聞かせたあとに、片一方を読んでもう一方を想起させて10点満点の得点とし、同じことを3回繰り返す。

1.× 通院や通所を中止する優先度は低い。むしろ、本症例は、知能検査及び記銘力検査が低下しており、本人の希望としても「自分で車を運転しての通院・通所」があげられているため、継続した通院・通所が必要である。
2.× 運転免許証を返納させる優先度は低い。運転の可否は医療機関での神経心理学的検査などの結果で「医療従事者(作業療法士)が決める」のではなく、最終的には自動車教習所の教官が決める。また本症例のTMTの結果だけ見ると、必ずしも運転の適性を著しく欠いているとは言い切れない。
3.〇 正しい。バスを利用しての外出訓練を行う。なぜなら、本人の希望としても「自分で車を運転しての通院・通所」があげられており、一人での通院や通所になれる必要があるため。
4.× 自分で車を運転しての外出訓練を行う優先度は低い。なぜなら、自動車教習所の運転適性の評価を受けていない段階で、運転するのは危険であるため。
5.× ケアマネジャーと一緒の外出訓練を行う優先度は低い。ケアマネジャーは、正式名称は「介護支援専門員」といい、「要介護者等からの相談に応じ、要介護者等がその心身の状況等に応じ適切なサービスを利用できるよう市区町村、サービス事業者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識・技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けたもの(法第七条第五項関係)」と定義されている。主な仕事は、ケアプランを作成する職業である。

WAIS-Ⅲとは?

WAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale:ウェクスラー成人知能検査)とは、成人用のウェクスラー知能検査WAISの改訂第3版のことである。質問やイラスト、積み木などの検査キットを用いて、「言語性IQ」「動作性IQ」に加え、「言語理解」「知覚統合」「作動記憶」「処理速度」の4つの指標が得られる。

IQとは、「同世代の集団において、どの程度の知的発達の水準にあるか」を表した数値である。平均値は100であり、点数が平均より高ければIQは100以上になり、点数が平均より低ければIQは100以下となる。79~70以上は「境界域」といい、69以下は「知的障害」と分類される。

 

 

 

7 20歳の男性。頸髄完全損傷。受傷3週後のDaniels らの徒手筋力テストにおける上肢の評価結果を示す。
 この患者が獲得する可能性の最も高いADLはどれか。

1. 床から車椅子へ移乗する。
2. 10cmの段差をキャスター上げをして昇る。
3. ベッド上背臥位からベッド柵を使用せずに寝返る。
4. ベッド端座位のプッシュアップで20cm殿部を持ち上げる。
5. 車椅子上、体幹前屈位からアームサポートに手をついて上半身を起こす。

解答

解説

MEMO

20歳の男性(受傷3週後:頸髄完全損傷)。
→徒手筋力テストの結果より、長・短橈側手根伸筋が残存していること、円回内筋の収縮が困難であることより、Zancolli分類ではC6BⅠである。自立度の目安としては、寝返り自立、上肢装具を使用し書字可能、更衣一部自立である。

1.× 床から車椅子へ移乗することは、C6BⅢ以上残存レベルで行える。上腕三頭筋のプッシュアップ動作が必要になる。
2.× 10cmの段差をキャスター上げをして昇ることは、C8以上残存レベルで行える。車椅子のキャスター上げ(瞬間的に持ち上げる)/車椅子で5cmの段差昇降は、C7レベルの機能残存が必要である。瞬間的なキャスター上げは、約5cmの段差昇降を可能にする。ちなみに、キャスター上げの保持(持続的なキャスター上げ、キャスターを上げたままの移動)は、手指屈筋群が機能するC8レベル以下の機能が必要になる。
3.〇 正しい。ベッド上背臥位からベッド柵を使用せずに、(頚部と上肢を回旋し反動を利用して)寝返ることができる。
4.× ベッド端座位のプッシュアップで20cm殿部を持ち上げることは、C6BⅢ以上残存レベルで行える。上腕三頭筋のプッシュアップ動作が必要になる。
5.× 車椅子上、体幹前屈位からアームサポートに手をついて上半身を起こすことは難しい。上腕三頭筋の肘伸展・広背筋の体幹伸展筋力がMMT0であることから難しいと言える。

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8 55歳の男性。倒れてきた本棚により右肘上部を圧迫され正中神経麻痺を生じた。約1か月経過したが、右上肢の運動障害と感覚障害を認めていることから装具療法を行うことになった。使用する装具で正しいのはどれか。

1. 長対立装具
2. IP伸展補助装具
3. ナックルベンダー
4. Thomas 型懸垂装具
5. コックアップ・スプリント

解答

解説

MEMO

・55歳の男性(正中神経麻痺)。
・約1か月経過:右上肢の運動障害と感覚障害を認めている。
→正中神経麻痺では、猿手やtear drop sign(ティア ドロップ サイン)、perfect O(パーフェクト Oテスト)、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる。

1.〇 正しい。長対立装具は、正中神経高位麻痺に使用する。母指対立が困難になるため。
2.× IP伸展補助装具は、ボタンホール変形の予防矯正に用いる。
3.× ナックルベンダーは、尺骨神経麻痺に使用する。
4.× Thomas 型懸垂装具は、橈骨神経麻痺に使用する。
5.× コックアップ・スプリントは、橈骨神経高位麻痺に使用する。

 

 

9 第5頸髄不全四肢麻痺(ASIA C)患者の図の矢印の部分に褥瘡ができた。
 見直すべき動作で考えられるのはどれか。


1. 移乗
2. 座位保持
3. 立ち上がり
4. 起き上がり
5. プッシュアップ

解答

解説

本症例のポイント

・第5頸髄不全四肢麻痺(ASIA C)患者
肘頭に褥瘡を認める。
→ASIA機能障害尺度でのC(不完全麻痺)では、神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満であると定義されている。したがって、本症例はC5以下の運動機能は残存しているが、抗重力位を保てない。

1.× 移乗の優先度は低い。なぜなら、C5レベル(ASIA C)は、移乗は前方・側方どちらでも可能でなるが、どのパターンでも肘頭には荷重がかからないため。
2.× 座位保持の優先度は低い。なぜなら、C5レベル(ASIA C)は、長時間の座位保持が可能である。仙骨に褥瘡がある場合は座位保持を見直す必要がある。
3.× 立ち上がりの優先度は低い
4.〇 正しい。起き上がりは見直すべき動作で考えられる。起き上がりにおいての臥位から座位へと起き上がる際に、on elbowの状態では肘頭に圧がかかるため、動作の見直しが必要である。引き続き、同じパターンで圧をかけていると治りが遅かったり、そこから感染と起こり得る。
5.× プッシュアップの優先度は低い。なぜなら、C5レベル(ASIA C)は、プッシュアップが行えないため。また、プッシュアップ動作では、肘頭に圧がかからないため、動作の見直しは必要ない。

ASIAとは?

ASIA(American Spinal Injury Association:米国脊髄損傷協会)の脊髄損傷の神経学的・機能的国際評価法は、運動機能スコアと知覚機能スコアの得点結果から、①神経損傷高位、②機能障害スケール、③臨床症状分類を判断できるように構成されている。

【ASIAの機能障害尺度の運動障害】
A(完全麻痺):S4~5の知覚・運動ともに完全麻痺。
B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。
C(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満。
D(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上。
E(正常):運動、知覚ともに正常。

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10 68歳の女性。発症後2か月の脳卒中右片麻痺患者。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅳ。上肢の伸筋群に随意的な関節運動が認められるようになった。
 肘伸展を誘発するための作業療法で適切でないのはどれか。

解答

解説

本症例のポイント

・68歳の女性(発症後2か月:脳卒中右片麻痺患者)。
・Brs:上肢Ⅳ(腰の後方へ手をつける。肘を伸展させて上肢を前方水平へ挙上。肘90°屈曲位での前腕回内・回外)。
・上肢の伸筋群に随意的な関節運動が認められるようになった。
→Brunnstrom法ステージは上肢Ⅳでは、共同運動から独立した運動が出現し始め、痙縮は減少傾向となる。

1.〇 正しい。背臥位で他の筋肉をリラックスしながら、抗重力位で随意的な肘伸展を促せる。 
2.× 図を見ると肘関節屈曲を使用した立ち上がり練習をしている。上肢の屈曲優位の痙縮を助長する。
3~4.〇 正しい。非麻痺側上肢の誘導で肘関節伸展を促すことができる。
5.〇 正しい。肘関節伸展位で持続的に伸張することによって、痙縮を緩和させ肘伸筋群への促通が期待できる。

 

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