第50回(H27) 作業療法士国家試験 解説【午後問題31~35】

 

31 車椅子からの立ち上がり時に、後方重心となり介助を要する脳卒中片麻痺患者への対応で正しいのはどれか。

1.立ち上がる前に車椅子に深く座らせる。
2.両足の内側を密着させる。
3.足部は膝の位置より後方に引かせる。
4.天井を見るように指示する。
5.介助者がズボンを持って上に引き上げる。

解答3

解説

立ち上がり動作は、殿部にある体重心を、足部へ前方移動する動作である。安定性を上げるため両足底全体を床につけて、肩幅程度に広げる。

1.× 立ち上がる前に、車椅子に深くではなく、浅く座らせる。なぜなら、浅く座ることで、膝関節をさらに屈曲させることができる(足部を殿部に近づけられる)ため、足部への前方重心移動が少なく済み、容易に立ち上がりやすくなる。一方、深く座らせることで、立ち上がる際に支持基底面となる足底と体の重心の前方移動幅が大きくなり、立ち上がりにくくなる。
2.× 両足の内側を密着させるのではなく、肩幅程度に広げる。なぜなら、両足の内側を密着させると支持基底面が狭くなり、立ち上がる際にバランスを崩しやすくなり危険であるため。
3.〇 正しい。足部は膝の位置より後方に引かせる。なぜなら、重心に対して支点が相対的に後方に移動することになり、立ち上がる際に体重心を足底に移動しやすくなるため。
4.× 天井ではなく、やや前方の床を見るように指示する。なぜなら、天井を見上げると頭蓋が後方に移動するため、さらに後方重心になりやすく立ち上がりにくくなるため。
5.× 介助者は、ズボンではなく、脇の下を支えながら介助する。立ち上がりは、介助者が一方的に上方へ引き上げるとむしろ立ち上がりにくい。まず介助者は脇の下から腰に手を回し、対象者の上体を前方へ倒すように誘導する。その後、対象者の体重心が足部に位置したタイミングで、上方へ引き上げるような介助が望ましい。

 

 

 

 

 

 

32 疾患と用いられる自助具の組合せで正しいのはどれか。

1.片麻痺:ボタンエイド
2.Parkinson病:BFO
3.関節リウマチ:起き上がりひも
4.脊髄小脳変性症:リーチャー
5.筋萎縮性側索硬化症:軽量太柄スプーン

解答5

解説
1.× ボタンエイドは、片麻痺ではなく、関節リウマチや脳性麻痺(手指の巧級性が低い場合)などに適応となる。
2.× BFO(balanced forearm orthosis)は、Parkinson病ではなく、第4・5頚椎レベル損傷やALSに適応となる。上肢筋力に高度の低下がみられ、BFO(balanced forearm orthosis)の使用によって食事等の目的動作が可能になる。
3.× 起き上がりひもは、関節リウマチではなく、片麻痺やC6レベルの頚髄損傷に適応となる。関節リウマチは関節保護の観点から、起き上がりひもの積極的な使用はしない。
4.× リーチャーは、脊髄小脳変性症ではなく、全人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)といった関節可動域に制限や痛みがある場合に用いる。脊髄小脳変性症では、小脳症状の測定障害があるため、日常生活レベルで使用できない可能性が高い。
5.〇 正しい。軽量太柄スプーンは、筋萎縮性側索硬化症で適応となる。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症は、下位運動ニューロン障害による筋力低下を来すため。ちなみに、軽量太柄スプーンとは、柄の部分が太くて握りやすく軽量であり、力の弱い人でも食事ができるものである。

 

 

 

 

 

 

33 引き寄せ締結法(tension band wiring)により手術直後から骨折部の運動が開始できるのはどれか。

1.上腕骨骨幹部骨折
2.肘頭骨折
3.橈骨骨幹部骨折
4.Colles骨折
5.舟状骨骨折

解答2

解説

引き寄せ締結法とは?

 引き寄せ締結法(テンションバンドワイヤリング法)とは、鋼線を利用して骨折部を引き寄せ、密着するように固定する方法である。プレート固定・スクリュー固定などが困難な場合に用いられる。膝蓋骨骨折肘頭骨折は、一般的にこの方法によって治療される。

1.3.× 上腕骨骨幹部骨折/橈骨骨幹部骨折の治療は、通常は保存療法である。手術適応がある場合、プレート固定や髄内釘が利用される。
2.〇 正しい。肘頭骨折の治療は、引き寄せ締結法の適応となる。軟鋼線をかけることにより、張力が吸収され、骨折部には圧着力が働き、手術直後から骨折部の運動が開始できる。
4.× Colles骨折(コーレス骨折)の治療には、徒手整復プレート固定ギプス固定が一般的である。ちなみに、Colles骨折(コーレス骨折)とは、橈骨遠位端骨折のひとつで、手首側の骨片が手の甲の方向にずれるタイプのものである。
5.× 舟状骨骨折の治療は、ギプスなどによる固定が行われ、骨癒合が得られにくい場合は内固定手術を行うことが多い。ちなみに、舟状骨骨折の治療とは、手を強くついて手関節背屈を強制されたとき生じる。手根骨骨折では最も多い。

 

 

 

 

 

 

34 合併症のない急性心筋梗塞の患者において、厚生省「循環器疾患のリハビリテーションに関する研究班(平成8年度)」のリハビリテーションプログラムに基づき、次のステージへの進行が可能であるのはどれか。

1.動悸の出現
2.心室細動の出現
3.0.5mVのST低下
4.運動時心拍数150/分
5.運動時収縮期血圧の10mmHg上昇

解答5

解説

急性心筋梗塞に対する急性期リハビリテーション負荷試験の判定基準

①胸痛・動悸・呼吸困難などの自覚症状が出現しないこと。
②心拍数が120/分以上にならないこと。または40/分以上増加しないこと。
危険な不整脈が出現しないこと。
④心電図上1mm以上(0.2mV以上)の虚血性ST低下、または著明なST上昇がないこと。
⑤室内便器使用時までは20mmHg以上の収縮期血圧上昇・低下がないこと。
(2週間以上経過した場合、血圧に関する基準は設けない)

(引用:「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」日本循環器学会様より)

1.× 動悸の出現は、に含まれるため、次のステージへの進行はできない。
2.× 心室細動の出現は、に含まれるため、次のステージへの進行はできない。
3.× 0.5mVのST低下は、に含まれるため、次のステージへの進行はできない。
4.× 運動時心拍数150/分は、に含まれるため、次のステージへの進行はできない。
5.〇 正しい。運動時収縮期血圧の10mmHg上昇は、許容範囲であり、次のステージへの進行が行える

急性心筋梗塞の運動負荷試験のステップアップ進行基準

①胸痛・息切れ・動悸・ふらつき・疲労などの自覚症状がないこと。
②心拍数が120/minまたは、安静時より40/min以上増加しないこと。
③重症不整脈が出現しないこと。
④収縮期血圧が安静時より30mmHg以上増加および10mmHg以上低下しないこと。
⑤心電図上0.2mV以上のST低下または、梗塞部の異常なST上昇のないこと。

(引用:「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」日本循環器学会様より)

 

 

 

 

 

 

35 糖尿病患者にみられる病態で運動負荷が禁忌となるのはどれか。

1.高血圧症
2.感覚神経障害
3.脳梗塞後遺症
4.ケトアシドーシス
5.閉塞性動脈硬化症

解答4

解説

2型糖尿病の理学療法

 1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。

①末梢組織のインスリン感受性の改善(ぶどう糖の利用を増加させる)
②筋量増加、体脂肪・血中の中性脂肪の減少。(HDLは増加する)
③摂取エネルギーの抑制、消費エネルギーの増加。
④運動耐容能の増強。

【糖尿病患者に対する運動療法】
運動強度:一般的に最大酸素摂取量の40~60%(無酸素性代謝閾値前後)、ボルグスケールで『楽である』〜『ややきつい』
実施時間:食後1〜2時間
運動時間:1日20〜30分(週3回以上)
消費カロリー:1日80〜200kcal
運動の種類:有酸素運動、レジスタンス運動(※対象者にあったものを選択するのがよいが、歩行が最も簡便。)

【運動療法の絶対的禁忌】
・眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症。
・レーザー光凝固後3~6カ月以内の網膜症。
・顕性腎症後期以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)。
・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合。
・高度の糖尿病自律神経障害がある場合。
・1型糖尿病でケトーシスがある場合。
代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)
・急性感染症を発症している場合。

(※参考:「糖尿病患者さんの運動指導の実際」糖尿病ネットワーク様HPより)

 

1.× 高血圧症を伴っていても運動療法を行える。反対に、高血圧に対し運動療法は、降圧効果が得られるため高血圧症の改善が見込める。
2.× 感覚神経障害を伴っていても運動療法を行える。感覚神経障害(しびれ、疼痛含む)が運動により増強しなければ直ちに禁忌とはならない。
3.× 脳梗塞後遺症を伴っていても運動療法を行える。脳梗塞後遺症は、身体の麻痺、言語障害、認知障害などがみられるが、いずれも運動療法は適応となる。
4.〇 正しい。ケトアシドーシスを伴っている場合、運動療法は禁忌である(糖尿病患者への運動療法処方の禁忌の③にあたる)。なぜなら、ケトアシドーシスを来している場合、意識障害を生じる可能性が高く、運動により体内のCO2が上昇し、さらに増悪するため。ケトアシドーシスとは、脂肪分解亢進によるケトン体の蓄積からアシドーシスが生じ、脱水・意識障害(重症になると昏睡)をきたす。糖尿病では、高度のインスリン作用不足という病態が原因である。
5.× 閉塞性動脈硬化症を伴っていても運動療法を行える。閉塞性動脈硬化症とは、足の血管の動脈硬化がすすみ、血管が細くなったり、つまったりして、充分な血流が保てなくなる病気である。 そのため、血液の流れが悪くなり、歩行時に足のしびれ、痛み、冷たさを感じる。トレッドミル(歩行マシーン)やトラック歩行が運動療法として処方される。

閉塞性動脈硬化症とは?

閉塞性動脈硬化症は、手や足の血管の動脈硬化により、狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こして、血液の流れが悪くなり、手先や足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなる病気である。下肢の慢性虚血による間欠性跛行が発症症状であることが多く、虚血が進行すると壊死に至る。50~70歳代の男性、糖尿病症例に多くみられる。太ももの付け根(大腿動脈)や足の甲(足背動脈)を触診し、脈が触れないことで診断し、確定診断には血管造影検査を行う。

【病期】
Ⅰ期:「しびれ」「冷感」。
Ⅱ期:「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」。一定距離を歩くと脚が傷み、休むとまた歩けるようになる。
Ⅲ期:「安静時疼痛」。安静にしていても脚に痛みが生じる。
Ⅳ期:「潰瘍」「壊疽」。血液が足の先に行かないので、足に潰瘍ができ、ついには足が腐ってしまう。

【治療】
まず動脈硬化の原因である糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療を行う。喫煙者は禁煙する。初期の手足の冷感やしびれには血管拡張薬や血液を固まりにくくする薬(抗血小板剤)を用いる。また歩くことによって、側副血行路が発達し血行の流れの改善をはかる。

(※参考:「閉塞性動脈硬化症」厚生労働省HPより)

 

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