第46回(H23) 理学療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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次の文により5、6の問い答えよ。
 28歳の男性。野球のスライディングの際に右膝関節屈曲位で膝前面を強打し、疼痛が強く歩行不能になったため救急外来を受診した。治療開始から2週後のMRIを下図に示す。

6.治療開始から3週後。疼痛は軽減したが筋萎縮が残存している。
 この患者に行うべき筋力訓練で誤っているのはどれか。
 ただし、図の矢印は運動の方向を示している。

解答4

解説

ポイント

本症例は、後十字靭帯断裂している。
後十字靭帯は、脛骨を後方へ亜脱臼することを防ぐ。
本症例は、下肢筋力の萎縮があるが、脛骨の後方引き出しに注意する必要がある。

1.〇 正しい。中殿筋、小殿筋強化の運動療法である。側副靭帯損傷断裂の際に注意する。
2〜3.〇 正しい。大腿四頭筋強化の運動療法である。前十字靭帯断裂の際に注意する。
4.× ハムストリングス強化の運動療法である。ハムストリングスの求心性収縮により、この方法では脛骨が後方引き出しされてしまうおそれがある。改善策として、脛骨近位を押さえたり、セラバンドで支える方法がある。
5.〇 正しい。腓腹筋、ヒラメ筋強化の運動療法である。アキレス腱断裂の際に注意する。

 

 

 

 

 

次の文により7、8の問い答え。
 75歳の男性。高血圧と糖尿病の治療を長期にわたり行っている。徐々に歩行障害がみられるようになり、転倒することが多くなった。頭部MRIを下図に示す。

7.画像所見で考えられるのはどれか。

1.視床出血
2.硬膜下出血
3.くも膜下出血
4.正常圧水頭症
5.多発性脳梗塞

解答5

解説

本症例のポイント

本問の頭部MRI画像は、脳室が黒く写し出されるが、大脳皮質と周囲の境界がはっきりしていることからFLAIR画像であることがわかる。FLAIR画像は、基本的には水の信号を抑制したT2強調画像(脳室が黒く見えるT2WI風の画像)であり、脳室と隣接した病巣が明瞭に描出される。ラクナ梗塞に代表されるかくれ脳梗塞や血管性認知症にみられるビンスワンガー型白質脳症などの慢性期の脳梗塞部位(白色に描出される)確認に有用である。

1.× 視床出血の特徴として、反対側の感覚障害・不全片麻痺・視床痛があげられる。
2.× 硬膜下出血は、急性と慢性の場合で経過が大きく異なる。慢性硬膜下血腫の場合、三日月形の所見が特徴的である。症状として、軽度の意識障害・認知障害・上下肢の軽度運動障害などがあげられる。
3.× くも膜下出血は、緊急性の高い疾患で症状も非常に重篤である。症状としては、経験したことのないような激しい頭痛、意識障害などがあげられる。治療しない場合は短時間で死に至る。本症例の場合、設問から「高血圧と糖尿病の治療を長期にわたり行っている。徐々に歩行障害がみられるようになり、転倒することが多くなった」と経過が長いことがあげられる。
4.× 正常圧水頭症の症状として、歩行障害認知障害尿失禁がある。水頭症のMRI画像の特徴的な所見として、脳室の拡大やシルビウス裂の拡大があげられる。
5.〇 正しい。多発性脳梗塞が画像所見で考えられる。MRI画像上、汎発性の梗塞巣(脳室周囲や脳深部に多数の高輝度の病)が認められる。

 

 

 

 

 

次の文により7、8の問い答え。
 75歳の男性。高血圧と糖尿病の治療を長期にわたり行っている。徐々に歩行障害がみられるようになり、転倒することが多くなった。頭部MRIを下図に示す。

8.この患者で認められないと考えられるのはどれか。

1.嚥下障害
2.感情失禁
3.小刻み歩行
4.認知機能低下
5.左側弛緩性麻痺

解答5

解説

本症例のポイント

本症例は、多発性脳梗塞である。多発性脳梗塞は両側性に梗塞(直径15㎜以下)が多発する症候である。ラクナ梗塞が多発した状態である。症状として、偽性球麻痺、脳血管性認知症、パーキンソン症候群、両側性錐体路徴候、排泄障害、眼球障害などがあげられる。

1.〇 嚥下障害は、偽性球麻痺の症状としてみられる。
2.〇 感情失禁は、前頭葉障害に認められる。感情失禁とは、軽度の情動的刺激で笑ったり、泣いたりする現象で、感情の調節がうまくいかない状態である。
3.〇 小刻み歩行は、パーキンソン症候群の一つである。多発性脳梗塞ではパーキンソン症候群が認められる。
4.〇 認知機能低下は、脳血管性認知症の症状としてみられる。
5.× 左側弛緩性麻痺は、この患者で認められないと考えられる。なぜなら、多発性脳梗塞は両側性に梗塞(直径15㎜以下)が多発する症候であるため。左側のみに症状が出現するとは考えにくい。

 

 

 

 

 

 

9. 78歳の女性。脳梗塞発症後に中等度の左片麻痺を呈した。回復期リハビリテーション病棟を経て自宅での生活に戻っている。現在、家族の促しがあれば1kmの歩行が可能であるが、日常生活ではあまり外出しない。
 この患者への理学療法で適切なのはどれか。

1.トレッドミル歩行
2.電動車椅子の導入
3.屋外での歩行練習
4.左片麻痺の回復促進
5.不整地でのバランス練習

解答3

解説

本症例のポイント

課題:日常生活ではあまり外出しない。

慢性期片麻痺の在宅生活指導の目的は、寝たきりの予防、認知症の予防、転倒予防、残存運動能力の維持・向上である。

1.× トレッドミル歩行は最優先とはいいがたい。トレッドミル歩行の介入は、運動耐容能のみならず歩行機能の改善をもたらすと報告されている(脳卒中治療ガイドライン2009に運動療法としてグレードB)。したがって、理学療法として不適切とは言い難いが、理学療法の実施場所が、リハビリ室なのか訪問による自宅なのかでトレッドミル歩行自体行えないとも考えられる。設問の状況設定が曖昧であるが、「現時点では外出を促すよう理学療法を選択してほしい」という意図がある問題である。
2.× 電動車椅子の導入は時期尚早である。本症例は、家族の促しがあれば1kmの歩行が可能である。残存能力の維持・向上を目指す。
3.〇 正しい。屋外での歩行練習は、最も優先度が高い。本症例は現在、家族の促しがあれば1kmの歩行が可能であるが、日常生活ではあまり外出しない。1km歩行できれば問題ないかとも考えられるが、「日常生活ではあまり外出しない」ことが、本症例の問題であるような書き方をされている。外出に乗り気ではない理由を身体的・精神的問題など評価することを前提に、「現時点では外出を促すよう理学療法を選択してほしい」という意図がある問題である。(※正直、解説を書いていて納得いかないような問題でした。もっとスマートな解説があればコメント欄にて教えてください。)
4.× 左片麻痺の回復促進は優先度が低い。なぜなら、片麻痺の回復は回復期リハビリテーションで期待されるべき項目であるため。
5.× 不整地でのバランス練習は最優先とはいいがたい。ただし、不整地でのバランス練習は転倒予防にもつながり、本症例が外出できていなかった場合がバランス機能にあった場合は大いに選択できる練習とも考えられる。設問の状況設定が曖昧であるが、「自宅でも行える理学療法」であれば、一人で行うには転倒の危険があるため優先度は低い。

 

 

 

 

 

 

10. 65歳の男性。多系統萎縮症。日常生活活動では一部に介助を要するが、明らかな廃用症候群はみられない。最近、起床して布団から立ち上がるときに、ふらっきを強く感じるようになった。
 ふらつきの原因として考えられるのはどれか。2つ選べ。

1.運動麻痺
2.視覚障害
3.アテトーゼ
4.協調運動障害
5.起立性低血圧

解答4/5

解説

多系統萎縮症とは?

多系統萎縮症は、起立性低血圧が起こり得やすい疾患である。多系統萎縮症とは、神経系の複数の系統(小脳、大脳基底核、自律神経など)がおかされる疾患で、3つのタイプがある。小脳や脳幹が萎縮し、歩行時にふらついたり呂律がまわらなくなる小脳失調型、大脳基底核が主に障害され、パーキンソン病と同じような動作緩慢、歩行障害を呈する大脳基底核型、もうひとつは自律神経が主に障害され起立性低血圧や発汗障害、性機能障害などがみられる自律神経型である。

1~3.× 運動麻痺/視覚障害/アテトーゼはみられない。ちなみに、アテトーゼとは、ゆっくり流れるようにうねる連続的な不随意運動である。
4.〇 正しい。協調運動障害は、ふらつきの原因として考えられる。多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)では、初期には起立・歩行の失調を示し、進行により四肢の協調運動障害を生じる。
5.〇 正しい。起立性低血圧は、ふらつきの原因として考えられる。多系統萎縮症(Shy-Drager症候群)では、起立性低血圧を始めとする広範な進行性の自律神経症状を主症候とする。

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