第61回(R8)理学療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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16 34歳の女性。28歳で再発寛解型の多発性硬化症と診断を受け、再発のため入院した。理学療法実施後、起き上がり時に背中から下方に電撃痛を訴えた。
 この徴候で正しいのはどれか。

1.Barré徴候
2.Gowers徴候
3.Horner徴候
4.Lhermitte徴候
5.Uhthoff徴候

解答

解説

本症例のポイント

・34歳の女性(多発性硬化症)。
・28歳:再発寛解型。
・理学療法実施後、起き上がり時に背中から下方に電撃痛を訴えた(レルミット徴候)。
→多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)。

1.× Barré徴候(バレー徴候)とは、脳血管障害など(軽度麻痺)によって起こる。上位運動ニューロン障害による片側性の軽い運動麻痺を評価する。上肢の筋力が低下する(麻痺がある)と、両腕を水平に維持することが困難となるため、麻痺側がゆっくりと回内しながら下降してくる。

2.× Gowers徴候(登攀性起立、ガワーズ徴候)は、電撃痛と無関係である
・Gowers徴候(登攀性起立、ガワーズ徴候)は、Duchenne型筋ジストロフィーにみられる。立ち上がる際に手を膝でおさえつつ、体を起こしていく方法である。筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性・壊死と筋力低下を主徴とする遺伝性の疾患総称である。そのうちのDuchenne型筋ジストロフィーは、X連鎖劣性遺伝で①幼児期から始まる筋力低下、②動揺性歩行、③登攀性起立(Gowers徴候:ガワーズ徴候)、④腓腹筋などの仮性肥大を特徴とする。筋ジストロフィー症の中でもっとも頻度が高い。3歳頃に歩行や粗大運動の異常で気がつかれることが多い。

3.× Horner徴候は、電撃痛と無関係である
・Horner徴候(ホルネル徴候)は、交感神経の遠心路が障害されることで生じる。主に、自律神経障害を呈し、三大徴候(眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹)があげられる。

4.〇 正しい。Lhermitte徴候が該当する。Lhermitte 徴候(レルミット徴候)は、多発性硬化症にみられる。Lhermitte 徴候(レルミット徴候)は、首の脊髄に病巣ができると、首を前に曲げたときに感電したような痛みや刺すような痛みが背中から両脚、片方の腕、体の片側へ走る感覚の事である。

5.× Uhthoff徴候は、電撃痛と無関係である
・Uhthoff徴候(ウートフ徴候)は、多発性硬化症患者の入浴・温熱などで体温が上昇すると既存の症状(視力障害・麻痺症状など)が一過性に悪くなることである。そのため、過度な運動は避けた方がいい。

 

 

 

 

 

17 45歳の男性。筋萎縮性側索硬化症。発症から半年経過しているが、ADLは自立している。主に下肢の筋力低下および鶏歩が認められる。
 理学療法で最も適切なのはどれか。

1.車椅子操作の練習
2.下肢の漸増抵抗運動
3.両松葉杖での歩行練習
4.下肢に対する感覚再教育
5.プラスチックAFOを装着した歩行練習

解答
第51回午前15とほぼ同じ問題

解説

本症例のポイント

・45歳の男性(筋萎縮性側索硬化症)。
・発症から半年経過、ADL自立
・主に下肢の筋力低下および鶏歩が認められる。
→筋萎縮性側索硬化症とは、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)。

1.× 車椅子操作の練習は時期尚早である。なぜなら、本症例のADLは自立しており、主課題が歩行(鶏歩)であるため。したがって、まず歩行の安全性・効率を補装具で改善する方が優先される。

2.× 下肢の漸増抵抗運動より優先されるものが他にある。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症に対し、下肢の漸増抵抗運動は、疲労・筋痛・筋力低下を助長するリスクがあるため。筋萎縮性側索硬化症は、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していくであるため、下肢の漸増抵抗運動によって筋力強化は期待できない。

3.× 両松葉杖での歩行練習より優先されるものが他にある。なぜなら、両松葉杖と鶏歩との関連性が低いため。一般的に、両松葉杖歩行は、骨折などで体重をかけられないとき、1/2~1/3部分免荷が行う際に用いられる。
【松葉杖の適応】
・片方の下肢骨折
・対麻痺障害などの立位保持が困難な場合
・荷重負荷制限
・上腕の筋力が十分であること

4.× 下肢に対する感覚再教育より優先されるものが他にある。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症の運動ニューロン疾患で、主障害は運動(筋力低下・麻痺)であり、陰性徴候に感覚障害があるため。ちなみに、感覚再教育は、脳卒中後など感覚障害に対し行う。

5.〇 正しい。プラスチックAFOを装着した歩行練習が、理学療法で最も優先される。なぜなら鶏歩に対して、プラスチックAFOを装着することで足関節背屈を補助し、つまずきを回避することができるため。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

18 58歳の男性。身長160cm、体重90kg、腹囲120cm、血圧150/90mmHg。産業医よりメタボリックシンドロームに対する運動を習慣づけるよう指示された。
 最も適切な運動形式はどれか。

1.階段昇降
2.自転車エルゴメーター
3.腹筋筋力トレーニング
4.プランク
5.ランニング

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の男性。
・身長160cm、体重90kg、腹囲120cm、血圧150/90mmHg。
・産業医よりメタボリックシンドロームに対する運動を習慣づけるよう指示された。
→メタボは「継続できる中等度の有酸素運動(3~4METs程度)」が基本。肥満+高血圧では、関節負担と転倒リスクの少ない“自転車”が選びやすい。

→産業医とは、労働安全衛生法に基づき、事業所や労働者に対して労働衛生について勧告・指導・助言を行う医師のことである。業種を問わず常時使用する労働者が50人以上の事業場で、事業所が産業医を選任することが義務付けられている。原則として、少なくとも毎月1回職場巡視をしなければならない

1.× 階段昇降(6METs程度)は、負荷が大きい。なぜなら、本症例(血圧150/90mmHg)に対し、階段昇降は血圧の上昇を招きやすく、運動強度から継続性と安全性に欠けやすいため。階段は悪くないが、本症例では第一選択になりにくい。

2.〇 正しい。自転車エルゴメーター(10㎞/h:4METs)が最も優先される。なぜなら、下肢への体重負荷が少なく関節負担が小さいうえ、運動強度(負荷・回転数)を調整しやすく安全に有酸素運動を習慣化しやすいため。また、自転車エルゴメーターは、天候に左右されず、転倒リスクも低く、血圧が高めでもコントロールしやすい。

3~4.× 腹筋筋力トレーニング/プランク(軽い筋力トレーニング:3.5METs程度)より優先されるものが他にある。なぜなら、メタボリックシンドロームに対する運動は、有酸素運動が基本であるため。産業医より「メタボリックシンドロームに対する運動を習慣づける」よう指示され、筋トレ単独は、内臓脂肪減少・心血管リスク低減の主軸になりにくい。したがって、まず有酸素運動の習慣化が優先される。
・プランクは、うつ伏せ状態で前腕・肘・つま先を床につき、頭からかかとまでを一直線に保って静止する体幹トレーニングである。

5.× ランニング(8METs程度)は、負荷が大きく、習慣化が期待できない。本症例のように、BMI:約35.2の場合、習慣化の前に挫折することが考えられる。

メタボリックシンドロームとは?

メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積を基盤とし、動脈硬化の危険因子を複数合併した状態のことである。

①腹部肥満(ウエストサイズ 男性85cm以上 女性90cm以上) 
②中性脂肪値(HDLコレステロール値 中性脂肪値 150mg/dl以上、HDLコレステロール値 40mg/dl未満のいずれか、または両方)
③血圧(収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上のいずれか、または両方)
④血糖値(空腹時血糖値110mg/dl以上)

 

 

 

 

 

19 70歳の男性。陳旧性心筋梗塞。独居生活をしていたが、定期検査のため内科病棟に1週間入院したところ、入院前に比べて階段昇降ができなくなり、歩行距離も30m程度まで低下した。
 この状態の説明で最も適切なのはどれか。

1.AE〈acute exacerbation〉
2.HAD〈Hospitalization Associated Disability〉
3.ICU-AW
4.NYHA心機能分類Ⅰ
5.PICS〈Post Intensive Care Syndrome〉

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(陳旧性心筋梗塞)。
・独居生活。
・定期検査のため内科病棟に1週間入院した。
・入院前に比べて階段昇降ができなくなり、歩行距離も30m程度まで低下
→本症例は、入院前(発症前)にできていたADLが、退院時に新たにできなくなっている(原疾患だけでは説明しにくい)状態である。

1.× AE〈acute exacerbation:急性増悪〉とは、基礎疾患(例:COPDや間質性肺炎など)の急性増悪を指す。例えば、COPDで息切れが急に悪化し酸素化が低下→治療が必要、というような経過のことを指す。

2.〇 正しい。HAD〈Hospitalization Associated Disability:入院関連能力低下〉が該当する。なぜなら、本症例の短期入院後に、階段昇降不可・歩行距離低下という経過に合致するため。
・入院関連能力低下[HAD〈Hospitalization Associated Disability〉]とは、「直接的には運動障害を来さない疾患(肺炎,心不全,悪性腫瘍など)のために入院したときに発症する,(過剰な)安静臥床(すなわち不動)を原因としたADL障害もしくは身体機能低下/認知・精神機能低下」と定義される。

3.× ICU-AW〈集中治療室獲得性筋力低下:ICU acquired weakness)とは、ICU入室後の重症患者さんにおいて、数日以内に発生する急性の筋力低下を総称したものである。発症すると病態の重症化を招き、死亡率の増加やICU入室期間の延長をきたす。

4.× NYHA心機能分類は、「Ⅰ」ではなく相当である。なぜなら、本症例は、歩行距離が30m程度まで低下しているため。
【NYHA心機能分類】
Ⅰ度:心疾患があるが、身体活動には特に制約がなく日常労作により、特に不当な呼吸困難、狭心痛、疲労、動悸などの愁訴が生じないもの。
Ⅱ度:心疾患があり、身体活動が軽度に制約されるもの。安静時または軽労作時には障害がないが、日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)によって、上記の愁訴が発言するもの。
Ⅲ度:心疾患があり、身体活動が著しく制約されるもの。安静時には愁訴はないが、比較的軽い日常労作でも、上記の主訴が出現するもの。
Ⅳ度:心疾患があり、いかなる程度の身体労作の際にも上記愁訴が出現し、また、心不全症状、または、狭心症症候群が安静時においてもみられ、労作によりそれらが増強するもの。

5.× PICS〈集中治療後症候群:Post Intensive Care Syndrome〉とは、ICU(集中治療室)の後に、退室後も続く心身の不調の総称(身体障害、認知機能、精神障害)である。具体的には、①筋力低下や体力低下などの身体症状、②記憶力・注意力の低下などの認知機能障害、③不安・抑うつ・PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神症状がみられる。本人だけでなく家族にも影響が及ぶことがある。

 

 

 

 

 

20 8週の臨床実習に臨む学生。3日前に右変形性膝関節症により人工関節置換術を施行した70歳代の女性の理学療法に参加する。安静時痛は認めないが、体動時はNRSで6点。右膝関節可動域は伸展-10度、屈曲75度。歩行器を使用した歩行練習を本日より導入した。
 実習の参加レベルと内容の組合せで誤っているのはどれか。(※不適切問題:採点除外)

1.見学:歩行器での歩行練習
2.共同参加:車椅子からの移乗動作介助
3.共同参加:左右の大腿周径の計測
4.実施:右大腿四頭筋セッティング
5.実施:右膝関節の他動的な関節可動域運動

解答5?(※不適切問題:採点除外)
理由:問題として適切であるが、受験者レベルでは難しすぎるため。
※厚生労働省では解なし

解説

MEMO

8週の臨床実習に臨む学生
・症例:70歳代の女性(3日前:右変形性膝関節症により人工関節置換術)。
・安静時痛は認めないが、体動時はNRSで6点
・右膝関節可動域は伸展-10度屈曲75度
・歩行器を使用した歩行練習を本日より導入
→他動的な関節可動域運動は、指導者の直接監督下で共同参加レベルが妥当である。

→NRS(numerical rating scale:数字評価スケール)では、痛みの「性状」ではなく強さを評価する。0(痛みなし)~10(想像できる最大の痛み)の数字で11段階に区分し、現在の痛みの程度を示してもらう。

1.〇 見学:歩行器での歩行練習
なぜなら、歩行器歩行は、転倒リスクや疼痛増悪リスクがあるため。本症例の場合、術後3日の歩行練習の導入初日NRSで6点)であるため、学生はまず見学で安全管理と介入手順を学ぶのが妥当と考えられる。

2.〇 共同参加:車椅子からの移乗動作介助
なぜなら、移乗は転倒・疼痛増悪のリスクがある一方、指導者の監督下(共同参加)であれば、学生が介助の一部(ブレーキ確認、歩行器/手すり位置、患側下肢の置き方の声かけ、体幹保持の介助など)を担当することができるため。介助量(軽介助〜中等度介助など)や環境設定(ブレーキ、フットレスト、患側の位置)を学ぶのに適している。

3.〇 共同参加:左右の大腿周径の計測
なぜなら、周径計測は、背臥位で測定でき、安全のもと実施できるため。また、大腿周径の計測は、術後の腫脹や筋萎縮の評価として重要であること、手技の誤差が出たとき指導者と一緒に確認できる。

4.〇 実施:右大腿四頭筋セッティング
なぜなら、大腿四頭筋セッティングは低負荷・安全に実施でき、学生でも基本的に実施しやすい運動療法であるため。また、今回の症例は、70歳代の女性3日前:右変形性膝関節症により人工関節置換術)で、すでに大腿四頭筋セッティングしている可能性が高い。学生の不慣れな指示にも、実施可能と考えられる(とはいえ、疼痛を見ながら回数調整可能かと言われれば、共同参加の方がいいような・・・)。

5.× 右膝関節の他動的な関節可動域運動は、「実施」ではなく見学〜共同参加にとどめる。なぜなら、本症例(術後3日で体動時痛NRS6、伸展-10°・屈曲75°と制限)は、他動的な関節可動域運動は疼痛増悪創部/関節内へのストレス過伸展/過屈曲などのリスクがあるため。

 

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