第58回(R5) 理学療法士/作業療法士 共通問題解説【午後問題81~85】

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81.Eriksonの発達段階で成人前期に獲得すべき課題はどれか。

1.勤勉性
2.自律性
3.親密性
4.生殖性
5.統合性

解答

解説

エリクソン発達理論

乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):基本的信頼感vs不信感
幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳):自律性vs恥・羞恥心
幼児後期(4歳~6歳):積極性(自発性)vs罪悪感
児童期・学童期(6歳~12歳):勤勉性vs劣等感
青年期(12歳~22歳):同一性(アイデンティティ)vs同一性の拡散
前成人期(就職して結婚するまでの時期):親密性vs孤立
成人期(結婚から子供が生まれる時期):生殖性vs自己没頭
壮年期(子供を産み育てる時期):世代性vs停滞性
老年期(子育てを終え、退職する時期~):自己統合(統合性)vs絶望

1.× 勤勉性は、児童期・学童期(6歳~12歳)に獲得すべき課題である。
2.× 自律性は、幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳)に獲得すべき課題である。
3.〇 正しい。親密性は、成人前期に獲得すべき課題である。
4.× 生殖性は、成人期(結婚から子供が生まれる時期)に獲得すべき課題である。
5.× 統合性は、老年期(子育てを終え、退職する時期~)に獲得すべき課題である。

 

 

 

 

 

82.脳卒中患者の歩行自立と関連が最も少ないのはどれか。

1.半側空間無視
2.両側性片麻痺
3.深部覚障害
4.注意障害
5.失語症

解答

解説
1.× 半側空間無視より関連が低いものが他にある。半側空間無視とは、障害側の対側への注意力が低下し、その空間が存在しないかのように振る舞う状態のことである。半盲とは性質が異なり、左半分が見えないわけではなく、左半分への注意力が低下している状態である。したがって、①左側への注意喚起、②左側身体への触覚刺激、③左足方向への体軸回旋運動、④左側からの声かけなどのアプローチが必要である。
2.× 両側性片麻痺より関連が低いものが他にある。なぜなら、両側性片麻痺によって、両側の運動機能が損なわれるため。
3.× 深部覚障害より関連が低いものが他にある。なぜなら、深部覚障害(位置覚・振動覚の障害)により、障害物につまづいたり、ぶつけたりする可能性が上がるため。
4.× 注意障害より関連が低いものが他にある。なぜなら、注意障害により歩行時に注意散漫で、周囲への注意が払えなかったり、気を取られやすくなったりするため。
5.〇 正しい。失語症は、脳卒中患者の歩行自立と関連が最も少ない。なぜなら、失語症は、言語機能の障害であり、話す、理解する、読む、書く能力が損なわれるものであるため。理解・読解能力が損なわれていた場合は、旅行など現地の看板を読んだり、説明を聞いたりするのに困難をきたしやすい。

注意障害5つ

①持続性:注意を一定時間の状態に保つことが困難になる。
②選択性:多数の刺激の中から必要な情報や物事に注意を向けられない
③転換(導)性:必要に応じて注意の方向性を切り替えることが困難になる。
④配分性(多方向性):2つ以上の課題を同時に遂行したり、順序立てて行ったりすることが困難になる。
⑤容量性(感度):ある情報に関する注意の閾値が適度に保つことが困難である。
※:全般性注意障害ではこの5つが全般的に障害されている状態である。

 

 

 

 

 

83.頚髄損傷完全麻痺(第6頚髄節まで機能残存)の上肢機能で可能なのはどれか。2つ選べ。

1.小指の外転
2.母指の内転
3.手関節の背屈
4.肘関節の屈曲
5.中指DIP関節の屈曲

解答3・4

解説

第6頚髄節まで機能残存

第5頸髄節まで機能残存レベルでは、肘屈曲が可能である。
・上腕二頭筋、上腕筋が機能する。

第6頸髄節まで機能残存レベルでは、手関節背屈が可能である。
・長、短橈側手根伸筋が機能する。

1.× 小指の外転は、小指外転筋が行う。小指球筋群のひとつで、【起始】豆状骨、屈筋支帯、【停止】小指の基節骨底の尺側、一部は指背腱膜、【神経】尺骨神経(C8,T1)である。Zancolliの表には記載されていないが、支配神経から、第8頸髄節まで機能残存レベルで可能となると考えられる。
2.× 母指の内転は、母指内転筋が行う。母指球筋群のひとつで、【起始】横頭:第3中手骨掌面の全長、斜頭:有頭骨を中心とした手根骨、第2~3中手骨底の掌側面、【停止】種子骨、母指基節骨底、一部は指背腱膜、【神経】尺骨神経深枝(C8,T1)である。Zancolliの表には記載されていないが、支配神経から、第8頸髄節まで機能残存レベルで可能となると考えられる。
3.〇 正しい。手関節の背屈は可能である。第6頸髄節まで機能残存レベルで可能となり、長、短橈側手根伸筋が機能する。
4.〇 正しい。肘関節の屈曲は可能である。第5頸髄節まで機能残存レベルで可能となり、上腕二頭筋、上腕筋が機能する。
5.× 中指DIP関節の屈曲は、第8頸髄節まで機能残存レベルで可能となる。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

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84.痙縮が出現し得るのはどれか。

1.筋強直性ジストロフィー
2.Guillain-Barre症候群
3.多発性筋炎
4.多発性硬化症
5.腕神経叢麻痺

解答

解説

痙縮とは?

痙縮は、錐体路の上位運動ニューロン障害による損傷高位以下の脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)の活動性が亢進し、麻痺筋の筋紡錘からの求心性刺激が増強することによって生じる。その結果、意思とは関係なく筋肉の緊張が高まり、手や足が勝手につっぱったり曲がってしまったりしてしまう状態となる。このため、前角細胞以下の障害では痙縮は出現しない。脳卒中の後遺症として起こる痙縮の治療にはボツリヌス毒素が用いられる。ボツリヌス毒素が神経終末の受容体に結合することで、アセチルコリンの放出を阻害し、アセチルコリンを介した筋収縮および発汗が阻害される。

1.× 筋強直性ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィー内の一種で、常染色体優性遺伝(男女比ほぼ1:1)で、大人で最も頻度の高い筋ジストロフィーである。そもそも進行性筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性及び壊死を主病変とし、進行性の筋力低下や萎縮をきたす遺伝性疾患である。【筋強直性ジストロフィーの特徴】①中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)、②顔面筋の筋萎縮により西洋斧様顔貌(顔の幅が狭くなった顔貌)、嚥下障害、構音障害、③前頭部若禿(前頭部の脱毛)、④遠位優位の筋萎縮、⑤ミオトニア(舌の叩打・母指球・把握)、⑥心伝導障害(房室ブロックなど)、⑦軽症例:糖尿病(耐糖能異常)、⑧白内障がみられる。
2.× Guillain-Barre症候群とは、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)
3.× 多発性筋炎とは、自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下をきたす。典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。膠原病または自己免疫疾患に属し、骨格筋に炎症をきたす疾患で、遺伝はなく、中高年の女性に発症しやすい(男女比3:1)。5~10歳と50歳代にピークがあり、小児では性差なし。四肢の近位筋の筋力低下、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状がみられる。手指、肘関節や膝関節外側の紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な症状がある。合併症の中でも間質性肺炎を併発することは多いが、患者一人一人によって症状や傷害される臓器の種類や程度が異なる。予後は、5年生存率90%、10年でも80%である。死因としては、間質性肺炎や悪性腫瘍の2つが多い。悪性腫瘍に対する温熱療法は禁忌であるので、その合併が否定されなければ直ちに温熱療法を開始してはならない。しかし、悪性腫瘍の合併の有無や皮膚症状などの禁忌を確認したうえで、ホットパックなどを用いた温熱療法は疼痛軽減に効果がある。(※参考:「皮膚筋炎/多発性筋炎」厚生労働省様HPより)
4.〇 正しい。多発性硬化症は、痙縮が出現し得る。多発性硬化症は、中枢神経に時間的(多発性)空間的(多巣性)に病変を生じる脱髄疾患である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。
5.× 腕神経叢麻痺とは、腕神経叢が損傷することで、上肢のしびれや感覚障害、筋力低下になることである。つまり、下位運動ニューロン障害をきたす。原因として、オートバイ走行中の転倒、スキーなど高速滑走のスポーツでの転倒、機械に腕が巻き込まれたときなどがあげられる。

 

 

 

 

 

85.Ⅱ型呼吸不全では正常で、Ⅰ型呼吸不全で増加するのはどれか。

1.1秒率
2.肺活量
3.動脈血酸素分圧
4.動脈血二酸化炭素分圧
5.肺胞気-動脈血酸素分圧較差

解答

解説

呼吸不全の種類

【呼吸不全の定義】PaO2≦60Torrである。

ここから、Ⅰ型呼吸不全かⅡ型呼吸不全か決定する。

Ⅰ型呼吸不全の場合】PaCO2≦45Torr
つまり、ガス交換障害:肺胞に空気(外気)が入ってきても、血液中に酸素をうまく取り込めていない状態である。肺胞内では拡散障害や換気血流比不均等などが生じている可能性がある。原因となる疾患には、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性経過の間質性肺炎、急性心不全、肺血栓塞栓症など。

【Ⅱ型呼吸不全の場合】PaCO2>45Torr
つまり、換気障害:肺胞内に出入りするガスの量が少なく、血液中の二酸化炭素の排出・血液中に酸素を取り込むことが難しい状態。(肺胞低換気)である。原因となる疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性呼吸不全の急性増悪、気管支喘息の重症発作など。

つまり、設問文の状態の聞いていること
・Ⅰ型呼吸不全:増加
ガス交換障害:増加するものは?

・Ⅱ型呼吸不全:正常
→換気障害:正常

1.× 1秒率は、Ⅱ型呼吸不全にて「正常のまま」ではなく低下する。1秒率とは、息を努力して吐き出したときに呼出される空気量のうち最初の一秒間に吐き出された量の割合である。Ⅱ型呼吸不全(換気障害)は、気道の狭窄などにより肺胞内に出入りするガスの量が少なく、血液中の二酸化炭素の排出・血液中に酸素を取り込むことが難しい状態である。
2.× 肺活量は、Ⅱ型呼吸不全にて「正常のまま」ではなく低下する。肺活量とは、[最大吸気量 + 予備呼気量]のことをいう。つまり、限界まで吸い、限界まで吐いたときの空気の量である。肺活量は、拘束性障害で減少することが多い。拘束性換気障害は、肺結核、肺線維症などがあげられる。
3.× 動脈血酸素分圧は、Ⅰ型・Ⅱ型呼吸不全にて低下する。なぜなら、Ⅰ型・Ⅱ型呼吸不全とも原因は違うが、酸素を取り込むことが難しい状態となるのは同じであるため。ちなみに、動脈血酸素分圧とは、動脈血中の酸素の圧力を示す指標で、通常は約80~100Torrの範囲である。
4.× 動脈血二酸化炭素分圧は、Ⅱ型呼吸不全にて「正常のまま」ではなく上昇する。なぜなら、Ⅱ型呼吸不全の場合(換気障害)は、肺胞内に出入りするガスの量が少なく、血液中の二酸化炭素の排出も困難となるため。
5.〇 正しい。肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は、Ⅱ型呼吸不全では正常で、Ⅰ型呼吸不全で増加する。肺胞気・動脈血酸素分圧較差とは、肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PAO2)の差である。Ⅰ型呼吸不全の場合(ガス交換障害)は、肺胞に空気(外気)が入ってきても、血液中に酸素をうまく取り込めていない状態である。したがって、肺胞気・動脈血酸素分圧較差は増加する。一方、Ⅱ型呼吸不全(換気障害)は、気道の狭窄などにより肺胞内に出入りするガスの量が少なく、血液中の二酸化炭素の排出・血液中に酸素を取り込むことが難しい状態である。つまり、肺胞までガスが行きわたらないため、肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PAO2)が同じ幅で変化する。したがって、肺胞気・動脈血酸素分圧較差は正常のままである。

慢性閉塞性肺疾患とは?

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の原因は喫煙であり、喫煙者の約20%がCOPDを発症する。慢性閉塞性肺疾患とは、以前には慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称である。他の特徴として、肺の過膨張、両側肺野の透過性亢進、横隔膜低位、横隔膜の平低化、滴状心などの特徴が認められる。進行性・不可逆性の閉塞性換気障害による症状が現れる。

増加:残気量・残気率・肺コンプライアンス・全肺気量・PaCO2

減少:一秒率・一秒量・肺活量・肺拡散能・PaO2

 

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