第61回(R8)作業療法士国家試験 解説【午後問題6~10】

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6 60歳の男性。会社員。直腸癌の術後で人工肛門を造設した。現在、抗がん剤治療中で倦怠感と下肢筋力低下があるが、病棟内での歩行は見守りレベルで可能。人工肛門のパウチ交換手順のトレーニングを始めた。入院前と同じ部署への復帰を希望している。
 この患者に対する作業療法の初期対応で最も適切なのはどれか。

1.高負荷の持久力訓練を行う。
2.食事摂取量を半分に減らすように助言する。
3.人工肛門の自己管理指導は看護師に任せる。
4.早期復職に向けて作業環境の現地評価を行う。
5.活動と休息のバランスを考慮したプログラムを行う。

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の男性(直腸癌の術後で人工肛門を造設)。
・現在:抗がん剤治療中倦怠感と下肢筋力低下がある。
・病棟内での歩行:見守りレベル
・人工肛門のパウチ交換手順のトレーニングを始めた。
・入院前と同じ部署への復帰を希望している。
→抗がん剤治療中の運動処方をおさえておこう。抗がん剤治療の主な副作用は、吐き気・嘔吐、脱毛、口内炎、下痢・便秘、骨髄抑制(白血球・血小板の低下、貧血)、疲労・倦怠感、手足のしびれなどであるため、初期は「無理に負荷を上げる」より「活動と休息の配分」を軸に実施する。

→加えて、本症例の場合は、自己管理(パウチ交換)と復職を見据えた生活再建を進めるのが最適といえる。

1.× 「高負荷」ではなく低負荷の持久力訓練を行う。なぜなら、本症例の現在は、抗がん剤治療中倦怠感と下肢筋力低下があるため。本症例は、病棟歩行が見守りということからも、体力はまだ不安定であることが考えられる。したがって、高負荷の持久力訓練を行うと、疲労増悪につながり、翌日以降の活動量低下(悪循環)を招きやすい。

2.× あえて、食事摂取量を半分に減らすように助言する必要はない。むしろ、抗がん剤治療中の栄養状態は、筋力・体力・治療継続に直結ため、安易な摂取量半減は低栄養・サルコペニア(筋量低下)を悪化させる。ただし、人工肛門(ストーマ)管理は、食事内容の工夫(ガス・便性状・臭いの調整、脱水予防など)は重要である。一般的に、医師・管理栄養士・看護師と連携しながら必要量を確保しつつ調整する。OTが「半分に減らす」と一律指導するのは不適切である。

3.× 人工肛門の自己管理指導は、「看護師に任せる」のではなくチーム医療でOT視点からも支援する。なぜなら、ストーマ自己管理の中心が看護師であっても、OTは「手順の学習」「動作の省エネ化」「作業遂行能力」「復職を見据えた実用性」などの視点から支援することができるため。例えば、本症例の現在は、抗がん剤治療中倦怠感と下肢筋力低下があることから、座位での手順化、道具配置の工夫、片手操作の工夫など、介入できそうである。また、復職からの視点で、職場トイレ環境を想定した練習など行えると考えられる。

4.× 早期復職に向けて作業環境の現地評価を行うのは、「時期尚早」である。なぜなら、本症例の現在は、抗がん剤治療中倦怠感と下肢筋力低下があるため。まず初期対応として、日常生活の安定(病状把握、体力・人工肛門のパウチ交換手順の獲得)が優先される。したがって、「早期復職に向けて作業環境の現地評価」は、日常生活の状態が整い復職の具体条件が見えてから行うのが合理的である。

5.〇 正しい。活動と休息のバランスを考慮したプログラムを行う。なぜなら、抗がん剤治療中は、副作用にも考慮しなければならないため。活動量をゼロにせず、休息を計画的に挟みながら、日常生活と訓練を成立してもらう。まずは、疲労の波を把握したり、優先順位をつけ重要動作(パウチ交換・清潔・移動)を良い時間帯に配置して、休息をはさみつつ効率的な機能訓練を実施することが望ましい。

 

 

 

 

 

7 65歳の女性。台所の段差でつまずき転倒し、左大腿骨近位部骨折。後方進入法にて人工骨頭置換術を施行し、自宅退院に向けて作業療法を開始した。
 この患者のADL指導の内容で適切なのはどれか。

1.靴下を履く。
2.足の爪を切る。
3.階段を上がる。
4.杖を使用する。
5.床の物を拾う。

解答

解説

人工骨頭置換術の患側脱臼肢位

①後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展

1.× 靴下を履く動作は、ソックスエイドを用いるように指導する。設問の図は、脱臼のリスク(股関節過屈曲)がみられる。
・ソックスエイドとは、股関節などの可動域制限による、リーチ制限に対応した自助具である。

2.〇 正しい。足の爪を切る場合、図のように前屈姿勢にならない(股関節過屈曲)よう自動する。

3.× 階段を上がる場合、健側(右)が先に上段に乗せる。設問の図は、患側(左)から上段に乗せている。

4.× 杖を使用する場合、健側(右)につくことが基本である。なぜなら、健側(右)につくことで、歩行する際に、健側(右)が遊脚相で、患側(左)が立脚相の際、支持基底面が広く、患側の支持力を補助することができるため。

5.× 床の物を拾う動作は、リーチャーを用いるように指導する。設問の図は、脱臼のリスク(股関節過屈曲)がみられる。
・リーチャーとは、脱臼の恐れのある人工股関節や車いす患者が、床のものや遠くのものを拾ったり操作したりするときに使用する手が届かない物を取るための道具である。洗濯物を干すときやカーテンの開閉に関節の保護として寄与できる。

 

 

 

 

 

8 46歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢V、手指V、下肢V。発症後7か月が経過し、認知機能はMMSEが27点。既に退院し、父母と同居している。発症前は内装業に従事していたが、同職での復職が困難であるため、外来での復職支援を行うことになった。
 作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。

1.運動機能の改善を目指す。
2.雇用されたら支援を終了する。
3.職場環境での職業評価を行う。
4.通勤には家族の付き添いを薦める。
5.就労準備は課題がなくなるまで続ける。

解答

解説

本症例のポイント

・46歳の男性(脳梗塞による右片麻痺)。
・Brs:上肢V、手指V、下肢V
発症後7か月経過MMSEが27点
・既に退院し、父母と同居している。
・発症前は内装業(同職での復職が困難)。
・外来での復職支援を行うことになった。
→ほかの選択肢が消去される理由を挙げられるようにしよう。本症例(発症7か月、BrunnstromⅤ、MMSE27)は、症状がプラトーとなり、実際の仕事・環境に即した評価(職業評価)が優先されると考えられる。

1.× 運動機能の改善を目指す優先度は低い。なぜなら、本症例(発症7か月、BrunnstromⅤ、MMSE27)は、症状がプラトーとなっているため。外来での復職支援を行うことになっていることから、仕事に関する評価が必要になっている。

2.× 雇用されたら支援を終了する優先度は低い。なぜなら、雇用の定着や、就労中にも問題点や課題が発生する可能性があるため。仕事内容の再調整、通勤負荷、疲労、対人関係スキル、再発予防など、就業後の支援も重要である。

3.〇 正しい。職場環境での職業評価を行う。なぜなら、本症例は、「同職での復職が困難=異なる職種への転職」となる可能性が高いため。実際の職場・作業条件で評価し、合理的配慮や職務再設計につなげることが望ましい。

4.× 通勤には家族の付き添いを薦める優先度は低い。なぜなら、就労は、自立した通勤・生活を前提であるため。また、本症例のBrs下肢V、MMSEが27点であることから、通勤の自立は十分可能であると考えられる。

5.× 就労準備は課題がなくなるまで続ける優先度は低い。なぜなら、実際に働くことで、見えてくる課題もあるため。また、課題を抱えたままでも、合理的配慮や環境調整で働ける形を作ることでも、実際の就労場面で調整しながら定着を目指すことができる。※この選択肢の「課題」が何を指すかにもよるが、本症例は、発症後7か月経過で「Brs手指V」である。「Brs手指V」を課題として挙げている場合、発症後7か月経過しているため、課題なし=「Brs手指Ⅵ(麻痺なし)」まで回復することは困難であると考えられる。

 

 

 

 

 

9 73歳の女性。3年前から特に誘因なく歩行時の左膝痛が出現し、徐々に悪化してきたため外来を受診した。左膝の熱感、腫脹なく関節裂隙の圧痛を軽度に認めた。立位のX線写真を下に示す。
 この患者の指導で推奨されるのはどれか。

1.安静
2.正座
3.階段昇降
4.水中歩行
5.ジョギング

解答

解説

本症例のポイント

・73歳の女性。
・3年前:特に誘因なく歩行時の左膝痛が出現(徐々に悪化)。
・左膝の熱感、腫脹なく関節裂隙の圧痛を軽度あり。
・立位のX線写真:膝関節内側の関節裂隙の狭小化あり。
→本症例は、変形性膝関節症が疑われる。変形性膝関節症は、①疼痛、②可動域制限、③腫脹、④関節変形などがみられる。進行度にかかわらず、保存療法が第一選択となる。減量や膝に負荷のかかる動作を回避するような日常生活動作指導、筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法、装具や足底板などの装具療法、鎮痛薬や関節内注射などの薬物療法が行われる。

1.× 安静は推奨されない。なぜなら、安静により、筋力低下(特に大腿四頭筋)と活動量低下を招き、痛みと機能低下が悪循環で進みやすいため。基本的に、減量や膝に負荷のかかる動作を回避するような日常生活動作指導、筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法、装具や足底板などの装具療法、鎮痛薬や関節内注射などの薬物療法が行われる。

2.× 正座は推奨されない。なぜなら、正座は、膝関節の過屈曲位となり、膝関節に負担が増えて痛みを誘発しやすいため。

3.5.× 階段昇降/ジョギングより優先されるものがほかにある。なぜなら、本症例は、歩行時の左膝痛が出現しているため。したがって、階段昇降やジョギングはさらなる痛みの助長につながりやすい。歩行時で痛みが出現していることから、歩行時より体重がかかりにくい運動を選択すべきである。

4.〇 正しい。水中歩行が、この患者の指導で推奨される。なぜなら、水中歩行は、浮力により膝の負担があまりかからずに、減量や全身運動が可能であるため。

 

 

 

 

 

10 70歳の男性。5年前にParkinson病と診断。現在はHoehn&YahrステージⅢ。歩行は自立しているが、すくみ足、動作緩慢、姿勢反射障害を認め、屋内移動でバランスを崩すことがある。しゃがみ込みで後方への転倒歴あり。自宅は築30年の木造平屋である。
 最優先して取り組むべき住環境整備はどれか。

1.浴槽の左側へのバスボードの設置
2.上がり枢の壁への手すりの設置
3.すり付け板の設置〈段差は4cm〉
4.簡易取り付け型洋式便座の設置
5.畳を毛足の長いじゅうたんに変更

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(5年前:Parkinson病)。
Hoehn&YahrステージⅢ
・歩行は自立:すくみ足、動作緩慢、姿勢反射障害を認める。
・屋内移動でバランスを崩すことがある。
しゃがみ込みで後方への転倒歴あり
・自宅は築30年の木造平屋である。
→本症例の最優先事項は、しゃがみ込みで後方転倒歴があるため、まず最優先は「しゃがむ/立ち上がる」を減らすことである。

 

→パーキンソン病は、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。
【Hoehn&Yahr の重症度分類ステージ】
ステージⅠ:片側のみの症状がみられる。軽症で機能障害はない。
ステージⅡ:両側の症状がみられるが、バランス障害はない。また日常生活・通院にほとんど介助を要さない。
ステージⅢ:歩行障害、姿勢保持反射障害が出現し、ADLの一部に介助が必要になる。
ステージⅣ:日常生活・通院に介助を必要とする。立位・歩行はどうにか可能。
ステージⅤ:寝たきりあるいは車いすで、全面的に介助を要する。歩行・起立は不能。

1.× 浴槽の左側へのバスボードの設置より優先度が高いものがほかにある。なぜなら、バスボードの設置は、浴槽またぎの負担軽減、つまり座位で移乗しやすくするためのものであるため。本症例の最優先事項は、しゃがみ込みで後方転倒歴があるため、まず最優先は「しゃがむ/立ち上がる」を減らすことである。

2.× 上がり枢の壁への手すりの設置より優先度が高いものがほかにある。なぜなら、上がり枢の手すりの設置は、上がり框の昇降の負担軽減、つまり段差昇降やつまずき防止のためのものであるため。本症例の最優先事項は、しゃがみ込みで後方転倒歴があるため、まず最優先は「しゃがむ/立ち上がる」を減らすことである。

3.× すり付け板の設置〈段差は4cm〉より優先度が高いものがほかにある。なぜなら、すり付け板の設置は、段差の解消、つまり、つまずき対策のためのものであるため。本症例の最優先事項は、しゃがみ込みで後方転倒歴があるため、まず最優先は「しゃがむ/立ち上がる」を減らすことである。

4.〇 正しい。簡易取り付け型洋式便座の設置は、最優先して取り組むべき住環境整備である。なぜなら、本症例の最優先事項は、しゃがみ込みで後方転倒歴があるため。簡易取り付け型洋式便座の設置をすることで、「しゃがむ/立ち上がる」距離を大幅に減らすことができ、安全な排泄が可能となる可能性が高い。

5.× 畳を毛足の長いじゅうたんに変更する必要はない。なぜなら、じゅうたんは足が引っかかりやすく、さらにつまずきの危険性を高めるため。

 

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