第60回(R7)理学療法士国家試験 解説【午前問題46~50】

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46 錐体外路に含まれないのはどれか。

1.黒質
2.視床下核
3.錐体交叉
4.線条体
5.淡蒼球

解答

解説

錐体外路とは?

錐体外路とは、錐体路以外の運動指令を行うための経路を総称したものである。錐体外路中枢や、大脳基底核、視床腹部、脳幹などと微調整しながら姿勢や運動に対する指令を骨格筋へ伝える。

大脳基底核は、①線条体(被殻 + 尾状核)、②淡蒼球、③黒質、④視床下核である。小脳とともにからだの運動をスムーズにする役割がある。

1~2.4~5.〇 黒質/線条体/淡蒼球は、錐体外路である。それぞれ大脳基底核のひとつである。大脳基底核は、①線条体(被殻 + 尾状核)、②淡蒼球、③黒質、④視床下核である。小脳とともにからだの運動をスムーズにする役割がある。

3.× 錐体交叉は、「錐体外路」ではなく錐体路に含まれる。ちなみに、錐体路とは、大脳皮質運動野―放線冠―内包後脚―大脳脚―延髄―錐体交叉―脊髄前角細胞という経路をたどる。障害されることで片麻痺などの症状をきたす。

 

 

 

 

 

47 自律神経障害の症状はどれか。2つ選べ。

1.振戦
2.複視
3.不整脈
4.血圧低下
5.視力低下

解答3・4

解説

自律神経障害とは?

自律神経とは、交感神経と副交感神経に分けられ、無意識のうちに体温、呼吸、血流を調整し、体内環境のバランスを保つ役割がある。したがって、自律神経障害とは、自律神経の(交感神経と副交感神経)働きが乱れ、心拍や血圧、消化など体の基本機能が正常に調整されなくなる状態を指す。原因はストレスや病気など多岐にわたり、疲労感や動悸、便秘など様々な症状が現れる。

1.× 振戦は、自律神経障害の症状ではない。なぜなら、振戦は、主に中枢神経系(特に企図振戦:小脳)の異常やパーキンソン病(安静時振戦:中脳黒質)など、運動制御に関わる神経障害で見られる症状であるため。

2.× 複視は、自律神経障害の症状ではない。複視とは、1つの物が二重に見えることをいう。片眼だけを開けているときに起こる片眼複視、両眼を開けているときに起こる両眼複視があげられる。原因として、眼球運動や神経筋接合部の問題、脳幹の異常などがあげられる。例えば、多発性硬化症があげられる(※下参照)。

3.〇 正しい。不整脈は、自律神経障害の症状である。なぜなら、自律神経は心拍数や心臓のリズムを調節しているため。

4.〇 正しい。血圧低下は、自律神経障害の症状である。なぜなら、自律神経(交感神経と副交感神経)は血圧や心拍数の調整に関与しているため。その障害により「血圧の変動」や「不整脈」などが症状として現れる。一般的に、自律神経障害では「起立性低血圧」などの血圧低下が典型的な症状として知られている。ただし、自律神経障害により血圧が上昇することもあり、「低下」だけが症状とは限らない点には注意が必要である。

5.× 視力低下は、自律神経障害の症状ではない。なぜなら、視力低下は眼や視神経の障害、もしくは大脳の視覚野の異常によるものであるため。
・視覚の伝導路は、視神経→視交叉→外側膝状体→視放線→視覚野となる。

多発性硬化症とは?

 多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ。

(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)

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【PT/共通】自律神経についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

48 小脳梗塞でみられるのはどれか。2つ選べ。

1.眼振
2.球麻痺
3.運動失調
4.同名半盲
5.遂行機能障害

解答1・3

解説

小脳とは?

小脳とは、後頭部の下方に位置し、筋緊張や身体の平衡の情報を処理し運動や姿勢の制御(運動系の統合的な調節)を行っている。小脳は、筋トーヌスと運動の調節に関与している。

1.〇 正しい。眼振は、小脳梗塞でみられる。なぜなら、小脳は眼球運動の調整や前庭系との連携で視線を安定させる役割を担っているため。ちなみに、眼振とは、眼球が不随意に小刻みに動く現象である。

2.× 球麻痺とは、延髄にある神経核(Ⅸ:舌咽神経、Ⅹ:迷走神経、Ⅺ:副神経、Ⅻ:舌下神経)が障害された状態を指し、舌咽・迷走・舌下神経が障害される。したがって、嚥下・構音障害、舌萎縮、線維束攣縮などがみられる。

3.〇 正しい。運動失調は、小脳梗塞でみられる。なぜなら、筋トーヌスと運動の調節に関与しているため。
【小脳運動失調症の構成要素は6つ】
①測定障害:目標物の距離を正確にとらえられない。
②反復拮抗運動障害:拮抗筋の動きの切り替えがスムーズにできない。
③運動分解:運動軌道が円滑ではない。
④協働収縮不能:複雑な動きを段階的かつ協調的に働かせることができない症状のことを指す。例えば、「後ろへ反り返る」という指示があった場合、同時に膝を曲げてバランスをとるという動作が障害され、後方へ転倒しそうになる。また、背臥位で腕を組んだまま起き上がることができない。
⑤企図振戦:随意運動しようとすると粗大な振戦が出現する。
⑥時間測定異常:動作が遅れる。

4.× 同名半盲とは、頭や首を動かし、視野を代償する動作を行えば、線分二等分試験の印は真ん中にひくことができる視野欠損のことである。したがって、右同名半盲は、両目の右半分が欠損している状態である。障害視野は、両眼の視野の右半部で、障害部位は左視索、左外側膝状体、左視放線、左後頭葉などで生じる。

5.× 遂行機能障害とは、前頭葉が司る物事を計画し、順序立てて実行するという一連の作業が困難になる状態である。遂行機能障害に対する介入方法としては、解決方法や計画の立て方を一緒に考える問題解決・自己教示訓練が代表的である。ちなみに、前頭葉とは、論理的思考を制御する領域である。前頭葉障害の主症状として、①遂行機能障害、②易疲労性、③意欲・発動性の低下、④脱抑制・易怒性、⑤注意障害、⑥非流暢性失語等が挙げられる。

中脳と橋、延髄にある脳神経核

【中脳】
Ⅲ:動眼
Ⅳ:滑車

【橋】
Ⅴ:三叉
Ⅵ:外転
Ⅶ:顔面
Ⅷ:前庭

【延髄】
Ⅸ:舌咽神経
Ⅹ:迷走神経
Ⅺ:副神経
Ⅻ:舌下神経

 

 

 

 

 

49 無作為化比較試験で正しいのはどれか。

1.観察研究である。
2.交絡因子の影響を小さくできる。
3.インフォームドコンセントは不要である。
4.因子間の相互関係を調べることが目的である。
5.診療録に記載してある過去の記録で調査できる。

解答

解説

無作為化比較試験とは?

無作為化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial、ランダム割付比較試験)とは、症例群と対照群のどちらかになるかを無作為割付によって決め、比較試験を行う方法である。つまり、対象者を無作為に介入群(検診など、決められた方法での予防・治療を実施)と対照群(従来通りまたは何もしない)とに割り付け、その後の健康現象(罹患率・死亡率)を両群間で比較するものである。無作為割付によって、既知・未知の交絡を制御することが期待されることから、他のデザインと比べてエビデンスレベルは最も高い。デメリットとして、大規模になり時間がかかるため莫大な費用を要し容易には施行できない。

1.× 「観察研究」ではなく介入研究である。介入研究とは、研究者が介入を行って効果を比較する実験的研究のことである。一方、観察研究とは、対象とする集団に対して研究者が、治療や指導などの介入をしないで、健康・疾病に関するデータを集めて、その詳細を分析して、新しい知見(診断・治療法等の開発につながる情報や推定していた仮説の検証等)を得るための研究のことである。

2.〇 正しい。交絡因子の影響を小さくできる。なぜなら、無作為化比較試験では、被験者を無作為に各群に割り付けることで、既知・未知の交絡因子が各群に均等に分布し、結果に与える影響を最小限に抑えることができるため。ちなみに、交絡因子とは、2つの要因の関連をかく乱するほかの因子である。要因と結果(疾病など)の両方に関連する別の要因を交絡因子という。

3.× インフォームドコンセントは、「不要」ではなく必要である。なぜなら、無作為化比較試験は、倫理的に適切な手続きが必要であり、対象者の権利を保護するため。したがって、介入研究に参加する患者は、治療内容やリスク、代替治療について十分な説明を受け、同意を得た上で参加する必要がある。

4.× 因子間の相互関係を調べることが目的であるのは、観察研究である。無作為化比較試験の目的は、特定の介入の効果を比較評価することである。

5.× 診療録に記載してある過去の記録で調査できるのは、観察研究である。これを後ろ向き研究ともいう。作為化比較試験はあくまで前向きに介入を行い評価する研究デザインである。

インフォームドコンセントとは?

インフォームドコンセントは、「十分な説明を受けたうえでの同意・承諾」を意味する。医療者側から診断結果を伝え、治療法の選択肢を提示し、予想される予後などについて説明したうえで、患者自らが治療方針を選択し、同意のもとで医療を行うことを指す。診断結果の伝達には「癌の告知」という重要な問題も含まれる。インフォームドコンセントを受けることで医師、薬剤師とのコミュニケーションがよくなり、信頼関係が高まるほか、治療や薬の必要性が理解できるので、患者さんがより積極的に治療に参加できるようになる。また、医師の考えがわかれば患者さんも意見をいうことができ、不安感をなくすことにもつながる。

 

 

 

 

 

50 三次予防にあたるのはどれか。

1.高血圧患者の薬物療法
2.高齢者の骨折予防指導
3.乳癌のマンモグラフィ検診
4.脳卒中患者の職場復帰支援
5.インフルエンザワクチンの接種

解答

解説

疾病予防の概念

疾病の進行段階に対応した予防方法を一次予防、二次予防、三次予防と呼ぶ。

一次予防:「生活習慣を改善して健康増進し、生活習慣病等を予防すること」
二次予防:「健康診査等による早期発見・早期治療」
三次予防:「疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図ること」と定義している。

(※健康日本21において)

1.× 高血圧患者の薬物療法は、二次予防である。なぜなら、高血圧という状態に対して、将来の循環器障害や脳血管障害の発生を防ぐための早期治療であるため。

2.× 高齢者の骨折予防指導は、一次予防である。なぜなら、骨折などの怪我を未然に防ぐための指導(健康増進)であるため。

3.× 乳癌のマンモグラフィ検診は、二次予防である。なぜなら、マンモグラフィ検診は、乳癌を早期発見・早期治療を目的とした検診であるため。ちなみに、マンモグラフィとは、乳房のX線撮影のことで、乳房撮影専用X線装置を用いて乳房を圧迫し、乳房内の組織の差を写し出す画像検査である。マンモグラフィでは、「しこり」や「石灰化」のように触れることの出来ない小さな病変を写し出すことが出来るため、早期乳がんや乳がん以外の病変を見つけ出すことに非常に有効である。

4.〇 正しい。脳卒中患者の職場復帰支援は、三次予防にあたる。なぜなら、脳卒中後のリハビリや職場復帰支援は、患者の生活の質を向上させ、再発や後遺症の悪化を防ぐための介入であるため。

5.× インフルエンザワクチンの接種は、一次予防である。なぜなら、インフルエンザワクチンを接種することで、感染リスクを減少させ、重症化や流行の拡大を防ぐことができるため。

 

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