第60回(R7)理学療法士国家試験 解説【午後問題11~15】

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11 70歳の男性。Parkinson病。Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅢ。歩行時にたびたびすくみ足や小刻み歩行からの突進を生じる。
 この患者の歩行練習で適切なのはどれか。

1.直線上を継ぎ足歩行する。
2.できるだけ歩行速度を上げる。
3.簡単な計算をしながら歩行する。
4.等間隔の線を踏みながら歩行する。
5.足首に重錘バンドをつけて歩行する。

解答

解説

本症例のポイント

・70歳の男性(Parkinson病)。
・Hoehn&Yahrの重症度分類ステージⅢ
・歩行時にたびたびすくみ足小刻み歩行からの突進を生じる。
→パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

【運動の提供】
矛盾性運動(逆説的運動)とは、本来難易度が高いはずであるが、スムーズに足が出るといった現象である。すくみ足の症状があっても、床の上の横棒をまたぐことができること、リズムをとったり、視覚的な目標物を踏み越えさせたりすると、本来難易度が高いはずであるが、スムーズに足が出るといった現象である。ちなみに、階段昇降もこれに含まれ、平地歩行に比べて障害されにくい。階段昇降は、歩行の改善、下肢筋力強化の効果も期待される。

1.× 直線上を継ぎ足歩行する(タンデム歩行)より優先度が高いものが他にある。なぜなら、継ぎ足歩行とパーキンソン病の関連は低く、むしろ転倒のリスクを高める可能性があるため。継ぎ足歩行(タンデム歩行)とは、踵とつま先を交互に接触させて直線上を歩行することである。バランス能力の検査(体幹や下肢の運動失調の検査)で用いられることが多く、小脳障害の場合に、ふらつきが強く、一直線上をまっすぐ歩くことができない。

2.× できるだけ歩行速度を上げる必要はない。なぜなら、突進現象が助長され、転倒のリスクを高める可能性があるため。

3.× 簡単な計算をしながら歩行する(二重課題歩行)のは、「注意障害」に対し実施することが多い。パーキンソン病の場合、歩行に集中(リズムを数えたり大股で歩くなど)できなり、精神的緊張にもつながり小刻み歩行などが生じやすくなる。二重課題法では、練習課題とそれ以外の課題とを同時に遂行してもらう。練習課題に加えて注意力を分散させる課題を同時遂行してもらう方法である。例えば、歩行中に計算やしりとりなどをすることである。外傷性脳損傷による注意障害に対して用いられることが多い。

4.〇 正しい。等間隔の線を踏みながら歩行する。Parkinson病の歩行障害(小刻み歩行、突進現象、すくみ足など)の誘発因子は、狭路、障害物、精神的緊張などである。対応策として、①視覚(障害物を跨ぐ、床に目印をつける)、②聴覚(メトロノームなどのリズムや歩行に合わせてのかけ声)、③逆説的運動(階段昇降)である。

5.× 足首に重錘バンドをつけて歩行するのは、「脊髄小脳変性症(運動失調)」に対し実施することが多い。重り負荷法(重錘負荷法)とは、上下肢に重りを着用させることで運動学習を進め、運動・動作の改善を図る方法である。上肢では 200g~400g、下肢では 300g~600g 程度のおもりや重錘バンドを巻く。ほかのアプローチとして、弾性緊縛帯を装着することもあるため、負荷量を増やすことなく行える「弾性緊縛帯」が第一選択肢となる。もし、負荷量など考慮しなくてよければ、重錘の負荷も適応となる。

”脊髄小脳変性症とは?多系統萎縮症とは?”

脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され、①純粋小脳型(小脳症状のみが目立つ)と、②多系統障害型(小脳以外の症状が目立つ)に大別される。脊髄小脳変性症の割合として、孤発性(67.2%)、常染色体優性遺伝性(27%)、が常染色体劣性遺伝性(1.8%)であった。孤発性のものの大多数は多系統萎縮症である。(※参考:「18 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)」厚生労働省様HPより)

多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)

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12 58歳の男性。胸髄の脊髄腫瘍摘出術後、両下肢に明らかな運動麻痺、表在感覚障害はないが、深部感覚に重度鈍麻がみられた。開眼すると立位保持可能だが、閉眼するとふらついて倒れそうになる。また、歩行時にもふらつきがあり、踵打歩行が認められる。
 運動療法で適切なのはどれか。

1.Buerger体操
2.Codman体操
3.Frenkel体操
4.Klapp体操
5.Williams体操

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の男性(胸髄の脊髄腫瘍摘出術後)。
・両下肢に明らかな運動麻痺、表在感覚障害はない。
深部感覚:重度鈍麻がみられた
開眼すると立位保持可能だが、閉眼するとふらついて倒れそうになる(Romberg徴候)
・歩行時にもふらつきがあり、踵打歩行が認められる。
→本症例は、深部感覚障害による運動失調(脊髄性運動失調)が疑われる。したがって、視覚による補償を利用しながら協調運動を改善するFrenkel体操が最も効果的である。

→Romberg〈ロンベルグ〉徴候は、被験者に足をそろえ、目を閉じて直立する検査で、陽性(閉眼時)では、脊髄性障害(脊髄癆)では動揺が大きくなる。ちなみに、開眼時・閉眼時ともに動揺がみられる場合は小脳障害を考える。

→踵打歩行は、足を高く持ち上げ、地面を叩くように歩く様子が観察できる。脊髄性運動失調などで深部感覚障害を原因として起こる。

1.× Buerger体操(Buerger-Allen体操:バージャー・アレン体操)は、閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害に対する運動療法として考案された。下肢の挙上と下垂を繰り返して反射性充血を促し、側副血行路の形成を促進する体操である。慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)は四肢末梢の主幹動脈において、徐々に動脈硬化性変化に由来して、末梢動脈の狭窄・閉塞により循環障害の症状(下肢疼痛、冷感、しびれ感、壊疽など)をきたす疾患をいう。

2.× Codman体操(コッドマン体操)は、肩関節周囲炎の炎症期に使用する運動であり、肩関節回旋筋腱板の強化や肩関節可動域拡大を目的に使用する。患側の手に1~1.5㎏の重錘を持ち、振り子運動を行う。

3.〇 正しい。Frenkel体操を実施する。Frenkel体操(フランクル体操)は、視覚で代償して運動制御を促通する運動療法であり、脊髄性運動失調などに対して行われる。

4.× Klapp体操(クラップ体操)は、側弯体操のひとつで、匍匐(ほふく)運動を行うものである。つまり、「腰痛症」ではなく側弯症に対する運動療法である。

5.× Williams体操(ウィリアムス体操)は、腰痛症に対して腰部の負担を軽減するために用いられる体操である。方法として、腹筋強化・大殿筋強化・ハムストリングス強化・背筋群のストレッチングを行う。

腰痛体操

McKenzie体操(マッケンジー法):ニュージーランドの理学療法士「ロビン・マッケンジー氏」により考案された、腰部の伸展を主に行う運動である。脊柱の生理的前弯の減少に対し、関節可動域を改善することで脊柱前弯を獲得させ、椎間板内の髄核を前方に移動させることを目的に行う。

Williams体操(ウィリアムス体操):目的は、腰痛症に対して腰部の負担を軽減することである。方法として、腹筋・大殿筋・ハムストリングス・背筋群のストレッチングを行う。

 

 

 

 

 

13 15歳の女子。検診で体幹前屈による肋骨の突出を認め受診した。レントゲン検査で胸椎に30度のCobb角を認めた。処方された体幹装具を図に示す。
 この装具の名称はどれか。

1.Halo装具
2.Jewett装具
3.Milwaukee装具
4.SOMI装具
5.Taylor型装具

解答

解説

(※図引用:「ハローブレース」MSDマニュアル家庭版様HPより)

1.× Halo装具の特徴として、最も高い固定性を持つ。頭蓋骨に直接ピン(ネジ)で固定したハローを胸椎装具と金属支柱で連結したものである。頚椎の前後屈および側屈・回旋を強く制限する。環椎や軸椎の骨折など、手術で固定の困難な重篤な骨折で用いられる。

2.× Jewett装具(ジュエット型装具:胸腰仙椎装具)は、体幹後屈は可能であり、体幹前屈の制限を目的とする。椎体圧迫骨折や円背などに適応となる。

3.〇 正しい。Milwaukee装具(ミルウォーキー型装具)である。骨盤ガードルと頚部を支持するネックリングを金属支柱で連結して、側弯症に適応となる。第7胸椎以上の高さで適応となる。脊柱の側弯の矯正のために胸椎パッドをつける。

4.× SOMI装具(sternal occipital mandibular immobilizer装具)は、名称通り、胸骨・後頭骨・下顎で3点固定する。頸椎の可動性が強く制限される。頚部外傷後の固定や、頚椎椎間板ヘルニア術後などで用いられる。

5.× Taylor型装具(タイラー型装具:胸腰仙椎装具)は、胸部から仙椎までの可動域を制限する。胸腰仙椎装具は、①テーラー型、②ナイト・テーラー型、③ジュエット型、④スタインドラー型、⑤カウホーン型がある。

(※図引用:大阪発達総合療育センター 南大阪小児リハビリテーション病院様HPより)

側弯症の装具

①TLSO装具:胸椎・腰椎の変形を制御する。①アンダーアームブレース、②ボストンブレースがある。

②CTLSO装具:頸椎・胸椎・腰椎の変形を制御する。ミルウォーキーブレースがある。

 

 

 

 

 

14 75歳の男性。間質性肺疾患で入院中。安静時も頻呼吸で、頚部の呼吸補助筋活動が亢進し、吸気時の胸骨上切痕および鎖骨上窩の陥凹を認める。
 この患者に対する理学療法で最も適切なのはどれか。

1.気道の吸引を行う。
2.上肢の筋力増強運動を行う。
3.腹部引き込み動作の練習を行う。
4.徒手的な胸郭可動域の拡大運動を行う。
5.負荷を加えて吸気筋トレーニングを行う。

解答

解説

本症例のポイント

・75歳の男性(間質性肺疾患)。
・安静時:頻呼吸
・頚部の呼吸補助筋活動:亢進
・吸気時の胸骨上切痕および鎖骨上窩の陥凹を認める(陥没呼吸)。
→本症例の症状から、強い労作呼吸十分なガス交換が行えていないことが示唆されている。まずは、医療的な処置で増悪の予防に努める。

1.× 気道の吸引を行う必要がない。なぜなら、本症例(間質性肺疾患)から痰がらみや分泌物を除去の必要性はみられないため(※間質性肺疾患の説明に関しては下参照)。ちなみに、気道吸引とは、気道内に過剰な分泌物がある場合に、その除去を目的として行われる。

2.× 上肢の筋力増強運動を行う優先度は低い(状態が安定しているときに行う)。なぜなら、本症例の安静時にも努力呼吸の頻呼吸がみられ、十分なガス交換が行えていないことが示唆されているため。上肢の筋力増強運動は、呼吸が乱れやすいため、まずは状態を安定させることが優先される。状態が安定した場合、上肢の筋肉を鍛えることで、腕を使う動作がスムーズになり、息切れの軽減が期待できる。また、物を持つときの呼吸法の定着にも寄与できる。

3.× 腹部引き込み動作の練習を行う優先度は低い。なぜなら、本症例の安静時にも努力呼吸の頻呼吸がみられ、十分なガス交換が行えていないことが示唆されているため。腹部引き込み動作を行える状態とはいいがたい。ちなみに、腹部引き込み動作(ドローイング:腹式呼吸)とは、一般的には体幹の安定性を高めるためのトレーニングである。

4.〇 正しい。徒手的な胸郭可動域の拡大運動を行う。なぜなら、徒手的な胸郭可動域の拡大運動は、胸郭の柔軟性を高め、呼吸苦の改善を促すことができるため。また、間質性肺疾患では、肺の硬化や胸郭の制限が起きやすいため、胸郭の可動域の拡大を行っていく。

5.× 「負荷を加えて」吸気筋トレーニングを行う必要がない。なぜなら、本症例の安静時にも努力呼吸の頻呼吸がみられ、十分なガス交換が行えていないことが示唆されているため。負荷を加えて吸気筋トレーニングを行うことで、さらなる呼吸苦の助長につながる。ちなみに、負荷を加えた吸気筋トレーニングは、吸気筋の強化を目的とする方法である。吸気筋トレーニングは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで実施されることが多く、患者がある程度安定している場合に用いられる。

間質性肺炎

肺機能検査(拘束性障害):肺が縮んでいく病態である。肺活量や全肺気量は低下する。また、間質の線維化によりガスの拡散能は低下し、動脈血酸素分圧も低下する。
単純X線写真:網状陰影・すりガラス陰影が特徴的である。

【間質性肺疾患とは】(以下引用:「肺線維症に関する総合情報サイト」)
間質性肺疾患は、肺の間質という部分に起こるさまざまな病気の総称です。間質性肺疾患は以下のような病気をまとめた呼び名であり、さまざまなものが含まれます。
・原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎)
・膠原病に伴う間質性肺疾患
・過敏性肺炎
・サルコイドーシスなどを含むその他の間質性肺疾患

 

 

 

 

 

15 25歳の女性。1か月ほど前から熱いラーメンを吹いて冷ましていると右の手足に力が入らなくなる症状が数分続くことがあったが、その後回復したため様子を見ていた。数日前にも同様の症状があり、心配になり病院を受診した。既往歴に特記すべきことはない。脳血管造影検査の正面像および側面像を下図に示す。
 この患者で疑う疾患はどれか。

1.脳炎
2.脳腫瘍
3.もやもや病
4.硬膜動静脈瘻
5.アテローム性脳梗塞

解答

解説

本症例のポイント

・25歳の女性。
・1か月前:熱いラーメンを吹いて冷ましていると右の手足に力が入らなくなる症状が数分続く(一過性)。
・数日前:同様の症状があり。
・既往歴:特記すべきことはない
・脳血管造影検査:発達した側副血行路(もやもや血管)
→本症例は、もやもや病が疑われる。もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)とは、日本人に多発する原因不明の進行性脳血管閉塞症であり、脳血管撮影検査で両側の内頚動脈終末部に狭窄ないしは閉塞とその周囲に異常血管網を認めるものをいう。発症には遺伝的要因が関与する。家庭内発症を10~20%に認め、男女比は1:2.5とされる。好発年齢は、二峰性分布を示し5~10歳を中心とする高い山と、30~40歳を中心とする低い山を認める。機序としては徐々に内頚動脈終末部が狭窄・閉塞し、それに伴い非常に細い血管径の異常血管網、いわゆるもやもや血管が増生する(※参考:「もやもや病(指定難病22)」難病情報センター様HPより)。

1.× 脳炎より考えられるものが他にある。なぜなら、本症例は、数分で回復する一過性の症状であるため。ちなみに、脳炎とは、脳実質に炎症が起こる病気である。原因は、ウイルスや細菌、真菌(カビ)、寄生虫などの感染や自己免疫によって引き起こされる。症状として、発熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん、精神症状などがあげられる。

2.× 脳腫瘍より考えられるものが他にある。なぜなら、本症例は、数分で回復する一過性の症状であるため。ちなみに、脳腫瘍とは、脳にできるがんのことである。つまり、脳内に異常な組織が成長する病気で、徐々に症状が現れることが多い。

3.〇 正しい。もやもや病が最も疑われる。もやもや病は、若年女性に多くみられ、一過性脳虚血発作の原因となることが多い。特に刺激(この場合、熱いラーメンを冷ますために息を吹く)で一時的な血流変動が誘発され、数分間の右片側の神経症状が出現することがある。脳血管造影検査において、発達した側副血行路(もやもや血管)がみられることも特徴の一つである。

4.× 硬膜動静脈瘻より考えられるものが他にある。なぜなら、本症例は、数分で回復する一過性の症状であるため。脳動静脈瘻とは、動脈と静脈が毛細血管を介さず直接吻合している病態で、しばしば頭痛や眼症状、痙攣などの症状を引き起こす。多くの場合は、持続的または進行性の症状が主である。

5.× アテローム性脳梗塞より考えられるものが他にある。なぜなら、本症例は、数分で回復する一過性の症状であるため。また、本症例(25歳の女性)は、若年かつ既往歴に特記すべきことはないことからも第一優先となりにくい。ちなみに、アテローム性脳梗塞とは、動脈硬化による血管閉塞により、脳梗塞を引き起こす病態である。主に高齢者に多く見られる。

 

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