第60回(R7)理学療法士国家試験 解説【午後問題16~20】

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16 75歳の男性。糖尿病性腎症のため維持血液透析中。
 この患者の運動耐容能を評価する検査はどれか。

1.CAVI
2.HOMA-R
3.HRV(Heart Rate Viability)
4.足関節上腕血圧比〈ABI〉
5.心肺運動負荷試験〈CPX〉

解答

解説

本症例のポイント

・75歳の男性。
・糖尿病性腎症のため維持血液透析中。
→本症例に視点を向けるというより、問われていること「運動耐容能を評価する検査」に正確に答える。

1.× CAVI(Cardio-Ankle Vascular Index:心臓足首血管指数)は、動脈硬化の程度を評価する検査である。検査は、仰向けに寝た状態で両腕・両足首の血圧と脈波を測定する。

2.× HOMA-R(Homeostatic Model Assessment for Insulin Resistance:インスリン抵抗指数)は、インスリン抵抗性を評価するための指標である。血液中のインスリン量が充分でもインスリン抵抗性がある場合、高血糖となる。計算式として、【インスリン抵抗指数=空腹時インスリン×空腹時血糖/405】であり、1.6以下の場合は正常である。

3.× HRV(Heart Rate Viability:心拍変動)とは、心臓の1拍ごとの拍動の長さの変化のことである。自律神経系の調節機能を評価する指標として用いられる。一般に、HRV(心拍変動)が高い状態は副交感神経が優位で、トレーニングと回復のバランスがとれている。一方、HRV(心拍変動)が低い状態はストレスが高く、体調が悪い、トレーニングのし過ぎの可能性が高いことを示す。

4.× 足関節上腕血圧比〈ABI:Ankle-Brachial-Index〉とは、四肢すべての動脈閉塞および開口部の最高の圧力を判別するための方法(末梢動脈疾患の有無を評価する検査)である。足関節上腕血圧比=足首最高血圧/上腕最高血圧で求められ、これが、0.9未満で閉塞性動脈硬化症が疑われる。以下、参考値をのせる。
【参考値】
• 正常:1~1.29.
• 境界線:0.91~0.99
• 軽度:0.71~0.90
• 中程度:0.41~0.7
• 重度:0.4以下

5.〇 正しい。心肺運動負荷試験〈CPX:Cardiopulmonary Exercise Testing〉は、運動耐容能を評価する検査である。運動負荷試験は、主に負荷の種類として3種類ある。
①単一水準定量負荷試験(固定負荷法):一定強度の運動を一定時間負荷する方法。等尺性負荷試験(ハンドグリップ法)やマスター2段階試験(Master two step test)があり、トレッドミルや自転車エルゴメーターによる一定強度負荷も可能。
②Ramp負荷試験(連続的多段階負荷法):数秒から1分以内で負荷強度を少しずつ増やすことにより、ほぼ直線的に負荷強度を増加させる方法。この方法の特徴は、無酸素性作業閾値(AT)を求める負荷法として、主に心肺運動負荷試験(CPX)に用いられる。
③多段階負荷試験:トレッドミルや自転車エルゴメーターを用いて運動強度を一定時間ごとに増加させる方法で、Astrand法やBruce法(ブルース法)が有名。

 

 

 

 

 

17 介護予防事業におけるスクリーニングテストを図に示す。
 このテストで確認可能なのはどれか。

1.サルコペニア
2.ダイナペニア
3.ポストポリオ症候群
4.メタボリックシンドローム
5.ロコモティブシンドローム

解答

解説

(※引用:「ロコモ度テスト 2ステップテスト」日本整形外科学会様HPより)

1.× サルコペニアとは、ギリシャ語で「サルコ(sarco)=筋肉」と喪失を意味する「ペニア(penia)=喪失」をあわせた造語である。加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されている。サルコペニアの診断には、四肢骨格筋量の低下があることに加えて身体機能(歩行速度)の低下または、筋力(握力)の低下下腿周径5回椅子立ち上がりテストがある。
一次性サルコペニアと二次性サルコペニアに分類され、一次性(原発性)は加齢による筋肉量減少が原因とされるものである。一方で、二次性サルコペニアは、活動・栄養・疾患に関するもののことをいう。つまり、廃用症候群は、低活動が原因であるため二次性サルコペニアに分類される。

2.× ダイナペニアとは、四肢骨格筋量は低下していないが、筋力が低下した状態を指す。イメージとしては、運動をせず筋肉に脂肪がついたり、筋肉の質(筋発揮)が落ちた状態を指す。ダイナペニアの定義は、握力が男性28kg以下または女性18kg以下かつ生体電気インピーダンス分析(bioelectrical impedance analysis:BIA)法による骨格筋量から算出した骨格筋指数(skeletal muscle index:SMI)が男性7.0kg/m2以上または女性5.7kg/m2以上の者とした(※引用:「中・高年者のダイナペニアに影響する身体,認知,生活・精神機能の検討」著:西牟田理沙ら)。

3.× ポストポリオ症候群とは、ポリオの後遺症として60歳前後で筋力低下や手足のしびれ、疼痛などの症状が現れる障害である。ポリオウイルスによる急性灰白髄炎によって小児麻痺を生じた患者が、罹患後、数十年を経て新たに生じる疲労性疾患の総称であり、急性灰白髄炎後の症状には、筋力低下、筋萎縮、関節痛、呼吸機能障害、嚥下障害などの症状を呈する。筋力低下は急性期の小児麻痺で障害をみられなかった肢にも比較的高頻度で生じる。診断基準は、①ポリオの確実な既往があること、②機能的・神経学的にほぼ完全に回復し、15年以上も安定した期間を過ごせていたにも関わらずその後に疲労や関節痛、筋力低下などの症状が発現した場合である。Halstead(ハルステッド)の診断基準を使用されることもある。

4.× メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積を基盤とし、動脈硬化の危険因子を複数合併した状態のことである。
【診断基準】
①腹部肥満(ウエストサイズ 男性85cm以上 女性90cm以上) 
②中性脂肪値(HDLコレステロール値 中性脂肪値 150mg/dl以上、HDLコレステロール値 40mg/dl未満のいずれか、または両方)
③血圧(収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上のいずれか、または両方)
④血糖値(空腹時血糖値110mg/dl以上)

5.〇 正しい。ロコモティブシンドロームが確認可能である。ロコモティブシンドロームとは、運動器の障害により移動能力が低下し、「要介護」のリスクが高い状態のことである(提唱:日本整形外科学会)。予防策として、片脚立位・スクワットからなる「ロコトレ」を行うよう推奨している。対象者がすでに運動器の障害や身体機能低下を有している場合も多いため、トレーニングの際には、疼痛や転倒などに十分配慮して行う必要がある。厚生労働省や日本整形外科学会などが推奨する「ロコモ度テスト」では、2ステップテスト・立ち上がりテスト・ロコモ25(25個の質問)などがあげられる。

(※引用:「ロコモ度テスト」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

18 77歳の女性。自宅で転倒し救急車で搬入。右大腿骨頚部骨折に対し、人工骨頭置換術が施行された。術後の右股関節は背臥位で外旋位を呈していた。翌日に患者が右足の筋力低下を訴えたため、MMTを評価したところ右足関節背屈筋0であった。
 右足関節背屈筋力低下に対する物理療法で適切なのはどれか。

1.温熱療法
2.赤外線療法
3.体外衝撃波療法
4.超音波療法
5.電気刺激療法

解答

解説

本症例のポイント

・77歳の女性(自宅で転倒)。
・右大腿骨頚部骨折(人工骨頭置換術が施行)。
・術後:背臥位で右股関節外旋位
・翌日に患者が右足の筋力低下を訴えた。
・MMT右足関節背屈筋:0
→本症例は、総腓骨神経麻痺が疑われる。総腓骨神経麻痺とは、腓骨頭部(膝外側)の外部からの圧迫などによって、腓骨神経の機能不全をきたしている状態である。腓骨神経は、感覚(下腿外側、足背)や運動(足関節および足趾の背屈)を支配しているため、下腿の外側から足背ならびに足趾背側にかけて感覚が障害され、しびれたり、触った感じが鈍くなる。また、足首と足の指が背屈(上に反る)できなくなり、下垂足となる。

1.× 温熱療法は、右足関節背屈筋力低下に対して期待できない。温熱療法の目的は、①組織の粘弾性の改善、②局所新陳代謝の向上、③循環の改善などがあげられる。慢性的な疼痛に対する温熱療法の生理学的影響として、血行の改善によるケミカルメディエーター(痛み物質)の除去、二次的な筋スパズムの軽減、疼痛閾値の上昇などがある。

2.× 赤外線療法は、右足関節背屈筋力低下に対して期待できない。赤外線療法とは、赤外線が有する温熱効果を利用し、表在に対し、血流の増加や褥瘡治療にも用いられる。

3.× 体外衝撃波療法は、右足関節背屈筋力低下に対して期待できない。体外衝撃波療法とは、音波の一種である衝撃波を体内の組織に伝達することで、石灰沈着性腱炎、足底腱膜炎、腱付着部炎などの慢性化した痛みに対して、組織修復を促す目的で用いられる。

4.× 超音波療法は、右足関節背屈筋力低下に対して期待できない。超音波療法とは、超音波を用いた機械的振動によるエネルギーを摩擦熱に変換することによって特定の部位を温める療法の1つである。1MHzは深部組織、3MHZは皮膚表面に近い組織に照射できる。

5.〇 正しい。電気刺激療法は、右足関節背屈筋力低下に対する物理療法である。電気刺激療法とは、筋肉や腱・靭帯を刺激し、痙性の減弱や筋再教育、疼痛緩和などを期待する治療法である。特に、FES(機能的電気刺激療法)は、筋の活動を促すため、末梢神経を刺激し麻痺筋の収縮を補助するのに有効である。例えば、脳卒中片麻痺患者の歩行における足背屈補助に用いられる。

 

 

 

 

 

19 62歳の男性。転倒し前額部を強打し、脊髄損傷と診断された。受傷後3日目のkey muscleのMMTは両側三角筋4、肘屈筋5、肘伸筋2、手関節背屈筋3、中指末節屈筋0、小指外転筋0、下肢筋0。両側乳頭部以下の触覚と痛覚は脱失。肛門の随意収縮と感覚は保たれていた。
 この患者のASIA機能障害尺度[ASIA Impairment Scale〈AIS〉]はどれか。

1.A
2.B
3.C
4.D
5.E

解答

解説

本症例のポイント

・62歳の男性(脊髄損傷)。
・受傷後3日目:MMT両側三角筋4、肘屈筋5、肘伸筋2、手関節背屈筋3、中指末節屈筋0、小指外転筋0、下肢筋0
・両側乳頭部以下の触覚と痛覚:脱失
・肛門の随意収縮と感覚:保たれている
→上記の評価から、しっかり判断できるようにしよう。本症例の場合、肛門の随意収縮と感覚:保たれている。ほか、両側乳頭部以下(C7)の触覚と痛覚:脱失で、MMT肘伸筋2C5)である。

【ASIAの機能障害尺度の運動障害】
A(完全麻痺):S4~5の知覚・運動ともに完全麻痺。
B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。【省略なし】運動機能は麻痺しているが、感覚は神経学的レベルより下位に残存し、S4〜5の仙骨分節を含み(S4〜5 の触覚またはピン刺激 、もしくは深部肛門内圧検査に反応する)、かつ体のいずれかの側面で、運動レベルより3レベルを超えて低い運動機能が残存しない状態。
C(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満。
D(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上。
E(正常):運動、知覚ともに正常。

(※図引用:ASIA AMERICAN SPINAL INJURY ASSOCIATIONより)

1.A(完全麻痺):S4~5の知覚・運動ともに完全麻痺。
本症例は、肛門の随意収縮と感覚:保たれているため否定できる。

2.Bがこの患者のASIA機能障害尺度である。
・B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。
本症例の場合、肛門の随意収縮と感覚が保たれており、両側乳頭部以下(C7)の触覚と痛覚:脱失で、MMT肘伸筋2C5)であるため、B(不全麻痺)に該当する。
※両側乳頭部以下の触覚と痛覚は脱失であっても、肛門の随意収縮と感覚が保たれていることがポイントであった。

3.C(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満。
・本症例の場合、下位にあたる下肢筋のMMTは「0」であるため否定できる。※下位に運動機能は残存していると判断できる場合は、下肢MMTが「1」と記載されているときである。

4.D(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上
本症例は、下位にあたる下肢筋のMMTは0であるため否定できる。

5.E(正常):運動、知覚ともに正常。
本症例は、両側乳頭部以下の触覚と痛覚:脱失、下位にあたる下肢筋のMMTは0であるため否定できる。

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20 75歳の男性。体重75kg。慢性心不全。運動療法中の心電図を下に示す。Aは連動開始前、Bは自転車エルゴメーター30W負荷の連動療法中である。
 正しいのはどれか。

1.Aでは陰性T波を認める。
2.Aの心拍数は60/分未満である。
3.AはLown分類Ⅲである。
4.BではSTの低下を認める。
5.Bの心拍数は120/分以上である。

解答

解説

慢性心不全とは?

慢性心不全とは、心臓だけではなく、全身症状(息切れや脱力感など)をきたし、日常生活に支障をきたしている状態である。代表的な症状は、動悸・動作時の息切れ・呼吸困難・体のむくみ・体重増加などあり、さらに悪化すれば、夜間に急に息が苦しくなって目が覚めたり、じっとしていても息が切れることもある。日常生活の指導では、①塩分の過剰摂取を控える、②息切れしないように休みながら活動する、③適度な運動で体力をつける等が挙げられる。

1.× A(連動開始前)では、陰性T波を「認められない」。陰性T波は、運動療法中の変化(A=連動開始前、B=30W負荷中)の比較で出現するものとは言えない。ちなみに、冠性T波とは、急性心筋梗塞を発症してから1~4週後に認められる左右対称性の陰性T波のことである。発作時、安静時ともにT波は陽性となる。心筋梗塞では、T波の増高が最も早くみられ、時間の経過と共に【ST上昇→異常Q波→冠性T波】がみられるようになる。

2.× A(連動開始前)の心拍数は、60/分「未満」ではなく以上(75拍/分)である。心電図は1マス0.04秒、5マス0.2秒である。A(連動開始前)は、4マスごと(0.8秒ごと)に1拍である。したがって、60(秒)÷0.8=75拍/分となる。

3.× A(連動開始前)は、Lown分類Ⅲ「とはいえない」。なぜなら、本症例は、心室性期外収縮の所見はみられないため。Lown分類は心室性期外収縮の重症度評価である。ちなみに、心室性期外収縮とは、本来の洞結節からの興奮より早く、心室で興奮が開始していることをいう。つまり、P波が認められず、幅広い変形したQRS波がみられる。
【Lown分類(心室性期外収縮の重症度評価)】
grade0:心室性期外収縮無し
grade1:散発性(1個/分または30個/時間未満)
grade2:散発性(1個/分または30個/時間以上)
grade3:多源性(期外収縮波形の種類が複数あるもの)
grade4a:2連発
grade4b:3連発
grade5:短い連結期(R on T現象)

4.〇 正しい。B(運動負荷中)では、STの低下を認める。S波とT波が基線よりも下にある波形ST低下と判断する。ST低下ST低下が認められる場合は、虚血性心疾患(狭心症)のサインとされる。狭心症とは、心臓に血液を供給する血管の狭窄により、心筋が虚血(酸素不足)状態になることによって生じる病気である。治療は、血管を拡張させる薬(硝酸薬)や、狭窄の原因となる動脈硬化や血栓を予防する薬(抗血小板薬)を用いる。

5.× B(運動負荷中)の心拍数は、120/分「以上」ではなく以下(100拍/分)である。心電図は1マス0.04秒、5マス0.2秒である。B(運動負荷中)は、3マスごと(0.6秒ごと)に1拍である。したがって、60(秒)÷0.6=100拍/分となる。

急性心筋梗塞に対する急性期リハビリテーション負荷試験の判定基準

①胸痛・動悸・呼吸困難などの自覚症状が出現しないこと。
②心拍数が120/分以上にならないこと。または40/分以上増加しないこと。
③危険な不整脈が出現しないこと。
④心電図上1mm以上(0.2mV以上)の虚血性ST低下、または著明なST上昇がないこと。
⑤室内便器使用時までは20mmHg以上の収縮期血圧上昇・低下がないこと。
(2週間以上経過した場合、血圧に関する基準は設けない)

(引用:「2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」日本循環器学会様より)

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