第60回(R7) 理学療法士/作業療法士 共通問題解説【午前問題86~90】

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86 末梢神経伝導検査が診断に有用なのはどれか。

1.Parkinson病
2.手根管症候群
3.多系統萎縮症
4.筋ジストロフィー
5.閉塞性動脈硬化症

解答

解説

運動神経伝導検査とは?

運動神経伝導検査とは、末梢神経を電気刺激した際に、神経やその支配筋から発生する活動電位を記録したものである。主として末梢神経の機能評価に用いられる。要するに、神経の伝達速度が遅くなっているか調べるものとなっている。

【結果の解釈】
脱髄:伝導速度低下、持続時間延長、振幅低下
軸索変性:持続時間短縮、振幅低下

1.× Parkinson病は、末梢神経伝導検査の診断には有用とはいえない。なぜなら、中枢神経系(中脳黒質)のドパミン作動性神経細胞の変性によるものであるため。
・パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

2.〇 正しい。手根管症候群は、末梢神経伝導検査が診断に有用である。なぜなら、手根管症候群は、手首での正中神経の圧迫による神経伝導障害であり、神経伝導速度の低下や潜時の延長が検出されるため。
・手根管症候群は、正中神経の圧迫によって手指のしびれや感覚低下などの神経障害が生じる。手根管(手関節付近の正中神経)を4~6回殴打すると、支配領域である母指から環指橈側および手背の一部にチクチク感や蟻走感が生じる(Tinel徴候陽性)。Tinel徴候のほか、ダルカン徴候(手根管部を指で圧迫するとしびれ感が増悪する)やファーレン徴候(Phalen徴候:手首を曲げて症状の再現性をみる)も陽性となる場合が多い。

3.× 多系統委縮症は、末梢神経伝導検査の診断には有用とはいえない。なぜなら、多系統萎縮症は、主に中枢神経系の障害(自律神経や小脳・脳幹の変性)であるため。
・多系統萎縮症とは、成年期(多くは40歳以降)に発症し、進行性の細胞変性脱落をきたす疾患である。①オリーブ橋小脳萎縮症(初発から病初期の症候が小脳性運動失調)、②線条体黒質変性症(初発から病初期の症候がパーキンソニズム)、シャイ・ドレーカー症候群(初発から病初期の症候が自律神経障害であるもの)と称されてきた。いずれも進行するとこれら三大症候は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった(※参考:「17 多系統萎縮症」厚生労働省様HPより)。

4.× 筋ジストロフィーは、末梢神経伝導検査の診断には有用とはいえない。なぜなら、筋ジストロフィーは主に筋肉の疾患(筋細胞の異常)であるため。
・筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性・壊死と筋力低下を主徴とする遺伝性の疾患総称である。そのうちのDuchenne型筋ジストロフィーは、X連鎖劣性遺伝で①幼児期から始まる筋力低下、②動揺性歩行、③登攀性起立(Gowers徴候:ガワーズ徴候)、④腓腹筋などの仮性肥大を特徴とする。筋ジストロフィー症の中でもっとも頻度が高い。3歳頃に歩行や粗大運動の異常で気がつかれることが多い。

5.× 閉塞性動脈硬化症は、末梢神経伝導検査の診断には有用とはいえない。なぜなら、閉塞性動脈硬化症は血管の疾患であるため。動脈の血流障害により足の痛みや潰瘍を引き起こす。

閉塞性動脈硬化症とは?

閉塞性動脈硬化症は、手や足の血管の動脈硬化により、狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こして、血液の流れが悪くなり、手先や足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなる病気である。下肢の慢性虚血による間欠性跛行が発症症状であることが多く、虚血が進行すると壊死に至る。50~70歳代の男性、糖尿病症例に多くみられる。太ももの付け根(大腿動脈)や足の甲(足背動脈)を触診し、脈が触れないことで診断し、確定診断には血管造影検査を行う。

【病期】
Ⅰ期:「しびれ」「冷感」。
Ⅱ期:「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」。一定距離を歩くと脚が傷み、休むとまた歩けるようになる。
Ⅲ期:「安静時疼痛」。安静にしていても脚に痛みが生じる。
Ⅳ期:「潰瘍」「壊疽」。血液が足の先に行かないので、足に潰瘍ができ、ついには足が腐ってしまう。

【治療】
まず動脈硬化の原因である糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療を行う。喫煙者は禁煙する。初期の手足の冷感やしびれには血管拡張薬や血液を固まりにくくする薬(抗血小板剤)を用いる。また歩くことによって、側副血行路が発達し血行の流れの改善をはかる。

(※参考:「閉塞性動脈硬化症」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

87 股関節屈曲拘縮を調べるのはどれか。

1.Allisテスト
2.McMurrayテスト
3.Patrickテスト
4.Simmondsテスト
5.Thomasテスト

解答

解説
1.× Allisテスト(アリステスト)は、背臥位で両膝を屈曲しながら、股関節を屈曲して両下腿をそろえ、左右の膝の高さを比べる診察法である。膝の高さに差があるときに陽性と診断し、股関節脱臼を疑う。これは、股関節の脱臼が生じると大腿骨頭が寛骨臼の後方に位置するため、左右差が生じる。一方、両側脱臼例や下肢に骨性の短縮が存在する症例の場合、有効ではないため注意が必要である。

2.× McMurrayテスト(マックマリーテスト)は、①背臥位で膝を完全に屈曲させ片手で踵部を保持する。②下腿を外旋させながら膝を伸展させたときに痛みやクリックを感じれば内側半月の損傷、下腿を内旋させながら膝を伸展させたときに生じるならば外側半月の損傷を示唆する。

3.× Patrickテスト(パトリックテスト)は、股関節の炎症や痛みのテストである。背臥位で評価側の足背を反対側の膝蓋骨に載せ、評価側の膝を床へ押さえる。鼠径部に痛みが出れば陽性である。

4.× Simmondsテスト(シモンズテスト)は、アキレス腱断裂のテストである。方法は、腹臥位(膝関節伸展位)で、足首以降をベッド端から出し、検査者はふくらはぎをつまむ。反射的に足部が底屈すれば正常であり陰性、アキレス腱が断裂している場合には底屈せず陽性と評価する。Thompsonテスト(トンプソンテスト)は、腹臥位で膝関節90°屈曲位にて実施する。

5.〇 正しい。Thomasテストは、股関節屈曲拘縮を調べる。Thomasテスト(トーマステスト)は、腸腰筋の短縮の有無を検査する。【方法】被験者は背臥位で、検者が被験者の検査側下肢の股関節を最大屈曲する。反対側の下肢の挙上があれば腸腰筋の短縮があると判断する。

 

 

 

 

 

88 胃全摘出術後の悪性貧血に関与するのはどれか。

1.ビタミンB1
2.ビタミンB2
3.ビタミンB12
4.ビタミンC
5.ビタミンD

解答

解説

MEMO

胃全摘出術後は、胃の機能的喪失や消化管再建などに基づく様々な障害が生じる。しばしば生活支障をきたす可能性があり、対応や治療が必要である。【胃全摘出術後にみられやすいもの】①胃酸が不足することによる鉄の吸収障害。②胃の壁細胞から分泌されるキャッスル内因子が減少することによるビタミンB12不足。その他にも、小胃症状、体重減少、ダンピング現象、貧血、骨粗鬆症、逆流性食道炎、下痢などが考えられる。

1.× ビタミンB1の不足により、脚気やコルサコフ症候群、ウェルニッケ脳症などが見られる。コルサコフ症候群は、①健忘、②記銘力低下、③見当識障害、④作話が特徴的な症状である。完治しにくく後遺症を残す可能性が高い。ウェルニッケ脳症は、アルコールを多飲する人によくみられ、意識障害、眼球運動障害(童顔神経麻痺)および歩行障害(失調性歩行)を特徴とする。アルコール大量摂取が原因となることが多い。

2.× ビタミンB2の不足により、皮膚炎粘膜障害(口角炎、口内炎、舌の炎症)などが見られる。ビタミンB2は水溶性のビタミンで、糖質、脂質、タンパク質の代謝、エネルギー産生に関わる酸化還元酵素の補酵素として働く。

3.〇 正しい。ビタミンB12は、胃全摘出術後の悪性貧血(巨赤芽球性貧血)に関与する。なぜなら、胃全摘出により内因子が失われ、ビタミンB12が適切に吸収されないため。悪性貧血とは、主に自己免疫性萎縮性胃炎に伴う内因子の欠乏によりビタミンB12の吸収が障害されることで発症する巨赤芽球性貧血の一種である。正常では胃の壁細胞から分泌される内因子がビタミンB12と結合し、回腸末端で吸収される。しかし内因子の分泌が低下または消失すると、ビタミンB12が回腸末端で吸収されずに欠乏状態となる。ビタミンB12は葉酸とともに骨髄で正常な赤血球の産生に不可欠であるため、欠乏すると巨赤芽球性貧血を引き起こす。主な症状としては、動悸、めまい、耳鳴り、全身倦怠感などの貧血症状、舌炎、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状に加え、四肢の知覚異常、歩行障害、視力障害といった神経症状を伴うことが特徴である。進行すると興奮状態、記憶障害、意識混濁などの精神症状を呈する場合もある。

4.× ビタミンCの欠乏により、壊血病が見られる。壊血病は、結合組織の異常から毛細血管が脆弱化して出血しやすくなる。ちなみに、ビタミンCは、抗酸化作用をもち、多くのホルモン合成や薬物代謝に関わる。

5.× ビタミンDの欠乏により、くる病骨軟化症、骨粗鬆症などがみられる。ビタミンDとは、カルシウムとリンの吸収を促進する働きがある。

巨赤芽球性貧血とは?

巨赤芽球性貧血とは、ビタミンB12あるいは葉酸の不足が原因の、骨髄に巨赤芽球が出現する貧血の総称である。偏食や過度の飲酒などを背景にビタミン欠乏症の患者がみられる。貧血の症状(動悸や息切れ、疲労感)の他に、萎縮性胃炎やハンター舌炎(味覚障害や舌の痛みを伴う炎症)など消化器系に異常をきたす。また、ビタミンB12欠乏症において、手足のしびれ、思考力の低下、性格変化などの神経症状もみられる。

 

 

 

 

 

89 肘離断性骨軟骨炎で誤っているのはどれか。

1.10~20代に多い。
2.投球を伴うスポーツで多い。
3.初期では保存療法が第一選択である。
4.超音波画像は初期診断に有用である。
5.学童期の野球選手の有病率は20~30%である。

解答

解説

肘離断性骨軟骨炎とは?

肘離断性骨軟骨炎とは、野球肘、関節ねずみとも呼ばれ、慢性炎症に分類される。肘離断性骨軟骨炎(野球肘、関節ねずみ)は、肘への反復する負荷が原因となる青年期に好発するスポーツ障害である。上腕骨小頭に好発する。

関節遊離体とは、関節ねずみともいい、肘や膝などの関節部分にある骨や軟骨がはがれ落ち、関節内を動き回る物をいう。ロッキングは、膝が一定の角度で屈伸不能(特に完全伸展不能)になることである。原因として、半月板損傷後や関節遊離体などが断裂し、顆間窩に挟まれることによって生じる。

1.〇 正しい。10~20代に多い。なぜなら、成長期における骨と軟骨の発達過程で、繰り返しの外力(特に投球動作など)による負荷が原因となることが多いため。

2.〇 正しい。投球を伴うスポーツで多い。なぜなら、投球による反復性の衝撃や外力が、肘部の軟骨や骨に過剰な負担をかけ、病態を引き起こすため。

3.〇 正しい。初期では保存療法が第一選択である。なぜなら、初期では軟骨片は遊離せず、運動後の不快感や鈍痛がみられる程度であるため。症状が軽度であれば、運動制限や休息、理学療法などで十分改善を図る。放置して投球を続けると病巣が分離して(はがれて)遊離体となる。6~8か月の投球禁止でも治癒しない場合、また野球への復帰意欲の高い方には手術が勧められる。

4.〇 正しい。超音波画像は、初期診断に有用である。「遊離体などが疑われる場合はプローブによって圧迫を加えることで、遊離体が不安定なものか判別が可能である(※引用:「運動器超音波塾【第11回:肘関節の観察法 4】」柔整ホットニュース様HPより)」上記、参考HPにて、離断性骨軟骨炎の超音波分類も書かれている。ちなみに、超音波画像を使う超音波検査(エコー検査)は、形態異常を検査するものである。

5.× 学童期の野球選手の有病率は、「20~30%」ではなく2~3%である。なぜなら、実際に症状が現れるのは、投球数が多く、フォームに問題があるなど負担が大きい選手に限られるため。

 

 

 

 

 

90 肩関節周囲炎で正しいのはどれか。

1.若年者に多い。
2.予後不良である。
3.感染性疾患である。
4.結髪動作が困難になる。
5.手術療法が優先される。

解答

解説

肩関節周囲炎とは?

肩関節周囲炎(五十肩)は、慢性炎症に分類される。肩関節周囲炎(五十肩)は、肩関節とその周辺組織(肩峰下滑液包や腱板など)の退行性変性が原因となり肩関節の痛みと運動の制限を伴うものである。加齢による退行変性を基盤に発症し、疼痛(運動時痛、夜間時痛)と運動障害を主徴とする。肩関節周囲炎は痙縮期、拘縮期、回復期と分けられ、筋萎縮は拘縮期に肩甲帯筋の廃用性萎縮としてみられる。リハビリとして、Codman体操(コッドマン体操)を実施する。肩関節周囲炎の炎症期に使用する運動であり、肩関節回旋筋腱板の強化や肩関節可動域拡大を目的に使用する。患側の手に1~1.5㎏の重錘を持ち、振り子運動を行う。

①痙縮期(約2~9か月):急性期で疼痛が主体となる。明らかな誘因はなく、肩の違和感や痛みで出現。運動時痛や安静時・夜間時痛が出現し、急速に関節が硬くなる。局所の安静、三角巾固定痛みの出る動作は避ける。

②拘縮期(約4~12か月):亜急性期で拘縮が主体となる。徐々に安静時痛・夜間痛は軽減しますが、肩関節は拘縮し、可動域制限が残りやすくなる。過度に動かすと強いつっぱり感が出現する。徐々に運動範囲を広げる(お風呂やホットパックでの保温、愛護的に関節可動域の拡大)

③回復期(約6~9か月):慢性期で、症状は徐々に改善する。可動域制限も徐々に回復し、運動時痛も消失する。積極的な運動(ストレッチング)を実施する。

1.× 「若年者」ではなく中高年(主に40~60歳代)に多い。なぜなら、加齢に伴う退行性変化が原因となるため。肩関節とその周辺組織(肩峰下滑液包や腱板など)の退行性変性である。

2.× 予後不良であると断言できない。むしろ回復期(約6~9か月)で、症状は徐々に改善する。多くは保存療法で、運動時痛も消失することが一般的である。

3.× 「感染性疾患」ではなく慢性炎症疾患である。肩関節周囲炎(五十肩)は、肩関節とその周辺組織(肩峰下滑液包や腱板など)の退行性変性が原因となり肩関節の痛みと運動の制限を伴うものである。加齢による退行変性を基盤に発症し、疼痛(運動時痛、夜間時痛)と運動障害を主徴とする。

4.〇 正しい。結髪動作が困難になる。なぜなら、結髪動作は、肩関節屈曲・外転・外旋の複合運動であり、肩関節外転90°以上・外旋30°以上は必要になるため。ただし、【第45回 作業療法 午前26 選択肢4結髪に比べて結帯動作の方が制限されやすい。結髪は、肩関節外転及び外旋(水平外転)が必要である。一方、結帯は、肩関節内旋が必要である。さらに結帯動作は、肩関節内転も必要となり難易度は高い。(※参考文献:結帯動作(内転結帯)の可動域制限が生じた肩関節周囲炎の一症例

5.× 「手術療法」ではなく保存療法(薬物療法・理学療法など)が優先される。なぜなら、回復期(約6~9か月)で、症状は徐々に改善する。運動時痛も消失するため。

 

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