第59回(R6)作業療法士国家試験 解説【午前問題6~10】

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6 車椅子の写真を下に示す。
 使われている部品はどれか。

1.リクライニング式バックサポート
2.開き式フット・レッグサポート
3.デスク型アームサポート
4.ノブ付きハンドリム
5.トグル式ブレーキ

解答

解説

(画像引用:松永製作所様HP〜ノブ付きハンドリム〜)

1.× リクライニング式バックサポートは使用されていない。リクライニング式バックサポートは、バックサポートが角度調節可能なものである。座位保持が困難な患者に使用される。この車椅子には背折れ機構がついている。手押しハンドルを折りたたむことができてコンパクトになる。
2.× 開き式フット・レッグサポートは使用されていない。開き式フット・レッグサポートは、レッグサポートが開閉し移乗動作を行いやすくする。
3.× デスク型アームレストは使用されていない。デスク型アームレストは、アームレストが湾曲しテーブルの下の空間に入りやすいものである。
4.× ノブ付きハンドリムは使用されていない。ノブ付きハンドリムは、ハンドリムを把持できない方に用いられる。この車椅子には波型ハンドリムが実装されている。
5.〇 正しい。トグル式プレーキは使われている部品である。トグル式ブレーキは、従来のレバーブレーキよりも少ない力で簡単に固定することができる。

 

 

 

 

 

7 23歳の男性。プールの飛び込みで頭部を強打し、頸髄損傷(完全麻痺)と診断された。肘関節屈曲は可能で手関節背屈は強い。円回内筋機能は認め、橈側手根伸筋と上腕三頭筋の機能は認めない。手指完全伸展は不可能。
 Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類で最上位の機能残存レベルはどれか。(※不適切問題:採点除外)

1.C6A
2.C6BⅠ
3.C6BⅡ
4.C6BⅢ
5.C7A

解答
理由:設問が不適切で正解が得られないため。
※設問の「橈側手根伸筋」が橈側手根屈筋と間違えているためと考えられる。ここでは、橈側手根屈筋で解説を記載する。

解説

本症例のポイント

・23歳の男性(頸髄損傷:完全麻痺)。
・肘関節屈曲:可能、手関節背屈は強い
円回内筋機能認める
橈側手根屈筋と上腕三頭筋の機能認めない
・手指完全伸展:不可能。
→本症例は、C6BⅡが機能残存レベルである。

1.× C6Aの場合、手関節背屈は弱い
2.× C6BⅠの場合、円回内筋機能も認めない。
3.〇 正しい。C6BⅡが最上位の機能残存レベルである。
4.× C6BⅢの場合、円回内筋、橈側手根伸筋、上腕三頭筋の機能を認める
5.× C7Aの場合、円回内筋、橈側手根伸筋、上腕三頭筋の機能を認め、さらに尺側の指を完全伸展できる。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

類似問題です↓
【OT/共通】脊髄損傷についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

8 68歳の女性。脳梗塞で回復期リハビリテーション病院に入院中。作業療法中に図のような状態を示した。
 考えられる障害はどれか。

1.観念失行
2.拮抗失行
3.相貌失認
4.脳梁失行
5.連合型視覚失認

解答

解説
1.× 観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉を中心とする広範囲な障害で生じる。例えば、タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。
2.× 拮抗失行とは、企画された一方の手の運動に対し、反対側の手が患者の意思に反して妨害的に働き、運動が中断するか、行為が完遂できない状態である。大脳皮質症候の一種である。大脳皮質基底核変性症などで生じる。
3.× 相貌失認とは、顔を見ただけではその人が誰であるかわからないが、服装・声・髪形などの特徴を手掛かりにすれば誰なのか判断できる状態である。右後頭葉の視覚前野から側頭葉の側頭連合野にかけての障害で生じることが多い。
4.× 脳梁失行とは、脳梁損傷に伴い生じる左手に限局した失行である。脳梁性失行の検査では、「左手で、”時計”と書いて下さい」「左手で煙突に玉を入れて下さい」「左の靴を履いて下さい」などの言語指示に対して、左側の動作開始・遂行困難になることである。
5.〇 正しい。連合型視覚失認が考えられる障害である。連合型視覚失認とは、形は完全に分かっているものの、それを意味と結びつけることができない状態である。視覚性失認には3つのタイプがあり、「知覚型視覚性失認:見たものの形が全く分からない」「統合型視覚性失認:見たものの部分の形と全体の形とをうまく関係付けることができない」「連合型視覚性失認:見たものの形は完全に分かっているのに、そのものの形以外の知識とつなげることができない」。左後頭葉の視覚前野から側頭葉の側頭連合野にかけての障害で生じる。

 

 

 

 

 

9 55歳の女性。右利き。脳梗塞による左片麻痺。発症15日目のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ。歩行中、左膝折れや反張膝はないが軽度の内反尖足を認める。感覚障害および高次脳機能障害を認めない。
 早期に移動能力を獲得するために最も適切な装具はどれか。

1.靴型
2.硬性膝装具
3.短下肢装具
4.長下肢装具
5.骨盤帯付長下肢装具

解答

解説

本症例のポイント

・55歳の女性(右利き、脳梗塞:左片麻痺)
・発症15日目のBrs:上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ
・歩行中、左膝折れや反張膝はないが軽度の内反尖足を認める。
・感覚障害および高次脳機能障害を認めない。
→本症例は、脳梗塞(左片麻痺、Brs下肢Ⅲ)である。麻痺の程度(Brs下肢Ⅲ)と軽度の内反尖足にも対応できる下肢装具を選択しよう。

1.× 靴型装具とは、主な目的として、足の変形矯正、除痛、足底接地など起立・歩行のために使用される靴のことである。4タイプ(短靴、チャッカ靴、半長靴、長靴)があげられる。
2.× 硬性膝装具(金属支柱付膝装具)とは、大腿部から下腿部までの構造で、膝関節のコントロールが必要な方に用いられる。適応疾患としては、前・後十字靭帯損傷や内・外側側副靭帯損傷、変形性膝関節症など、膝の動揺を防止する用途で使用することが多い。麻痺に対しても立脚中期の膝ロッキングに対して使用されることもある。
3.〇 正しい。短下肢装具が最も適切な装具である。短下肢装具とは、足首の関節の動きを制限し、固定・動揺・拘縮などの治療を目的とした装具である。脳卒中患者の歩行の際に足首の固定や安定性の向上のために使用される。
4.× 長下肢装具の適応は、Brs下肢Ⅱ以下の弛緩性麻痺患者の立位練習や歩行練習などに使用されることが多い。長下肢装具とは、立位訓練開始から装具をつけ、介助下での平行棒な歩行訓練が必要なレベルの重度の麻痺に適応となる。臨床では、重度弛緩性麻痺時には長下肢装具で立位練習を行い、股関節の収縮が得られてきた際に、短下肢装具へ移行しながら練習することが多い。
5.× 骨盤帯付長下肢装具の適応は、脊髄損傷(Th12機能残存レベル)で骨盤帯付き長下肢装具と歩行器を併用する。

 

 

 

 

 

10 72歳の男性。糖尿病性腎症。独居。下肢筋力には低下を認めず、ADLは自立している。BMIは30。1.5kmの距離の将棋教室にバスで週2回通っている。腎機能は糸球体濾過量40mL/分/1.73m2(CKD病期ステージ3b:中等度~高度低下)を認めたため入院となった。その他の併存疾患は認めていない。
 退院時の生活指導で適切なのはどれか。

1.高蛋白食を勧める。
2.高負荷での筋力増強運動を指導する。
3.Borg指数17の有酸素運動を指導する。
4.将棋教室まで歩いて通うように助言する。
5.家事はヘルパーに依頼するように助言する。

解答

解説

本症例のポイント

・72歳の男性糖尿病性腎症、独居)
・下肢筋力:低下を認めず、ADL:自立
・BMI:30(肥満Ⅱ度)
・1.5kmの距離の将棋教室にバスで週2回通っている。
CKD病期ステージ3b:中等度~高度低下にて入院。
・その他の併存疾患は認めていない。
→本症例は、CKD病期ステージ3bである。糖尿病治療ガイドによると治療方針は「過激な運動は避ける必要はあるが、原則として運動可能」である。本症例は、①独居の男性、②下肢筋力は認めない、③BMI30、④1.5kmの距離の将棋教室に「バス」で週2回通っていることからも、今後、何かしらの運動機会を優先して作るべきだと考えられる。

→糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症で、糖尿病によって高血糖状態が持続し、腎臓の内部に張り巡らされている細小血管が障害を受けることで発症する。悪化すると腎不全に移行し、血液透析などが必要となる。糖尿病性腎症の場合、徐々に病気が進行するため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要である。糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち44.1%と最も多い割合を占めている。一般的な糖尿病の食事療法としては、標準体重と身体活動量により摂取エネルギー量を算出し、50~60%が糖質、蛋白質が20%までとし、残りは脂質とする。また、糖尿病腎症の治療には血糖・血圧コントロールが重要であり、腎症 3 期(顕性腎症)では、食塩制限に加えたんぱく質摂取量にも注意が必要である。これは、たんぱく質や塩分がさらに腎臓に対し負担をかけるためである。つまり、①エネルギー量の管理、②食塩量の制限、③タンパク質量の調整が必要となる(※参考:「腎臓の機能をチェックしてみましょう」日本腎臓財団様HPより)。

(※図引用:「糖尿病腎症の重症化予防における理学療法」著:平木幸治様より)

1.× 高蛋白食を勧める必要はない。なぜなら、高蛋白食はより腎臓負担がかかりやすいため。慢性腎不全(CKD)の食事療法として、十分なエネルギー摂取量を確保しつつ、蛋白質・塩分・リン・カリウム・ナトリウムの制限が必要である。
2.× 高負荷での筋力増強運動を指導する必要はない。なぜなら、高強度の運動負荷は尿蛋白の排泄を誘発しやすいため。CKD病期ステージ3期の運動強度は、過度な運動を避けながら、適度な運動量が好ましい。また、ステージ第3期は、「腎臓の機能が半分近く低下している状態」と考えられ、むくみや夜間の多尿、疲れやすいといった自覚症状も現れ始める(※参考:「腎臓の機能をチェックしてみましょう」日本腎臓財団様HPより)。
3.× Borg指数17の有酸素運動を指導する必要はない。なぜなら、運動強度が強すぎるため。Borg指数17は、自覚的運動強度が「かなりきつい」、運動強度85%に相当する。病態に応じて運動強度は調整するが、医師とも相談しながら決定する。ちなみに、Borg指数13は、自覚的運動強度「ややきつい」、運動強度55%(AT)に相当する。
4.〇 正しい。将棋教室まで歩いて通うように助言する。なぜなら、入院前の生活として、1.5kmの距離の将棋教室に「バス」で通っていたため。本症例は、CKD病期ステージ3bである。糖尿病治療ガイドによると治療方針は「過激な運動は避ける必要はあるが、原則として運動可能」である。本症例は、①独居の男性、②下肢筋力は認めない、③BMI30、④1.5kmの距離の将棋教室に「バス」で週2回通っていることからも、今後、何かしらの運動機会を優先して作るべきだと考えられる。
5.× 家事はヘルパーに依頼するように助言する優先度は低い。なぜなら、本症例のADLは自立、バスの利用も可能であることため。また、ヘルパーを導入するためには、主に介護保険の認定が必要となる。ちなみに、ホームヘルパーとは、訪問介護員ともいい、介護を必要としている高齢者や障がい者の自宅を訪問して、日常生活の手助けをする職種である。ただし、本症例は、独居でBMI:30(肥満Ⅱ度)である。また、食事療法が不十分である背景も読み取れるため、作業療法士の領域からは外れるが、配食サービスなど食事に対する支援も必要かと思われる。

慢性腎不全(CKD)とは?

 慢性腎不全(慢性腎臓病とも)は、腎臓の濾過機能が数ヶ月〜数年をかけて徐々に低下していく病気である。その結果血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなる。その原因として最も多いのは糖尿病で、次に多いのは高血圧である。尿や血液、腹部超音波検査やCTなどの検査で腎臓機能に異常が見られ、その状態が3カ月以上続いている場合に診断される。

慢性腎不全(CKD)に対する治療は、①生活習慣の改善、②食事療法が重要である。
①生活習慣の改善:禁煙・大量飲酒の回避・定期的な運動・ワクチン接種による感染症の予防・癌スクリーニングなど。
②食事療法:十分なエネルギー摂取量を確保しつつ、蛋白質・塩分・リン・カリウム・ナトリウムの制限。

 

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