第57回(R4) 作業療法士国家試験 解説【午後問題41~45】

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41 「持続性・安定性」と「自己認識」が下位尺度に含まれる社会機能の評価法はどれか。

1.SFS
2.Rehab
3.SF-36
4.LASMI
5.精神障害者ケアアセスメント(日本作業療法士協会版)

解答

解説
1.× SFS(Social Functioning Scale:社会機能評価尺度)は、慢性期の統合失調症における家族介入の効果を測定するため、コミュニティでの生活の維持において重要な機能を評価する尺度である。19項目の質問用紙で行う。
2.× Rehab(Rehabilitation Evaluation Hall and Baker:精神科リハビリテーション行動評価尺度)は、病院や施設で生活する人を対象に、逸脱行動、全般的行動の2領域について質問を行い評価する。比較的項目数が少なく(23項目)、簡便で繰り返し使用できるのが特徴である。
3.× SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey)は、質問紙法によって対象者の健康関連QOLを包括的に評価する尺度である。8つの健康概念【①身体機能、②日常役割機能(身体)、③体の痛み、④全体的健康感、⑤活力、⑥社会生活機能、⑦日常役割機能(精神)、⑧心の健康】を測定する。
4.〇 正しい。LASMI(Life Assessment Scale for the Mentally Ill:精神障害者社会生活評価尺度)は、「持続性・安定性」と「自己認識」が下位尺度に含まれる社会機能の評価法である。精神障害のある人の生活を包括的に評価するための尺度である。5つの大項目(①日常生活、②対人関係、③労働または課題遂行能力、④持続性・安定性、⑤自己認識)からなる。
5.× 精神障害者ケアアセスメント(日本作業療法士協会版)は、①主訴、②健康管理、③生活エピソード、④人的支援状況、⑤経済面、⑥生活習慣および介護状況、⑦住宅環境・福祉機器、⑧身体・日常生活能力、⑨精神機能活動の各項目について、ケア必要度尺度と社会的不利尺度により、地域生活維持に必要な能力を評定するものである。

 

 

 

 

 

42 集団作業療法について正しいのはどれか。

1.レクリエーション活動は開放集団では実施できない。
2.調理活動は開放集団よりも閉鎖集団の方が実施しやすい。
3.閉鎖集団よりも開放集団の方が参加者の凝集性が高まる。
4.急性期には個人作業療法よりも集団作業療法が優先される。
5.集団作業療法よりも個人作業療法で受容体験は得られやすい。

解答

解説

集団の開放度

①開放集団(オープングループ):参加が自由。参加しやすいが、メンバー相互の力動的な作用は希薄になる。通常、作業療法など広義の集団療法では、多少のメンバーの出入りがありながら継続されるセミクローズドでおこなわれることが多い。

②閉鎖集団(クローズドグループ):メンバーが固定。集団や個のプロセスが把握しやすく、凝集性も高くなりやすい。

1.× レクリエーション活動は、開放集団でも実施できる。開放集団は、障害の程度、参加動機、趣味、嗜好、得手・不得手など、さまざまな特性を持つ参加者で構成されるという特徴を持っている。開放集団のレクリエーションの目的は、“楽しい体験”が最優先課題となる。
2.〇 正しい。調理活動は、開放集団よりも閉鎖集団の方が実施しやすい。なぜなら、料理は工程があるため。開放集団は、参加が自由な分、障害の程度、参加動機、趣味、嗜好、得手・不得手など、さまざまな特性を持つ参加者で構成されるという特徴を持っているため、必ずしも全員が同じ工程ができるとは限らない。
3.× 逆である。開放集団よりも閉鎖集団の方が参加者の凝集性が高まる。なぜなら、集団や個のプロセスが把握しやすいため。集団凝集性とは、集団が構成員を引き付けて、その構成員を集団の一員となるように動機付ける度合いのことである。集団凝集性が高いほど、組織そのものの拘束力や成果が高い傾向がある。
4.× 逆である。急性期には集団作業療法よりも個人作業療法が優先される。なぜなら、急性期は症状が不安定なことが多く、周りの参加者にも負担を強いることに繋がりかねないため。したがって、集団作業療法を勧めるのは回復期からが望ましい。回復期に集団作業療法に設けることで、①自己表出、②他者からの共感、③相互理解の場となる。
5.× 逆である。個人作業療法よりも集団作業療法で受容体験は得られやすい。受容体験とは、他人に受け入れられることで安心感を得られる体験のことをさす。

 

 

 

 

43 アルコール依存症の治療について正しいのはどれか。

1.本人や家族に対する心理教育が有効である。
2.離脱への導入の時期から作業療法を実施する。
3.Wernicke脳症の予防にビタミンCを投与する。
4.離脱症状の予防にベンゾジアゼピン系薬物は無効である。
5.患者に拒否的な家族には自助グループへの参加は勧めない。

解答

解説

アルコール依存症の治療

 アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。

1.〇 正しい。本人や家族に対する心理教育が有効である。初期の作業療法では、心理教育を行って、本人がアルコール依存症であることを理解してもらう必要がある。心理教育とは、症状の理解や服薬の必要性の理解など、病識の獲得と治療方法への理解が中心に行われる。家族心理教育とは、家族が病気を正しく理解し、適切な対応や望ましい接し方を身につけることを目的とする。病気による行動特性を理解し、症状に対する適切な対応と接し方を学ぶことができ、治療効果の増進・再発防止にもつながる。
2.× 作業療法を実施するのは、離脱への導入の時期からではなく「入院前から」行うことが多い。入院前の評価項目として、飲酒歴や飲酒行動パターン、病歴などである。家族にも依存症の理解や飲酒状況を聞く。ちなみに、離脱症状とは、生体が薬物に適応して、薬物の存在下で生理的平衡が保たれる状態になったあと、急に薬をやめることにより、生理的平衡が乱れて身体症状が生じるようになることをいう。
3.× Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症)の予防には、ビタミンCではなく「ビタミンB1」を投与する。①意識障害、②眼症状(童顔神経麻痺)、③失調性歩行の3徴候とし、予後が不良である。
4.× 離脱症状の予防にベンゾジアゼピン系薬物を用いる。抗不安薬であり、身体依存を形成し、モルヒネ型の離脱症状に似た症状がみられる。
5.× 患者に拒否的な家族にも自助グループへの参加を勧める。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)は、家族の参加が必要なく同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていくグループ活動である。心理教育、内省などによって治療への動機づけを行いながら、仲間づくりや断酒会などの自助グループへの参加、生活設計の立て直しを行っていく。

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

 

 

 

 

 

44 統合失調症の回復過程の急性期における作業療法として適切なのはどれか。

1.身体感覚の獲得
2.現実への移行の準備
3.身辺処理能力の回復
4.生活管理能力の改善
5.対人交流技能の改善

解答

解説

1.× 身体感覚の獲得は、うつ病の回復期前期の作業療法である。他にも、①生活リズムの獲得、②着実に自信を回復していくことが重要である。ただし、生活リズムの回復は、亜急性期と回復期に共通の作業療法の目的である。亜急性期は、幻聴・妄想などが活発な急性期を過ぎ、多少の精神症状は残存していても睡眠覚醒などの生活リズムが確立しているが、疲労感が強い時期である。一方、回復期は、疲労感が軽減してこれから社会復帰の準備を始めようとする時期であり、服薬や金銭の自己管理を支援し、学校や職場との連携を図る時期である。それぞれ亜急性期は睡眠リズムの確立、回復期は社会復帰を目指す日常生活リズムの獲得の意味合いに持つ。
2.〇 正しい。現実への移行の準備は、統合失調症の回復過程の急性期における作業療法である。統合失調症の急性期は、幻覚(幻聴が多い)、妄想、自我障害(させられ体験、思考吹入、思考察知)、自閉、興奮が強い時期である。特に、幻覚や妄想、自我障害がみられているため、現実への移行の準備が必要である。回復期において、少しずつ現実世界へ関心を向けられるようアプローチしていく。
3.× 身辺処理能力の回復は、回復期(前期)の目標である。
4〜5.× 生活管理能力の改善(生活技能の改善)/対人交流技能の改善(社会への参加)は、維持期の目標である。

”統合失調症とは?”

統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。

(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)

 

 

 

 

45 自閉症スペクトラム障害患者が就労継続支援A型事業所を利用する際の作業療法士の対応として適切なのはどれか。

1.巧緻性が要求される作業を任せる。
2.事業所での経験を振り返るための面接をする。
3.事業所内のルールについてはその都度伝える。
4.利用開始時に苦手な場面から慣らしていく。
5.利用者同士で行う流れ作業から導入する。

解答

解説

広汎性発達障害とは?

広汎性発達障害(自閉スペクトラム障害)とは、相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンの障害、および限局・常同・反復的な行動パターンがあげられる。生後5年以内に明らかとなる一群の障害である。通常は精神遅滞を伴う。広汎性発達障害、およびその下位分類である自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症は、「自閉スペクトラム症」とまとめられた。

【診断基準の要点】
①「社会及び感情の相互性の障害」「社会的相互作用で用いられる非言語的コミュニケーションの障害」「発達レベル相応の関係を築き維持することの障害」の3つがすべて込められること。
②行動、興味活動の、限局的で反復的な様式が認められること。

1.× あえて「巧緻性が要求される」作業を任せる必要はない。むしろ、それがストレスとなり、蓄積され、心身の症状が悪化し、結果として表れることも考えられる。
2.〇 正しい。事業所での経験を振り返るための面接をする。なぜなら、振り返ることで、得意・不得意と不得意に対する対策の話し合いができるため。また患者自身で自己理解にも寄与される。振り返りシートを作成することにより、より面談内容が構造化・可視化され円滑に進む。
3.5.× 事業所内のルールについてはその都度伝えること/利用者同士で行う流れ作業から導入することの優先度は低い。なぜなら、ASD(自閉スペクトラム症)の多くは、変化に対処することを苦手とし、自分が決めた手順、興味ある事柄や活動などに強くこだわる傾向があるため。
4.× 利用開始時に苦手な場面から慣らしていくことの優先度は低い。なぜなら、ASD(自閉スペクトラム症)の多くは、変化に対処することを苦手とし、自分が決めた手順、興味ある事柄や活動などに強くこだわる傾向があるため。

障害者総合支援法に基づく障害者の就労支援事業

①就労移行支援事業:利用期間2年
【対象者】一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる障害者(65歳未満の者)①企業等への就労を希望する者
【サービス内容】一般就労等への移行に向けて、事業所内や企業における作業や実習、適性に合った職場探し、就労後の職場定着のための支援等を実施。通所によるサービスを原則としつつ、個別支援計画の進捗状況に応じ、職場訪問等によるサービスを組み合わせ。③利用者ごとに、標準期間(24ヶ月)内で利用期間を設定する。

②就労継続支援A型(雇用型):利用期限制限なし
【対象者】就労機会の提供を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上を図ることにより、雇用契約に基づく就労が可能な障害者。(利用開始時、65歳未満の者)
① 就労移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
② 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者
③ 企業等を離職した者等就労経験のある者で、現に雇用関係がない者
【サービス内容】通所により、雇用契約に基づく就労の機会を提供するとともに、一般就労に必要な知識、能力が高まった者について、一般就労への移行に向けて支援。一定の範囲内で障害者以外の雇用が可能。多様な事業形態により、多くの就労機会を確保できるよう、障害者の利用定員10人からの事業実施が可能。

③就労継続支援B型(非雇用型):利用制限なし
【対象者】就労移行支援事業等を利用したが一般企業等の雇用に結びつかない者や、一定年齢に達している者などであって、就労の機会等を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期待される障害者
① 企業等や就労継続支援事業(A型)での就労経験がある者であって、年齢や体力の面で雇用されることが困難となった者
② 就労移行支援事業を利用したが、企業等又は就労継続事業(A型)の雇用に結びつかなかった者
③ ①、②に該当しない者であって、50歳に達している者、又は試行の結果、企業等の雇用、就労移行支援事業や就労継続支援事業(A型)
の利用が困難と判断された者
【サービス内容】
通所により、就労や生産活動の機会を提供(雇用契約は結ばない)するとともに、一般就労に必要な知識、能力が高まった者は、一般就労等への移行に向けて支援。平均工賃が工賃控除程度の水準(月額3,000円程度)を上回ることを事業者指定の要件とする。事業者は、平均工賃の目標水準を設定し、実績と併せて都道府県知事へ報告、公表。

(引用:「就労移行支援について」厚生労働省様HPより)

 

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