第57回(R4) 作業療法士国家試験 解説【午後問題36~40】

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36 がんのリハビリテーションの緩和期の対応で正しいのはどれか。

1.余命延長が目的である。
2.骨転移があれば安静臥床とする。
3.鎮痛薬は時刻を決めて規則的に使用する。
4.余命3か月未満と診断された後開始する。
5.PS(Performance Status)4では運動中止とする。

解答

解説

がんのリハビリテーションの緩和期の対応

緩和期とは、症状緩和を中心とした医療が行われるときである。がんの進行とともに体力が低下し、自分で動くことが難しくなってくる時期でもある。したがって、要望を十分に尊重し、残っている能力をうまく生かしながら、身体的、精神的、社会的に生活の質を高く保つことを目指して、リハビリテーション医療が行われる。

①自立生活の維持
②自分らしさの維持
③生活の負担軽減(環境整備)

1.× 余命延長が目的ではなく、主に①自立生活の維持、②自分らしさの維持、③生活の負担軽減(環境整備)などが目的になることが多い。
2.× 骨転移があっても安静臥床という決まりはない。疼痛の緩和(ペインコントロール)や本人の意思の尊重といった観点から、運動を処方したり、温熱療法・寒冷療法などの物理療法・マッサージなどが行われる。
3.〇 正しい。鎮痛薬は時刻を決めて規則的に使用する。WHO方式がん疼痛治療法の5原則として、①経口的に、②時刻を決めて規則正しく、③鎮痛ラダーにそって効力の順に、④患者ごとの個別的な量で、⑤その上で細かい配慮することから成り立っている。
4.× 余命3か月未満と診断された後開始するという決まりはない。緩和期とは、症状緩和を中心とした医療が行われるときである。
5.× PS(Performance Status)4では運動中止とするという決まりはない。PS(Performance Status)は、がん患者の身体機能評価である。ちなみに、4は、まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす状態である。できる運動(キッキングやSLRなど)を患者の意向を聞きながら行うことが多い。

PS(Performance Status:パフォーマンスステータス)

全身状態の指標の1つで、患者さんの日常生活の制限の程度を示したもの。

0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業
2:歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3:限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。

 

 

 

 

 

37 健康維持・増進の活動について正しいのはどれか。

1.肺がん予防のための禁煙指導は特異的2次予防である。
2.保健指導では生活習慣病の改善のために行動変容を促す。
3.健康日本21(第二次)では心の健康の目標値が設定されていない。
4.ポピュレーションアプローチでは個人への働きかけに重点が置かれる。
5.ヘルスプロモーションとは誰でも病院に受診することができる過程のことである。

解答

解説

疾病予防の概念

疾病の進行段階に対応した予防方法を一次予防、二次予防、三次予防と呼ぶ。
一次予防:「生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等を予防すること」
二次予防:「健康診査等による早期発見・早期治療」
三次予防:「疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図ること」と定義している。(※健康日本21において)

1.× 肺がん予防のための禁煙指導は、「特異的2次予防」ではなく「1次予防」である。ちなみに、「特異的予防」とは、定期的な歯科医院での検診や歯科医院での初期虫歯へのフッ素塗布など処方してもらい疾病予防することである。特異的予防は、2次予防ではなく「1次予防」に分類される。
2.〇 正しい。保健指導では生活習慣病の改善のために行動変容を促す。ちなみに、特定保健指導とは、予備群や軽症でまだお薬を必要としない人に対してもしっかり働きかけ、生活習慣病にならないようなしくみである。
3.× 健康日本21(第二次)では心の健康の目標値も設定されている。「平成8年度健康づくりに関する意識調査」によると、「調査前1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合は、対象者の54.6%であり、ストレスを感じる対象としては、男性では、「仕事」があげられ、女性では仕事と共に、出産・育児があげられていおり、男女とも加齢とともに健康についての悩みが増加している。このデータは、ストレスの多い状況を反映していると考えられ、心身の健康を増進するためにも、さまざまな方向からの対策を行って、ストレスを経験する割合を低下させることが目標となる。このことから、職場や地域社会などのサポート体制を拡充するなど個人を支える社会的環境を整えることにより、2010年までに「最近1ヶ月間にストレスを感じた人」の割合を1割以上減少することを目標とする。(※一部抜粋:健康日本21(休養・こころの健康 )より)
4.× ポピュレーションアプローチ(ポピュラーアプローチ、ポピュレーションストラテジーとも)では、個人への働きかけではなく「集団全体」に重点が置かれる。ポピュレーションアプローチとは、健康障害を起こす危険因子をもつ集団のうち、集団全体に働きかけてリスクを下げる方法である。対象は、主に低リスク群、境界域を含む集団全体である。役割は、一次予防である。主な事例として、生活習慣病予防キャンペーン(メタボリックシンドローム)や受動喫煙の防止などがある。
5.× ヘルスプロモーションとは、誰でも病院に受診することができる過程のことではなく、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。①健康な公共政策づくり、②健康を支援する環境づくり、③地域活動の強化、④個人技術の開発、⑤ヘルスサービスの方向転換などが挙げられる。

まとめ

・ポピュラーアプローチ(ポピュレーションストラテジー):対象を限定せず地域や職場など、集団全体に働きかけてリスクを下げる方法である。一次予防とされる。

・ハイリスクアプローチ(ハイリスクストラテジー):リスクの高いものに対象を絞り込んで働きかける方法である。2次予防とされる。

 

 

 

 

38 MTDLPで正しいのはどれか。

1.合意目標の遂行度を聞き取る。
2.家族が困っている問題は聞き取らない。
3.アセスメントではICIDHの視点を用いる。
4.アセスメントシートには個人因子の分析が含まれる。
5.生活課題分析シートで対象者の活動を幅広く捉える。

解答

解説

MTDLPとは?

MTDLP(Management Tool for Daily Life Performance:生活行為向上マネジメント)は、患者が本来もっている能力を引き出し、患者にとって意味のある在宅生活(生活行為)でその能力を生かせるように支援するためのツールである。

1.× 合意目標の遂行度を聞き取る項目はない。各チェックシート(①生活行為聞き取りシート、②生活行為向上マネジメントシート、③生活行為申し送り表)」に基づき計画を立てる。①生活行為聞き取りシートには、生活更衣目標の①実行度と②満足度を聞き取る。「生活行為聞き取りシート」まず対象者がどのような生活行為を向上したいかを把握することから始まる。対象者がしたい・望む生活行為を聞き取り生活行為の目標を明らかにする。対象者のやってみようという気持ちを高めるため自己評価を行う(介入の前後で実行度満足度を確認し取り組み成果を可視化する)。
2.× 家族が困っている問題も聞き取る。①生活行為聞き取りシートの欄に「ご本人のことについて、もっとうまくできるようになってほしい、あるいはうまくできるようになる必要があると思う生活行為がありましたら教えてください」と家族への聞き取り項目が含まれている。
3.× アセスメントではICIDHの視点を用いない。MTDLP(Management Tool for Daily Life Performance:生活行為向上マネジメント)は、患者が本来もっている能力を引き出し、患者にとって意味のある在宅生活(生活行為)でその能力を生かせるように支援するためのツールである。
4.× アセスメントシートには個人因子の分析ではなく「聞き取り」は含まれている。MTDLPは、8つのシートで構成される。3つのメインシート(生活行為聞き取りシート、生活行為向上マネジメントシート、生活行為申し送り表)と生活行為向上マネジメントシートを構成する2つのサブシート(生活行為アセスメント演習シート、生活行為向上プラン演習シート)の他に3つのシート(興味・関心チェックシート、生活行為課題分析シート、医療への申し送り表)がある。
5.〇 正しい。生活課題分析シートで対象者の活動を幅広く捉える。生活課題分析シートには、各基本動作、ADL、IADLの項目を①現状能力、②予後予測、③課題の重要性、④各課題の要因の分析、⑤課題解決目標、⑥最終評価、⑦考察、⑧今後の課題などを記入する。

 

 

 

 

 

39 言語性記憶機能を測る検査はどれか。

1.RBMT
2.WCST
3.RAVLT
4.Digit Span
5.Letter Cancellation Test

解答

解説
1.× RBMT(The Rivermead Behavioral Memory Test:リバーミード行動記憶検査)は、日常生活的な記憶障害の評価法である。その状況で素点、標準プロフィール点(SPS)、スクリーニング点(SS)を算出し年齢別のカットオフ値で評価する。1.氏名、2.持ち物、3.約束、4.絵、5.物語(直後・遅延)、6.顔写真、7.道順(直後・遅延)、8.用件、9.見当識で9つの項目である。特に展望記憶の検査項目が含まれているのが特徴である。
2.× WCST(Wisconsin Card Sorting Test:ウィスコンシンカード分類テスト)は、計画をたてること・計画を達成するためにとるべき行動を決めること、状況の変化に対応すること、衝動的に行動することを抑えるなどの「前頭葉の実行機能」を調べる検査である。提示されたトランプのようなカードを色・数・形のどれに基づいて分類するかを判断する。
3.〇 正しい。RAVLT(Rey Auditory Verbal Learning TestRey Auditory Verbal Learning Test:レイ聴覚性言語学習検査)は、言語性記憶機能を測る検査である。意味関連のない15語よりなる語系列(リストA)を読み上げ、直後に呈示順にかかわらずできる限り多くの単語を口頭で回答させ(即時再生)、次にこれとは異なる15の単語からなるリストBを同様の方法で回答させ、さらにその後にリストAのうちまだ覚えている単語を口頭で回答させる(遅延再生)検査である。視覚性の即時記憶と近時記憶をみる。
4.× Digit Span(デジットスパン)は、『読み上げた数字を順番または逆順に復唱する』課題である。ワーキングメモリーの評価である。
5.× Letter Cancellation Test(視覚的文字末梢検査)は、注意機能の検査である。1行52文字、6列の文字列から、1行につき約18個含まれるCとEを100秒の間に拾い出すという紙と鉛筆を用いた課題である。

 

 

 

 

40 せん妄について正しいのはどれか。

1.急性に発症する。
2.日内変動を伴わない。
3.若年者が発症しやすい。
4.重度の意識混濁を伴う。
5.環境因子の影響を受けない。

解答

解説

せん妄とは?

せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。
【原因】脳疾患、心疾患、脱水、感染症、手術などに伴って起こることが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。

【症状】
①意識がぼんやりする。
②その場にそぐわない行動をする。
③夜間に起こることが多い。 (夜間せん妄)
④通常は数日から1週間でよくなる。

【主な予防方法】
①術前の十分な説明や家族との面会などで手術の不安を取り除く。
②昼間の働きかけを多くし、睡眠・覚醒リズムの調整をする。
③術後早期からの離床を促し、リハビリテーションを行う。

1.〇 正しい。急性に発症する。せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。
2.× 日内変動を伴う。夜間(夜間せん妄)に出現することが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。
3.× 若年者ではなく「老年者(65歳以上)」に出現しやすい。特に高齢者のせん妄の期間は、一般的に長くなりやすい。
4.× 重度の意識混濁ではなく「軽度~中等度の意識障害」を伴う。
5.× 環境因子の影響を受ける。環境変化(手術、人院、明るさ、音など)で生じやすい。

 

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