第47回(H24) 作業療法士国家試験 解説【午前問題16~20】

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次の文により16、17の問いに答えよ。
 26歳の女性。感情が不安定でリストカットを繰り返している。これまでいくつも職歴があるが、いずれも対人的なトラブルが原因で辞めている。大量服薬をしたため精神科病院に入院となった。

16 この患者に対する作業療法で適切なのはどれか。

1.実施時間を明確に決める。
2.特定の担当者を決めない。
3.集団で協力する活動を導入する。
4.目標は複数回参加した後で決める。
5.実施頻度は本人の要求に応じて変更する。

解答

解説

本症例のポイント

・26歳の女性。
・感情が不安定、リストカットを繰り返す。
・仕事:対人的なトラブルで辞める。
・大量服薬のため入院。
境界性パーソナリティー障害が疑われる。

境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定性と自己の空虚感が目立つ。こうした空虚感や抑うつを伴う感情・情緒不安定の中で突然の自殺企図、あるいは性的逸脱、薬物乱用、過食といった情動的な行動が出現する。このような衝動的な行動や表出される言動の激しさによって、対人関係が極めて不安定である。見捨てられ不安があり、特定の人物に対して依存的な態度が目立ち、他者との適切な距離が取れないなどといった特徴がある。【関わり方】患者が周囲の人を巻き込まないようにするための明確な態度をとる姿勢が重要で、また患者の自傷行為の背景を知るための面接が必要である。

1.〇 正しい。実施時間を明確に決める。患者の依頼によって、実施時間を延長すると境界性パーソナリティ障害の特徴でもある感情の不安定性自己の空虚感が助長しやすくなるため。また、明確に決めることは時間に限らず、患者が周囲の人を巻き込まないようにするため態度・目標も明確にすることが重要である。
2.× 特定の担当者を決めないより決めたほうが良い。なぜなら、担当者を毎回変えてしまうと、自分の欲求が通りやすいスタッフを見つけるまで同じ要求を繰り返す可能性が高いため。また、患者が自身の理想にかなうと判断した担当者を変えた場合、それを裏切りと捉え、治療者への攻撃に転じる可能性もある。
3.× 「集団で協力する活動」ではなく、個別活動を導入する。なぜなら、患者が周囲の人を巻き込まないようにするため。境界性パーソナリティ障害は、他者への関心が高く、集団作業を好むが、対人関係でトラブルを起こして長続きしないことが多い。
4.× 目標は、「複数回参加した後」ではなく「明確に最初から」決める。なぜなら、複数回参加した後に目標を告げると、感情の不安定さや裏切りとみなし強い怒りを助長する可能性があるため。
5.× 実施頻度は、「本人の要求に応じる」のではなく、「枠組みを明確に」しておく。患者の要求に対応していると、患者の依存を増長させ、要求はますますエスカレートする可能性があるため。

 

 

 

 

 

 

 

次の文により16、17の問いに答えよ。
 26歳の女性。感情が不安定でリストカットを繰り返している。これまでいくつも職歴があるが、いずれも対人的なトラブルが原因で辞めている。大量服薬をしたため精神科病院に入院となった。

17 作業療法士の対応で適切でないのはどれか。

1.有能感を満たす。
2.判断を引き受ける。
3.心理的距離を保つ。
4.現実検討の機会を作る。
5.衝動の統制を手助けする。

解答

解説
1.〇 正しい。有能感を満たす。なぜなら、境界性パーソナリティ障害の患者は、自己に対する不全感をもっていることが多いため。まずは自信の回復を図り、次第に作業を拡大していく。
2.× 判断を引き受けることはしない。なぜなら、判断を引き受けることは、さらなる患者の依存につながる可能性があるため。作業療法士は、判断材料を提示しながら患者の自立を促進するためにも、最終判断は患者が行うこととする。
3.〇 正しい。心理的距離を保つ。なぜなら、患者との心理的距離が近いと、患者は要求依存が増長する可能性があるため。治療者として心理的に適切な距離を置き、患者に適度な期待を抱かせないように接する。
4.〇 正しい。現実検討の機会を作る。なぜなら、他責的であることが多く、失敗の原因を自分に引き寄せてみることができないため。また、自分が依存する者に対し、理想とこき下ろしの両極端な評価をするなど、しばしば現実的ではない思考に陥ることが多い。
5.〇 正しい。衝動の統制を手助けする。なぜなら、パーソナリティー障害の特徴として、感情の不安定さや衝動的行動がみられるため。本症例は、対人的なトラブルで辞めていたり、大量服薬により入院しているため、衝動の統制を手助けすることは大切である。

 

 

 

 

 

 

 

次の文により18、19の問いに答えよ。
 30歳の女性。大学卒業後就職したが、すぐに退職した。その後対人トラブルを起こしては何回も勤務先を変え、2週前から就労移行支援事業所に通所するようになった。作業手順が分からなくても質問ができないため完成することができなかった。音に過敏に反応し、他の通所者と折り合いがつかずいらいらするようになり、家族に当たり散らすようになった。通所も中断し自宅に引きこもりがちとなったため、外来作業療法を紹介された。

18 この患者で考えられるのはどれか。

1.注意欠陥/多動性障害
2.Asperger症候群
3.学習障害
4.行為障害
5.自閉症

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の女性。
大学卒業後就職するがすぐ退職。
対人トラブルで転職を繰り返す
・2週前:就労移行支援事業所に通所。
作業手順が分からなくても質問ができないため完成ができない
・音に過敏に反応する。
他の通所者と折り合いがつかずいらいらし家族に当たり散らす。
・通所も中断、自宅に引きこもりとなる。
→大学を卒業していることから知能は正常と思われるが、「対人トラブルで転職を繰り返す」「作業手順が分からなくても質問ができないため完成ができない」「他の通所者と折り合いがつかない」ことから、Asperger症候群と疑われる。

1.× 注意欠陥/多動性障害は、①不注意(集中困難)、②多動性、③衝動性が主要症状である。ちなみに、男児に圧倒的に多く、就学前に発症することが多く、学童期で顕著になる。青年期では注意の欠陥が残存することが多いが、このような記載はみられない。
2.〇 正しい。Asperger症候群と考えられる。Asperger症候群(アスペルガー症候群)の特徴して、①言語発達の遅れはない、②知能は正常であることが多い、③対人接触に無関心というよりはむしろ常軌を逸し一方的に接近しようとする、などのことが挙げられる。また、興味・関心の幅が狭いので新たな作業の導入には抵抗が強く、その一方で同じ作業を続ける力はもともと(こだわり)がある。
3.× 学習障害とは、読む、書く、話すなどのある特定の学習能力が同じ年齢・知能の者と比較したときに期待される水準に達しない状態を指す。
4.× 行為障害とは反社会的、攻撃的あるいは反抗的な行動パターンが反復し、持続する状態をいう。
5.× 自閉症(小児自閉症障害)は、対人関係を築けない、活動や興味の極端な限定がみられる、男児に多いなどのAsperger症候群に類似した特徴を持つが、言語発達の遅れ知能低下がみられる点でAsperger症候群区別される。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の文により18、19の問いに答えよ。
 30歳の女性。大学卒業後就職したが、すぐに退職した。その後対人トラブルを起こしては何回も勤務先を変え、2週前から就労移行支援事業所に通所するようになった。作業手順が分からなくても質問ができないため完成することができなかった。音に過敏に反応し、他の通所者と折り合いがつかずいらいらするようになり、家族に当たり散らすようになった。通所も中断し自宅に引きこもりがちとなったため、外来作業療法を紹介された。

19 この患者に対する作業療法で優先するのはどれか。

1.新しい体験
2.耐久性の訓練
3.基礎体力の維持
4.援助の求め方の練習
5.就労移行支援事業所復帰の促進

解答

解説
1.2.× 新しい体験/耐久性の訓練の優先度は低い。なぜなら、興味・関心の偏りや幅が狭いため。作業の導入には抵抗がみられることが多い。その一方で、同じ作業や興味関心の強い作業は、続ける力や耐久性は高い。
3.× 基礎体力の維持の優先度は低い。なぜなら、本症例は引きこもりがちになったとはいえ、30歳と比較的若く基礎体力の低下している可能性は低いと考えられるため。ちなみに、基礎体力とは筋力や持久力、柔軟性などの体を動かすために必要な「全般的な体力」のことである。
4.〇 正しい。援助の求め方の練習は選択肢の中で最も優先度が高い。なぜなら、本症例は作業手順が分からなくても質問ができないため完成ができない様子が見られるため。また、他の通所者と折り合いがつかずいらいらし家族に当たり散らしていた。援助の求め方の練習により、対人関係や家族関係の改善・円滑になる可能性が高い。
5.× 就労移行支援事業所復帰の促進の優先度は低い。なぜなら、就労移行支援事業所をやめた原因が解決していないと、また同じことが起こる可能性が高いため。まずは、コミュニケーション機能の向上の方が優先度は高い。

 

 

 

 

 

 

 

20 図に示す評価法はどれか。

1.運動とプロセス技能評価(AMPS)
2.機能の全体的評定尺度(GAF)
3.精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)
4.精神科リハビリテーション行動評価尺度(Rehab)
5.精神障害者ケアアセスメント版(日本作業療法士協会)

解答

解説
1.× 運動とプロセス技能評価(AMPS:Assessment of Motor and Process Skills)は、日常生活動作の検査の1つで、観察により評価する。対象者自身が自分の興味や必要性によって日常生活動作を選んで実行し、その遂行度合いを作業療法士が評価する。ADLとIADLに関わる16の運動技能と20の遂行技能を観察する。
2.× 機能の全体的評定尺度(GAF:Global Assessment of Functioning)は、心理・社会・職業的機能について0~100の数字で評価する方法である。評価は過去1週間の最低レベルを評点とする。数字が大きいほど健康度が高い。
3.× 精神障害者社会生活評価尺度(LASMI:Life Assessment Scale for the Mentally ill)は、日常生活、対人関係、労働または課題遂行能力、持続性・安定性、自己認識の5つの大項目からなる評価尺度である。ちなみに、評価は過去1ヶ月間の行動について、0~4点の5段階で評価する。
4.× 精神科リハビリテーション行動評価尺度(Rehab:Rehabilitation Evaluation Hall and Baker)は、病棟・デイケア・社会復帰施設などで観察した行動を評定するものである。比較的項目数が少なく(23項目)、簡便で繰り返し使用できるのが特徴である。
5.〇 正しい。精神障害者ケアアセスメント版(日本作業療法士協会)は、図に示す評価法である。精神障害者ケアアセスメント版(日本作業療法士協会)は、主訴、健康管理、生活エピソード、人的支援状況、経済面、生活習慣および介護状況、住宅環境、福祉機器、身体・日常生活能力、精神機能活動の各項目について、ケア必要尺度と社会的不利尺度により、地域生活維持に必要な能力を評定するものである。

 

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