第60回(R7)理学療法士国家試験 解説【午後問題46~50】

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46 脳の領域と機能の組合せで正しいのはどれか。(※不適切問題:解2つ)

1.角回:情動
2.縁上回:空間的構成
3.Broca野:聴覚
4.前頭前野:行動の抑制
5.Wernicke野:運動のプログラミング

解答2・4(複数の選択肢を正解)
理由:複数の正解があるため。

解説


1.× 角回と情動は関連しない
・優位半球の頭頂連合野(角回)が障害されると、Gerstmann症候群(ゲルストマン症候群)が起こる。症状として、①手指失認、②左右失認、③失算、④失書などである。
・情動は、主に扁桃体前頭前野が担っている。

2.〇 正しい。縁上回は、空間的構成に関与する。
・優位半球の頭頂後頭葉(縁上回)が障害されると、観念運動失行が起こる。縁上回とは、脳皮質頭頂葉の中心後回の後ろ下方にある脳回(角回の上)のひとつである。言語の知覚と処理、音韻記憶、空間的および感覚的処理に関わると考えられている。※一般的に、空間認識にかかわる情報は、海馬で処理される(※引用:「世界初、空間認識を支える脳情報の流れを解明」大阪市立大学より)。

3.× Broca野は、「聴覚」ではなく発話である。
・Broca野は、運動性言語中枢である。非流暢性失語(Broca失語)は、簡単な言葉は理解できるが、言いたい言葉が出てこないのが特徴である。他にも前頭葉障害の症状として、遂行機能障害、易疲労性、意欲・発動性の低下、脱抑制・易怒性、注意障害などがあげられる。
・聴覚は、ウェルニッケ野(感覚性言語中枢)である。ウェルニッケ失語とは、①復唱困難、②言語理解不良、③非流暢を特徴とした言語障害である。話し方は滑らかであるが、言い間違いが多かったり、言葉が支離滅裂になったりして、自分の言いたいことが思うように伝えられなくなってしまうという特徴がある。

4.〇 正しい。前頭前野は、行動の抑制に関与する。
前頭前野は、実行機能や自己制御、行動の抑制に働く。
【前頭葉障害の主症状】
・遂行機能障害
・易疲労性
・意欲・発動性の低下
・脱抑制・易怒性
・注意障害
・非流暢性失語

5.× Wernicke野と運動のプログラミングは関連しない
運動のプログラミングは、補足運動野や前運動野、運動連合野など担う。

 

 

 

 

 

47 顔面の皮膚感覚を支配する脳神経はどれか。

1.第Ⅰ脳神経
2.第Ⅱ脳神経
3.第Ⅲ脳神経
4.第Ⅳ脳神経
5.第Ⅴ脳神経

解答

解説

(※図引用:「illustAC様」)

1.× 第Ⅰ脳神経(嗅神経)とは、嗅上皮の嗅細胞から始まり、一次嗅覚中枢である嗅球でシナプスを形成する神経である。つまり、嗅覚情報(匂い)を感じる感覚神経として機能する。

2.× 第Ⅱ脳神経(視神経)とは、視覚を司る感覚神経である。ちなみに、視覚伝導路は、「視神経―視交叉―視索―外側膝状体―視放線―視覚野」である。

3.× 第Ⅲ脳神経(動眼神経)とは、外側直筋と上斜筋以外の眼筋を支配する運動神経と、眼球内の瞳孔括約筋や毛様体筋を支配する副交感神経を含んでいる。

4.× 第Ⅳ脳神経(滑車神経)とは、上斜筋を支配する運動神経である。

5.〇 正しい。第Ⅴ脳神経(三叉神経は、顔面の皮膚感覚を支配する。三叉神経とは、咀嚼運動にかかわる脳神経である。三叉神経は、主に咀嚼筋の咀嚼運動と顔面の皮膚感覚を司る。運動神経と感覚神経を含む。

(※図引用:「イラストでわかる歯科医学の基礎 第4版 」永未書店HPより)

 

 

 

 

 

48 Wernicke-Mann肢位の特徴で正しい組合せはどれか。

1.肩関節:外転位
2.肘関節:伸展位
3.手指:伸展位
4.膝関節:伸展位
5.足関節:背屈位

解答

解説

マン・ウェルニッケ姿勢とは?

マン・ウェルニッケ姿勢とは、Wernicke-Mann肢位(ウェルニッケマン肢位)ともいい、大脳皮質から大脳脚の間(脳幹より上位)で運動制御系が片側性に障害されたときに、病巣の対側上肢が屈曲位、下肢が伸展位を呈する肢位のことをいう。脳血管障害の後遺症としてしばしば認められる。

【上肢】肩関節内旋・内転位、肘関節屈曲位、手関節掌屈位、手指屈曲位

【下肢】股関節伸展・内旋・内転位、膝関節伸展位、足関節内反尖足位

1.× 肩関節は、「外転位」ではなく内旋・内転位である。

2.× 肘関節は、「伸展位」ではなく屈曲位である。

3.× 手指は、「伸展位」ではなく屈曲位である。

4.〇 正しい。膝関節は、伸展位となる。

5.× 足関節は、「背屈位」ではなく内反尖足位である。つまり底屈位となる。

 

 

 

 

 

49 診療記録で正しいのはどれか。

1.保存期間は1年間である。
2.SOAPのPはProblemである。
3.紙媒体では鉛筆で記載してもよい。
4.患者は自分の診療記録の開示を請求できる。
5.時間がない場合は後日まとめて記載してよい。

解答

解説

診療記録とは?

診療録、カルテとは、医療に関してその診療経過等を記録したものである。 診療録には手術記録・検査記録・看護記録等を含め診療に関する記録の総称をいう。

1.× 保存期間は、「1年間」ではなく5年間である。診療録の保存期間において、電子・紙カルテでの違いは法律上(医療法や医師法、保健師助産師看護師法など)ない。

2.× SOAPのPは、「Problem」ではなくPlan(計画)である。SOAP(subjective, objective, assessment, plan)とは、叙述的経過記録方式の問題志向型記録のことである。
S=主観的データ(自覚症状などの患者の訴え)
O=客観的データ(他覚所見:診察所見・血液検査・検査所見)
A=評価(S・Oをもとにした患者の状態の評価・考察)
P=計画(Aをもとにした今後の検査・治療・患者教育の計画・方針)

3.× 紙媒体では、「鉛筆」ではなく消えない筆記具(例えば、ボールペン)で記載する。鉛筆は、消去可能で記録の改ざんや消失のリスクがあるため記載する道具として、監査の際には指摘を受ける。ほかにも、①修正液・修正テープ・塗りつぶし・貼紙により修正しているため修正前の記載内容が判別できない。②修正は二重線により行えていない。③余白が多いので、斜線を引いて「以下余白」とし、追記できないようにすること。など、電子カルテであれば問題とならないことが、紙媒体になると注意しなければならないこともある。

4.〇 正しい。患者は自分の診療記録の開示を請求できる。「診療情報の提供等に関する指針」において、「7診療記録の開示(1)診療記録の開示に関する原則 ・医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。 ・診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。」と記載されている(※引用:「診療情報の提供等に関する指針」厚生労働省HPより)。ちなみに、診療情報の開示請求は、患者本人の同意があれば、第三者(親族、遺族など)に対して提供が可能である。

5.× 時間がない場合でも、後日まとめて記載することはできない。例えば、医師法第二十四条:医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと記載されている(※参考:「医師法」e-GOV法令検索様HPより)。

紙カルテと電子カルテのメリット・デメリット

【紙カルテ】
メリット:①使い慣れている医療従事者が多いため簡単に使用できる。②インターネット接続や電源不要である。
デメリット:①大量の紙が必要であることから保管場所が必要になる。②患者のカルテを探すことが手間であり、時間がかかる場合がある。③複数の医療関係者が同時に見ることができないため情報共有が制限される場合がある。

【電子カルテ】
メリット:①カルテがデータとして保存されるため、スペースや保管場所を必要としない。②患者のカルテを探すことの手間がなくなる。③患者の情報を即座に共有でき、効率的な医療提供が可能になる。
デメリット:①使用にあたり、特別なトレーニングや教育が必要である。②システムのダウンタイムや障害により、データにアクセスできなくなる場合がある。③電子機器やソフトウェアの更新が必要であり、コストがかかる。

 

 

 

 

 

50 感染症対策で正しいのはどれか。

1.使用後の手袋は裏返しにして捨てる。
2.手袋使用後の手指消毒は不要である。
3.感染症患者以外には標準予防策は不要である。
4.マスクなしで咳をするときは手掌で口を覆う。
5.空気感染予防のためには隔離室内の気圧を陽圧に設定する。

解答

解説
1.〇 正しい。使用後の手袋は、「裏返しにして捨てる。なぜなら、手袋の外側は多くの場合、汚染されているため。除去時にその表面が内側に折り返して捨てる。

2.× 手袋使用後の手指消毒は、「不要」ではなく必要である。なぜなら、手袋には微小な穴や脱落リスクがあり、また手袋を外した際に汚染が手に付着する可能性があるため。
【手指衛生の5つのタイミング】
①患者に触れる前( 手指を介して伝播する病原微生物から患者を守るため)
②清潔/無菌操作の前( 患者の体内に微生物が侵入することを防ぐため)
③体液に曝露された可能性のある場合(患者の病原微生物から医療従事者を守るため)
④患者に触れた後(患者の病原微生物から医療従事者と医療環境を守るため)
⑤患者周辺の環境や物品に触れた後(患者の病原微生物から医療従事者と医療環境を守るため)
である。(※WHO手指衛生ガイドラインより)

3.× 感染症患者以外にも標準予防策は、「不要」ではなく必要である。標準予防策(standard precaution)とは、院内感染の防止策として推奨されている方法であり、感染の有無に関わらず入院患者すべてに適用される予防対策であり、患者の血液や体液、分泌、排泄されるすべての湿性物質、粘膜、創傷の皮膚は感染のおそれがあるとみなして、対応、行動する方法である。

4.× マスクなしで咳をするときは、「手掌」ではなく肘の内側で口を覆う。なぜなら、手掌で覆うと、手指にウイルスや細菌が付着しやすく、その後の手指消毒が不十分な場合、接触感染のリスクが高まるため。もし、手元にティッシュ・ハンカチなどがあれば、それらを使用し口や鼻を覆う。また、長袖である場合は、上着の内側や袖で覆うことが推奨されている。

5.× 空気感染予防のためには隔離室内の気圧を、「陽圧」ではなく陰圧に設定する。陰圧隔離室とは、空気感染隔離室とも呼ばれ、室内の気圧を下げて、感染症の拡大を防ぐ病室である。

(※図引用「組立て式陰圧ブース」日本無機株式会社様HPより)

 

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