第60回(R7)作業療法士国家試験 解説【午前問題1~5】

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※解答の引用:第60回理学療法士国家試験及び第60回作業療法士国家試験の合格発表について(厚生労働省HPより)

 

1 関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準1995年)を図に示す。
 基本軸と移動軸で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.肩甲帯屈曲
2.肩水平屈曲
3.手尺屈
4.股外旋
5.足背屈

解答1・5

解説
1.〇 正しい。肩甲帯屈曲の【基本軸】両側の肩峰を結ぶ線、【移動軸】頭頂と肩峰を結ぶ線である。

2.× 肩水平屈曲の【基本軸】肩峰通る床への矢状面への垂直線、【移動軸】上腕骨、【測定部位及び注意点】肩関節を90°外転位とする。設問の図は、基本軸が「両側の肩峰通る線」となっている。

3.× 手尺屈の【基本軸】前腕の中央線、【移動軸】第三中手骨、【測定部位及び注意点】前腕を回内位で行う。設問の図は、基本軸・移動軸が「第二中手骨」となっている。

4.× 股外旋の【基本軸】膝蓋骨より下した垂直線、【移動軸】下腿中央線(膝蓋骨中心より足関節内外果中央線)、【測定部位及び注意点】①背臥位で、股関節と膝関節を90°屈曲位にして行う。②骨盤の代償を少なくする。設問の図は、「座位」での測定となっている。

5.〇 正しい。足背屈の【基本軸】矢状面における腓骨長軸への垂直線、【移動軸】足底面、【測定部位及び注意点】膝関節を屈曲位で行う。

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2 56歳の男性。数年前から頸椎椎間板ヘルニアを指摘されていた。昨日、自宅で転倒して突然に麻痺を呈した。頸髄損傷と診断され、主な損傷部位以下の機能はASIA機能障害尺度[ASIA Impairment Scale〈AIS〉]でBである。頸椎MRIを下に示す。
 正しいのはどれか。

1.横隔膜の麻痺がある。
2.肩をすくめることができる。
3.頸部の感覚機能障害を認める。
4.スプーンを握り食事ができる。
5.棚の上の物をとることができる。

解答

解説

本症例のポイント

・56歳の男性(数年前:頸椎椎間板ヘルニア)。
・昨日:自宅で転倒して突然に麻痺(頸髄損傷)。
・主な損傷部位以下の機能はASIA機能障害尺度:B
・頸椎MRI::C6レベルの頚髄圧迫
→本症例は、C6レベルの頚髄圧迫の不全麻痺と考えられる。C6機能残存レベルは、【主な動作筋】大胸筋、橈側手根屈筋、【運動機能】肩関節内転、手関節背屈、【移動】車椅子駆動(実用レベル)、【自立度】中等度介助(寝返り、上肢装具などを使って書字可能、更衣は一部介助)である。C6機能残存レベルのプッシュアップは、肩関節外旋位・肘関節伸展位・手指屈曲位にて骨性ロックを使用し、不完全なレベルであることが多い。

【ASIAの機能障害尺度の運動障害】
A(完全麻痺):S4~5の知覚・運動ともに完全麻痺。
B(不全麻痺):S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存。
C(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満。
D(不全麻痺):神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上。
E(正常):運動、知覚ともに正常。

1.× 横隔膜の麻痺があると断言できない。なぜなら、横隔膜の麻痺はC3~5(特にC4)の髄節レベルで起こるため。

2.〇 正しい。肩をすくめることができる。なぜなら、肩をすくめる(肩甲帯挙上:僧帽筋、肩甲挙筋)のは、C5の髄節レベルであるため。

3.× 頸部の感覚機能障害は「認められない」。なぜなら、本症例(C6レベルの頚髄圧迫)の主な損傷部位以下の機能はASIA機能障害尺度:B(不全麻痺:S4~5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存であるため。また、デルマトームでは、頸部の感覚支配は、C4である(※下図参照)。

4.× スプーンを握り食事ができるのは、C8機能残存レベル(手指屈筋レベル)が必要である。
5.× 棚の上の物をとることができるのは、C7機能残存レベル(肘伸展レベル)が必要である。
C6機能残存レベルは、【主な動作筋】大胸筋、橈側手根屈筋、【運動機能】肩関節内転、手関節背屈、【移動】車椅子駆動(実用レベル)、【自立度】中等度介助(寝返り、上肢装具などを使って書字可能、更衣は一部介助)である。C6機能残存レベルのプッシュアップは、肩関節外旋位・肘関節伸展位・手指屈曲位にて骨性ロックを使用し、不完全なレベルであることが多い。

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」より)

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3 59歳の男性。右利き。脳梗塞による左片麻痺。発症21日目のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ。表在感覚は上肢手指下肢共に鈍麻。椅子座位で机上の布を用いたワイピングの上肢機能的訓練を図のように行った。
 訓練の目的はどれか。2つ選べ。

1.握力の改善
2.手指の巧緻性の改善
3.肘の分離運動の改善
4.手背の表在感覚の改善
5.肩甲帯の前方突出運動の改善

解答3・5

解説

本症例のポイント

・59歳の男性(右利き)。
・脳梗塞による左片麻痺。
・発症21日目のBrs:上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ。
・表在感覚:上肢手指下肢共に鈍麻。
・椅子座位で机上の布を用いたワイピングの上肢機能的訓練
→ほかの選択肢が消去できる理由もあげられるようにしよう。

・上肢Ⅳ:腰の後方へ手をつける。肘を伸展させて上肢を前方水平へ挙上。肘90°屈曲位での前腕回内・回外
・手指Ⅲ:全指同時握り、釣形握り(握りだけ)伸展は反射だけで、随意的な手指伸展不能
・下肢Ⅲ:座位、立位での股・膝・足の同時屈曲

1.× 握力の改善は、机上で布を使ったワイピング動作訓練の主な目的とは考えにくい。なぜなら、ワイピング動作では、布を軽く押さえる程度であるため。強く握る動作よりも、上肢のリーチや肘・肩の分離運動が主目的となる。

2.× 手指の巧緻性の改善は、机上で布を使ったワイピング動作訓練の主な目的とは考えにくい。なぜなら、手掌全体を布に当てて大きく動かすため。上肢のリーチや肘・肩の分離運動が主目的となる。

3.〇 正しい。肘の分離運動の改善は、訓練の目的である。布を前方へ滑らせる際は、肩甲帯の前方突出とともに肘の伸展が必要になる。一方で、布を戻す際には、肘屈曲が必要となる。したがって、肘関節伸展・屈曲を分離して行う訓練となる。

4.× 「手背」ではなく手掌の表在感覚の改善は、訓練の目的となりえる。なぜなら、手背はタオルの刺激がないため。ただ、表在感覚の改善には、様々な種類の感覚刺激を増やすことがあげられる。例えば、さまざまな素材に触れる・マッサージするなど(ブラシで触れる、指先で質感の違う物を触るなど)が用いられることはある。

5.〇 正しい。肩甲帯の前方突出運動の改善は、訓練の目的である。布を前方へ滑らせる際は、肩甲帯の前方突出とともに肘の伸展が必要になる。肩甲帯の前方突は、リーチ動作(物を取る動作)や上肢の運動の基盤となる。

 

 

 

 

 

4 54歳の女性。手内筋が委縮し、環指と小指はMP関節が過伸展し、PIP関節・DIP関節が屈曲している。また、環指と小指のしびれの訴えがある。薬物療法と装具療法が開始された。
 この患者が使用する装具で適切なのはどれか。

1.短対立装具
2.ナックルベンダー
3.バデイスプリント
4.逆ナックルベンダー
5.コックアップスプリント

解答

解説

本症例のポイント

・54歳の女性(手内筋が委縮)。
・環指と小指:MP関節が過伸展、PIP関節・DIP関節が屈曲
環指と小指のしびれの訴えあり。
・薬物療法と装具療法が開始。
→本症例は、尺骨神経麻痺(鷲手)が疑われる。鷲手とは、尺骨神経麻痺により手内筋が萎縮し、とくに環指と小指の付け根の関節(MP関節、中手指骨関節)が過伸展する一方、指先の関節(DIP関節、遠位指節間関節)と中央の関節(PIP関節、近位指節間関節)が屈曲した状態である。

→尺骨神経麻痺とは、尺骨神経損傷により手掌・背の尺側に感覚障害やFroment徴候陽性、鷲手がみられる麻痺である。Froment徴候(フローマン徴候)とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。

1.× 短対立装具は、正中神経麻痺低位型で適応となる。母指の掌側外転や対立運動の低下のため、第1,2中手骨間を一定に保つ役割を持つ装具である。つまり、母指を対立位に保持し、手関節を保持する。

2.〇 正しい。ナックルベンダーを使用する。ナックルベンダーは、MP関節屈曲を補助し、鷲手変形を防止する。機能的な手指の使用が可能になる。

3.× バデイスプリントは、側副靭帯損傷の関節の側方動揺性を防止する装具である。健常な隣の指と固定する(※下参照)。

4.× 逆ナックルベンダー(MP伸展補助装具)は、橈骨神経麻痺低位型に適応となり、MP関節を伸展位に矯正(MP関節屈曲拘縮)することを目的とする。

5.× コックアップスプリントは、橈骨神経麻痺高位型(下垂手)に適応となる。手関節背屈位、母指はフリーとしており、機能的把持動作を可能とする。

(※「splint for the Hand」田村義肢製作所様HPより)

 

 

 

 

 

5 45歳の女性。右乳癌の診断で、右乳房切除および腋窩リンパ節郭清術を受けた。術後1年経過。右上肢のリンパ浮腫(病気分類Ⅰ期)を生じた。
 患側の生活指導で最も正しいのはどれか。

1.上肢を挙上する。
2.上肢へ負荷をかける。
3.マッサージは強めにする。
4.肩関節の可動域訓練は避ける。
5.50mmHgの上肢スリーブを装着する。

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の女性(診断:右乳癌)。
・右乳房切除および腋窩リンパ節郭清術
・術後1年経過:右上肢のリンパ浮腫(病気分類Ⅰ期)を生じた。
→リンパ浮腫の日常生活指導をおさえておこう。ちなみに、乳癌とは、乳管や小葉上皮から発生する悪性腫瘍である。乳管起源のものを乳管癌といい、小葉上皮由来のものを小葉癌という。年々増加しており、女性のがんで罹患率第1位、死亡率は第2位である。40~60歳代の閉経期前後の女性に多い。

【乳房切除術後の注意事項】
①患側上肢での血圧測定、採血、注射などは避ける。
②袖口のきつい服や腋窩を締め付ける服は避ける。
③スキンケア、虫刺されに注意する。
④患側上肢では重いものを持たないようにする。
⑤患側上肢の過度の負荷や外傷を避ける。

【リンパ浮腫の治療】
リンパ浮腫の治療は、複合的理学療法といわれ、以下の4つの治療を組み合わせながら行う。①リンパドレナージ、②圧迫療法、③圧迫下における運動療法、④スキンケアである。リンパ液を流してあげることで突っ張った皮膚を緩め、硬くなった皮膚を柔らかくする。この状態で弾性包帯を巻いたり、スリーブといわれるサポーターのようなものや、弾性ストッキングを着用し、リンパの流れの良い状態を保ち、さらにむくみを引かせて腕や脚の細くなった状態を保つ。そして、圧迫した状態でむくんだ腕や脚を挙上する、動かすことでさらにむくみを軽減・改善をはかる。

1.〇 正しい。上肢を挙上する。なぜなら、リンパ浮腫の患側上肢の挙上(ポジショニング)により、重力がリンパ還流を改善し、浮腫の軽減が期待できるため。特に、休息時や就寝時に上肢を心臓より高く保つよう日常生活指導を実施する。

2.× 上肢へ負荷をかける必要はない。設問文の「負荷」は、具体的にどのような負荷を想定しているのか不明ではあるが、重い荷物を持ったり過度な運動をしたりすると、リンパ液の産生量が増えたり、リンパ管への物理的ストレスが高まったりして浮腫が増悪するリスクがある。したがって、日常的に重いバッグを患側で持ち歩くことは避けるよう日常生活指導を実施する。

3.× マッサージは「強め」にする必要はない。なぜなら、皮膚トラブルをきたす恐れがあるため。リンパ浮腫のマッサージ(リンパドレナージ)は、皮膚表面を軽くさする程度の「ソフトなタッチ」かつ、心臓方向(末梢側から中枢方向)へゆっくりと行う。リンパ液を流してあげることで突っ張った皮膚を緩め、硬くなった皮膚を柔らかくする。一方、強い圧をかけるとリンパ管を傷つけたり、逆に炎症を起こす可能性がある。

4.× 肩関節の可動域訓練は、「避ける」のではなく推奨される。なぜなら、術後に肩関節周囲が拘縮しやすいため。適度な可動域訓練は、リンパ還流を促し、浮腫や拘縮の予防に有用である。

5.× 「50mmHg」ではなく20~30mmHgの上肢スリーブを装着する。なぜなら、50mmHgの圧迫力は一般的なリンパ浮腫管理には高すぎ、過度な圧迫は血流障害や皮膚障害を引き起こす恐れるため。一般的に、医療用弾性スリーブをそのまま使用すれば、20~30mmHgという圧迫力である。きつかったり違和感が生じた場合は、いったん中止することが望ましい。

リンパ浮腫とは

リンパ浮腫とは、がんの治療部位に近い腕や脚などの皮膚の下に、リンパ管内に回収されなかった、リンパ液がたまってむくんだ状態のことをいう。つまり、リンパ浮腫以外の浮腫を惹起する疾患や、癌の転移・再発が除外される必要がある。治療は、複合的理学療法といわれ、以下の4つの治療を組み合わせながら行う。①リンパドレナージ、②圧迫療法、③圧迫下における運動療法、④スキンケアである。リンパ液を流してあげることで突っ張った皮膚を緩め、硬くなった皮膚を柔らかくする。この状態で弾性包帯を巻いたり、スリーブといわれるサポーターのようなものや、弾性ストッキングを着用し、リンパの流れの良い状態を保ち、さらにむくみを引かせて腕や脚の細くなった状態を保つ。そして、圧迫した状態でむくんだ腕や脚を挙上する、動かすことでさらにむくみを軽減・改善をはかる。

【国際リンパ学会によるリンパ浮腫の重症度分類】
Stage 0(潜在性):リンパ循環不全はあるが、臨床的に症状のないもの
StageⅠ(可逆性):タンパク濃度の比較的高い(静脈などに比較して)浮腫液の早期の貯留で、患肢挙上で改善する圧窩性(押すとへこむ)浮腫。
StageⅡ(非可逆性):患肢挙上のみでは腫脹が改善しない、皮膚の硬い非圧窩性の浮腫。
StageⅢ(象皮病):象皮病で非圧窩性。皮膚の肥厚、脂肪の沈着、疣贅(いぼ)の増殖などの皮膚変化を認める。

 

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